2-101.お芝居は終わった
ジェニファーは、コミルに制圧されたまま、ずっとのぞみを横目に見ていた。全員一致で危険性があるとされた彼女は、10クルの距離を取った先で、コミルの監視制圧状態にある。
そして遂にジェニファーは、体の全ての源気を解放させた。コミルは『デスセンス』で危険を察知し、凄まじい源気の放出に近距離で巻き込まれることがないよう、ジェニファーから瞬時に跳び離れた。
「フン、まだそんな力を秘めていたか。いや、わざと制圧されていたな?全員が気を抜く瞬間を狙っていたのか」
その通りだった。ジェニファーは戦闘能力の高い心苗たちが『尖兵』との戦いで摩耗されること、そしてティフニーの手当てを必要とする重体の者が出ることを待っていた。そして今、『尖兵』たちの一件が片付き、全員が気を緩めている。一時的にコミルに制圧させたのも芝居を打ったまでだ。連携暗殺をするなら今しかない、ジェニファーはこの瞬間を見逃さなかった。
全身に燃えるような源気を放ち、ジェニファーは冷たい笑みを咲かせる。
「君のおかげで体力を回復させてもらったよ。さて、Ms.カンザキ、貴様の命は私がもらう!」
補給陣地の心苗たちが異変に気付いた時には、ジェニファーはもう、左手に集めた源気を放っていた。
のぞみは床にぺたんと座ったまま、蛍に源気を送っていた。ちょうど、ジェニファーには背を向ける形だった。強い殺意が凝縮された
集中しているのぞみの手前に、咄嗟にコミルが飛び込んだ。右手の『スレイヤーハンド』が光の槍に貫かれ、コミルの腕が折れる。
「!?」
「邪魔しても無駄だ!」
ジェニファーの気配の上昇に気付き、ティムが瞬時に動いた。コミルの後ろに立ち、のぞみを守るように源気のバリアを作る。
それでもなお、ジェニファーの技を防ぎきることはできなかった。ティムはモーションスキルで上手く急所を避けたが、肩に擦り傷を負った。
「ノゾミ、伏せて!」
「えっ?!」
最後に飛び出したラトゥーニは、メイスに源気を集め、ジェニファーの技に衝突させた。コミルの腕を折り、ティムのバリアを破った光の槍は、ラトゥーニの技によってとうとう打ち破られ、光の粒子となって散った。
(そんな、全てを賭けた一撃が……)
渾身の必殺技を破られ、驚きの表情を浮かべていたジェニファーを、コミルが急襲する。ジェニファーはコミルに視線を追いつかせたが、技を繰り出すよりも先にコミルが攻撃を始める。
「今度こそ、くたばれ!」
コミルは左手の『スレイヤーハンド』でジェニファーを押し飛ばすと、『鬼歩(ゴーストステップ)』で消えるように移動する。ジェニファーの真正面に立ったかと思うと首を掴み、そのまま壁に叩きつけた。
額から血を流すジェニファーの首を掴んだまま、コミルは静止する。彼の握力があれば、気管を潰すのは造作もないことだった。
「なぜ……私を殺さない……」
「ボクがこの作戦に参加する条件だよ。ハヴィーが、お前の息を残せってねぇ」
クラークが叫んだ。
「このアマ!まだカンザキさんを殺す気かよ!」
「ツィキーさん、どれだけのぞみさんを苦しめたいんですか?」
「ランさん、人殺しには何を言っても届かないよ」
クラスメイトから罵られるジェニファーの立場を思うと、のぞみは胸が切り裂かれたように痛んだ。
「皆さん、やめてください!これ以上、ツィキーさんを苦しめないで。モクトツさんも、お願いです、彼女を離してください」
自分を殺そうとする人物を庇うのぞみの行動が、藍には理解できない。
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