2-55. 強化合宿にて 

 ハイニオス学院の西部、天然の闘技場エリアにあるスタジアムから、叫び声が聞こえている。宿泊施設を臨むそのスタジアムでは、武器がかち合う金属的な音、飛び道具由来の爆発音など、気合いに満ちた心苗コディセミットたちの戦闘音が飛び交い、熱い空気が漂っていた。


 スタジアムには、土色の地面の上、9面のステージが作られている。それぞれ5平方クルのスペースに、カレッジの異なる心苗たちが手合わせを繰り広げていた。


 その内の一つには、れいの姿があった。相手は第一カレッジの男で、三節棍の使い手である。両先にはメイスのような5枚の刃が付いており、男はグラムを纏ったその棍棒を両手で振り回す。高速で振られる棍棒は同時にバリアを生成して、綾の斬撃によって生まれた衝撃波を打ち消していた。しかし、技を無効化できてもなお、男は圧迫感のある表情で綾に対峙している。


 男は両手で振り回していた棍棒の左手を放し、右方向に薙ぎ払った。

 綾はその軌跡をよく見て、両手に握る源気グラムグラカで作った甲刀で斬り払い、次に仕向けられた逆方向からの攻撃も斬り止めた。


「今や」


 そう呟くと、綾は一気に男の懐に飛びこみ、唐竹斬りで斬り落とそうとする。男は三節棍の左右二本に分かれたパーツをバツ印に重ねて綾の攻撃を受け止めた。


 押し返された綾はもう一度地面を蹴り、ステップを踏みながら、男の反撃を避けるように身を引く。

 二度目に着地すると、休むこともなく綾はさらに刃を振り払った。

 さっきよりも強い剣気の衝撃波が繰り出され、防御の姿勢を取ったままの男がステージから押し出される。


<ステージ 押し出し、勝者 カゼミ レイ>


 綾の勝利が決まった時、別のステージでは修二が片手に剣を持ち、右、左、後ろ、さらに左と跳んでいた。相手は250ミルセンチの男で、ボール大の光弾を次々と投げつけてきている。


「くそ、ちょこちょこしやがって!」


 修二は相手を揶揄するようにニヤニヤ笑いながら跳んだ。


「ハハ、当たらないぜ!お前の懸命に戦う姿勢は嫌いじゃないけど、手合わせの相手が俺様とは運が悪かったな」

「くっ。決め技で一気に潰す!」


 男は両手を頭上高くに挙げると、さっきまでの三倍も大きな光弾をすぐに作り、投げ出した。


 ステージで爆発が起こる。

 しかし、修二は先に跳びあがっており、爆風に乗るようにして男の頭上に攻め入った。


 修二は一度目の斬撃で、源でできたバリアを切り裂くと、続いて6連の斬り技を繰り出す。


「くっ!」


 傷は負ったものの、相手も確実な訓練を受けてきている。斬り捨てられることはなかったが、切り傷の残る体は崩れ、下半身も揺らぎ跪いた。


 修二は男を通り越したところで着地すると、爽快な笑みを浮かべた。


「よーし!一丁上がりだぜ!」


<ダメージポイント オーバー、勝者 フハ シュウジ>


 他のステージの心苗たちも、二人と遜色のないバトルを広げている。観覧席でその光景を眺めている者も多数いたが、そのうちの一人は手にマスタープロテタスを持っていた。画面には『サーベルワシ』と名付けられたアカウント情報が示されている。


<例のターゲットは新たな武器を入手した。ハウスメイトと実技バトルの訓練を進行中>


 そのメッセージの次には、のぞみが両手に金銀の刀を持ち、竜王敖潤ごうじゅん()と戦っている立体映像のファイルが送られてくる。


 映像を見ながら、その者は閉じたままの口の端をわずかに浮かせた。


<サンキュー、新たな情報を期待する>


<了解>


 それで、映像とメッセージの画面は閉じられた。

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