神ガ形ノ意思ニ背イテ 肆話

登場人物名


榊原 義弘さかきばらよしひろ

32歳

大雑把な性格だが、部下を率いる防衛隊の一部隊の隊長。

説明下手でよく橘花たちばなに訂正される

勝田かつたを気に入り、傍に置いて色々指導している。

任務中ではかなり頭が回り、戦場をかけている。

筑波つくばとはかなり長い付き合いらしい




勝田 信二かつたしんじ

24歳

熱い正義感と無鉄砲な若さを持つ新人隊員

士官学校卒の元警官であったが、魔怪まかいの襲撃の際に同僚たちの不甲斐なさに失望し、単身挑むも死にかけそこを榊原さかきばらに助けられる

任務より目先の命を優先することが多く、危険な目に合うことが多い




須加 正樹すがまさき

30歳

榊原さかきばらの下についている隊員の1人。

榊原さかきばらの適当な説明には慣れているようで大体の説明で内容を理解している

部隊の中では狙撃を務める事が多く、高い位置からの索敵が得意である




中井 亮なかいりょう

29歳

渋谷のバーでバーテンダーをしている男性

とある事件により視力がほとんど無いらしい




街田 茂まちだしげる

49歳

榊原さかきばらの師匠

大雑把でガサツな性格だが実力は確かで引退後の現在も英雄譚が受け継がれている

現在は記者をやっているようだが、身の上話をしないためどこに属しているかは不明




代永 丈しろながじょう

36歳

榊原さかきばらよりも少し前から防衛隊に所属している隊員

嫌味を言うような性格で榊原さかきばらたちからは嫌われている

金こそ全てという性格の持ち主

射撃技術や統率能力は高く、そこだけを言えば榊原さかきばらよりも上である

須加すが役が兼任です



橘花 真由美たちばなまゆみ

27歳

榊原さかきばらの説明を理解し、作戦伝達を務める事の多い女性隊員

榊原さかきばらとは長く同じ隊で行動しており、一番彼の考えや特性を理解している

戦闘では弾幕を張ったり、他隊員の立て直しの時間稼ぎや牽制けんせいを行う

※今回ほとんどナレーションになります




筑波 柊つくばひいらぎ

年齢不詳

マッドサイエンティスト気質な女性

魔怪まかいの研究に人生を捧げており、クローンとなり長年研究を続けている

未だ研究結果を世界に公表することなく、自身のみで使っている

現在はなにか新たな兵器を製造することにご執心の様子




東郷 椎菜とうごうしいな

19歳

学園を卒業し、何かの目的を以て部隊に所属した。

自分の実力を疑わず、隊員と特に須加すが勝田かつたとは反りが合わない事が多く、独断で行動することが多い。

かなりの実力者で、榊原さかきばら管轄の部隊で個人戦力は群を抜いて高い。






Nは→後のキャラ演者が読む

※所々交代があるので注意してください。かなり大変です。






VHAぶいえいちえー

突如世界に現れた「魔怪まかい」と呼ばれる怪物を駆除するために設立された軍

Variant Hunt Army通称VHAぶいえいちえーと呼ばれる軍は

自衛隊や警察組織と違い、独立した権力を持つ

一般人や学園卒業者の中で実力保有者が入隊することができる

VHAぶいえいちえー兵を総称して兵員と呼ばれている




魔怪まかいについて

2000年に突如現れた異形の生命体。

理由や目的は不明だが人類を脅かす存在。

現れた当初は世界でも数十体しか確認されなかったが、年々数を増やしていた。

出現方法も繁殖方法などは不明となっている。

魔怪まかいの姿形は現存した生物に類似している為

生物が魔怪まかいに変異した説や妖怪や幽霊といった類である説だったり

一部では神の使い等と吹聴ふいちょうしている宗教までいる。




CARDIEDカディドとは

その素性、人員、目的一切が不明のテロ集団

突如姿を現れては殺戮を行う事から市民から恐れられている






役表


榊原 義弘さかきばらよしひろ♂:


勝田 信二かつたしんじ♂:


須加 正樹すがまさき代永 丈しろながじょう♂:


橘花 真由美たちばなまゆみ♀:


東郷 椎菜とうごうしいな♀:








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神ガ形ノ意思ニ背イテ 肆話






N→橘花 真由美たちばなまゆみ

東郷とうごうはあの日の夢を見ていた。

どれだけの時が過ぎようとも変わらず彼女を責め立てる。

その日を境に全てが変わった。

その日を境に全てが終わった。

東郷とうごうには何もすることができない。

ただずっとそれを見続けるだけ

そんな悪夢は慣れることなく常に彼女を追い詰めた。

化け物が狼煙をあげて現れる。

そんな中、我先にと逃げ出した男。

憎き男の姿を捉える寸前にいつも目が覚めてしまう。



東郷 椎菜とうごうしいな

「はぁっ……はぁっ………はぁっ………!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

激しい心音と息苦しさが襲ってきたが、少しすると落ち着いてくる。

どうやらテントの中で眠っていたらしい。

外の兵装車から榊原さかきばら須加すがのものであろう話し声が聞こえてくる。

隣には橘花たちばな勝田かつたが眠っており、いつの間にか自分も寝ていたのだと理解した。



東郷 椎菜とうごうしいな

「また……夢…ね」



勝田 信二かつたしんじ

「……大丈夫ですか?」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

再び眠りにつく東郷とうごう

勝田かつたは起きていたようで目を開けて東郷とうごうの様子を伺っていた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「…なんでもないわよ、気にしないで」



勝田 信二かつたしんじ

「悪い夢でも見たんですか?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「悪い…夢……まぁそんなところよ」



勝田 信二かつたしんじ

「なにか飲み物でも持ってきますか?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「余計なお世話はいいからさっさと貴方も寝たらどう?

いつ起こされるかわからないわよ」



勝田 信二かつたしんじ

「わかりました、それではおやすみなさい」



東郷 椎菜とうごうしいな

「……」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

勝田かつたは目を閉じた。

昨日の疲れもあり、眠気がすぐに襲ってくる。

寝付くまでそう長くないだろう。

東郷とうごうは先ほどの榊原さかきばらとの会話を思い出す。

あの写真に写っていた男。

もしかしたらという疑念が頭をよぎる。

そんな考え事をしていたら、眠気が襲ってきた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「……」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

このまま起きていても仕方がないので目を閉じることにした。


それから数時間後

榊原さかきばらは事前打ち合わせで決めていた一時集合の時間になる前に一同を起こすことにした。

テントの中で寝ている三人と車で寝ていた須加すがに声をかける。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「お前ら、起きろ!

そろそろ集合の時間だ」



須加 正樹すがまさき

「…あぁ、もうそんな時間か」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「集合するといってもどこに向かうんですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「近くにある山道を車で走って途中で落ち合う流れだ

互いに右側走行してたらどこかで会うだろ

ここは電波が届かねぇからな

ある程度近づかないとあっちに報せも送れねぇ」



勝田 信二かつたしんじ

「信号弾を打ち上げるのではだめなんですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「もし魔怪まかいに寄り付かれたら困る

まずは合流して情報交換だ

あっちは何か察知できてるかもしれん」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

一同はテントを片付けると車に乗り込む。

銃などの装備を収納し、車移動での軽装備に着替える。

須加すがは弾込めをしていたが車の揺れが激しかったので中断した。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「他の隊は誰が指揮しているんですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「…代永しろながが指揮しているはずだ」



須加 正樹すがまさき

「あいつか…また面倒なことになりそうだな」



勝田 信二かつたしんじ

「面倒…とはどういうことですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あーーーそいつがムカつくって話だ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長はその代永しろながさんが嫌いなんですよ」



勝田 信二かつたしんじ

「どんな人なんですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「厭味ったらしい奴でな

仕事じゃなきゃ何度もぶっ飛ばしてる」



勝田 信二かつたしんじ

「そ、そうなんですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「お前も多分気に入らないと思うぞ」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばらは写真を取り出した。

その写真は防衛隊の複数人で撮ったであろう写真で

榊原さかきばら代永しろながを指さす。

装備に似合わぬ金色の時計を身に着けており、他の隊と人物と比べ装備が綺麗であった。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「小綺麗な装備しやがって

戦場を舐めてるのか、あいつは」



須加 正樹すがまさき

「俺も代永しろながはいけ好かねぇ

指揮能力や射撃能力は間違いないんだが性格が…端的に言うとクソだ」



勝田 信二かつたしんじ

「そこまでなんですね…?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「その人はいつから防衛隊にいるの?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「さぁな?詳しくは知らねぇ

親しくもなんともないからな

ただ俺と3年ぐらいしか差がないはずだ

階級もあっちが上だが、全く尊敬の念がわかん」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「物言いが厳しいので私も苦手です」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あんなのを慕う奴の気がしれねぇな」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

東郷とうごうが拳を握り締めるのに勝田かつたは気が付いた。

東郷とうごうの瞳がいつもと違い、トゲトゲしく

まるで睨まれているような圧力を放っている。



勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごうさん、どうかしましたか?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「なんでもないわ、気にしないで」



勝田 信二かつたしんじ

「は、はい。わかりました」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

再び東郷とうごうの瞳を伺うが、普段と同じく暗い瞳に戻っていた。


現在、兵装車は山道を走っていた。

山道は崖際に沿うように作られている。

道路の下では川が流れており、水音が窓を開けると聞こえてくる。

近年手入れのされていないエリアのため道が険しくなっていた。

だが舗装されているため草木はないので走行に支障はない。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「前から車の音がするな

あっちも到着したか?」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

反対車線から兵装車が走ってきた。

お互いに車を停めると先ほど写真で見た代永しろながが降りてくる。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「さて、到着か…とりあえずお前らも降りろ

座ってて疲れただろ

話し終わるまで待機だ」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

代永しろながの隊も運転手以外が車から降りてくる。

見たことのない顔が多く、新人か他の隊からの異動で構成されていることに気がつく。

代永しろながだけは重装備で降りてきていたが、他の隊員たちは勝田かつた達と同じく軽装備であった。

勝田かつた達も降りると身体を伸ばしたり景色を眺めていたりと時間を潰していた。

そして榊原さかきばら代永しろながは情報交換を始める。



代永 丈しろながじょう

「きちんと時間通りに来れたようだな榊原さかきばら



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ、そっちは問題なかったのか?」



代永 丈しろながじょう

「愚問だな、そんなヘマはしない」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そうか、それならよかったよ」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

代永しろながの装備の不自然さに榊原さかきばらは気がつく。

以前任務を共にしたときにあった傷がなくなっていた。

それだけでなく目立つ汚れが何一つなく綺麗な装飾まで着いている。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「随分と綺麗な装備だな

買い直したのか?」



代永 丈しろながじょう

「新調しただけだ

ボロい服装だと良い仕事もできないだろうからな

お前らもそうした方がいいんじゃないか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「余計なお世話だ」



代永 丈しろながじょう

「はっ…!あーそういえば数日前まで謹慎処分を受けていたんだったか

そんな隊だと、さぞボーナスも少ないだろうな」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そんなことはどうでもいいだろ

それより魔怪まかいは一体どこに行ったんだ?」



代永 丈しろながじょう

「さぁな、こちらは目撃してない

お前らが見逃したんじゃないのか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そんなわけがないだろ

こんなに消息がつかめない事なんてそうあるもんじゃない

俺らは特異体が出たのではないかと予想してる」



代永 丈しろながじょう

「特異体…か

その可能性はあるだろうが、まだ断定するには情報が足りていないな

それよりはお前らの休暇ボケのせいで見逃す方が確率が高いと思うがな」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「俺の隊を疑うってのか?

なら言わせてもらうが、そんな装備に気を遣うほどだ

そっちこそ注意散漫になってたんじゃないのか?」



代永 丈しろながじょう

「お前らと一緒にするな」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

二人が会話をするのを聞いていた勝田かつた橘花たちばなに耳打ちする。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「毎回あんな感じなのよ

以前は取っ組み合いにも発展したことがあったのよ」



勝田 信二かつたしんじ

「どおりで…榊原さかきばらさんが嫌うわけですね」



橘花 真由美たちばなまゆみ

勝田かつたくんも苦手でしょ?」



勝田 信二かつたしんじ

「…そうですね」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

話をしていると、どこからか草をかき分けるような音が聞こえた。



勝田 信二かつたしんじ

「なにか音が…?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「え、どうしたの?」



勝田 信二かつたしんじ

「上の方から音が…」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

勝田が指さした方向は崖の上であり、山道を見下ろすように木が生えている。

風とは違う不自然な草木の揺れがしていた。



勝田 信二かつたしんじ

「…気のせいですかね?」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

突然それは現れた。

甲高い鳴き声が頭上から響く。

山道の上から姿を現した魔怪まかいは崖から滑り落ちるように降りてきていた。

着地と合わせて腕を振り下ろし、兵装車を強い一撃で吹き飛ばす。

横転した兵装車は車内にある火薬が引火してしまったのか二台とも爆発してしまう。

爆風を受けて、車に一番近かった榊原さかきばら代永しろながは吹き飛ばされた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「なっ…!!どうなってるんだ!!?

まさか車を狙うなんて…」



代永 丈しろながじょう

「こいつが…目標か」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「くそ…そんな知能があるわけじゃないな

でかい的を先に狙いやがったってことか…最悪だ」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

魔怪まかいはカメレオンのような姿をしていたが、背中からクモのような足が6つ生えており、異形な姿をしている。

その足はとても太く、先端が道路のコンクリートに突き刺さっており凄まじい威力であることを物語っていた。

突然の魔怪まかいの飛来の衝撃を受けて、一同はバラバラの位置に吹き飛ばされた。



勝田 信二かつたしんじ

「なんでいきなり!?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そんなのわからないわ!!」



勝田 信二かつたしんじ

「こんなことになるなんて!!」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

勝田かつたはハンドガンを取り出す。

サブマシンガンを車の中に入れていたため、現在装備してある武器はこれしかなかったのだ。

魔怪まかいを狙い、連続で発砲する。

15発の銃弾を撃ち込むが効いている様子はない。



勝田 信二かつたしんじ

「くそ!!こんな銃じゃダメなのか!?」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

魔怪まかいはゆっくりと勝田かつたの方を見た。

狙いを定めたのか、口から大きな舌を出すと横から鞭のように薙いだ。



勝田 信二かつたしんじ

「しまっ…!!?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

勝田かつたァ避けろぉ!!!!!」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

勝田かつたにタックルするように榊原さかきばらが飛び出した。

勝田かつたは吹き飛ばされ、地面に倒れ伏す。

しかし回避が間に合わなかった榊原さかきばらはその舌の攻撃を受けて吹き飛ばされてしまう。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ぐわあああ!!」



勝田 信二かつたしんじ

「なっ!?榊原さかきばらさん!!!」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

空中に浮かび上がった榊原さかきばらは山道から外れ、川に落ちてしまった。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長!!?そ、そんな!!」



須加 正樹すがまさき

「マジかよ!!……おいおいおいおい!

この高さ…流石にやべぇぞ!?」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

須加すがはガードレールに手をつき、榊原さかきばらを探すが見当たらない。

川の流れは激しく、完全に見失ってしまった。



須加 正樹すがまさき

「嘘だろ…こんな事が…!?」



須加 正樹すがまさき

「くそ…いきなり車をやるなんて卑怯だってぇの!

こんな武器でどうしろっていうんだよ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「助けを呼ばないと…!」



須加 正樹すがまさき

「助けを呼ぶって誰にだ!?

ここからじゃ電話すらできねぇんだぞ!」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

代永しろながの隊も動揺していたが、代永しろながが真っ先に声をあげた。



代永 丈しろながじょう

「各員一時撤退する!着いてこい!」



東郷 椎菜とうごうしいな

「こういう時はどうするのよ…!

隊長になってって言われたんでしょ!指示しなさいよ」



勝田 信二かつたしんじ

「お、俺がですか!?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「他に誰がいるのよ…時間は稼ぐわ!」

死銃乱射デス・ガトリング



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

東郷とうごうは二丁拳銃を乱射する。

その連射が目を掠めたのか少しだけよろけたが、傷は浅いようだ。



東郷 椎菜とうごうしいな

「全然効かない…今ここで戦っても勝てないわね」



勝田 信二かつたしんじ

「俺が……指示を?」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

筑波つくばの研究所で言われたことを思い出す。

隊長になってくれと頼まれたあの日の言葉。

そんな覚悟はまだできていない。

しかし、勝田かつた須加すが橘花たちばなに指示をだした。



勝田 信二かつたしんじ

「俺たちも撤退します!!

手持ちの煙幕を張りましょう!」



須加 正樹すがまさき

「わ、わかった!」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「りょ…了解!!」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

須加すが橘花たちばなは腰にあった閃光グレネードと煙幕グレネードを投げた。

閃光が走ったあと、煙が立ち込め魔怪まかいの視界を遮る。



勝田 信二かつたしんじ

「今です!逃げましょう!!」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

須加すが橘花たちばなは一斉に走り出す。

勝田かつたも最後にグレネードを投げた後、東郷とうごうを探した。

しかしなぜか東郷とうごう代永しろながの逃げた方向へと走っていった。



勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごうさん!!?」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

煙幕の中に消えてしまい、見えなくなってしまった。

勝田かつたは立ち止まると東郷とうごうを追いかける。



須加 正樹すがまさき

「お、おい!勝田かつた!!!」



勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごうさんが…!!俺が追いかけます!!!」



須加 正樹すがまさき

「待てよ!俺らはどうしろって…」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

勝田かつた東郷とうごうを追いかけて煙幕の中へと入っていく。

須加すがも後を追いかけようとするが、視界を遮られ体勢を動かしている魔怪まかいに行く手を阻まれてしまう。



須加 正樹すがまさき

「くそぉ!!橘花たちばな!離れるぞ!!」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「わ、わかりました!!」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

須加すが橘花たちばなはその場から離れる。

勝田かつた東郷とうごうを追いかけてしまい、分断されてしまう。






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それから少し経ち、東郷とうごう代永しろながを追いかけて山道を進んでいた。

魔怪まかいは追ってきていないようだったが、完全に代永しろなが達の姿を見失ってしまっていた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「どこに行ったの?」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

山道は長い直進になっていた。

遠くには隊の姿が見えない。

歩いていると途中で曲がり道を見つける。

そこは山頂に向かって続いているようだ。



東郷 椎菜とうごうしいな

「どこに続いているの?」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

曲り道を進んでいると舗装された道から外れていく。

足元がコンクリートから土になっていったため

前に通った者の足跡がはっきりと残っていた。

そこには数人の真新しい足跡がある。

代永しろながの隊がここを通ったのかもしれない。



東郷 椎菜とうごうしいな

「こっちに進んでいる…」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

少しずつ進んでいくと山頂に何か建物が姿を見せ始める。

旅館のような作りの古い建物だ。



東郷 椎菜とうごうしいな

「この辺りに建物はない…

とすれば、あそこに向かいそうね」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

少し歩いていると木々が分かれていき徐々に旅館が姿を現わした。

古風な造りの廃旅館のようで、窓は割れ雑草が辺りを覆っている。

郷之畔さとのみさきと書かれた看板は汚れており

1970年築と読み取れる部分から年季を感じ取れた。

どうやらこの道はそこの駐車場に向かっているようだ。

数人の足跡もそこに向かって続いている。



東郷 椎菜とうごうしいな

「やはりね…絶対に逃がさない…」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

いつ接敵しても良いよう銃を抜き、少しずつ進んでいく。

駐車場には姿は見えない。

どうやら建物の中に入っていったようだ。



勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごうさん!」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

突如、後ろから声がする。

振り返るとそこには勝田かつたが息を切らした様子で立っていた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「着いてきてたのね‥‥何の用?」



勝田 信二かつたしんじ

「何って…どうしていきなり離れていったんですか!?

魔怪まかいがいるので危険ですよ!」



東郷 椎菜とうごうしいな

「それが何?貴方には関係ないわ」



勝田 信二かつたしんじ

「そんなわけないじゃないですか!

急に同じ隊の仲間がいなくなったら追いかけます!!」



東郷 椎菜とうごうしいな

「あぁそう。そう言いそうだものね

私は無事だから放っておいて」



勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごうさん……一体何が目的なんですか?」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

東郷とうごうは答えない。

勝田かつたは気になっていたことを言葉にする。



勝田 信二かつたしんじ

代永しろながさんと何かがあったんですか?

もしかして…前に言ってた誰かを殺すって言ってたのに関係があるんですか?」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

東郷とうごうはそれを聞いて表情が変わった。

普段のひょうひょうとした顔付きではなく険しい表情になる。



東郷 椎菜とうごうしいな

「案外、察しがいいのね

でも余計な詮索はしないで貰える?」



勝田 信二かつたしんじ

「…そうは行きません」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そうよね、貴方…とても頑固だものね

いいわ、少しだけ教えてあげる」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

東郷とうごうは過去を思い出し、勝田かつたに教えていく。



東郷 椎菜とうごうしいな

「私の父親はね、ニュースにもよく出るような有名な政治家だったのよ

そして私の母親はそんな父親に献身的に尽くし、次第に娘が生まれたの

とても幸せだったわ

愛情をもって育てられていた」



勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごう……小さいころに俺もニュースで名前を聞いたことがあります

まさか東郷とうごうさんがその娘だったなんて…」



東郷 椎菜とうごうしいな

「父は次第に仕事が忙しくなっていった

政府内の闇を暴く方針を掲げたの

無能な政治家や賄賂の出資だったりね

そして、それが世間に賞賛された

そのせいで帰ってこれない日が増えていった

でも時間のある日は私と遊んでくれた

そんな父が好きだった

私が7歳になる誕生日のこと

嵐が来ていて、強い雨が降る日だったわ

今日は家に帰ってこれないって聞いてね

私は泣いてたの

だけど父は帰ってきた

仕事に区切りをつけて急いで帰ってきたわ」



勝田 信二かつたしんじ

「すごくいいお父さんだったんですね」



東郷 椎菜とうごうしいな

「プレゼントを買って帰ってきたの

とても嬉しかった

私はとても喜んだわ

でも、そんな幸せな時間は続かなかった

ノックがしたの

こんな雨の中来るなんて最初は不思議に思うでしょ

でも父は仕事疲れで考えが及ばなかったんでしょうね

扉を開けてしまったの」



勝田 信二かつたしんじ

「…なにがあったんですか?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「突然の事だった

父が扉を開けたと同時に倒れたの

そして中に6人もの男が入ってきた

そう、父は一瞬で殺されたのよ」



勝田 信二かつたしんじ

「え…殺された!?

何者だったんですか!?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「さぁ…ね

そいつらは父を殺すと私たちを狙ってきた

母は私を逃がそうとしてくれたけど、後ろからも2人が入ってきていて逃げることもできなかった

私と母はそのまま押さえつけられたわ

抵抗もできないまま私たちは暴力を振るわれ、罵声を浴びせられ、辱められた」



勝田 信二かつたしんじ

「そ、そんな……こと」



東郷 椎菜とうごうしいな

「抵抗したけど、それに怒った男は私を殴りつけてきた

私はもう泣くことも叫ぶこともできなかった

そんな私を助けようと母が男に掴みかかった

焦った男はナイフを母に突き刺したの

それから母は動かなくなった」



勝田 信二かつたしんじ

「なんて…残酷なことを…!!」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そんな時、急に魔怪まかいが現れたの

流石にただの犯罪者集団には勝てる相手じゃなかった

一人だけ逃げ出した奴がいた

リーダー格だったんでしょうね

腕に高そうな金色の時計をしていた奴だけはいち早く逃げていたけど

そいつ以外は全員殺された

そいつらが粉々にされた肉片や血だまり

そして最後の力を振り絞って私に被さってくれた母親の残骸に塗れたおかげで

私は殺されることなく生き残った

皮肉なものよね…

そして……その頃からすべての幸せを失った」



勝田 信二かつたしんじ

「………そんな」



東郷 椎菜とうごうしいな

「それから楽しいと思う感情すべてが私の中からなくなった

どんな不味いものでも味を感じない

どんな人が死んでも心が痛まない

何をしても楽しくない、何があっても嬉しくない

全てあの頃に失ったの…」



勝田 信二かつたしんじ

「そんな過去が…あったんですね……

じゃあ東郷とうごうさんが防衛隊に入った理由って……」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そうよ…これが私の戦う理由

本当は人命なんてどうでもいい

貴方たちの命だって、魔怪まかいだってどうでもいい

私の中にあるのは復讐だけ…」



勝田 信二かつたしんじ

「理由はわかりました…

でもそれが今回離れた理由となんの関係があるんですか?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「貴方は気づかなかったわけ…?

あの代永しろながって男、腕に何を付けてた?」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

そこで勝田かつたは思い出した。

代永しろながの左腕には高価そうな金色の時計が付けてあったことに。



勝田 信二かつたしんじ

「まさか…代永しろながさんが…その生き残った人だっていうんですか?

で、でも榊原さかきばらさんより歴の長いあの人がそんなことをするなんて…

なにかの見間違えじゃーーー」



東郷 椎菜とうごうしいな

「見間違えたりしないわよ!!」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

怒声を上げる東郷とうごう

かつてない雰囲気を醸し出す姿に勝田かつたは恐れた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「何度だって夢で見てきた!

あの男の姿形……それに声だって……!

毎日のように聞いてきた……

毎日のように思い出してきた!

毎日のように苦しめられてきた!!

それを間違えるなんて…ありえないわ!」



勝田 信二かつたしんじ

「そ、そう…だとして……

なぜ代永しろながさんはそんな残酷なことを…」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そんなこと知らないわ…でも必ずあいつは私が殺す

たとえどんな理由があったとしても…許すわけにはいかない」



勝田 信二かつたしんじ

「で…ですが……!」



東郷 椎菜とうごうしいな

「もういい…貴方とこれ以上話しても無意味なのはわかったわ

そろそろ邪魔だから消えて貰える?」



勝田 信二かつたしんじ

「待ってください!」



東郷 椎菜とうごうしいな

「邪魔をする気なら…容赦しないわよ

たとえ貴方であっても殺すわ」



勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごうさん…俺は貴女を止めます!

貴女を人殺しにさせるわけにはいきません!」



東郷 椎菜とうごうしいな

「出来るならやってみなさいよ…」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

そして同時刻、須加すが橘花たちばなは山道を進んでいると川のふもとまで降りれる階段を発見する。

川の流れは榊原さかきばらの流されていった方と同じのため

二人は川を下りながら榊原さかきばらを探すことにした。



須加 正樹すがまさき

「おぉーーい!!隊長!!

生きてたら返事をくれーーー!」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長ーーーーっ!!お願いです!!

…返事をしてください!!」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

呼びかけもむなしく応答はない。

川岸を逆登りながら榊原さかきばらを探し続ける。

生きている保証はない。

しかし諦めずに呼びかけを続けた。



橘花 真由美たちばなまゆみ

須加すがさん…隊長は……もしかしたら…」



須加 正樹すがまさき

「そんなわけねぇ…!

あいつはこんなんでくたばったりしねぇ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「やはり…助けを呼んだ方が…」



須加 正樹すがまさき

「どうしようもねぇな

助けを呼ぶにしても電波が通るところまで数時間はかかる

それまで襲われない保証はない

兵装車が壊された時点で装備も退路も尽きてる

もう…かなり不味い状態だ

ちくしょう…こんなことになるなんて…」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

須加すがはタバコを吸い始める。

落ち着かないようでライターを付ける手も震えていた。



橘花 真由美たちばなまゆみ

勝田かつたくんも東郷とうごうさんも無事だといいですけど…」



須加 正樹すがまさき

「あいつらを信じて俺たちは隊長を探すことに専念するぞ

必ず生きてる…俺は信じてる

あれだけあの人のしごきを耐えてきたんだ…

こんな程度…屁でもねぇはずだ!

そうだろ…義弘よしひろ!!」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

一方、東郷とうごう勝田かつたに勢いよく殴りかかる。

勝田かつたは真正面からの攻撃に対し、押さえつけようと両手を出すが

その腕を懐に飛び込まれた際の裏拳で弾かれ、腹に拳を受けた。



勝田 信二かつたしんじ

「ゴハッ!!」



東郷 椎菜とうごうしいな

「はぁっ!!」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

怯んだ隙に足を蹴りで薙ぎ払う。

その一撃で態勢を崩した勝田かつたを勢いよく蹴飛ばす。



勝田 信二かつたしんじ

「ぐああぁあっ!!あっ……ああぁ……」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

地面に叩きつけられた衝撃を受けて肺を圧迫された。

咳き込む勝田かつたを横目で見ると東郷とうごうが歩いて建物へと向かおうとする。



勝田 信二かつたしんじ

「待って…ください…!」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

勝田かつたはゆっくりと立ち上がる。

東郷とうごうは振り返ると、再度向きあった。



東郷 椎菜とうごうしいな

「…立ち上がる精神はすごいと思うけど

無謀でしかないわよ」



勝田 信二かつたしんじ

「それでも…止めないと……いけないんです!」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

立ち上がった勝田かつたに正面から蹴りを繰り出す。



勝田 信二かつたしんじ

「ぐはぁあっつ!!」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

回避する余裕もなく再び地面に倒れ伏した。



東郷 椎菜とうごうしいな

「ほら、これも避けれないじゃない」



勝田 信二かつたしんじ

「ぁっ…が……あぁ…」



東郷 椎菜とうごうしいな

「もう寝てなさい、はっきり言って邪魔よ」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

東郷とうごうは歩みを進める。

しかし再び背後から立ち上がる音がした。



東郷 椎菜とうごうしいな

「貴方もしつこいわね

どうやっても貴方じゃ私には勝てないわよ

100回やっても100回私が勝つ」



勝田 信二かつたしんじ

「うぐっ……そう……ですね……

俺と…東郷とうごうさん…には……

こんな…差が……あったんですね」



東郷 椎菜とうごうしいな

「だから…邪魔しないでって言ってるのよ

流石に見知った顔を痛めつけるってのは気が引けるわ」



勝田 信二かつたしんじ

「復讐して…どうするんですか……」



東郷 椎菜とうごうしいな

「…は?」



勝田 信二かつたしんじ

「それで…両親が喜ぶと思ってるんですか…!?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「……何が言いたいの?」



勝田 信二かつたしんじ

「もし…東郷とうごうさんが復讐を遂げたとして……

両親のためになるっていうんですか!!?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「……」



勝田 信二かつたしんじ

「そんなことをしても…両親は帰ってこないです!

それに…東郷とうごうさん自身も戻れなくなりますよ!!」



東郷 椎菜とうごうしいな

「さっきからゴチャゴチャとうるさいわね!

えぇそうよ!間違いなく喜ばないでしょうね!

でもだから何っ!?

私はこれだけを望んで生きてきたのよ!

それを貴方に否定される言われはないわ!!

貴方ごときゴミに何を言われてもちっとも響かないわ!」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

その瞬間、なぜか勝田かつたは笑い始める。

東郷とうごうはいきなり笑い出した勝田かつたに驚き、怒りの形相を浮かべた。



勝田 信二かつたしんじ

「はっはははは!」



東郷 椎菜とうごうしいな

「なに?おちょくってるわけ…?」



勝田 信二かつたしんじ

「いえ…そういうわけじゃなくて、すみません!

突然笑ってしまって…

俺がゴミですか……ハッキリ言いますね…東郷とうごうさんは」



東郷 椎菜とうごうしいな

「それがどうしたのよ」



勝田 信二かつたしんじ

「いや、その…東郷とうごうさんも怒るんだなって…」



東郷 椎菜とうごうしいな

「は?」



勝田 信二かつたしんじ

「初めて会ったときからずっと東郷とうごうさんの感情が読めなくて

機械のような人だなって勝手に思ってたんですけど

そんな人間らしい感情を持ってたのが…嬉しくて

笑ってしまいました」



東郷 椎菜とうごうしいな

「貴方って…気持ち悪いわね」



勝田 信二かつたしんじ

「さっき東郷とうごうさんの話を聞いたので…

俺の話をしてもいいですか?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「……聞くのはいいけど答えるかはわからないわ」



勝田 信二かつたしんじ

「ありがとうございます

俺は…学生だった頃は遊び惚けてました

バカ騒ぎして…ヤンチャしたりするのが楽しくて

夜遊びも毎日のようにしてたんです

東郷とうごうさんと比べると俺ってガキだったんですね…」



東郷 椎菜とうごうしいな

「なに…?私が老けてるとでもいいたいの?」



勝田 信二かつたしんじ

「あぁ…そうじゃなくて

その、大人びてるといつも思ってました」



東郷 椎菜とうごうしいな

「あぁ、そう」



勝田 信二かつたしんじ

「そんなある日、悪い遊びをしていた時にヤクザに絡まれて

俺と友人はボコボコにされてしまいました…

そんなとき警察の人が助けてくれたんです

俺の目には小さいころに見たヒーローのようにかっこよく映りました」



東郷 椎菜とうごうしいな

「へぇ」



勝田 信二かつたしんじ

「それで俺は警察に憧れたんです

警察になるために必死に勉強して、必死にトレーニングもしたんです

努力のかいあって晴れて警察官になれました

その配属初日に、魔怪まかいが襲撃してきて

俺の先輩たちはみんな民間人を置いて逃げていってしまいました

必死に頑張ったのに魔怪まかい相手には無力でした

なんだ…警察なんてヒーローじゃなかったんだって幻滅しました

そんな俺を助けてくれたのは…防衛隊の榊原さかきばらさんでした

榊原さかきばらさんは俺にはヒーローに見えたんです」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そうなのね、それでそれがなに?」



勝田 信二かつたしんじ

「そんなヒーローになりたくて俺は榊原さかきばらさんの後を追っかけてました

俺のヒーローは東郷とうごうさんのような仲間を必ず見捨てるなというはずです

だから俺は…東郷とうごうさんを止めたいんです」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そうなのね、でもそのヒーローが今や生死不明になってるわよ

そっちを助けにいったらどうなの?」



勝田 信二かつたしんじ

「俺は…榊原さかきばらさんを信じています

必ず無事だと…だから俺は俺のやるべきことをやります」



東郷 椎菜とうごうしいな

「それで…私の復讐の邪魔をするっていうの?」



勝田 信二かつたしんじ

「邪魔をする…というのは少し違います」



東郷 椎菜とうごうしいな

「何が違うの?」



勝田 信二かつたしんじ

「俺も手伝います

ただし、殺すという方法以外でなら…俺も力を貸します」



東郷 椎菜とうごうしいな

「は?どうするっていうの?」



勝田 信二かつたしんじ

「わかりません…ですが必ず事実を明らかにしてみせます」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

東郷とうごうはため息をつく。

呆れた顔になると、構えを解いた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「貴方と話していると疲れるわ

それで、どうすーーーー」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

突如、銃声が鳴り響く。

その弾道の先、東郷とうごうの肩から血が流れだす。



東郷 椎菜とうごうしいな

「…くっ!?隠れて!!」



勝田 信二かつたしんじ

「なにっ!!?」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

二人は駐車場にあった廃車の陰に隠れた。

どうやらこの建物の中から撃たれたようだ。

勝田かつたは銃を取り出すと、上の様子を伺おうと顔を出す。

その顔の近くを弾が掠めた。



勝田 信二かつたしんじ

「いったい誰が…!?」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

代永しろながは近くにいる人へ向けた周波で無線機を繋げて話しかけてきた。



代永 丈しろながじょう

「いきなり撃たれたってのにいい対応だ

あんな隊の新人だっていうから簡単に殺せるかと思ったが…そうもいかないみたいだな」



東郷 椎菜とうごうしいな

「お前が‥‥代永 丈しろながじょう…」



代永 丈しろながじょう

「さっき車を降りた時からずっとお前…

俺を殺してやるとばかりに睨んできやがったな

一体なんだっていうんだ?

お前に覚えがないんだが?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そうなのね…どうせ覚えてないでしょうね

あんな前の事なんだから…」



代永 丈しろながじょう

「何の話だ?」



東郷 椎菜とうごうしいな

東郷とうごうという名前に聞き覚えはない?」



代永 丈しろながじょう

「よく覚えてるよ

勝手に魔怪まかいが襲撃してきて仲間を殺していきやがった

報酬を一挙取りできて美味い依頼だったよ」



勝田 信二かつたしんじ

「仲間を…!?なぜそんなことができるんですか!?」



代永 丈しろながじょう

「お前はほんと暑苦しいな

阿保の隊長によく似てやがんよ

簡単な話だ、仲間が死ねば報酬の分け前が増える

ただそれだけだ

特別ボーナスってもんだ」



勝田 信二かつたしんじ

「そんな理由で……金目当てで殺したっていうんですか!?」



代永 丈しろながじょう

「その通りだ

この世は金が全てだ

なにからなにまで金で解決できる

だが、俺のような身分じゃ一攫千金なんて夢のまた夢だ

そんな俺が現実的に稼ぐ手段は一つ

どんな汚れ仕事でも受けることだ

たとえそれが人道に反することでも金さえ稼げりゃ万事よし」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そういう人種が一番嫌いなのよね…」



代永 丈しろながじょう

「そうかいそうかい

気が合うな、俺もお前らのようなのが大嫌いだ」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

こっそりと東郷とうごうは位置を特定するためにナイフを出す。

その刃を鏡のように反射させて位置を確認した。



東郷 椎菜とうごうしいな

「三階から撃ってたのね…まずは建物に入らないと…」



勝田 信二かつたしんじ

「撃ち返すにしても…弾がもうないんです…

あとは全部兵装車に入ってたので…」



東郷 椎菜とうごうしいな

「私もさっきので空っぽよ

なんとか抜けていかないと…

次にあいつの射撃が切れたら走りだすわ」



勝田 信二かつたしんじ

「わかりました…」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

数発の射撃があった後、隙が生まれる。

その瞬間に二人は飛び出そうとした。

だが、足を踏み込む寸前

目の前に手榴弾が落ちるのが視界に入る。



勝田 信二かつたしんじ

「なっ!!?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「嘘っ…!!」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

小規模の爆発が起きる。

手榴弾の爆発はちょうど二人が飛び出すタイミングだったため

咄嗟に直撃を避けることができた。

東郷とうごうはフットワークで避けることに成功するも

勝田かつたは爆風を受けて吹き飛ばされた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「なにをやってるの…!?起きなさい!」



勝田 信二かつたしんじ

「があぁ……ぁっ……」



東郷 椎菜とうごうしいな

「っ…!置いていくわ

悪く思わないでね」



N→榊原 義弘さかきばらよしひろ

東郷とうごうはそのまま走って建物へと入っていく。

爆発の衝撃を受けて勝田かつたはゆっくりと意識を失った。



勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごうさん……」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



N→東郷 椎菜とうごうしいな

視点は移り

川沿いを歩いていた橘花たちばなたちに先の銃撃と爆発音が聞こえた。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「今のって…もしかして勝田かつた君たちになにかあったんじゃ…!

須加すがさん!今度は爆発音まで」



須加 正樹すがまさき

「この音の感じ…手榴弾だな

魔怪まかいと交戦してるのか?

だがそれにしては…」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「もしかしたら代永しろながさんの隊かもしれませんがとにかく加勢しないと…!!」



須加 正樹すがまさき

「待て橘花たちばな!!

今行っても俺たちにできることはーーー

………っつ!!!

静かにしろ!!なにか流れてくる音がする」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「何かって………?」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

二人が耳を澄ませていると何かが流れてくる音がした。

上流を見ているとそこから人が流れてきているのに気がつく。



須加 正樹すがまさき

「おい、まさかあれって」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長!!」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

流れてきていたのは榊原さかきばらであった。

意識がないのか力なく流されている。

須加すがは急ぎ装備を外し、なるべく身軽になったうえで川へと飛び込む。



須加 正樹すがまさき

「死んでんじゃねぇぞ義弘よしひろ!」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

足がギリギリ着くほどの深さだったので、苦戦することなくゆっくりと陸地へと近づく。

途中で橘花たちばなが手を差し伸べると、二人で榊原さかきばらを引き上げた。



須加 正樹すがまさき

「息してねぇじゃねぇか…!ちくしょう!!

橘花たちばな…救命方法はわかるか!?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「はい!私がやります!!」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

橘花たちばな榊原さかきばらの腹に手を当て、人工呼吸を始める。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長…!!お願いですから!!息をしてください!!」



須加 正樹すがまさき

「ちくしょう!!部下を守る前にお前が死んでどうすんだよ!!

あのおっさんのしごきも耐え続けてきたろうが!!」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「…そうですよ!!

今もしかしたら勝田かつた君や東郷とうごうさんが戦ってるかもしれないんです!!助けに行かないと…!!

隊長ッ!!!!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「……ゴハッ!!……ゴホ…ゴホッ……!!」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばらは口から水を吐き出すと呼吸を始めた。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長…!よかったぁ……心配したんですからね!!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

橘花たちばな……俺は…どうなった?」



須加 正樹すがまさき

「よく…生きてたもんだぞ……

あの崖から落ちて生きてるなんて…よっぽど死神はお前が嫌いらしいな」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「崖………あぁ…そうか

魔怪まかいが現れたのか……

須加すが…たばこ…まだあるか?」



須加 正樹すがまさき

「あぁ…何から何まで運がいいなお前

最後の一本だ、吸うか?」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

須加すががアーマーから煙草を取り出す。

それを受け取り、拳銃の撃鉄の火花で火をつける。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ふぅ……はぁー………

あの後……どうなった?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「あの後、魔怪まかいを倒すことは無理だと判断して

代永しろながさん達の隊と分かれる形で退避したんです

ただ途中で東郷とうごうさんと勝田かつたくんもはぐれてしまって…」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あの二人が?…どこに行ったかわかるか!?」



須加 正樹すがまさき

「さっきまで銃声がしてたんだが…今はしねぇな」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

三人は息をつきながら装備を見直す。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「俺の装備はほとんど流されてるな…

あるのはナイフだけか…」



須加 正樹すがまさき

「俺はハンドガンが一丁、マガジンは3つしかない

武器がないんじゃ打つ手がないな…」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「私もバヨネットとハンドガンが一丁です

マガジンは兵装車の中に置いてきてしまいました」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「まずいな…こんなものじゃ勝ち目がない

代永しろながたちが余分に武器を持っていりゃいいんだが…

……待て、そういや代永しろながはどこ行った?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「私たちと逆の道を進んでいったのは見てましたがその後はどこに行ったかまでは…」



須加 正樹すがまさき

「そんなに離れてはないと思うが

なんにせよ居場所の検討なしに見つかるとは思えないな

たださっきの銃声と代永しろながたちの方面は同じだったと思うぜ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「待て、東郷とうごうはどっちに向かった?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

東郷とうごうさんは…おそらく代永しろながさん達と同じ方面に逃げていきました

もしかしたら合流しているかもしれませんが…」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「なんだと…?それは…まずいな」



須加 正樹すがまさき

「まずい?どういうことだ?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「実は…一つ調べていたことがあってな

というかほとんどは人に任せてたんだがな

東郷とうごうの過去について…ちょっとな」



須加 正樹すがまさき

東郷とうごうの過去?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ、実はあいつの父親は有名な政治家でな

対テロの政策を行うようなすごい人だったらしい

だが、ある日

両親ともども殺されてしまったんだ

魔怪まかい襲撃の大きな事件として報道されていたからよく覚えている」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そんな…」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「だが、調べていくうちに不審な情報が浮かび上がってきたんだ

その現場の死体の数…明らかに多かったんだ

護衛として4人の見張りが外にいたのと

使用人が3名、そして両親と東郷とうごうの10人

だが見つかった死体の数は18人だった」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「え…?それって、他にも被害者がいたということですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「いや、違う

被害者宅は政治家のものだ

外といっても敷地はかなり広い

関係者以外が普通に入る事はできないんだ

その建物内以外の被害はかなり少なかった

かなり早い段階で防衛隊の到着もあったんだ」



須加 正樹すがまさき

「なんだか気持ちが悪い一件だな

その増えていた8人ってのはなんだったんだ?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「…全員、指名手配をされている犯罪者たちと思われる」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「犯罪者…!?どうしてそんな人たちが?」



須加 正樹すがまさき

「名の知れた政治家なんだろ?

恨まれてるなんて事は特段おかしくはない…が

それにしても違和感を覚えるな」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ここからは俺の予想も入るが

おそらくその襲撃をしたのはテロリスト…

いや、CARDIEDカディドの手のものだったんだろう

だが実行犯は違い、指名手配犯たちに依頼をした…といったところだろうか

以前も似たような事件があった」



橘花 真由美たちばなまゆみ

CARDIEDカディド…!それってあの黒ローブの…!」



須加 正樹すがまさき

「そうなってくると気持ちが悪いぐらい嫌な事件だな」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「え、どういうことですか?」



須加 正樹すがまさき

「もしCARDIEDカディドが関わっていたら政府が報道するだろう

だが、実際にはデマ情報が公開された

端的に言うと、政府が一枚絡んでんだろ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「政府が……それって隠蔽したってことですか!?

そんなの…大事件じゃないですか!?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「クソみたいな話だろ

だが、今までも何度かあったんだ

それに関わった者は2種類を迫られる

闇を知りつつまみれて生きるか

闇に怯えて終いには命を狩られるか…

唯一と言っていい例外があるとすれば

街田まちださんだけが3種類目を取れている…が

…世の中ってのは想像以上に汚れてやがるんだ」



須加 正樹すがまさき

「あの人だけはおかしいだけだ

闇を恐れて逃げ出したやつはどうなったか分かるか?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「…どうなったんですか?」



須加 正樹すがまさき

「一人残らず消された

それ以上は言わなくてもわかんだろ?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そ、そんな…」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「言っただろ、知らない方がいいってな」



須加 正樹すがまさき

「それはそうと話を戻してくれ

なぜ東郷とうごうの過去について話した?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「普段あれだけ無表情の東郷とうごうが二回…表情を変えた時を見たんだ

昨日の晩…写真を見せた時に人を憎んでいるときの目をした

あの目は演技で出来るものじゃない

相当な決意がこもっている目だ

あの写真にいて、この場にいるのは俺と須加すが代永しろながだけだ

代永しろながに向けていたあの視線…

その正体は間違いない………殺意だ

理由はわからないが、東郷とうごう代永しろながを殺そうとしている」



須加 正樹すがまさき

「だとして、遭遇したらどうなる?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「…殺し合うことになるかもしれない」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そ、そんな…!

もし2人が戦ったらどうなるんですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「普通に戦えば東郷とうごうが勝つ

だが、殺し合いは実力だけでは勝敗は決まらない

代永しろながは頭がキレる…油断していい相手じゃないはずだ

今あいつらがいる場所の予想を教えてくれ…」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「おそらくは先ほどの山道を逆に進んだ先…としか」



須加 正樹すがまさき

「いや、待て

あの爆発音はあれよりも高い位置からの爆発だった

山頂にかけて進んでいたんだろう」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「わかった…

お前らはここで待機していろ

俺はこのまま行ってくる」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「待ってください!

一人で行くつもりですか!?

そんな身体で無理ですよ!」



須加 正樹すがまさき

橘花たちばなに同意だ…と言いたいが

どうせ何言っても聞かないんだろ

行ってこい

俺らはここで待機してる」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そ、そんな!!?

須加すがさんまで…

見殺しにするつもりですか!?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そんなわけないだろ…

必ず部下を殺させやしない

それに…俺の命にはお前らとはまた違う重さがある

部下を守るために真っ先に俺は生きなきゃいけない!」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「ッ…………わかりました

お気をつけて…」



須加 正樹すがまさき

「俺たちは俺たちで動くぞ

何かあった時は銃声を5発、秒間で鳴らす」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ、頼んだぞ」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばらはゆっくりと山頂へ登っていく。

残された須加すが橘花たちばなはそれを見送ると作戦会議を開始した。



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

視点移り

東郷とうごうは階段を足音を立てないように静かに登っていく。

銃が使えないのですぐに交戦してもいいように常に細心の注意を払って進む。



東郷 椎菜とうごうしいな

「三階…から撃ってきていた

それから移動した音は聞こえていない…

まだ同じ階層にいるはず…」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

東郷とうごうは三階にたどり着く。

長い廊下が広がっており、客室であろう部屋がいくつか並んでいた。

しかしどこも扉がなく、どこから敵が出てくるかわからない。

その時、奥から声がした。



代永 丈しろながじょう

「さっきからなんなんだお前は?

どうしてそこまで俺を狙ってくる?」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

廊下の奥から声が聞こえてきていた。

どうやら奥は大広間のようで、広い空間があるようだ。



東郷 椎菜とうごうしいな

「……聞きたいなら姿を現しなさい」



代永 丈しろながじょう

「いいだろう、そのまま真っすぐ向かってこい」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

ひらけた大広間の奥には代永しろながが立っていた。

そしてその近くには兵士たちが頭から血を流して倒れている。



代永 丈しろながじょう

「あぁ、こいつらか?

急な魔怪まかい出現に臆し、錯乱の末に自滅しあったんだ

パニックってのは恐ろしいものだな」



東郷 椎菜とうごうしいな

「えぇ、恐ろしいわね

全員が後頭部を一撃でやられるなんてどういう偶然かしらね

代永 丈しろながじょうさん」



代永 丈しろながじょう

「…ところで質問があるんだが

お前は一体なんなんだ?

どこからあの事件を知った?

11年も経ったんだ

時効だ、時効」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そうね…もう11年も経っているのね」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

東郷とうごうは銃を向ける。

その表情には怒りと殺意が宿っていた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「でもやっとこの時が来た…!

貴方を殺す時が…」



代永 丈しろながじょう

「おいおい…ここでいきなりドンパチ始める気か?

わかった…そんだけ俺を殺したい気持ちは十分伝わったよ

だが、先に聞かせてくれ

お前は一体なんの恨みで俺を殺したい?

悪いがお前の顔に心当たりがないんだ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そうよね…教えてあげないといけないわよね

私の名前は東郷とうごう……

貴方が殺した家族の娘よ…!」



代永 丈しろながじょう

「あぁ……あの時のガキか

よく生きてたもんだな」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

代永しろながは驚いた顔をする。

そして合点がいったのか飄々としていた態度から一変、真面目な表情になった。



代永 丈しろながじょう

「そういうことか…

親の仇撃ちってところか

それでわざわざ俺を追ってきたってのか?

こんな山奥で部隊とはぐれても仕方のない状況…

確かに殺すにはうってつけか

よく考えたもんだ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「貴方に辿り着くまでに時間がかかったわ

最初は手探りだったから裏の仕事に手を出したり

学園にも入って少しでも情報を得ようとしたわ

そしたら偶然にも防衛隊にその人物がいることを突き止めた…

でもそれ以上に情報がなかったからずっと困ってたわ

そんな時に偶然隊長の写真を見せてもらったら…

貴方が写ってた…」



代永 丈しろながじょう

「俺の顔を覚えてたのか?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「いえ……ずっと思い出せなかった

でも一つだけ手がかりがあったの

その腕時計…防衛隊の兵士にしてはとても高価そうよね

普段街中を歩いてみても同じものを見かけることのないブランド品…

それも年代物で今は売られてない

そんな物を付けている人なんてそう多くない…

ましてや軍人でつけてる人なんて…ね」



代永 丈しろながじょう

「ちっ…気に入ってたから着けてたが

そこから足取りを追われることもあるんだな

次からは気を付けないとな」



東郷 椎菜とうごうしいな

「あら…?随分とお気楽なのね…

貴方に次があると思ってるの?

答えはノー……ここで必ず殺す」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

東郷とうごうは引き金を引こうとする。

しかしカチッと音がしただけで銃弾は出ない。

頭に血が上っていたのでその事を忘れていたのだ。



代永 丈しろながじょう

「残念だな…さっきの騒ぎで弾切れってところか

やっぱりあの榊原さかきばらごとき部隊の兵士だ

お粗末なもんだな」



東郷 椎菜とうごうしいな

「でも…殺す手段ならまだあるわよ」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

ナイフを取り出す。

対して代永しろながはアサルトライフルを構えた。

榊原さかきばらの持つものとは違い、40発は入るマガジンと圧倒的な火力を誇る銃モデル。

当たればただでは済まないだろう。



代永 丈しろながじょう

「負傷しているお前と銃を持つ俺…

俺がどうして隠れずこんな広いところで陣取っているかわかるか?

勘違いしているようだからハッキリ教えてやる

この場を制しているのは俺だ…クソアマ!」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そうね…正面から撃ちあえば貴方が勝つでしょうね

でも…私も11年間ただ調べてただけじゃないわ」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

東郷とうごうはぐっとナイフを握る。

殺意を込めて、足を踏み込んだ。



代永 丈しろながじょう

「死ね!!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

スコープを除き、頭に向けて銃を乱射する。

しかし広間にあるテーブルを引き上げ、盾のようにすると東郷とうごうは銃撃を弾いた。



代永 丈しろながじょう

「なにっ!?」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

高速で装填し、瞬時に銃を向ける。

しかしその瞬間、椅子が目の前に飛んできた。



代永 丈しろながじょう

「うがっ!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

勢いよく投げられた椅子に銃を弾き飛ばされる。



代永 丈しろながじょう

「貴様ッ……なに!!?」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

気が付くと東郷とうごうは目の前まで迫っており、ナイフを首元に向けて切りかかっていた。



代永 丈しろながじょう

「ま、まて!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

ピタッとナイフが首元のすんでのところで止まる。

代永しろながは両手をあげ降伏の意志を示した。



東郷 椎菜とうごうしいな

「命乞い?仕方ないから聞いてあげるわ

でも殺すことは変わらないわよ」



代永 丈しろながじょう

「わかったわかった…俺が悪かった

ちゃんと謝罪をさせてくれ…」



東郷 椎菜とうごうしいな

「聞いてあげるとは言ったけど許すとは言ってないわ

それで…?そんな寒い命乞いしかないの?

なら死になさい」



代永 丈しろながじょう

「冷静に考えてもみろ!

俺だけを殺して復讐達成か?

そもそも俺はただ依頼を受けてそれを執行しただけだ!

他の奴らはみんな死んじまったが依頼主はまだまだ健在だ

依頼主がお前の最大の復讐相手じゃないのか!?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「……痛いところをつくわね」



代永 丈しろながじょう

「そうだろ?

俺を殺しちまったら依頼主は特定できんのか?

いや無理だろうな!

依頼内容は全て口頭だった

証拠なんてどこにも残ってやしない」



東郷 椎菜とうごうしいな

「だから…?それが貴方が死ぬことと何の関係があるの?」



代永 丈しろながじょう

「ここを戻ったとしてもお前らが話しちまえば俺はどうせ捕まる

いや、それだけじゃすまないな

俺が捕まったと知られたら即刻死刑にさせられて口封じさせられちまう」



東郷 椎菜とうごうしいな

「いいザマね、ご愁傷様」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

少しずつナイフが押し込まれていく。

首元から血が滴り落ちていった。



東郷 椎菜とうごうしいな

「そろそろ話しは終わりでいい?」



代永 丈しろながじょう

「最後まで聞け…!

俺の胸元にある手帳…そこに依頼主の名刺が入ってる

それをやるから命だけは見逃せ…!頼むよ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「………内容次第ね」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

代永しろながは片手を下ろしていき、自分のポケットを探り始めた。



代永 丈しろながじょう

「お前…復讐するために力をつけてきたってのか……」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そうよ」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

代永しろながは手帳をゆっくりと取り出す。

そして手帳を東郷とうごうの足元に投げる。



代永 丈しろながじょう

「だが、お前…人なんて殺したことないだろ?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「……それがなに?」



代永 丈しろながじょう

「もっと実践を学んでおくんだったな!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

突如、東郷とうごうへと頭突きを繰り出す。

強い衝撃を受け視界がぼやける。



東郷 椎菜とうごうしいな

「ぐっ!」



代永 丈しろながじょう

「馬鹿が!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

油断した一瞬の隙をつかれたのだ。

頭突きに怯んでいると身体を突き飛ばされた。

そして銃撃音がする。

腰のホルスターから拳銃を取り出した代永しろながは真っ先に東郷とうごうの足に向けて発砲した。



東郷 椎菜とうごうしいな

「うぐっ!!?ああぁ!!」



代永 丈しろながじょう

「獲物を目の前に泳がすなんて…愚か極まりないなぁ!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

足を撃たれた痛みで悶えながら床に転がる東郷とうごう

その手に握られていたナイフを代永しろながは蹴飛ばすと距離を置いて銃を向ける。



東郷 椎菜とうごうしいな

「がぁ………油断した……くそ…!!



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

再度、引き金を引く。

発砲された銃弾は東郷とうごうの右腕を貫いた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「ぎゃあっ!!ぁぁぁっ!!」



代永 丈しろながじょう

「ははっ…危なかった

正直死んだかと思ったよ

でも運がよかった

お前が甘ちゃんの優等生でほんとに助かったよ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「ああぁぁ!!く…そ……代永 丈しろながじょう…!!

お前だけは…必ず……殺す!!」



代永 丈しろながじょう

「やれるもんならやってみろって…ほら!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

挑発するように人差し指をクイクイとしているのを見せつける。

立ち上がろうとするも足と腕、肩を撃たれていた東郷とうごうはすでに限界であった。

悔しさのあまり地面に額を何度もぶつけた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「クソ…クソッ!!クソクソクソクソッ!!

……クソ野郎ッ!!」



代永 丈しろながじょう

「そういやあの時のお前の母親も似たような感じだったな

お前を助けようと必死に藻掻いて惨めだったよな」



東郷 椎菜とうごうしいな

「お前のようなクズが…お母さんとお父さんを……!!

どうして…よ!!殺してやるッ!!」



代永 丈しろながじょう

「どうしてって…依頼金が高かったから引き受けただけだ

それ以上なんの理由がある?

お前とその親の命になんざ全く興味がねぇが

大金詰まれちゃ仕方ないよな

特別ボーナスまで出たら尚更だ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「なんで…よ……どうして動かないの!?

…こんなの、あの時と比べて痛くないはずなのに……!!」



代永 丈しろながじょう

「そろそろ痛みも厳しくなってきただろ?

今日の俺は機嫌がすごぶるいい

今すぐ殺してやる」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

しゃがむと東郷とうごうの髪を持ち顔を上げる。

額に銃口を押し当てるとケタケタと笑う。

その不意を突き、東郷とうごうは目の前にある指に嚙みついた。

噛みつかれた拍子に拳銃を足元に落とす。



代永 丈しろながじょう

「ぐっ!痛ぇな!!

なにしやがるこのクソアマッ!!!

…クク

気が変わった…てめぇもあの時の母親のようにして愉しんでから殺してやることにした」



東郷 椎菜とうごうしいな

「クソ!!……お前は…絶対ゆるさない!!」



代永 丈しろながじょう

「弱い犬ほどよく吠えるって言うがホントだな

ことわざってのはよく出来てるな」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

東郷とうごうは武装を全て外される。

休む暇なく抵抗するも力の入らない東郷とうごうには何もできなかった。

力の入らない原因

それはわかっていた。

忘れていた幼き頃の1つの感情

トラウマと呼ぶその恐怖心は身体の動きを鈍らせる。

気が付けば東郷とうごうは涙を流していた。



代永 丈しろながじょう

「ハハハハハ!!!悔しいか??

本当になんとも不憫なやつだな

まぁ、生まれた場所を間違えたな」



東郷 椎菜とうごうしいな

「父は…なにも悪くない!!母だって…そう!

悪いのはお前達のような…クソ野郎よ!」



代永 丈しろながじょう

「クソ野郎…とはひどい言われ方だな

俺はただ欲望に忠実な人間らしい生き方をしているだけだ

どっかの誰かと違って部下を守るだの犠牲がどうこうだの青臭い夢物語を語らぬ現実主義者だ」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

東郷とうごうは悔しさに唇を噛み締める。

血を握り締めた手からは血が滲み出ており、唇からも出血していた。



東郷 椎菜とうごうしいな

(くそ…こんなクソ野郎に…

なんで…私の人生は……これまでは全部無意味だったなんて…)



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

代永しろながの顔を睨み続けながら今までを思い返していた。

後悔の念が押し寄せる。



東郷 椎菜とうごうしいな

(そうだ。人間は汚い生き物なんだ

世界は残酷…そんなことわかってた

自分勝手で無責任で…気持ちが悪い奴らばかり

こんな世の中に生まれたのが間違いだった…)



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

東郷とうごうは舌を噛み切ろうと意を決する。

その時ーーーーー



勝田 信二かつたしんじ

「…東郷とうごうさんっ!!」



東郷 椎菜とうごうしいな

「な…なぜ?」



代永 丈しろながじょう

「…あ?お前…生きてたのか?」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

先ほどから話している最中にずっと歩いてきていたようで接近に気がつかなかった。

しかしその様子はボロボロで今にも倒れそうな姿をしている。



代永 丈しろながじょう

「そんな様子で俺に勝てると思ってるのか?」



勝田 信二かつたしんじ

「これはッ!?…どうして…こんなことを!?」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

勝田かつたは横たわる東郷とうごうと付近にある部隊の死体を見つめる。



勝田 信二かつたしんじ

「貴方はなぜ…自分の部下にすら手をかけれるんですか!!」



代永 丈しろながじょう

「ははっ!お前知らないだろ?

自分の隊から殉職者が出たらな

特別補償と心療休暇が貰えるんだ

ボーナスとオフを一挙どり

こんな褒美が他にあるか?」



勝田 信二かつたしんじ

「部下を殺しておいて…なぜそんなことが!!」



代永 丈しろながじょう

「とことん優等生だな…

俺らみたいな軍人は命を張るだけ張って何の見返りも来ねぇ

だがそんな俺らにも美味い話が一個だけある

それが犯罪の片棒を担いでいくことだ

そうすればお前らじゃ一生真面目にしてても稼げねぇ額が稼げるんだ!

いい話だろ?」



勝田 信二かつたしんじ

「俺は…まったく共感できません!」



代永 丈しろながじょう

「お前に話すだけ無駄だったな

で、どうするつもりだ?

俺を殺すつもりか?」



勝田 信二かつたしんじ

「いえ、そんなことはしません…

貴方に…しかるべき処罰を受けさせます」



代永 丈しろながじょう

「真面目ちゃんはこれだからいけねぇな

正義を気取って俺の前にいるつもりなのか?

お前は…新人だろうが

こっちの嬢ちゃんが万全なら話は違うが

お前と俺じゃ差があんだぜ」



勝田 信二かつたしんじ

「それでもやります…!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

勝田かつたは勢いよく飛び掛かる。

二人は取っ組み合い、互いに拳を繰り出しあう。

しかし、傷を負っていた勝田かつたの動きは鈍く代永しろながの拳を正面から受ける。



勝田 信二かつたしんじ

「ぐわぁぁあっ!!」



代永 丈しろながじょう

「おらぁ!!…お前ごときで…ッ!

どうやってぇ…ッ!!おらぁっ!!

俺を止めるんだ!?ぁあ!??

女の前だからって粋がるなよ!青臭いガキがよ!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

複数回繰り出される拳を無抵抗に食らい続ける。

ゆっくりと片膝をついた勝田かつたは口から血反吐をぶちまけた。



勝田 信二かつたしんじ

「ガハっつ……!!

……東郷とうごうさん」



東郷 椎菜とうごうしいな

「勝てるわけ…ないじゃない……

貴方は……弱いのよ……」



勝田 信二かつたしんじ

「それでも…仲間を見捨てるわけにはいきません」



東郷 椎菜とうごうしいな

「仲間……こんな時まで何を」



代永 丈しろながじょう

「感動的だな…!だがそんな空想もおしまいだ!

二人ともここで死ぬ

そしたらあの…あぁ…なんだったか…そうだ

須加すがと……もう一人の女にも伝えておいてやるよ

二人は勇敢にも戦ったが、精神錯乱の末に特攻して命を落としたってな!!」



勝田 信二かつたしんじ

「そんなこと…!させません!!」



代永 丈しろながじょう

「あの世にいる榊原さかきばらにも伝えておいてくれよ!

俺はこれからも幸せに生き続けるだろうってな!!」



勝田 信二かつたしんじ

榊原さかきばらさん…は……死んで…ない…」



代永 丈しろながじょう

「はぁ?あの高さだぞ?

たとえ川に落ちても水面に叩きつけられて全身骨折だ

どう考えても生きてやしねぇよ!!」



勝田 信二かつたしんじ

「お前に……何がわかる!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

勝田かつたは力を込めて立ち上がった。



代永 丈しろながじょう

「お前…なんでその傷でまだ立ち上がれんだよ…」



勝田 信二かつたしんじ

榊原さかきばらさんは……決して部下を見捨てて先に死ぬような人じゃない!!」



代永 丈しろながじょう

「知らねぇよ…!そんなこと興味もねぇ!」



勝田 信二かつたしんじ

榊原さかきばらさんは…なによりも俺たちを気にかけてくれています……

だから俺は…信じています!」



代永 丈しろながじょう

「だから、なんなんだ?

お前たちがここで死ぬのは明白だろうが!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

代永しろながは銃を拾い上げ、突きつける。

勝田かつたはこんな時だが落ち着いていた。

彼の言葉を思い出していたのだ。



勝田 信二かつたしんじ

「躊躇してしまえば…命取り……」



代永 丈しろながじょう

「死ね…!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

引き金を引くと銃弾が発射される。

しかしその弾は勝田かつたの真横に放たれた。

外れたのではない。

勝田かつたはその射線から外れたのだ。



代永 丈しろながじょう

「なっ!?」



勝田 信二かつたしんじ

「はぁぁああっ!!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

勝田かつたは咆哮を上げ、代永しろながへと拳を出す。

代永しろながは咄嗟に背後に避けようとする。

しかしその銃は拳で吹き飛ばされてしまう。



代永 丈しろながじょう

「しまっーーーー」



勝田 信二かつたしんじ

「うらぁあああぁあっ!!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

代永しろながは腹部に掌底を受け、後方へと吹き飛ばされる。

そして同時に射撃音がした。

吹き飛ばされた代永しろながは腹部に銃撃を撃たれていたことに気がつく。



代永 丈しろながじょう

「な…な、な…なんだって…!?

いつの間に…!?うっっぐぅ……貴様あああ!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

勝田かつたの手には先ほど吹き飛ばされた代永しろながの拳銃が握られていた。

そしてその銃口からは硝煙があがっている。



勝田 信二かつたしんじ

「これが、破装拳はそうけんだ……

ありがとうございます…中井なかいさん」



代永 丈しろながじょう

「なんだそりゃ…くそ…いてえええぇ」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

防弾チョッキで貫通は防いだが、零距離で撃たれた威力は凄まじく激痛が走った。



代永 丈しろながじょう

「ちくしょ…うが…!貴様ら……必ず殺してやるからな!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

代永しろながは腰から煙幕グレネードを投げる。

煙幕により視界を眩まされた隙を見て代永しろながは姿を消してしまった。



勝田 信二かつたしんじ

「ゴホッ!ゴホ……逃げた……か?

そうだ!東郷とうごうさん!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

東郷とうごうは目を閉じていた。



勝田 信二かつたしんじ

「まさか…!?東郷とうごうさん!!?

息をしてないのか…!?」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

その言葉を聞くと東郷とうごうは目を開けた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「そんなわけないでしょ……少し疲れただけよ…」



勝田 信二かつたしんじ

代永しろながさんは…逃げてしまいました」



東郷 椎菜とうごうしいな

「あんなやつ…殺す価値もないわ……

もう興味もないわ」



勝田 信二かつたしんじ

「え、で、でも…その仇だって…」



東郷 椎菜とうごうしいな

「どっかの誰かさんがうるさいから復讐に集中も出来やしない

ほんとに迷惑なのよ」



勝田 信二かつたしんじ

「そ、その…すみません……」



東郷 椎菜とうごうしいな

「はぁ……謝られても困るんだけど

私がそう決めたのよ、それだけの話」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

勝田かつた東郷とうごうをゆっくりと立ち上がらせた。

足を負傷しているため、肩を貸しながら歩いて建物の外へと向かう。



東郷 椎菜とうごうしいな

「一つ聞いてもいい?

どうして私を追いかけたの?」



勝田 信二かつたしんじ

「どうしてって…仲間だからって言ったじゃないですか」



東郷 椎菜とうごうしいな

「私みたいな命令無視するような人

普通は放っておけばいいものよ」



勝田 信二かつたしんじ

「そう…なんですかね?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そんなものよ」



勝田 信二かつたしんじ

「もし俺の立場が榊原さかきばらさんなら…

見捨てたりしないと思ったので

俺もそうしただけです」



東郷 椎菜とうごうしいな

「ほんとに隊長に憧れてるのね…」



勝田 信二かつたしんじ

「そうだ…須加すがさん達と何とか合流しないといけませんね…

どうしましょうか…」



東郷 椎菜とうごうしいな

「さぁ…私も新米だからわからないわ」



勝田 信二かつたしんじ

「無事に帰ったら…お酒でも飲みませんか?

実は最近行きつけになったバーがあって…」



東郷 椎菜とうごうしいな

「珍しいお誘いね」



勝田 信二かつたしんじ

「実は…これも榊原さかきばらさんの真似なんですけど

でもいい店なので…」



東郷 椎菜とうごうしいな

「お断りよ」



勝田 信二かつたしんじ

「そ…そうですか……すみません」



東郷 椎菜とうごうしいな

「調子に乗らないでくれる?

デートに誘ってるのだとしたら、お生憎様

私は休日も世話の焼ける小鹿の面倒を見てて大変なの」



勝田 信二かつたしんじ

「小鹿…?東郷とうごうさんって小鹿を飼ってるんですか!?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「さぁどうでしょうね…

それより勝田かつたさん

足が遅いから急いで貰える?

流石にゆっくり歩きすぎよ」



勝田 信二かつたしんじ

「は、はい!すみません!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

少し時は戻り、山道を歩いていた榊原さかきばらの耳に銃声が聞こえた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「上の方か…まさか、勝田かつた達か?」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

武装がないため、周囲を警戒しながら早歩きで進んでいく。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

勝田かつた…俺はお前にかつての俺を重ねた

お前の無鉄砲で…実直で…それでいて強固な意志は…俺や街田まちださんの意志そのものだ……

だからこそ俺はお前を10年来のツレのように信じれるんだ…」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

榊原さかきばらは一週間前に筑波つくばから渡されていた腕輪に触れる。

その中心には小型の液晶画面がついており、そこに地図が浮かび上がった。

本来ここは電波が届かない山の奥地。

しかし腕輪は正確に山付近の建物の情報を映し出した。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

郷之畔さとのみさき旅館の廃墟地:…

さっき言ってた音の方角と同じ…

そこにいるのか?

必ず…無事でいろよ……勝田かつた!」



N→勝田 信二かつたしんじ

仲間を救える力

ちっぽけかもしれないが手に入った

俺の今までは無駄じゃなかったんだ

この力で今度こそ守ってみせる

覚悟はとっくに出来ている

どれだけ迷っても

どれだけ苦しもうとも

諦めず、突き進む

ただひたすらに






神ガ形ノ意志ニ背イテ 肆話   完

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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・アドリブ演技に関して

この台本はアドリブを入れる事を前提として書いています

なので演者様方の判断で挟んで頂いて構いません

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・性別変更や比率に関して

作者はあまり好ましくは思っていませんがある程度ならば可とします

そのある程度の境界線は他の演者様たちとの話し合いに委ねます



・特殊なものについて

台本を演じる際に読み込まないで演じる行為や

言語を変える、明らかに台本無視と取れる

特殊な行為をするものは認めていません

流石に読み込んで普通に演技してください

多分そうじゃないとこの台本は演じれないです



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