第八話

「寒いなぁ、いろんな意味で」


吐く息が白い季節になったが、学祭でプレゼントのハンカチを渡してからというもの、特に進展もしてはいなかった


(片想いし始めてからどれくらいたったんだろう)


両手をこすり合わせながら秋人は考える


藤次には押しが足りないと言われたがどうしていいか分からなかった、なにせ相手はちゃんと休んでいるのか心配になるほど忙しい


学祭が終わってから変わった事といえば御剣 凛が秋人と咲に興味を持った事だ


廊下ですれ違おうとすると突然駆け寄ってきて


「応援してるから、頑張って!」


ぐっとかわいらしい握りこぶしを作って見せる


(どこまで藤次は話してるんだろう)


考えてみるが恐らく全部筒抜けであろう事は

凛の態度を見れば一目瞭然だった


応援してくれるのはありがたいが凛の取り巻きたちの視線が突き刺さるので、秋人は複雑な気持ちだった


・・・・・


「秋人、今日の午後生徒会室に行ってこい」


朝一、顔を合わせるなり藤次は秋人に伝えた


「え、なんで?」


「生徒会の会議があるらしいんだ、御剣先輩が

雪代さんを少し引き留めておくから来なさいってよ」


「用もないのに行けないよ、それに迷惑だろう」


「まー俺もそう言ったんだけど、御剣先輩もあれで強引なとこあるからな」


「お似合いだよ、君ら」


「途中まで一緒に帰るくらいいいんじゃないか?堂々と誘うなんてお前には出来ないだろ」


「それはそうだけど。変に思われるんじゃ」


「御剣先輩がうまく言っといてくれると思うぞ、なんか楽しそうだったし」


「おもちゃにしないでくれ~」


放課後秋人は言われた通り生徒会室にやってきた会議が終わるまでの時間は、何を話したらいいかと教室で藤次に相談をしながら御剣先輩からの連絡を待つ


「来たぞ、頑張ってこい」


藤次は秋人にアプリの通知画面を見せると握りこぶしを作ってみせた


告白するわけでもないのに大げさだなと思うが、真剣な表情で背中を押してくれる親友に感謝しないわけにもいかなかった


「失礼します」


生徒会室には咲と凛しかいなかった


「待ってたよ、春永野君」


凛がにこやかに迎える


「こんにちわ」


咲はとくに何も言わずに会釈だけを返した


「あのね、春永野君は雪代さんと一緒に帰りたいらしいんだけど迷惑かもしれないって声かけれないんだって、優しいよね」


「え、せん、、ぱ、い?」


驚きのあまり秋人は喉を詰まらせた


(うまく言っといてくれるっていうかストレートなんですけどっ)


心の中で叫ぶとペットボトルを鞄から取り出して一気に飲み干し乾ききった喉を潤した


「えぇ、と」


さすがの咲でさえ困惑しているようにも見えた


「雪代さん疲れてても言わないし、心配なの。

だからボディガードだとでも思ってさ。

それに、最近寒くなってきたし手を繋いだりしてもいいと思うっ」


「あの先輩、落ち着いて下さい」


嬉しそうに頬に手を当ててにこにこしていた凛を、このままでは何を言い出すか分からないと秋人は止めにかかった


「じゃあ私は先に帰るわね。またね~」


凛が手を振りながら去っていくと、生徒会室には気まずい空気が流れ始めた


秋人の頭の中では様々な誤魔化しの言葉が浮かんでは消え浮かんでは消えを繰り返していたが、やがて「ふぅ」と息を吐き


「雪代さん、よかったら途中まで一緒に帰らない?」


シンプルにそう伝える、誤魔化したり変に飾るよりは普通の言葉が一番かもしれないと考えた


「はい」


短くそう呟くと咲は帰り支度を始めた、秋人は扉によりかかりながらそれを待つ


(驚いちゃったけど、きっとあれは御剣先輩が藤次としたい事なんだろうな。多分だけど、そう思う)


それぞれに事情は色々ある、秋人は協力してくれた二人に

「ありがとう」言葉には出さず礼を言った

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る