第零章 幕間
いづれ届かぬ子守唄
廻れ舞われ 小さな小舟がゆらゆらと
ぼんやり浮かんだ 幽世へ
巡り巡れや 魂よ
門を くぐれば 死も巡る
・・・・・
少し遠くを見れば高層ビルが立ち並び、その隣には荘厳な城が建つ
大きな庭園の屋敷や古びた長屋、レンガ作りの家々の傍には、食べ物や衣服を売る商店や出店が並ぶ
どこかの城下町かと思えば、街灯が並ぶ道路を馬車が通り抜ける
不思議な処(幽世)
空はその中にある小さな日本家屋に住んでいる
魂を導き終えた空は縁側に座りいつものようにお茶をすすり、ほっと息を吐く
空と同じく死神の
背丈は高く青い瞳、銀色の長い髪をかんざしで止め、胸元から肩まではだけた派手な着物を着ている
空が持つ大鎌と違い、腰から下げた長い刀身の日本刀が
「今回も、随分と世話を焼いたそうじゃな」
言いながら乱は煙を吐く
「そうでしょうか」
「いつか、罰せられる日がくるやもしれぬぞ」
「・・・心得ております」
空が湯呑に口を付けようとしたところで背中に強い衝撃を受け、危うく零してしまいそうになるところをなんとか堪える
「くうちゃ~ん、お帰りっ」
金髪のサイドテールに燃えるような赤い瞳、着物ではなく丈の短いスカートとブレザーの制服を着ている姿は、
肩掛けのバッグのように斜めに肩から腰へと続くチェーンの先には苦無がアクセサリーかのように付けられている、空とは対照的な小さい鎌
「待ってたんだよ、くうちゃん」
「なんであんたがくうちゃんと一緒にいるのよ」
「同じ住処なのだから当然じゃろ」
「ずるいなぁ、あたしがくうちゃんと住みたいのに」
笑ったりふくれっ面をしたり睨んだりと表情を変える灯理を尻目に乱は涼しい顔で
「そなたには立派な屋敷があろう、それにあまり此処へ来てはならぬのではないか」
「あんたみたいな半端な死神にお説教されたくないわ」
灯理はそう言うと不機嫌そうだった顔をぱっと笑顔に変えて再び空に抱き着いた
「もちろんくうちゃんは別だからね。あたし一人であんな広い屋敷に住んでたって面白くないもん、くうちゃんを連れて二人で住みたい」
「そうですね、いつか灯理様のお屋敷にお邪魔してみたいものです」
「も~くうちゃん、様なんてつけないでよぉ」
「そなたは腐っても神社に祀られておる真正な死神なのじゃから、あまり無茶を言いなさんな」
静かに聞いていた乱が口を挟む
「あんたはもっとあたしを敬いなさい」
「ウチは所詮半端もんじゃからなぁ」
不満気な顔をした灯理を、楽しそうに乱はからかう
「どっかのお馬鹿のおかげで話が逸れたが、空よ」
お馬鹿と言われたことに文句を付けている灯理を無視し、乱は愛おしそうに二人のやりとりを眺めていた空に語り掛ける
「なぜ、すぐに魂を狩らぬのだ?なぜ夢を見せる必要がある?一人一人に時間を割いていては手が足りなくなる事は分かっておるだろう?」
わいわい喚いていた灯理も口を閉じて会話に聞き耳を立てる
「なぜ、でしょう。はっきりとは分かりません。ただ・・・」
空は少し考えるようにして首をかしげる
「何処に行くのか何処から来たのか、迷っている魂が巡り辿る道を見付けた時、魂はとても美しく輝くのです」
「あは、あははははっ」
大人しく言葉を聞いていた灯理が突然笑い出す。赤い瞳が輝きを増し、目を細めまるで別人になったかのような不気味な笑みを空に向ける
「くうちゃんはほんと可愛い。大丈夫、その分あたしが十でも百でも刈り取るから・・・くうちゃんは自由でいいの。夢を見せるなんて、くうちゃんにしか出来ない事なんだから」
乱は呆れたようにため息をつく
「あまり自然の理から外れぬようにな」
「ご心配ありがとうございます、乱様」
「それと・・・」
「私の名は空(そら)です、灯理様」
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