2-102.黒幕と新しい影

 心苗コディセミットたちの治療や取り調べが始まったちょうどその頃、一台の飛空船が空を飛んでいた。薄い楕円形の船体に、四つのエンジンを後ろに伸ばしたその飛空船は、鏡のように眼下を覆うオレンジ色の雲海を映している。それは、20人ほどを乗せて飛行することができる、ダイラウヌスの武装船艦だった。


 飛空船の中にはアーリムの姿があった。彼は今、他の案件を解決し、イトマーラへと帰る道中にある。


 アーリムは船内の個室でソファーに身を委ね、ワイングラスをくゆらせながら、ゴールドスカラベの実況投影を見ていた。そこで彼は、柱の間の入り口での石像たちや、柱の間内部での聖霊との戦い、そしてジェニファーがに逮捕されるまでの全てを把握した。


「君が言ったとおり、スカラベをバレーヌの服に付けておいたおかげで、面白いものが見られた」


 満足げに語るアーリムのそばには、一人の少女がいた。彼女はアーリムと同じソファーに座り、飼い猫のように彼の胸元に身を寄せている。


 二人はもちろん、遼介りょうすけがのぞみに依頼した任務についても聞いた。


「ラメルス先生が手を下すよりも前に、未来の『尖兵スカウト』がバラしてしまったんですね?」


 十代後半という見た目の少女は、「くるりんぱ」にアレンジを加えた亜麻色のローテールをなびかせ、足を組んでいる。肩や腰、太ももが覗くセクシーなドレスが何とも艶やかだ。


「逃がした『尖兵』の連れてきた援軍は予想外だった。まさか、未来の英雄・光野みつの和真の子どもに目を付けられるとはね」


 少女は切ない表情で、アーリムを上目遣いに見た。


「そう言うわりに、嬉しそうね、先生?」

「英雄と関われるなど、とんでもない栄光だからね」

「でも、これからどうすればいい?プランは続けるの?」


「ああ、言ったとおりに続けてくれ」

「でも……」

「宿命だよ。私はやるべき役目を果たす、何があろうとも」

「分かったわ、仰せのままに。それで、あの後輩はどうするの?」


 投影された映像には、のぞみの深刻な表情が映し出されている。アーリムは悪意ある笑みを浮かべた。


「ふふ、構わない。カンザキノゾミ、彼女には最高のステージを用意する。命が尽きるまで、踊り続けてもらおう」


「先生ったら、意地悪ね」


 少女は嬉しげに頬を赤く染め、妖艶な甘い笑みをこぼした。そしてご褒美でも求めるように、両手をアーリムの首に絡めると、そっと唇を近付けた。


 飛空船はさらに飛び進み、雲海の中へと飛び込んでいく。


 その晩、フミンモントル学院の研究室で、ヘルミナの変死体が発見された。

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