第九話

「会長、夜分に失礼いたします」


 幻一郎がそろそろ帰ろうかと席を立とうとしたところで雪代咲が会長室に訪れた。走ってきたのだろうか、息を切らせ額には汗を滲ませている


「どうしたのかね?」


 ポーカーフェイスで普段なら表情が読み取れない咲の顔が少し沈んでいるように見えた、きっと良い知らせではないのだろうと幻一郎は察する


「お孫さんが亡くなられたそうです」


 その言葉に幻一郎の視界は暗闇にでも飲まれたかのように暗くなり、口から飛び出してしまうんじゃないかと思うほどに心臓の鼓動が激しくなる


「今、なんと言った、なんと・・・もう一度言ってくれ」


 幻一郎は頭を抑えながら絞り出すような声で訪ねた


「幸さんがお亡くなりになられました」


 抑揚のない声が耳に刺さる


(亡くなった?死んだ?幸が?どうして、なぜだ)


「うぐっ・・・う」


 何かに殴られているような頭痛と張り裂けそうな心臓の痛みに幻一郎はその場で崩れ落ちた


 愛していた 大切だった 夢の続きを託せる日を楽しみにしていた


 待たせ続けてしまった分の全てを 響子の面影がある幸に返したかった


「私、大きくなったらおじい様のお手伝いがしたいです」

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