神ガ形ノ意思ニ背イテ 捌話

登場人物名


榊原 義弘さかきばらよしひろ

32歳

大雑把な性格だが、部下を率いる防衛隊の一部隊の隊長。

説明下手でよく橘花たちばなに訂正される

勝田かつたを気に入り、傍に置いて色々指導している。

任務中ではかなり頭が回り、戦場をかけている。

筑波つくばとはかなり長い付き合いらしい

昔受けた負傷が今も身体を蝕んでおり

いつ死んでもおかしくない




勝田 信二かつたしんじ

24歳

熱い正義感と無鉄砲な若さを持つ新人隊員

士官学校卒の元警官であったが、魔怪まかいの襲撃の際に同僚たちの不甲斐なさに失望し、単身挑むも死にかけそこを榊原さかきばらに助けられる

任務より目先の命を優先することが多く、危険な目に合うことが多い

中井なかいから教わった破装拳はそうけんを扱い

射撃の腕も上がってきており、実力が伸びてきている




須加 正樹すがまさき

30歳

榊原さかきばらの下についている隊員の1人。

榊原さかきばらの適当な説明には慣れているようで大体の説明で内容を理解している

部隊の中では狙撃を務める事が多く、高い位置からの索敵が得意である

先の任務で足を負傷しており、現在は入院中である




中井 亮なかいりょう

29歳

渋谷のバーでバーテンダーをしている男性

とある事件により視力がほとんど無いらしい

勝田かつたを弟子に取り、武術を教えている

須加 正樹すがまさき役兼任




街田 遼まちだりょう

49歳

榊原さかきばらの師匠

大雑把でガサツな性格だが実力は確かで引退後の現在も英雄譚が受け継がれている

現在は記者をやっているようだが、身の上話をしないためどこに属しているかは不明




代永 丈しろながじょう

36歳

榊原さかきばらよりも少し前から防衛隊に所属している隊員

嫌味を言うような性格で榊原さかきばらたちからは嫌われている

金こそ全てという性格の持ち主

射撃技術や統率能力は高く、そこだけを言えば榊原さかきばらよりも上である

先の任務以降行方不明となっている




橘花 真由美たちばなまゆみ

27歳

榊原さかきばらの説明を理解し、作戦伝達を務める事の多い女性隊員

榊原さかきばらとは長く同じ隊で行動しており、一番彼の考えや特性を理解している

戦闘では弾幕を張ったり、他隊員の立て直しの時間稼ぎや牽制けんせいを行う




筑波 柊つくばひいらぎ

年齢不詳

マッドサイエンティスト気質な女性

魔怪まかいの研究に人生を捧げており、クローンとなり長年研究を続けている

未だ研究結果を世界に公表することなく、自身のみで使っている

現在はなにか新たな兵器を製造することにご執心の様子

橘花たちばな役が兼任です




東郷 椎菜とうごうしいな

19歳

学園を卒業し、何かの目的を以て部隊に所属した。

自分の実力を疑わず、隊員と特に須加すが勝田かつたとは反りが合わない事が多く、独断で行動することが多い。

かなりの実力者で、榊原さかきばら管轄の部隊で個人戦力は群を抜いて高い。






Nは→後のキャラ演者が読む

※所々交代があるので注意してください。かなり大変です。






VHAぶいえいちえー

突如世界に現れた「魔怪まかい」と呼ばれる怪物を駆除するために設立された軍

Variant Hunt Army通称VHAぶいえいちえーと呼ばれる軍は

自衛隊や警察組織と違い、独立した権力を持つ

一般人や学園卒業者の中で実力保有者が入隊することができる

VHAぶいえいちえー兵を総称して兵員と呼ばれている




魔怪まかいについて

2000年に突如現れた異形の生命体。

理由や目的は不明だが人類を脅かす存在。

現れた当初は世界でも数十体しか確認されなかったが、年々数を増やしていた。

出現方法も繁殖方法などは不明となっている。

魔怪まかいの姿形は現存した生物に類似している為

生物が魔怪まかいに変異した説や妖怪や幽霊といった類である説だったり

一部では神の使い等と吹聴ふいちょうしている宗教までいる。




CARDIEDカディドとは

その素性、人員、目的一切が不明のテロ集団

突如姿を現れては殺戮を行う事から市民から恐れられている




・掃除屋

防衛隊などが撃退した魔怪の屍を焼却処分する仕事を受け持っている

基本的に給料が低く、前科持ちの若者に提供される労働環境の1つ






役表


榊原 義弘さかきばらよしひろ♂:

勝田 信二かつたしんじ♂:

須加 正樹すがまさき♂:

橘花 真由美たちばなまゆみ筑波 柊つくばひいらぎ♀:

東郷 椎菜とうごうしいな♀:








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神ガ形ノ意思ニ背イテ 捌話






N→須加 正樹すがまさき

先の特異体撃破の任務から数か月が過ぎた頃

戦闘の際に受けた足の負傷により須加すが不在の中、榊原さかきばら隊の4人は任務に赴いていた。

スナイパーでの援護射撃がないため、前衛に構える態勢を取った榊原さかきばら

彼らが現場に到着すると4体の魔怪まかいに正面から戦闘を挑むこととなる。

推定クラスBとされる大型のモグラの魔怪まかいが1体

同タイプだが大きさが一回り小さいCーClass相当の魔怪まかいが3体同時に出現していた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「思ったより数が居やがったな…

東郷とうごう!中型の方はいけるか?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「えぇ、あれぐらいなら

でも3体もいるとなるとちょっとかかるかもしれないわよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「なら任せるぞ、だが無茶はすんなよ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「負けはしないから気にしないでいいわ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長、私たちはどうしますか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そうだな…無理のない程度に足止めをしておいてくれ!

俺はこいつを起動する!」



N→須加 正樹すがまさき

榊原さかきばらNE-XUSネクサスの腕輪を3人に見せる。

それを見た東郷とうごうはマガジンを再装填し

一気に魔怪まかいへと駆け寄っていく。



勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごうさん!俺はこいつを相手します!」



東郷 椎菜とうごうしいな

「じゃあ私は2体を倒せばいいのね

ならそんなにかからないで済みそうよ」



N→須加 正樹すがまさき

勝田かつたはその中の1体に向き合うと銃を向ける。

橘花たちばなも少し後ろに付き援護射撃ができるように構えた。



橘花 真由美たちばなまゆみ

勝田かつたくん!無茶しないでよ!

援護は任せて!」



勝田 信二かつたしんじ

「お願いします!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

(特異体撃破の功績からか?

みんな士気が上がってんな…

俺も負けてらんねぇな!!)



N→須加 正樹すがまさき

榊原さかきばらが銃を起き、腕輪を握り締める。

瞳を閉じて覚悟を決めると認証コードを口にした。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「いつだって自分らしくあれ」

     ≪装着≫



N→須加 正樹すがまさき

コードを叫ぶと英語の羅列が腕輪から鳴りだす。

榊原さかきばらの身体に巻き付くように腕輪から黒い根が伸びていく。

次第にスーツ状に姿を変えていき、鈍く光ると完全に形成された。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「いくぞッ!!

うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」



N→須加 正樹すがまさき

榊原さかきばらは地面に置いた銃を拾い上げて勢いよく宙に飛び上がる。

魔怪まかいの頭を超えるほどの跳躍で空へと飛び上がり

そのまま頭部に着地する。

魔怪まかい榊原さかきばらを見失ったようで辺りをキョロキョロと探していた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「上だよ!馬鹿野郎!!」



N→須加 正樹すがまさき

榊原さかきばらのスーツに付いている腕のボタンを押すと腕の先からサーベルが飛び出した。

それを足元に振り回し、魔怪まかいの頭部を連続で切り裂いていく。

数回の斬撃で毛皮が避けて肉質が露わになる。

それを狙っていた榊原さかきばらは切り裂いて開かれた傷口へ向けてアサルトライフルを片手で乱射した。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「くだばれ!!」



N→須加 正樹すがまさき

30発もの乱射が脳髄を直撃し破壊したのか魔怪まかいはゆっくりと動きを止める。

その後はピクリとも動く様子はなく完全に撃破したようだ。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「よし!今から助けにいくぞ!

……あ?」



N→須加 正樹すがまさき

榊原さかきばらが3人の方に振り返ると

東郷とうごうは2体の魔怪まかいを同じ方向へと誘導しており

二丁拳銃の射撃により頭部を撃ち抜いて撃破していた。


勝田かつたの方は魔怪まかいの周囲をグルグルと走り回り

魔怪まかいの注意を散漫にさせて攻撃対象を絞らせないようにしていた。

魔怪まかいの視界が外れて他の東郷とうごう榊原さかきばららに注目する。

その一瞬の隙をつき、勝田かつたは頭部へ向けてマグナムを射撃する。

6発撃ち込んだ弾丸は見事魔怪まかいの目から頭部を撃ち抜き魔怪まかいを絶命させた。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「す、すごい!勝田かつたくん!

まさか倒すなんて!」



勝田 信二かつたしんじ

「や……やった……!?

よかった……倒せました!!!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

     ≪解除≫

「よくやったぞ!勝田かつた!!」



N→須加 正樹すがまさき

嬉しそうに勝田かつたへと近づく榊原さかきばら

勝田かつたの肩を掴もうと手を伸ばしたその瞬間、激しく咳き込みだした。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「…ゴホッゴホッ!!」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長!大丈夫ですか!?」



N→須加 正樹すがまさき

左手で口元を抑えて何度か咳をしていたが、すぐに収まったようで手を口から離した。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「悪い…気にするな

これ使うとちょっと息が切れちまうんだよ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「……………」



勝田 信二かつたしんじ

「無理しないでくださいよ」



N→須加 正樹すがまさき

榊原さかきばらはその手を隠すように銃を持って隠した。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ…それよりも勝田かつた

最近のお前は絶好調だな!

まさかついに任務中でも単独撃破するなんてよ!」



勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごうさんや榊原さかきばらさんが強い方を倒してくれたのでなんとかなりました

1人だったらどうなってたかわかりません

俺の力なんてまだまだですよ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「……」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「よし!とりあえず後のことは掃除屋に任せるぞ」



勝田 信二かつたしんじ

「わかりました」



N→須加 正樹すがまさき

榊原さかきばら勝田かつた東郷とうごうは装甲車の方へと戻っていく。

橘花たちばなは数歩後ろを歩きながら魔怪まかいの骸を眺めていた。

ギュッと拳を握り締め自身の不甲斐なさが胸を締め付ける。

誰にも聞こえない声量で独り言を呟いた。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「私は……何もできなかった……

ちょっと落ち込むなぁ……」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

それから少しして

防衛隊本部の事務所へ橘花たちばなは戻っていた。

勝田かつた東郷とうごうは兵装車の変換手配をしており

あと30分は戻ってこない。

榊原さかきばらは今回の任務結果を上司へと報告しにいき

残された橘花たちばなは事務所にて始末書の作業に入っていた。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「今回の任務……

比較的弾薬の消費も少なく

怪我人はなし、民間人の犠牲もなく任務完了……っと

本当にここ最近は勝田かつたくんも東郷とうごうさんも凄い

隊全体の撃破数が須加すがさんが居ないのに全然減ってない

……それに比べて私は………」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

作業をしていると榊原さかきばらが部屋に戻ってくる。

榊原さかきばらはどうやら疲れているようで席に座るとため息をついた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ~疲れた…」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「お疲れ様です

コーヒー淹れてありますよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁじゃあ一杯いれてくれ」



N→ 東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばらにコーヒーを手渡すと香りを嗅ぎながら飲み始めた。

その表情には苛立ちが見えており、無理やり心を落ち着かせようとしていることに橘花たちばなは気がつく。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「どうしたんですか?なにか上から言われたんですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「いや、あいつら報告しろとか言いやがる癖に

丁寧に説明してやったら何度も何度も聞き返してきやがって…

ふざけた奴らだ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「あ…しまったぁ

着いていかないとダメだった…

内容知りませんが絶対それ隊長が悪いですよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「なんだと!?

俺が1から10までしっかり説明したのにか?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「何度も言いますが隊長の説明は下手なんです!

そうだったぁ~~!!

須加すがさん居ないから着いていかないとダメだった~」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「俺のせい…?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そうです!

今まで何度も同じことがあったのでそろそろ自覚してください!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「納得いかんが…まぁいい

始末書の方はどうだ?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「今回の任務が目立った被害もなく終わったので

始末書の記入欄が少なく済んでるんです

なのでそろそろ終わりますよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そうなのか?ちょっと見せてくれ

……おぉ、こうやってデータで見れるんだな……

あー……なんだこりゃ?」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばらはパソコン画面を睨むように見ているが理解できないようで表情が険しくなっていた。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「はぁ…被害が多いと書く欄が増えるんです

でも今回はかなり効率よく対処できたので少なく済んで書きやすいんですよ

前回のも目標をあの兵器で倒しているので弾薬はほとんど使用してませんから早く済んでます」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そういや今日のは勝田かつた東郷とうごうも1人で倒してたからな

怪我もねぇし、あいつらも強くなってきたな」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そうですね

東郷とうごうさんは入隊した時から強かったですけど

勝田かつたくんは最近だと負傷も減って

何より単独撃破回数が今回で2体目です

新人隊員の中でもかなり成績がいいんじゃないですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あいつもあれだけ真剣に鍛えてるからな

ついに芽が出たってとこか

いやぁ…流石俺だ!見る目があるな!」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「自画自賛しないでください……

そういえばこんなに早く終わってしまうと明日はやることがなくなってしまいますね

どうしますか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そうだな……それじゃあれだ!

たまには鍛えてやるとするか

明日、野外演習場を借りておいてくれねぇか?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「野外演習場ですか?

あぁ~はい、わかりました

それじゃあ私は明日はどうしたらいいですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ん?あれだぞ

お前と東郷とうごうも来いよ

どうせやることねぇんだろ

たまには訓練に付き合え」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「私もですか?まぁ…わかりました

それでは10時から2時間ほど使用許可を取っておきますね」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「頼んだぞ」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

次の日

勝田かつた橘花たちばなは本部から少し離れた場所にある野外演習場を借りて訓練を行うことになった。

演習場はテニスコートより少し大きいサイズの場所が広がっており

木刀や警棒を模した武器などがレンタルできる場所となっている。

地面や壁にはマットが敷き詰められており

急激な運動であろうとも怪我がしにくいように設計されていた。

動きやすい服装で集まった3人は準備運動をしながら談笑をし出す。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そういや東郷とうごうはどうした?」



勝田 信二かつたしんじ

「声はかけたんですけど…行かないの一点張りでした」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「まぁ俺があいつに教えられることはねぇか

お前らだけでも居りゃいい

それじゃ訓練を始めるぞ」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばらは二人に向き合った。

指をポキポキと鳴らすと格闘の構えを取る。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「二人ともかかってこい

とりあえず倒れたら負けってことにするか」



勝田 信二かつたしんじ

「あぁ…はい!わかりました!」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「え!?二人同時ですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ、同時でもいいし交互でも構わん

始めるぞ…

おらっ!!」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばら勝田かつたへと殴りかかる。

その一撃を腕でガードして受け止めるが、体格差のある重い一撃に押されて勝田かつたは数歩後ろに下がった。

橘花たちばなはその隙に合わせて拳を振るうも

榊原さかきばらは片手でその拳を受け止め、そのまま腕を掴むと橘花たちばなに背負い投げをする。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「ぐうっ!!!?」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

橘花たちばなはそのまま地面に倒れてしまう。

勝田かつたが再び攻撃をしかけていき

その攻撃を榊原さかきばらも受け止めて耐える。

二人は一進一退の攻防を続け、お互いに有効打になるような一撃を繰り出せなかった。



橘花 真由美たちばなまゆみ

勝田かつたくん…隊長にここまで着いていけるなんて」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ぐっ!やるな!勝田かつた!!」



勝田 信二かつたしんじ

「結構ッ!鍛えてたんですけど…!

まだ榊原さかきばらさんには勝てないですね!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「当たり前だ!

俺がどれだけ街田まちださんにしごかれたと思ってる!!

ペースを上げるぞ!!」



勝田 信二かつたしんじ

「うおっ!!?」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

勝田かつたの胸に繰り出された肘うちを受けて一瞬息ができなくなる。

それを見逃さなかった榊原さかきばらはアッパーを勝田かつたの顎に打ち込むと勝田かつたはそれを受けて吹き飛ばされた。



勝田 信二かつたしんじ

「ごわっ!!」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

倒れ伏した勝田かつたにガッツポーズを見せながら榊原さかきばらは嬉しそうに手を差し伸べる。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「よし!俺の勝ちだな!

まだまだ俺には勝てなかったな!」



勝田 信二かつたしんじ

「ぐっ……流石榊原さかきばらさんですよ

まだまだ訓練しないとな」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ふっ、当然だ!

毎日研鑽しないで軍人は名乗れねぇよ!」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

差し伸べた手を握り、勝田かつたは起き上がる。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「本当に勝田かつたくん強くなったよね

そういえば誰かに教わったりしてるの?」



勝田 信二かつたしんじ

「あぁ…そうなんです!

前に三人で行ったバーに実はハマってしまいまして

その店員の一人に物凄く強い人がいたんですね

で、その間に色々とあったんですけど

その人に今は技を教えてもらってるんです」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ…あそこか

そういやあれ以来行ってなかったな…

そうだな。また久しぶりに俺らで酒飲みに行くのもいいだろうな

その強い店員ってのにも会ってみてぇからな」



勝田 信二かつたしんじ

「えぇ、今度また機会があれば是非いきましょう」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「でもそんなに凄い人がいるなんて

元々軍人だった人とか?」



勝田 信二かつたしんじ

「えっと…どうなんでしょう?

以前話したときにV.H.A.ぶいえいちえー兵員だったみたいなことは言ってたんですけど詳しくは聞いてないんです」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「この短期間でそこまで上達するなんて

どんな教え方をしてるんだろう」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「まさか俺よりも教え方が上手いのか?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「多分ですけど隊長より下手な人の方が珍しいと思います」



勝田 信二かつたしんじ

「申し訳ないんですが俺も同意見です」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

勝田かつたまで……嘘だろ…」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長の教え方ってなんとなくですけど

とりあえずボコボコにして体で覚えろみたいな感じがイメージがあります」



勝田 信二かつたしんじ

橘花たちばなさん、まさかのその通りなんです」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「それが一番身に染みるだろ!」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そんなことだろうと思いました」



須加 正樹すがまさき

「それがあのおっさんの教え方だったからな

仕方ねぇ部分もあんだぜ」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

突如聞こえた声に三人が振り返ると

出入り口に須加すがが立っており、ビニール袋を片手に場内へと入ってきた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

須加すが?お前…足は大丈夫なのか?」



須加 正樹すがまさき

「あぁ、今は安静にしてりゃ問題ねぇとこまで回復してんだ

リハビリがてらに差し入れ買ってきたぜ」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

須加すががビニール袋を勝田かつたに渡す。

中を見るとそこにはお茶やスポーツドリンクなど数本の飲み物が入っていた。



勝田 信二かつたしんじ

「ありがとうございます!」



須加 正樹すがまさき

「気にすんな

俺も暇だったから見に来ただけだ

ところで義弘よしひろ

聞いたぜ、勝田かつたが単独で魔怪まかいを撃破したんだってな」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そうなんだ!すげぇだろ!」



須加 正樹すがまさき

「ハハッ!なんでお前が偉そうなんだよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「弟子の成長ってのは嬉しいもんでな」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そういえば須加すがさん

退院予定日って伝えられてますか?」



須加 正樹すがまさき

「あと2週間は安静にしてたら現場復帰できるらしいぞ

骨は折れてたが神経が断線してなかったのが救いだったみたいだぜ

まぁあと少し4人で頑張っててくれよ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「わかりました、ありがとうございます」



須加 正樹すがまさき

「それと…そうだ。勝田かつた



勝田 信二かつたしんじ

「はい?」



須加 正樹すがまさき

「さっきの組手見てたんだけどよ

色々と技磨くのもいいが

基礎体力の方も疎かにすんなよ?

せっかくのすげぇ技なのにまだお前の身体が追い付けてねぇ感じがするぜ」



勝田 信二かつたしんじ

「身体が追い付いてない…と言いますと

何からやった方がいいでしょうか?」



須加 正樹すがまさき

「そうだな〜

面白い技だとは思うんだがお前の反射神経と体幹がまだ緩ぃ

そこを重点的に鍛えてみろ

そしたらその技もより光るんじゃねぇか?」



勝田 信二かつたしんじ

「反射神経と体幹…わかりました!

やってみます!」



須加 正樹すがまさき

「それと橘花たちばな

お前はちゃんと武術の稽古は受けてたんだっけか

最近やってないようだったら

まずは最初の型から思い出しながらやってみろ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「あぁ…はい……型から…ですね……」



須加 正樹すがまさき

「最近わざわざ近接戦なんかやらねぇからな

身体に染み付いてないものは仕方ねぇから一個ずつ思い出すしかねぇ

毎朝数種類ずつ試してみるだけでも違うと思うぜ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「わかりました」



須加 正樹すがまさき

「とりあえず気づいたのはそんなところか

あとは色々試してみろよ」



勝田 信二かつたしんじ

須加すがさん、よくさっきのを見ただけでわかりますね」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「こいつは観察眼が鋭いんだよ

街田まちださんとのトレーニングのおかげだろうな」



須加 正樹すがまさき

「あんだけやられてていつの間にか、だったな

俺もその辺はよくわかってねぇんだ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「何度か言ってたと思うが須加すがは相手の弱点を見抜くのが上手くてな

よく魔怪まかいの弱点を見抜けるんだ

だからこそスナイパーに徹することで俺らをサポートしてくれてる

その力には今まで何度も助けられてきたんだ

ほんと助かってるよ」



須加 正樹すがまさき

「当然だろ

助けなきゃ何度おめぇやられてんだよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

須加すがは近接戦もできるし銃火器の扱いも上手いからな

どこの役だって出来るから本当に万能なんだよ

だがその中で特化しているのは観察眼から来る弱点特攻の力でな

これは大型の魔怪まかいとの戦力差を埋めるには持ってこいなんだ」



須加 正樹すがまさき

「俺のこの力は「極地」っていうらしい

詳しくは知らねぇんだが世の中には自分の突出した条件下でのみ

本来出しえない力を解放する事ができる奴がいる

俺はまだ全然コントロールができねぇ不完全なもんだが

スナイパーで狙う時や相手を分析するときにだけそれが発動できる

世の中には高水準で扱えるものもいるだろうな」



勝田 信二かつたしんじ

「その「極地」…もしかして中井さんの力も……」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「その力ってどうすれば会得できるんでしょうか?」



須加 正樹すがまさき

「さぁな…多分だが潜在的な才能だったり

その時その時の条件だったりよくわからねぇらしい

とりあえず覚えようとして覚えれるものじゃないのは確かだろうな」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そう…ですか……」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

明らかに気を落とす橘花たちばな

須加すがはその様子に気がつく。



須加 正樹すがまさき

「なぁたち―――」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「さて!そろそろ訓練の続きといくか」



勝田 信二かつたしんじ

「え!?もうですか!?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「当然だ!2時間しかねぇんだ

色々と叩き込んでやるよ!」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「怪我しない程度でお願いしますよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「怪我するかどうかはお前ら次第だ!」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そんな無責任な…」



須加 正樹すがまさき

「俺が変わろうか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「何言ってんだ!

怪我人は休んでろ!

それにお前が万全だったら二人で勝てるわけねぇだろ」



須加 正樹すがまさき

「そりゃそうか

まぁ俺は見てっから頑張れ~」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

それから2時間近く、休憩しては組手を行っていた。

橘花たちばなはその間何度も倒されており、擦り傷など軽い怪我をしてしまう。

少し離れた位置で施設に常設されている救急箱を使い自己治療していた。

榊原さかきばら勝田かつたが組手をしているのを眺めながら消毒したあとガーゼを膝へ貼る。

その様子を見ていた須加すが橘花たちばなに話しかける。



須加 正樹すがまさき

「なにをそんな焦ってんだ?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「え…何のことですか?」



須加 正樹すがまさき

「なんとなくだけどわかんだよ

あいつらには言わねぇから言ってみろって」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「よくわかりましたね

須加すがさんはすごいです

…ここ何度かの任務で私は何もできてなくて

少し落ち込んでます」



須加 正樹すがまさき

「何もできてない…かぁ……なるほどな

俺が思うに―――」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「おらっつ!!」



勝田 信二かつたしんじ

「くそ!!これも止めるなんて!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そんなのが通るわけねぇだろ!」



勝田 信二かつたしんじ

「ぐっ!?ほんとに馬鹿力ですね!!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「お前が非力なだけ―――」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばらは動きを止め口元を左手で抑えたまま咳き込むと、膝をついた。

勝田かつたが訓練を止めて榊原さかきばらに駆け寄る。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ゴホゴホッ!!」



勝田 信二かつたしんじ

「大丈夫ですか!?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「気にすんな!さっきの攻撃が思ったより効いてただけだ」



勝田 信二かつたしんじ

「そうですか…わかりました」



須加 正樹すがまさき

「……………義弘よしひろお前まさか…?」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

橘花たちばなが時計を見ると11時53分となっており

ここのレンタル時間が残り7分と迫っていた。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長、そろそろ時間です」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ん?もうそんな時間か?

仕方ない。今日は解散にするか」



勝田 信二かつたしんじ

「わかりました

それじゃあ俺今日早めに上がります」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ん?何か用があるのか?」



勝田 信二かつたしんじ

「あぁ…そのさっき言ったバーの人に今日学んだことを話したかったので!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁそうか、わかった

じゃあまた明日な」



勝田 信二かつたしんじ

「はい!お疲れ様でした!」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

勝田かつたが走って場内から出ていく。

残った橘花たちばな榊原さかきばらで荷物を片付けると場内をでて近くの休憩スペースに座った。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「それじゃあ俺らもぼちぼち解散とするか

須加すが、病院まで着いていくぞ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「私も取り急ぎの予定はないので着いていきますよ」



須加 正樹すがまさき

「あぁ…まぁそれはいいんだが

………そんなことより義弘よしひろ



N→東郷 椎菜とうごうしいな

須加すがはいつにも増した真剣な面持ちをしていた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「どうした?」



須加 正樹すがまさき

「ちょっと話したいことがあるんだ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「あぁ…もしかして大事な話とかですかね?

そしたら私は先に帰りますよ?」



須加 正樹すがまさき

「いや、橘花たちばなも居てくれ

お前にも関係があることだ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「わかりました…?」



須加 正樹すがまさき

「お前…その手、どうしたんだ?」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばらは左手をポケットに入れて隠していた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「急にどうした?」



須加 正樹すがまさき

「いいからその手、見せてみろ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「………」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばらは少し悩んだ後

左手をそっとポケットから出して手のひらを見せる。

そこには血が付着しており、先ほど出たばかりの血であることがわかった。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長!?もしかしてさっきの訓練で?」



須加 正樹すがまさき

「んなわけねぇ

こいつは一撃も怪我するようなのは喰らってねぇぞ

それなのにその血の量…どうしたんだよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「………」



須加 正樹すがまさき

「お前それ…あの時の傷か?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「あの時って……もしかして!?」



須加 正樹すがまさき

「おかしいとは思ってたんだ

あれだけの傷の癖に治るのが早すぎたからな

とはいえあれから結構経ってるんだぞ

今までずっと隠してきてたのかよ…」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばらは目を反らす。

隠し事をしているようなその表情は今まで見たことないほど弱々しい顔だった。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「すまん……」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そんなまさか……そこまでひどい怪我だったんですか?

私には…大したことなかったって…」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「……騙して悪かった」



須加 正樹すがまさき

「正直に言えよ

その傷…その血……普通じゃねぇ

明らかに色が薄すぎる

お前……まさか…」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

須加すが……お前はよく気づくよな

そうだ……お前の思っている通りだ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「ど…どういうことですか……?」



須加 正樹すがまさき

「お前…もう結構ボロボロなんだろ……

それこそ…もう……かなり限界に近いはずだ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「…………あぁ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「限界って……そんなの!?

…う…嘘ですよね?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「…………」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そんなぁ………本当なんですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ本当だ」



須加 正樹すがまさき

「あとどれだけ持つんだ?」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばらは目を瞑る。

少し悩んだのちに口を開いた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「……もってあと1、2か月

しかもそれは俺が安静にしていた場合…って話だ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そんな…そこまでひどいんでしたら今すぐに病院に行かないと!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「無理だ…この怪我は今更治せるものじゃないらしい

手術成功確率は高く見積もって15パーセント未満

成功しても完治するかどうかはわからないんだと」



須加 正樹すがまさき

「そこまでの傷だったのかよ……

お前どうしてそんな大事なことを言わなかった!!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「すまん…………」



橘花 真由美たちばなまゆみ

勝田かつたくんには言っているんですか!?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「言ってない…」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「教えるべきです!せめて勝田かつたくんには伝え―――」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「言うな!!」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばらは怒声をあげる。

強く拳を握り締め、震えながら声を漏らした。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あいつには…言わないでくれ……」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「…どうしてですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あいつは…今自分の信念を決めて

真っすぐに進み始めてる

もし…俺が死ぬ事を伝えたら

あいつはまた迷うだろう…

俺は…それを望んでない

あいつの道を……邪魔したくねぇんだ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そんな…それならせめて……前線から手を引くとかは……」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「それもダメだ!

流石にあいつも勘づくだろ

だから…俺はこれまで通り戦い続ける」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そ…それじゃあ……死ぬかもしれないんですよ……」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「それでもだ……

……頼む……あいつには言わないでくれ」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばらは二人に頭を下げる。

その様子を見ている橘花たちばな須加すがは暗い表情で俯く。



橘花 真由美たちばなまゆみ

須加すがさん……」



須加 正樹すがまさき

「……わかった

勝田かつたには黙っておく」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「え………須加すがさん!!?

本当にそれでいいんですか!?」



須加 正樹すがまさき

「だが…その時が来たらお前がちゃんと伝えろ

それが師匠としてのお前の役目だ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ…わかってる」



須加 正樹すがまさき

「とりあえずお前はもう帰れ

俺は病院に戻る」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「いや…病院ぐらいまでは着いてくぞ?」



須加 正樹すがまさき

「ちょっとは俺らにも心の整理をさせろ

お前がいたら答えが出ねぇこともある

橘花たちばな、悪ぃがお前は着いてきてくれ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「は…はい……着いていきます」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そうか…わかった

じゃあまた明日な」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばらはそのまま立ち去っていった。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「なぜ…あそこまで命を懸けるんですか

隊長は死ぬことが怖くないんでしょうか……」



須加 正樹すがまさき

「そんなわけねぇだろ

あいつとは長い付き合いだからわかる

死ぬのはすげぇ怖いはずだ

あいつは別に超人でも聖人でもない

だからこそあーやって次に繋ぐことに全てを賭けてるんだ

そうやって自分を奮い立たせることで運命に抗おうとしてるんだよ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「それでも…自分が死んだら……それで終わりじゃないですか……」



須加 正樹すがまさき

「死ぬのは怖い

だが、それ以上に俺らを守りたいんだよあいつは

ほんと馬鹿野郎が……」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「私は……何もできない……

止めることも…私が何かを変わることもできない…

私には何ができるんでしょうか…

勝田かつた君のように成長もできません

東郷とうごうさんや須加すがさんのような強さもありません

私は……一体何をしたら……」



須加 正樹すがまさき

「そんな事ねぇよ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「え?」



須加 正樹すがまさき

「俺らはお前のことを何もできないなんて思っちゃいない」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そう…なんですか?」



須加 正樹すがまさき

「お前は頭がいいだろ

だから作戦とか任務内容とかすぐに把握してくれる

俺はちょっとそういうの苦手だからな

その辺は本当に助かってんだぜ

それに義弘よしひろにも勝田かつたにも話を通せるのはお前だ

俺は確かに義弘よしひろとは長い付き合いだからな

お互い色々知ってる

だが、なんだかんだ同じ隊になったのは最近のことだし

橘花たちばなの方が隊長としてのあいつをよく知ってる

橘花たちばなじゃないと支えられないことが沢山あんだよ

俺には言えないことが橘花たちばなには言える

そういうところが俺らの部隊の結束には大きく貢献してる

それがないといくら優秀なのが寄せ集めでいようがまとまらねぇ

お前がいるから俺らは今の強さがあるんだ

それだけでも橘花たちばなを使い物にならないなんて感じたことはねぇんだよ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「私が……まとめている……」



須加 正樹すがまさき

「そういうとこはあいつは不慣れだからな

橘花たちばながいねぇと隊が成り立たねぇよ

悪ぃな、さっきからずっと言いたかったんだが上手く言葉がまとまらなかった」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そう…なんですね……

ありがとうございます

少しスッキリした気がします」



須加 正樹すがまさき

「おう、お前もあんまり気張るなよ

気張るだけが任務じゃねぇ

たまには自分を褒めてやれ」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

須加すが橘花たちばなはそのまま病室へと戻り、橘花たちばなは帰宅した。



N→勝田 信二かつたしんじ

その頃、東郷とうごう筑波つくばの研究所の施設である

立方体の白い部屋の中心に立っていた。

東郷とうごうNE-XUSネクサスを装備しており、シャッターが開くと奥から魔怪まかいが姿を現わす。

魔怪まかい東郷とうごうを視認するとゆっくりと前に進み、部屋の中に入ってくる。

どうやら分厚い鎖でつながれているようで東郷とうごうと少し離れた位置から近づいてはこれないようだ。

対して東郷とうごうは落ち着いた様子で準備運動をしている。

ピピッと音が鳴ると腕輪から筑波つくばの声が聞こえ始めた。



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

「さぁて…それじゃ最終テストだよ

こいつはB-Classの中でも上位の強さを持つ魔怪まかい

普通の力じゃ勝てないし、もし負けたら多分君は死ぬよ

でも、NE-XUSネクサスがあれば負けないけどね」



東郷 椎菜とうごうしいな

「えぇ、それじゃあ初めてちょうだい」



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

「それじゃ頑張ってね~」



N→勝田 信二かつたしんじ

筑波つくばがコンピューターのボタンを押すと、魔怪まかいを繋いでいた鎖が外れ

東郷とうごうに敵意を見せていた魔怪まかいは牙を露わに勢いよく襲い掛かってきた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「遅いわね」



N→勝田 信二かつたしんじ

魔怪まかいが反応できない速度で駆け出し

瞬時に背面へと移動すると格闘による一撃を浴びせる。

その一撃を受けた魔怪まかいは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「本当にすごい技術よね…

こんなのがあるだけでまさかこれにすら力で押し勝てちゃうなんて」



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

「流石だね、もうかなり使い方がわかってるようだね

それじゃあ追加武装を新しくしてみたからそっちのテストもしてみてよ」



N→勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごうは右足に力を入れる。

自動で靴の踵に刃が飛び出し、チェンソーのように高速で振動をし始めた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「はぁっ!!」



N→勝田 信二かつたしんじ

刃で切り裂くように回し蹴りを繰り出し、魔怪まかいの首元を切断する。

血しぶきをあげた魔怪まかいは鳴き叫びながらそのまま絶命した。



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

「あぁーーー

あーあ…可哀そうに

…まぁ仕方ないね

ってことでテストは終了だ

上がっておいで」



N→勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごうはスーツを着たままリフトに乗ると筑波つくばの研究室に自動的に移動した。



東郷 椎菜とうごうしいな

「はぁ……これで終わりよね」

     ≪解除≫



N→勝田 信二かつたしんじ

スーツがボロボロと自壊し始める。

崩れ落ちたスーツの破片が腕輪に吸い込まれるように消えていくと腕輪の電源が切れた。



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

「お疲れ様~どうだった?新型の調子は?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「ぐ…げほ…ゲホッツ!!」



N→勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごうの鼻と口から血が垂れてくる。



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

「ほら、拭きなよ」



N→勝田 信二かつたしんじ

筑波つくばがティッシュを差し出すと東郷とうごうはその血を拭う。



東郷 椎菜とうごうしいな

「副作用…まだこんなに強いのね」



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

「どうしてもそこは緩和しなくてさ

とはいえ前よりも優しくはなったんだよ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そうなのね…」



N→勝田 信二かつたしんじ

ぐったりした様子の東郷とうごうに水を手渡す。

東郷とうごうはそれを飲みながら次第に落ち着いたようで深呼吸をしていた。



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

「大丈夫かい?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「ふふ…よく言うわ

心配なんてしてない癖に」



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

「多少はしているんだよ

私の頼みを受けてくれたわけだし、感謝だってしてる」



東郷 椎菜とうごうしいな

「この副作用…あの隊長も受けているのよね」



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

「そりゃそうだよ

榊原さかきばらくんだけ例外ってわけにはいかないさ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「身体、相当ボロボロなんじゃないの?」



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

「そうだね~うん

もうかなりマズイ状態だ

実践テストはできて…あと2回と言ったところだろうね」



東郷 椎菜とうごうしいな

「ここ最近連続使用してたからおかしいと思ってたのよ」



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

「そうそう、もう結構まずいんじゃないかな?

以前身体検査をしたらほとんどの体組織や臓器が正常な動作をしていなかった

身体中にまわる栄養もほとんどを吸収できず排泄されてしまっている

このままだと身体がもう持たないだろうね」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そうなのね…その2回をもし使ったらどうなるの?」



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

NE-XUSネクサスを使用している最中は痛覚はかなり鈍化しているから問題ないだろうけど

戦闘が終わり起動限界を迎えそれが解除された瞬間

蓄積されていたダメージが彼の身体を崩壊させる

心臓、肺、血管、筋肉

全てが破損し、絶命する

まぁ残念だけどこれはもう避けられない」



東郷 椎菜とうごうしいな

「へぇ…そうなのね

流石はマッドサイエンティストね

人の命なんて気にもしてない」



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

「君に言われたくないな

君だって目的達成のためなら手段を問わないだろ?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そうね…その通りだわ」



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

「研究ってのは狂気を行かないとやっていられない

だからこそ最悪にでもならない限り向かないんだよ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「その気持ちわからないでもないわ

最悪に振り切らないと目的は果たせない

心や理性、倫理観やマナー

道徳や法律…そういったものは邪魔でしかない」



N→勝田 信二かつたしんじ

その言葉を聞いた瞬間

筑波つくばは手を叩いて笑い始めた。



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

「アハハハハ!!

本当に君は面白い

私は君みたいなのが大好きでね」



東郷 椎菜とうごうしいな

「嬉しくないわね

ところで、報酬の方はどうなの?」



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

「そうだね、今回のデータは本当に有意義だった

非常に有用なデータの数々

連続使用のリスクなどもテストできて色々助かったよ

さぁこれが報酬だよ」



N→勝田 信二かつたしんじ

筑波つくばはファイルを手渡す。

東郷とうごうはそれを受け取ると中身を開く。



東郷 椎菜とうごうしいな

「……これは!?

よくこんなもの調べられたわね…」



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

「色々な情報を素材と取引することもあってさ

その中でわらしべ長者のように手に入った情報だったんだけど

それが君の探している相手に通じる唯一の手掛かりだろうさ」



N→勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごうはファイルの中の資料を読む。

そこには代永しろながが依頼主と会っている写真

依頼主の出資記録やデータ

取引の中にはCARDIEDカディドと思わしき団体に通じる内容がいくつもあり

最後のページにはその取引が行われている場所の地図が同封されていた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「ありがとう

色々とお世話になったわね」



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

「それは私もだよ

もしまた何かあったら連絡してよ

内容次第では取引に応じるよ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「えぇ、それじゃあね」



N→勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごうは部屋から出てエレベーターを上がっていく。

筑波つくばは先ほど得たデータを見て高速でキーボードを打ち込む。

そして現在の完成度を演算し、モニターに表示させる。



筑波 柊つくばひいらぎ(橘花 真由美たちばなまゆみ兼任)

「ありがとう、これで完成度は89%

あと特異体が1体あれば90%を超えれる…

いよいよ完成間近だ

楽しみになってきたねぇ…

せめてもう少し持ってよ榊原さかきばらくん」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

そして次の日

榊原さかきばら須加すがの病室を訪れた。

病室で寝ながら写真を見ていた須加すが榊原さかきばらが来たことに気づくと座るように促す。



須加 正樹すがまさき

「急にどうした?今日は待機命令が出てるんじゃないのか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ、ちょっと話だけしたくてな

時間を空けてもらったんだ」



須加 正樹すがまさき

「そうなのか?まぁわかった

ゆっくりしてけよ」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

須加すがは妻と娘が映る写真を見ていた。

そこには最近幼稚園に通い始めた娘が笑顔で映っている。



須加 正樹すがまさき

「娘が幼稚園に入ってな

まだ一回も見に行けてないんだよな

こんな怪我だからな

退院したら授業参観に出てやらねぇと」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「すっかり父親になったな」



須加 正樹すがまさき

「だろ?…まさか俺が家庭持つなんてな

街田のおっさんにしごかれてた時は夢にも思わなかったぜ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そうだな…」



須加 正樹すがまさき

「……身体、大丈夫か?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「今のところはな…言わなかったこと

悪いと思ってる」



須加 正樹すがまさき

「……ホントだぜ

せめて俺ぐらいには言ってくれよな」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「………そうだったな

お前にだけは言っておくべきだった…

だが…言えなかった……」



須加 正樹すがまさき

「変なところでヘタレな奴だなお前は…」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

少しの無言の後

須加すがが口を開く。



須加 正樹すがまさき

「なぁ…あの兵器

使わねぇ方がいいんじゃねぇか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「……これを借りる際の契約でな

そうはいかないんだ」



須加 正樹すがまさき

「命に係わることだ

無理にやらなくてもいいだろ?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「すまんが…それだけが理由じゃないんだ」



須加 正樹すがまさき

「………そうか

でもよ、俺らは心配すんだぜ

それだけで気が気じゃねぇ

絶対に無理だと思ったら俺らはお前を止める

だが、無茶するなとは言わねぇ

そのラインはお前が決めろ

俺は部下だからな

お前の判断を優先するよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「すまん……」



須加 正樹すがまさき

「何年の付き合いだよ

気にすんな」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ…そうだな」



須加 正樹すがまさき

「……」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

それから少しして榊原さかきばらは事務所へと戻る。

自席に腰かけてタバコを吸おうとポケットからライターを取り出した。

タバコの箱から一本を取り出そうとすると橘花たちばなに奪われてしまう。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「おい!なにすんだ!?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「はぁ…健康に気を遣うって前に言ってましたよね

これから禁煙と禁酒は徹底してください!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「いきなりだな…」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「禁煙はともかく

禁酒は私も付き合いますから頑張ってください」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「まじかよ…じゃあせめて最後に一本!」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「ダーメーでーす!!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「はぁ……仕方ねぇな……」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

それから数時間後

勝田かつたは行きつけのバーに立ち寄り中井なかいに声をかけた。

中井なかいは訓練に応じ、待ち合わせをすることになっていた。

いつもなら時間通り来るのだが今日は珍しく遅れていた。



勝田 信二かつたしんじ

「遅いな…中井なかいさん」



中井 亮なかいりょう(須加 正樹すがまさき役兼任)

「遅れて申し訳ございません」



勝田 信二かつたしんじ

「あぁいえ!大丈夫ですよ!」



中井 亮なかいりょう(須加 正樹すがまさき役兼任)

「今日はどうされました?」



勝田 信二かつたしんじ

「実は榊原さかきばらさん…じゃなくて!

隊長に訓練をしてもらった時に色々と教わりまして

それを中井なかいさんの観点からもお聞きしたかったのでお願いしました!」



中井 亮なかいりょう(須加 正樹すがまさき役兼任)

「……そうでしたか

それではゆっくりお話をお聞かせください」



勝田 信二かつたしんじ

「実は―――」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

中井なかいに訓練の際に話した内容を伝える。



中井 亮なかいりょう(須加 正樹すがまさき役兼任)

「なるほど…そういう事でしたか」



勝田 信二かつたしんじ

「どう思われますか?」



中井 亮なかいりょう(須加 正樹すがまさき役兼任)

「えぇ、素晴らしい視点からの意見と思いますよ

勝田かつたさんの弱点をよく見抜かれていますね

流石は防衛隊員でしょうか」



勝田 信二かつたしんじ

「そうなんです!とても優秀な先輩でして」



中井 亮なかいりょう(須加 正樹すがまさき役兼任)

「ですが、その意見に別視点からの補足を入れましょう

確かに反射神経や体幹といったように勝田かつたさんの足りない点なのは間違いありません

ただ勝田かつたさんがまず真っ先に行うべきトレーニングはその二つではなく精神トレーニングが良いと思います」



勝田 信二かつたしんじ

「精神トレーニング?」



中井 亮なかいりょう(須加 正樹すがまさき役兼任)

勝田かつたさんは何か迷うことがあると他のことが疎かになってしまう節があります

それが戦う際に起こってしまうと命取りになり得るでしょう

体幹や反射神経は経験と共に得られるでしょうが

精神性は意識しないと変わりません

その余裕があってこそ次の視点に移ることができるでしょう

なのでまずは一つずつその弱みを緩和していくことが大事です」



勝田 信二かつたしんじ

「なるほど…流石は中井なかいさん!」



中井 亮なかいりょう(須加 正樹すがまさき役兼任)

「とは言いましたが…実はお伝えしないといけないことがございます」



勝田 信二かつたしんじ

「伝えたいこと…?」



中井 亮なかいりょう(須加 正樹すがまさき役兼任)

「私は本日であのバーを辞めて明日からは少し遠くに行くことになりました」



勝田 信二かつたしんじ

「そう…だったんですか」



中井 亮なかいりょう(須加 正樹すがまさき役兼任)

「突然で申し訳ございませんが本日で訓練を終了とさせてください」



勝田 信二かつたしんじ

「…わかりました

あの…差支えなければ理由をお聞きしてもいいですか?」



中井 亮なかいりょう(須加 正樹すがまさき役兼任)

「申し訳ございません

一身上の都合という事で納得していただけますか?」



勝田 信二かつたしんじ

「あぁ!いえ!

余計な詮索をすいません!

わかりました、今までありがとうございました!!」



中井 亮なかいりょう(須加 正樹すがまさき役兼任)

「いえ、こちらこそ

大変、有意義な時間を過ごさせていただきました

また機会がありましたら今度は友人として食事にでも行きましょう」



勝田 信二かつたしんじ

「えぇ…是非!」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

勝田かつた中井なかいが立ち去るのを最後まで深くお辞儀をしたまま見送った。


それから13日が過ぎ

須加すがが退院し部隊に戻った直後のこと

突如上司に呼ばれた榊原さかきばらに緊急任務が伝えられた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「なんだと…!?…………わかりました」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばらは事務所に戻り、一同を前に話を始める。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「お前ら…今日の0時から緊急任務だ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「緊急任務!?…急に私たちがですか!?

まだ須加すがさんが戻ってきたばかりですよ?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「いや…他の隊も合同だ

計12部隊の制圧作戦だ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「制圧作戦って…目標は魔怪まかいですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「違う…今回の目標は……」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばらは任務の内容が書かれた資料を机に置く。

周りを囲うように内容を読むとそこには驚愕の内容が記されていた。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そんな!?CARDIEDカディドの拠点に突撃を!!?

12部隊も合同だなんて…ここで本格的に戦うつもりなんですね」



須加 正樹すがまさき

「あまりに大がかりだな…

12部隊なんて今までない規模だぞ

それこそクラスターですらそこまで行かないぜ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「それほど今回の任務は失敗できないという事だろう」



勝田 信二かつたしんじ

「それでも…なんですかこれ…!?」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

記載されていた内容

銃火器の使用は無制限で

敵体するCARDIEDカディドの刺客らの無制限射殺許可。

歴代の制圧作戦の中でも最大規模であろう人員数や条件。

榊原さかきばら須加すがは不自然な作戦に疑問を抱いていた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「これだけの規模だ

今回の任務が突然決まったのも急を要することなんだろう

敵が動きを察知する前に一気に叩くつもりなんだ

最近V.H.A.ぶいえいちえーの長官がテロリストの弾圧を宣言した

奴らに一撃を喰らわせて民衆の支持を仰ぐつもりだろう」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「0時に本部を出立

全部隊が到着を確認後、任務を開始……こんな事があるなんて」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「相当危険な任務になるだろう…

推定危険度は魔怪まかい換算でS-Class相当

生きて帰れる保証はない

だがお前らは俺が必ず守って見せる…

だから…無茶だけはするなよ」



須加 正樹すがまさき

義弘よしひろ…お前もだぞ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ…わかってる

それじゃあ各自一度解散だ

20時に再びここで合流する」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「わかりました…それでは私は一度帰宅しようと思います」



須加 正樹すがまさき

「俺もそうするかな」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そういうわけだ…俺もちょっと外の空気に当たってくる

戸締り頼んだぞ勝田かつた



勝田 信二かつたしんじ

「は…はい!」



N→須加 正樹すがまさき

三人は部屋から立ち去り、東郷とうごう勝田かつたが部屋に残った。



勝田 信二かつたしんじ

「いきなりこんな任務が来るなんて…

一体どうなってしまったんでしょうか?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「さぁね…」



勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごうさんは何か聞いてますか?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「えぇ、知ってるわよ」



勝田 信二かつたしんじ

「あぁ知ってるんですか!?

そうなんですね……

え!?な、なんで知ってるんですか!?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「私が上に情報を教えたからよ」



勝田 信二かつたしんじ

「え!?それは…どういう意味ですか?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そのままの意味よ

私がCARDIEDカディドの居場所を流した」



勝田 信二かつたしんじ

「ど…どうしてそんなことを!?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「決まってるでしょ、復讐のためよ

奴に復讐するにはCARDIEDカディドの刺客たちが邪魔

だけど防衛隊が一気に攻めればそのチャンスが訪れる」



勝田 信二かつたしんじ

「なぜそんなことを……」



東郷 椎菜とうごうしいな

「でも防衛隊からしてもテロリストのアジトがわかるのは良い事でしょ」



勝田 信二かつたしんじ

「そうかもしれませんが…!

復讐するってのいうのは…代永しろながさんにということですか?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「いえ…確かにあいつも必ず殺すわ

けれど大元はあいつじゃない

私の親を殺すように仕向けた張本人

そいつをここで殺す」



N→須加 正樹すがまさき

そう口にした東郷とうごうの表情は以前見た闇を瞳に宿しており

深い悪意に満ちた視線に勝田かつたはたじろぐ。



勝田 信二かつたしんじ

「待ってください!

せめて…殺さずに…法の下に裁くべきです!!」



東郷 椎菜とうごうしいな

「正体がわからないから何とも言えないけれど

もし政府の息のかかっている者であればそうはいかない

自分の手で殺すのが最適なの」



勝田 信二かつたしんじ

「で…ですが……俺は東郷とうごうさんに人殺しになってほしくないんです」



東郷 椎菜とうごうしいな

「なぜ?」



勝田 信二かつたしんじ

「前も言いましたが…仲間だからです

仲間を犯罪者にさせたくありません」



東郷 椎菜とうごうしいな

「……仲間ね

そんなに大事?」



勝田 信二かつたしんじ

「そりゃ…そうですよ!

仲間は守るのが当然です!」



東郷 椎菜とうごうしいな

「なら…隊長の方をもう少し気にしてあげたら?」



勝田 信二かつたしんじ

「え…それはどういう意味ですか?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「知らないの?

もう隊長…長くないのよ」



勝田 信二かつたしんじ

「……え?」



N→須加 正樹すがまさき

その言葉を聞いた勝田かつたの思考が停止する。

理解はしている。

言葉の意味もわかっている。

だがそれに対して納得ができなかった。



東郷 椎菜とうごうしいな

「以前の負傷が治ってなくて

もう既に身体は限界に近いらしいわ」



勝田 信二かつたしんじ

「そ…そんなわけ……

ありえないですよ!

いくら冗談でも……全然面白くないです」



東郷 椎菜とうごうしいな

「冗談なんかじゃないわ

隊長さんはその時の怪我に加えて

NE-XUSネクサスの副作用で身体はどんどんと蝕まれていっている

もしあと2度あれを使ったら確実に死ぬらしいわ」



勝田 信二かつたしんじ

「そんな……なぜ‥‥それを榊原さかきばらさん自身は知ってるんですか?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「さぁ?でも確実に身体に不調はきたしているはずよ

いくらあの単細胞な隊長といえど勘づいてはいるんじゃない?」



勝田 信二かつたしんじ

「だとしたら…なぜ言ってくれないんでしょう…?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「さぁ…?」



N→須加 正樹すがまさき

東郷とうごうは部屋から出ていこうとする。

勝田かつたは咄嗟に呼び止めた。



勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごうさん!どこに行くんですか?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「射撃場よ、貴方と話しているよりは気が紛れるわ」



勝田 信二かつたしんじ

「そう……ですか……すいません…引き留めてしまって」



東郷 椎菜とうごうしいな

「それじゃあまた後でね」



N→須加 正樹すがまさき

東郷とうごうは部屋から立ち去る。

1人残った勝田かつたは怒りのあまり机に拳を叩きつけた。



勝田 信二かつたしんじ

「くそっ!!!!

なぜ……なんだ…‥俺は……どうしたらいいんだ…

東郷とうごうさん…榊原さかきばらさん……

なんで…………俺はいつも迷ってしまうんだ……」



N→須加 正樹すがまさき

東郷とうごうは部屋から出て射撃訓練場に入った。

銃を持って的に向けて発砲するが、その制度はいつもより悪く外す回数が多かった。



東郷 椎菜とうごうしいな

「……少し情が移りすぎたわね

まさかここまで気が悪くなるなんて」



N→須加 正樹すがまさき

髪を手でぐしゃぐしゃとかき乱し、小さなため息をつく。



東郷 椎菜とうごうしいな

「止めてみせるんでしょ

やってみなさいよ勝田かつたさん

ちょっとだけ楽しみにしてるんだから

私を変えることができるのか…どうかをね」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

その頃、須加すが榊原さかきばらの前でタバコを吸っていた。



須加 正樹すがまさき

「なにも着いて来なくてよかったんだぜ

お前、吸ったら怒られんだろ?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「いいんだ、やることもなかったからな

……お前、家族に話すのか?」



須加 正樹すがまさき

「ぁ?何をだ?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「今回の任務、過去一の危険度だ

生きて帰れる保証はない

せめて話ぐらいはしておいた方がいいんじゃないのか?」



須加 正樹すがまさき

「生きて帰れる保証がない…か

そんなのいつものことだろ!

もしそうなったらそうなったらだ

CARDIEDカディドが俺の家族に危害を加えない保証はどこにもねぇ

魔怪まかいもテロリストも俺からしたら同じなんだ

あいつらがいる限り家族は平和に暮らせねぇ

その為なら俺は命を賭けて戦ってんだ

前もそう言ったじゃねぇか」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「お前は…強いな

俺は……そこまで出来てない」



須加 正樹すがまさき

「弱気になんなよ

今まで何とかなって来たじゃねぇか

これまでみてぇに生きて帰ろうぜ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そうだな……」



N→勝田 信二かつたしんじ

命を賭けて仲間を守ろうとするもの

復讐を果たさんとするもの

見守るしかないもの

彼らの思惑や目的が交差し混ざりゆく中

隊員は宿敵との決戦へと向かう事となる

例え命朽ち果てようとも

兵士たちは命を賭ける

救済を求めてただひたすらに

そして、その先の答えを求めて突き進む

運命にすら背くように






神ガ形ノ意思ニ背イテ 捌話 完

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多分そうじゃないとこの台本は演じれないです



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