第三章 過ぎ去る日々に花を添え 祭囃子に耳澄まし

第一話

「あぁ 許されないと分かっているのに 


僕はこの気持ちを抑える事が出来ないのです」


 民族衣装のような白い服を身に纏った男はゆっくりと舞台の中央へ歩きながらおおげさに手を広げた


「貴女と出会ったあの日から 


貴女の傍で貴女の力になりたいと 


願わぬ日はなかった


僕の夢は貴女の物  僕の現実は貴女の物」


 男が流れてくる音楽に合わせ軽やかなステップを踏むと、紫のヴェールで身を包んだ三人の演者が舞台に躍り出る。両手を広げ波打たせるような大きな振りは、男のダンスとは対照的でありながら美しく舞台を彩った


 男は計算された歩幅でヴェールで身を包む演者の間を華麗に踊る。やがて舞台上を一周し、優雅な足取りで再び舞台の中央へと立つ。すると待っていたかのように音楽が止み照明が落とされた、暗闇の中を一筋のスポットライトが男の姿を浮かび上がらせる


「愛しのメリーナ  例え世界中の人々に罵られ


蔑まれようと  貴女の為ならば


魂さえも    捧げてみせよう」


 白いクロスのかかった丸テーブルに置かれている、赤い宝石が埋め込まれた短剣を手に取った


「メリーナ あぁメリーナ この愛を


この魂を この神の刃が証明してくれるはず」


 男は手に持した短剣を、祈りを込めるかのように天高くかざした


・・・・・


 ゆっくりと降りてくるカーテンを待ちながら、春永野秋人は観客席を見渡す


 一つの空席もない満員の客席、それぞれの人生を送っているであろう客たちは皆同じような表情を浮かべ劇の展開を見守っている


 一通り客席を眺めてからセンター5列目の席に目を向ける


 そこに座っている女性だけは表情をまったく変えぬまま、それでいて貫くような視線で秋人を見つめている


(この日のために、君に見てもらいたくて頑張って来たんだ。夢だったスポットライト、満員の観客席。これが僕の・・・)


 最初で最後の主演舞台

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