第8話
ゆさゆさと揺すられる感覚で目を覚ますと、テーブルを挟んだ先で仲間たちが笑顔で並んでいた
「どうしたんだお前ら?」
尋ねてみるが笑みを浮かべるだけで誰も答えなようとはしない
そんな仲間達の様子を訝しむように眺めていると、不意に太もも辺りに手が置かれるような感触があり、慌てて振り向くとそこにはウェディングドレスを着て微笑んでいる幸の姿があった
「飲みすぎちゃったの?」
「いや、飲んではいなかったはずだが」
「緊張しちゃったのかもね」
微笑みを浮かべたまま、幸は目の前にあったグラスに赤ワインを注ぎ、どうぞと浩介に手渡した
今まで見たことがないような幸の明るい笑顔に違和感を覚えながら赤ワインを一気に飲み干すと、無言だった仲間たちから次々に結婚おめでとーなどと歓声があがり、我先にと空いたグラスへ酒を注ぎだす
「みんなありがとうな」
浩介は礼を言いながら順番に酒を飲み干していく
無言だった事が嘘のように止まらない仲間達からの祝福の言葉と盃、その勢いから逃れるには「トイレに行ってくる」と告げるしかなかった
出入口へ向かいながら周囲を見渡す。会場は体育館ほどの大きさがあり、壁には所々紫と白のグラデーションカラーをした蝶の模様が描かれている
白いクロスが掛けられた丸いテーブルが均等にいくつも並んでいるが、そこには誰の姿もなかった
妙に重々しい扉を開けて会場から出ると、受付に座りワイングラスを口に運んでいる女性の姿が目に入る
・・・・・・
「高校の頃はグラビアしてたこともあるんですよ~」
「、、、」
浩介は呆けた顔をしながら周りを見渡すが、他に客は一人もいないようだった
「先輩、話聞いてます?」
そう言いながら新人の子は人差し指で、目を点にしながら固まっている浩介の額をつんっとつついた
「あ、あぁ、聞いてるよ。スタイルいいなとは思ってたけど、グラビアとかに疎くてな」
「すぐにやめちゃったから知られてなくても当然ですけどね」
ちょっとすねた表情でグラスの氷をカラカラ鳴らす
グラスの中でぐるぐる回る氷を眺めながら浩介は尋ねた
「いつの間に居酒屋に来たんだっけ?」
「やだな~バイト終わりに先輩が誘ってくれたんじゃないですか」
「そうだったな」
追加の酒を注文すると、じっと見つめてくる新人の子の視線に気付いた
「どうした?なんか付いてるか?」
問いかけてみるが返事はなく、無言のまま見つめ合う状態が続いた
「先輩、死神って信じてます?」
「え?」
静寂を破る予想外の言葉に浩介は目を丸くするが
「死神って信じてます?」
返答以外はどうでもいいと言わんばかりに同じ質問が繰り返される
「正直考えたこともなかったかな」
再び少しの沈黙が流れる。緊張感のある空気に喉がからからになった浩介は酒の入ったグラスを探すが、テーブルの上には空のグラスしかなかった
「私は信じてますよ、、、」
いつもの可愛らしい笑顔はどこかへ消え去り、赤みがかった頬の色も血の気が引いたように白くなっている
浩介が返答に困っていると、店員らしき者がテーブルに追加の酒を置きに来る
喉がカラカラになっていた浩介は奪うように酒を受け取ると勢いよく飲み干した
「ふぅっ」
息を吐いてから店員を見るとそこにはすでに誰もない、代わりに紫色の蝶がひらひらと舞っているだけだった
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