第三話
夏の風に吹かれ風鈴の音が響き渡る
白いシャツと短パンの恰好で正座をしながら縁側に座り、一日中風鈴を眺めている少年がいる
少年はこの夏から田舎に住む祖父母の家で暮らすことになっていた
両親が事故でなくなり、あまり面識のなかった祖父母に引き取られることになったのだ
旧家という事もありとても広々とした屋敷なのだが、縁側で風に揺られる風鈴の傍が少年のお気に入りの場所となっていた
「こんにちは」
ある日少年が風鈴を眺めていると女の子が庭から声を掛けてきた、白いワンピースを着て麦わら帽子をかぶっている
少年はちらっと少女に目をやると、間を開けてからこんにちはと挨拶を返すと再び風鈴に視線を戻す
「あなた最近越してきた子よね」
「うん」
「私は響子、あなたのお名前は?」
「幻一郎」
「ふ~ん」
響子は白いサンダルを脱いで幻一郎の隣に座った
「風鈴見るの、楽しい?」
「わからない」
「わからないのに見てるの?」
「落ち着くから」
「それなら、私も見ててみようかな」
二人は無言で風鈴を眺めた、広い庭からは夏の匂いがする
「あら、響子さん来てたのね」
「お邪魔してます、おばあ様」
静かな足音で訪れた祖母に、響子はにこやかに挨拶をする
「紹介しようと思っていたのだけれど、ちょうど良かったわ。幻一郎さん」
相変わらず風鈴を眺め続ける幻一郎に声をかける
「こちらお隣の家に住んでいる響子さん、よくお手伝いをしに来てくれているの」
ひらひら~と手を振って見せる響子をちらりと目をやるが、すぐに視線は風鈴へと戻っていった
その姿に祖母はため息を付いた
「ごめんなさいね、響子さん。まだこの土地に慣れていないみたいで」
「私は気にしてませんよ」
「この子は響子さんより一つ年上なのだけれど、面倒を見てあげてくれないかしら?
年が近い子がいてくれた方が良いと思うの」
「ふふっもちろんです、おばあ様。お任せくださいな」
「ありがとう、後で使用人にスイカでも持って来させるわね」
次の日から響子は幻一郎をお気に入りの場所へ案内した
綺麗で透き通った、夜には蛍が暗い闇を照らす川
それほど高くはないが、頂上に登れば景色が一望出来る山
風に揺られた木々が心地よい音を奏でる静かな神社
よく笑う響子に影響を受けてか、徐々に幻一郎は元気を取り戻していった
魚を捕まえたり虫を捕まえたり、木登りをしたり活発に動き回る幻一郎の後を楽しそうに響子は付いていく
元気に遊んでいたかと思えば二人は縁側に座り、風に揺られ涼しい音を奏でる風鈴をいつまでも眺める
ときには畑仕事を手伝ったりと、自然を満喫しながら夏を過ごした
学校が始まれば朝は響子が迎えに来る、帰りには二人は手を繋ぎながら並んで家路へとついた
小、中学校は同じ校舎にあるために、休憩時間になれば幻一郎が響子を迎えにくる。学校が始まっても二人が過ごす時間は変わらなかった
そんな仲睦まじい二人を見て周りは囃し立てるが、幻一郎は響子の手をしっかり握って胸を張る
「はっはーうらやましいだろ、響子は俺の嫁さんだ」
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