2-101.その後

「これで終わりか」


 京弥きょうやが息を吐き、ランはムッとした顔で義毅よしきを見た。


「豊臣先生、来るのが遅すぎますよ」

「ハハ、戦ってのを経験した感想はどうだ?」


 メリルは急激に気が抜けたせいで酷い疲労感を感じた。顔からは血の気が引き、目を開けていることもままならず、獣の耳も、もふもふの尻尾も垂れ下がっている。


「ヘトヘトだヨン……」

「笑いごとじゃないでしょ?傍観してるなんて、どういうつもりよ、ネズミボウズ?」


 ルルが腕組みして文句を垂れると、のぞみが驚いたように目を開いた。


「傍観ってどういうことですか?」

「カンザキさん気付かなかったの?先生たち、もっと前から外で待機してたよね」

「え!全然気付きませんでした」

「お前らが実戦でどこまで戦えるか見たかったからな」


 ティムは晴れ晴れとした笑みを浮かべ、義毅の言葉を補足する。


「先生、それだけではなくて、色々と証拠集めをしたかったのもあるんでしょう?」

「先生!そういえば私たち、まだテストが終わっていないんですが……」


とのぞみが義毅に訊ねた。


「神崎さん、君たちの『身体フィットネステスト』はここまでで中止です。残念ですが、コースアウトは脱落という判定になる。だが、この作戦に参加した者については全員、様々な事情でテストを受けられなかった心苗コディセミットたちと一緒に別日に再テストを受けてもらえるよう計らいましょう。ひとまずは君たちにも取り調べに協力してもらうことになる」


 取り調べと聞いて、楓が訊いた。


先生、やっぱり、私らのやったことは罪に問われるんだべ?」

「君たちがフェイトアンファルス連邦の肝要な施設に入ったことは事実であり、我々は守護聖霊を失った。君たちはルールに従い取り調べを受けねばならない」


 蘇の言葉に藍は怯え、義毅を見ながら言う。


「で、でも……私たちは嵌められてここへ来てしまったんですよ」


 クラークも強気に抗弁する。


「そうだそうだ、柱の間を侵攻するために、わざと入ったわけじゃねぇ!」

「事情は把握している。取り調べの結果、真意聖霊の判決も斟酌されるだろうと見ている。だが、事件の全貌を解明するためには君たちの証言、協力が必要だ。我々はそちらを重視している」


「そうですか……」


 何となく押し黙った心苗たちの中で、作戦の実行責任者であるティフニーが全員を代表して応えた。


「かしこまりました。私たちは真摯に調査を受けましょう」

「しかし、蘇副部長」とルーチェが言った。


「彼らの作戦、色々と問題もあるように思うんですが?あえて勘の鈍い人を先導役にするなんて。これだけの人材がいれば、柱の間に入る前に止められたはず。君たち、一体どういう了見でこんな作戦に?」


「確かに不明点は多い作戦だった。だが、Ms.ツィキーが本当に手を下すまでは、暗殺者であるという確信は持てない。それは作戦を複雑にした一つの要因だろう。それにしても彼らは今日、とんでもないことを見聞きした。狐の子は頬白(つらじろ)というが、まさにMr.豊臣の教え子だな」


 ティムは、蘇の言う不明点を、自分やラーマ、楓のような経験者たちが、その実力を発揮できない作戦になっていることを言っているのだと思った。


「ソ先生、この作戦は、ハヴィテュティーさんによって練られたものです」

「Ms.ハヴィテュティー?君ならもっと良い作戦を考えられるだろう?」

「この作戦は、ツィキーさんを含む全員を救うために練ったものです」


 それをのぞみが望んでいるとティフニーは感じ取り、実現させようとした。


「そうか」と、蘇は納得したようにティフニーに頷きかけた。


「蘇、そこまでにしようぜ。こいつらにはまだまだ未熟なところがある。だが一方でこれだけの戦果を上げたんだ。俺は高評価を与えるぜ」


「先生、本当ですか?」


「ハハ、調子に乗るのは早いぜ。ここにいる心苗は全員、たっぷりと罰ゲームを受けてもらうからな」


「ええええええええええ!!」


「嘘!!」


「そんなのアリかよ!?」


 その場にいた心苗たちが一斉に叫んだ。


 それから、一同は空間の穴を使って柱の間から脱出した。怪我を負った者は医療センターへ送られ、適切な治療を受けた。自力で回復できる体力がある者から先に、取り調べが始まった。

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