第二話
眩しさに目を覚ますと、ベッドの隣で椅子に腰かけ足を組みながら本を読んでいる雪代 咲の姿があった。モデルのようにスーツを着こなし、髪はショートカットで黒縁の眼鏡をかけている。鋭い目付きが少しでも和らぐようにと眼鏡をかけ始めたらしい
「おはようございます」
幻一郎が目を覚ましたことに気付くと、抑揚のない声で挨拶をする
「ご無事で何よりです、廊下で倒れていたと連絡を受けたときは何事かと・・・」
「すまない」
ゆっくりと身体を起こしながらぼんやりと昨夜の事を思い起こす
(孫だと確信して飛び出したが、冷静に考えてみると深夜の病院に訪れるなんておかしな話だ、しばらく孫の顔を見れていないからあんな夢を見たのかもしれない。そうに違いない)
「久しぶりに幸の顔を見たいもんだ」
「えっ・・・?」
例え不測の事態が起きようとも冷静に対処し、感情をあまり表に出さない咲が珍しく目を丸くして驚く姿に幻一郎は首をかしげる
「おかしな事をいったか?孫に会いたいなんて普通な事だろう、まぁ溺愛しすぎなんて言われる事もあるが」
そう言ってはっはっはと笑う幻一郎には言葉を返さず、読んでいた本をパタンと閉じて鞄にしまうと、代わりに雪の結晶を模したイラストが入っている小さな手帳を取り出した
「本日は16時に副社長がいらっしゃいます」
「あの馬鹿息子が何しに来るんだ!」
鷹ヶ浦
大学を卒業してから何年も就職活動すらしない祐源に、幻一郎は怒鳴り声をあげた事があった
すると幻一郎の足に縋り付き、泣き喚きながら入社させてくれと頼む息子の姿を哀れに思い会社に入れたのだが、甘い事をしてしまったと考えざるを得なかった
社長職は信頼の置ける部下に務めさせており、副社長とは名ばかりで閑職のような
立場を用意した。他の社員と比べ給料も高いという訳ではない
クビにしてしまう事も考えてはいた、しかし今度こそ真面目に働いてくれるのではと期待せずにはいられなかった、幻一郎が説教をするたびに泣きながら詫びる姿を見ると、情けない奴だと思いながらも見捨てるという選択肢はなかった
とはいえ現場に置くという選択は周りへの影響を考えると躊躇いがある
副社長という役職を作り部屋を与え現場へは関わらせない、当然取引先と合わせるような事もしなかった
ベストな選択ではないかもしれない、しかしこれならば幻一郎が息子に甘すぎると文句を言われるだけで済むと考えた
文句を言われたら甘んじて受け入れる、幻一郎は責められることを望んでもいるのだった
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