神ガ形ノ意志ニ背イテ 参話

登場人物名


榊原 義弘さかきばらよしひろ

32歳

大雑把な性格だが、部下を率いる防衛隊の一部隊の隊長。

説明下手でよく橘花たちばなに訂正される

勝田かつたを気に入り、傍に置いて色々指導している。

任務中ではかなり頭が回り、戦場をかけている。

筑波つくばとはかなり長い付き合いらしい




勝田 信二かつたしんじ

24歳

熱い正義感と無鉄砲な若さを持つ新人隊員

士官学校卒の元警官であったが、魔怪まかいの襲撃の際に同僚たちの不甲斐なさに失望し、単身挑むも死にかけそこを榊原さかきばらに助けられる

任務より目先の命を優先することが多く、危険な目に合うことが多い




須加 正樹すがまさき

30歳

榊原さかきばらの下についている隊員の1人。

榊原さかきばらの適当な説明には慣れているようで大体の説明で内容を理解している

部隊の中では狙撃を務める事が多く、高い位置からの索敵が得意である




中井 亮なかいりょう

29歳

渋谷のバーでバーテンダーをしている男性

とある事件により視力がほとんど無いらしく、人の顔や字が確認できない




街田 茂まちだしげる

49歳

榊原さかきばらの師匠

大雑把でガサツな性格だが実力は確かで引退後の現在も英雄譚が受け継がれている

現在は記者をやっているようだが、身の上話をしないためどこに属しているかは不明




橘花 真由美たちばなまゆみ

27歳

榊原さかきばらの説明を理解し、作戦伝達を務める事の多い女性隊員

榊原さかきばらとは長く同じ隊で行動しており、一番彼の考えや特性を理解している

戦闘では弾幕を張ったり、他隊員の立て直しの時間稼ぎや牽制けんせいを行う




筑波 柊つくばひいらぎ

年齢不詳

マッドサイエンティスト気質な女性

魔怪まかいの研究に人生を捧げており、クローンとなり長年研究を続けている

未だ研究結果を世界に公表することなく、自身のみで使っている

現在はなにか新たな兵器を製造することにご執心の様子

東郷とうごう役が兼任です




東郷 椎菜とうごうしいな

19歳

学園を卒業し、何かの目的を以て部隊に所属した。

自分の実力を疑わず、隊員と特に須加すが勝田かつたとは反りが合わない事が多く、独断で行動することが多い。

かなりの実力者で、榊原さかきばら管轄の部隊で個人戦力は群を抜いて高い。

筑波つくば役が兼任です






Nは→後のキャラ演者が読む

※所々交代があるので注意してください。かなり大変です。






VHAぶいえいちえー

突如世界に現れた「魔怪まかい」と呼ばれる怪物を駆除するために設立された軍

Variant Hunt Army通称VHAぶいえいちえーと呼ばれる軍は

自衛隊や警察組織と違い、独立した権力を持つ

一般人や学園卒業者の中で実力保有者が入隊することができる

VHAぶいえいちえー兵を総称して兵員と呼ばれている



魔怪まかいについて

2000年に突如現れた異形の生命体。

理由や目的は不明だが人類を脅かす存在。

現れた当初は世界でも数十体しか確認されなかったが、年々数を増やしていた。

出現方法も繁殖方法などは不明となっている。

魔怪まかいの姿形は現存した生物に類似している為

生物が魔怪まかいに変異した説や妖怪や幽霊といった類である説だったり

一部では神の使い等と吹聴ふいちょうしている宗教までいる。



CARDIEDカディドとは

その素性、人員、目的一切が不明のテロ集団

突如姿を現れては殺戮を行う事から市民から恐れられている






役表

榊原 義弘さかきばらよしひろ♂:

勝田 信二かつたしんじ♂:

中井 亮なかいりょう須加 正樹すがまさき♂:

街田 茂まちだしげる♂:

橘花 真由美たちばなまゆみ ♀:

東郷 椎菜とうごうしいな筑波 柊つくばひいらぎ♀:






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血桜ハ還リ咲ク 別章 参話

神ガ形ノ意志ニ背イテ






N→橘花 真由美たちばなまゆみ

彼女はあの日の夢を見ていた。

瞼の裏に焼き付いた憎しみは忘れるなと言わんばかりに

まるで責め立てるように胸を締め付ける。



東郷 椎菜とうごうしいな

「はぁ…はぁっ…!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

強い雨が降り注ぎ、月が隠れる薄暗いある日

住宅街から少し離れた場所に豪邸が広がっていた。

突如鳴り響く爆発音が豪雨の音にかき消される。

止まない雨は少女の悲痛な叫びすら隠してしまう。



東郷 椎菜とうごうしいな

「やめ…て!!……たすけ…て…だれか……!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

目視できる光景は自らに跨っている男によって遮られている。

顔はぼやけていて認識できないが、笑っているのだけは理解してしまう。

不快に笑う男が再び拳を振りあげる。

激痛と共に薄れゆく意識の中、男の背後へと目を反らす。

後ろにはこちらを見ながらケタケタと話す集団がいた。

その中心にいる男が突然叫び声をあげる。

突如、舞い上がった煙が視界を曇らせた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「な…に……が……」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

耳鳴りが収まると曇った視界に光が灯る。

煙の中には何かが存在していた。

それが何かはわからない。

しかし、大きな目がこちらをギロリと睨んでいる。

周りにいた男たちは悲鳴を上げながら逃げ出していく。

ここにいる少女と血だらけで倒れている二人を置いて…。



東郷 椎菜とうごうしいな

「おか……さ……お…と…さ……」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

雨が収まっていき、雲が晴れ、漏れ出た月夜が辺りを照らす。

先ほど叫び声をあげた男が我先にと逃げ出していたようだ。

月の灯りの反射で男の左腕がキラリと光る。

それをぼんやりと眺めていると、突然目の前に水しぶきがかかってきた。

その赤い水とぬめりとした柔らかい固形物に埋もれた少女の瞳が暗く染まっていく。

深い底へ落ちるように、少女の目から光は失われていった。



東郷 椎菜とうごうしいな

「おかあさん………おとうさん………」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

流した涙の滴る感覚で夢が覚める。

東郷とうごうはゆっくりと起き上がるが強烈な吐き気を催し、洗面台へと駆け込む。

そして胃の中から湧き出る嘔吐物を吐きだした。



東郷 椎菜とうごうしいな

「げほっ……げほ………うっ……」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

荒い息を徐々に落ち着かせると水を一気に飲み干す。



東郷 椎菜とうごうしいな

「つくづく…私って……いつまで経っても変わらないわね」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

ゆっくりとベランダへと歩いていき、夜空を見上げる。

半分に欠けた月はぼんやりと浮かびあがっており

暗い夜空を綺麗に照らしていた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「ほんと…憎らしいほど綺麗ね……」




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N→東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばら隊は先の任務での被害が拡大してしまったこと

その責任を取らされ謹慎処分を言い渡されていた。

特にすることのない榊原さかきばら橘花 たちばなを呼び出し

小さな山の頂上にある展望台でタバコを吸いながら風に当たる。

ここからは街が一望でき、ひっそりと人気な場所であった。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「すごく良い場所ですね

全く人気がないのが不思議なくらいです」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「たそがれるには丁度いい場所だろ?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「こんなところに呼んで、何かあったんですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ……いや、ちょっとな」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「私でよければ聞きますよ」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばらは展望台の手すりに寄りかかる。

何かを探すようにポケットを弄りながら口を開く。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「この前、勝田かつたに次の隊長になってくれないかと頼んでみたんだ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「え?勝田かつた君はなんて答えました?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「断られたよ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「いきなりそんなこと言われたら誰だって断りますよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そりゃそうだよな…」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

ポケットからタバコを取り出すと口に咥える。

ライターで火をつけようとするが何度やっても火がつかないようだ。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ん?オイルが切れてんな

橘花たちばな、ライター持ってないか?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「私は持ってません

というか、禁煙してたんじゃないんですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「まじか…」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「健康診断で引っ掛かったんですよね

医師にもお酒やタバコを控えろって言われたばかりじゃないですか!」



街田 茂まちだしげる

「ニコチン中毒者に禁煙しろってのは無理があるぜ嬢ちゃん」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

突然下から聞こえた声の主が展望台の階段を上がってくる。

姿が見え、榊原さかきばらが驚いた顔をしていると

その男は何かを榊原さかきばらへと投げつける。

手元に投げられたものを掴んだ榊原さかきばらは、その物をじっと見つめた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「っと…これは、ライター?」



街田 茂まちだしげる

「火つけれねぇんだろ?遠慮なく使え」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「あの…どちら様ですか?」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

コートを肩から羽織った大柄な男はタバコを咥えながら大らかに笑う。



街田 茂まちだしげる

「久しぶりだな義弘よしひろ



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「どうしてここに?」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

街田まちだは二人の近くまで寄ると榊原さかきばらの正面に向き合う。



街田 茂まちだしげる

「聞いたぞお前!

責任押し付けられて謹慎だってな!ガッハハハ!!

とんだ災難だったなぁ!!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「本当に冗談じゃないですよ、街田まちださん!」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

二人は固い握手をする。

そしてギュッと握り合うかと思えば、なぜか力比べを始めた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ぬぅぅぅぅぅっ!!!!」



街田 茂まちだしげる

「ぐぅおおおおおおっつ!!!」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

ギチギチと音がするほど強く握り合う。

少しして榊原さかきばらの手が緩むと二人は手を放す。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「いたたた……馬鹿力はまだまだ健在ですね」



街田 茂まちだしげる

「阿保か!もう流石に歳だってぇの!

てかお前…めちゃくちゃ鈍ってんじゃねぇか!

謹慎中にトレーニングはしてんだろうな?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「いや、最近は少し忙しくて…」



街田 茂まちだしげる

「とかなんとか言ってサボってんだろうが!

嬢ちゃん、お前さんも苦労してんだろ?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「あ、いえ本当にそうな……なことないです!!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「おい待て、何を言いかけた?」



街田 茂まちだしげる

「ガッハハハ!!いい部下を持ってんじゃねぇか!」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「あの…榊原さかきばらさんとはどういったご関係で…?」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

榊原さかきばらはタバコに火をつけ、煙を吹きだすと質問に答えた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

街田まちださんは俺の上司で隊長だった人なんだ

それに俺の特訓もずっとやってくれてな

色々と世話になったんだ」



街田 茂まちだしげる

「おうよ!

まだ青臭い坊主だったころから知ってるが

一丁前に大人の雰囲気を出すようになりやがったな!」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「え…もしかして!剛鬼と呼ばれたあの街田 茂まちだしげるさんですか!!!?」



街田 茂まちだしげる

「そういやそんな名前で呼ばれてた時期もあったな!懐かしいぜ!!」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「私たちの代でもずっと英雄譚が伝わってますよ!

引退するまでものすごい量の魔怪まかいを駆逐してきたって…!!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ、この人はほんとにすげぇよ

その話は全部本当だ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そうなんですね!!」



街田 茂まちだしげる

「そんなのは昔の話だ!今はただの中年おやじだよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そういえばどうしてここに?」



街田 茂まちだしげる

「お前が謹慎になったって聞いたからケツを叩きに来てやったんだ

どうせ迷ってる時はここにいんだろうなと思ったが大正解だったみてぇだな」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そうですね、ずっとここが好きなんですよ」



街田 茂まちだしげる

「良い場所だよな

ここで何度もしごいてやったな!

最初の頃は毎日毎日ボロボロになってやがったよなぁ!ガハハハ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あれを新米の頃に捌ける奴なんていませんよ

というかここで本気で特訓するもんだから怖がられて

せっかくの絶景スポットだってのに俺ら以外一人も来なくなったんですよ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「ここ…人がいないのそういう理由だったんですね…」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

街田まちだはベンチに腰かけ、足を組むと新しいタバコに火をつけた。



街田 茂まちだしげる

「なんだ、今度は何を迷ってやがんだ?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「……俺の部下に勝田かつたって新人が入ったんです

正直まだまだ弱いですし

無鉄砲ですし、石頭な奴なんです

でも、昔の俺に…そっくりなんですよ」



街田 茂まちだしげる

「そういや入ったばっかのお前は青臭ぇことばっか言いやがってたもんな!

ガハハ!懐かしいぜ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「その熱血馬鹿がまた来たんですよ

俺はその道を突っ走れなかった…

だからあいつには夢を見てしまうんです」



街田 茂まちだしげる

「……そういうことか

そいつを後釜にしたいってのか?

随分と師匠みたいになっちまったじゃねぇか!!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ははは…街田まちださんの真似事ですよ」



街田 茂まちだしげる

「で、断られたんだろ?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「……はい」



街田 茂まちだしげる

「ガハハハハ!!!そうだろうな!!

お前も最初は相当反対したよな!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「結局押し付けていったじゃないですか!」



街田 茂まちだしげる

「ガハハッ!!!わりぃとは思ってるよ!

今度酒でも奢ってやるから大目に見てくれ!!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「高い店で頼みますよ」



街田 茂まちだしげる

「そうかそうか!お前もお前で悩んでんだな!

だが、それが生きるってもんだ!

色々なもんにぶち当たるし、悩むし

ミスだってする

その度にクヨクヨしてたら時間の無駄だぜ!!

もっと気楽に構えろよ!」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

街田まちだは背中をバチーンと叩く。

勢いよく背中を叩いたため榊原さかきばらは咳き込んだ。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ゲホッ……ほんと馬鹿力なんですから!

ちょっとは老いを知ってくださいよ!!」



街田 茂まちだしげる

「悪ぃ悪ぃ!加減はしたつもりだったんだけどよ

そうやって悩んで選択をミスったらそれこそしめぇだろ

よく言うだろ!義弘よしひろ

いつだって――――」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「自分らしくあれ、ですね」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「あ、その言葉って………」



街田 茂まちだしげる

「ガハハハ!!わかってんならいいんだ!!

じゃあ俺はそろそろ行かねぇとな」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

街田まちだは立ち上がり、背を向ける。



街田 茂まちだしげる

「もしまた迷ったときは俺がケツを叩いてやるからよ!

じゃあ元気でな!ガハハ!

邪魔したな嬢ちゃん!」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「あ、いえ!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ありがとうございました

色々と靄が晴れました」



街田 茂まちだしげる

「おう」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

街田まちだは手を振りながら去っていった。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「すごい人でしたね」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「粗雑な人だろ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「ふふっ……榊原さかきばらさんに似てましたね」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ん?…そうか?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「あの…街田 茂まちだしげるさんって今は何をされてるんですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「防衛隊を辞めてからは記者になったって聞いたことがあるな

実は俺も詳しくは知らねぇんだ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「まだ元気そうに見えましたけど

どうして防衛隊を辞めてしまったんでしょうか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あの人は黒いものを見すぎちまったんだ

それが嫌になって急にいなくなっちまった

そんでもって俺が急遽、隊長になったのが始まりなんだよ

それから少ししてお前や須加すがが入ってきたんだ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「黒いものって…?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「人間が1番汚ぇって話だ

関わる気がないなら知らない方がいい」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

突然、榊原さかきばらの携帯から着信音が鳴る。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ん?…須加すががかけてきたみたいだ

ちょっと待っててくれ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「はい、わかりました」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ俺だ……ん?

そうなのか?わかった…勝田かつたにも言っておいてくれ」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

電話を終えると橘花たちばなは首をかしげる。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「何かあったんですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「どうやら俺らの謹慎が明後日解けるみたいだ

ほんと急に言いやがるな」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「明後日!?いきなりですね…

どうしよう…美容院の予約取ってたのに」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「仕方ねぇな

他の休日にでも行ってこいよ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そうします」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「じゃあ俺らも帰るか……………ぐっ!!?」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

突然、榊原さかきばらは口を手で押さえたまま咳き込んだ。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「だ、大丈夫ですか!!?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「いや!気にしないでいい!

街田まちださんのあれが思ったより効いただけだ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「ほんとですか?無理しないでくださいね

急に倒れられたら困りますからね」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

さっと手を背に隠す。

橘花たちばなに見られないように手のひらを覗き込むとそこには血が付着していた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「…時間がない」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「何か言いましたか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「いや、なんでもない

飯でも行くか…」




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N→街田 茂まちだしげる

そして視点は移り

勝田かつたは射撃訓練場で的当てを行っていた。

隣には東郷とうごうもおり2人は数ゲームの間、言葉を交わすのが日課になっていたのだ。

東郷とうごうは動く的を正確に捉えている。

まさに達人のような東郷とうごうの銃捌きを勝田かつたはじっくりと眺めていた。



勝田 信二かつたしんじ

(すごい銃捌きだ……

指切りの速度…正確な反動制御…

それにスマートな高速装填…

学園機構卒業の女性にはこんなことができてしまうものなのか!?)



東郷 椎菜とうごうしいな

「さっきからこっちを見て何なの?

気が散るんだけども」



勝田 信二かつたしんじ

「すいません!

その…すごい銃の扱い方で……」



東郷 椎菜とうごうしいな

「褒めてくれてありがとう

それよりまた何か迷ったような顔ね

いつもいつも嫌でも見えるものだから表情でわかるようになってきたわ」



勝田 信二かつたしんじ

「…流石ですね、そうなんです」



東郷 椎菜とうごうしいな

「答えるとは限らないけど聞いてはあげるわ」



N→街田 茂まちだしげる

銃の装填をしながら勝田かつたは相談をし始める。



勝田 信二かつたしんじ

榊原さかきばらさんに次の隊長になってほしいと言われました

俺にそれが務まるわけがない

一体何を考えてるんでしょうか」



東郷 椎菜とうごうしいな

「さぁ?頭がおかしくなったんじゃない?」



勝田 信二かつたしんじ

「ん、え?そ、そういうわけじゃ…ないとは思うんですが」



東郷 椎菜とうごうしいな

「貴方ほんと色々と悩んでるようだけど

そんなたくさんの事を一気に捌けるほど器用じゃないでしょう?

一つずつ答えていかないと一生悩んでいそうね」



勝田 信二かつたしんじ

「一つずつ……」



東郷 椎菜とうごうしいな

「私は今日は上がるわ

あとは好きに悩んでなさい」



N→街田 茂まちだしげる

東郷とうごうはいつの間にか普段やる分のゲーム数を終わらせていた。

それに気づいて声をかけようと顔をあげると、いつの間にか東郷とうごうの姿はなくなっていた。



勝田 信二かつたしんじ

「あ……行ってしまった

はぁ………どうすればいいんだ

一つずつ……そんなこと言ったって……」



N→街田 茂まちだしげる

それから射撃訓練を終わらせ、行きつけのバーへと向かうことにする。


そこは以前、榊原さかきばらの思いつきで入った場所で

勝田かつたは店内の雰囲気が気に入り

それ以来、休日の空き時間に通うようになっていた。

バーのカウンター席に向かうと以前、街中で知り合った中井なかいがバーテンダーをしており勝田かつたが入ってきたことに気がつくと会釈する。



勝田 信二かつたしんじ

「こんにちは、よく来たのがわかりましたね?」



中井 亮なかいりょう

「何度も来ていただいているお客様はすぐにわかりますよ」



勝田 信二かつたしんじ

「今日は…どうするかな……」



中井 亮なかいりょう

「…何か悩んでいるご様子ですね

そうであればオールドファッションドはどうでしょう?

シンプルですがウイスキーの渋みが落ち着きを与えてくれますよ」



勝田 信二かつたしんじ

「あ…それじゃあそれをお願いします」



中井 亮なかいりょう

「かしこまりました」



N→街田 茂まちだしげる

目の前で氷を綺麗に包丁で削っていき

見事なほど綺麗なクラッシュドアイスを作るとグラスに入れた。

そこにバーボン、砂糖、ビターズを合わせてシェイクし始める。

そうして出来上がったものを勝田かつたの前にスッと静かに置く。



中井 亮なかいりょう

「お待たせいたしました」



勝田 信二かつたしんじ

「ありがとうございます」



N→街田 茂まちだしげる

勝田かつたはカクテルをゆっくりと口に入れる。

普段より渋みはあるが、徐々に落ち着いてくるとほっと一息をつく。



勝田 信二かつたしんじ

「本当にすごいですね!

こんな風にオススメできるなんて…」



中井 亮なかいりょう

「恐縮です」



勝田 信二かつたしんじ

「そんな謙遜しなくても…あ、そうだ

えっと、中井なかいさん」



中井 亮なかいりょう

「はい、どうされましたか?」



勝田 信二かつたしんじ

「こんな事を言われても困るかもしれないんですが…俺、すごく悩んでいて

どうしたら答えが出せるのかって…ずっと考えているんです」



中井 亮なかいりょう

「…」



勝田 信二かつたしんじ

「俺は…いつもこうやって答えを出せずにいるんです

どうすればいいのかとずっと迷い続けているだけで…」



中井 亮なかいりょう

「…」



勝田 信二かつたしんじ

「すいません!急にこんな愚痴を!!」



中井 亮なかいりょう

「構いませんよ」



勝田 信二かつたしんじ

「すごく美味しかったです

それでは会計をお願いします」



N→街田 茂まちだしげる

会計を支払うために財布を取り出す勝田かつた

すると中井なかいは何かのメモをそっと手渡した。



勝田 信二かつたしんじ

「これは?」



中井 亮なかいりょう

「17時30分ほどにそこに来てください

答えを私が教えることはできませんが

力になれることがあります」



N→街田 茂まちだしげる

何の事かわからず会計を支払ったあと、外に出てから紙を開く。

そこにはこの店から少し離れた場所に×印でマークされており

丁寧に17時30分と時間が記載されていた。



勝田 信二かつたしんじ

「力になれること…?なにをするつもりなんだ?」



N→街田 茂まちだしげる

腕時計を見ると現時刻は16時ちょうどで予定時刻まで1時間半あった。

だが今からやることもなかったので、先にその場所に向かうことにした。

そこは何かの倉庫のようで、2メートルほどの塀で周りが囲われている。

入り口の門はカギがかかっていないようですぐに入る事ができた。

倉庫の中を窓から覗き込む。



勝田 信二かつたしんじ

「ここは…?中には何もないように見えるけど…」



N→街田 茂まちだしげる

倉庫の中は何も置かれておらず何もない空間が広がっていた。

扉も鍵がかかっていないためすぐに入る事ができる。

ゆっくりと中に入ってみるが、倉庫の壁際に段ボールがいくつか置かれていることに気がつく。



勝田 信二かつたしんじ

「何が入っているんだ?」



N→街田 茂まちだしげる

段ボールをゆっくりと開ける。

そこにはエアガンが4丁、オモチャのナイフが4つ

他のものには用途の分からない棒状の道具がいくつか入っていた。



勝田 信二かつたしんじ

「これは…?何に使うんだ?」



N→街田 茂まちだしげる

中身を漁っていると段ボールの底に何かノートがあること気がつく。



勝田 信二かつたしんじ

「ノート…?」



N→街田 茂まちだしげる

ノートをめくっていくと、そこには格闘術の知識やメモが書かれており

人型のイラストを添えて書かれているその記述はとても分かりやすくまとめられていた。



勝田 信二かつたしんじ

「これは…なんの格闘術なんだ?

武器と…拳を…同時に使う?

ちょっと待てよ…」



N→街田 茂まちだしげる

入っていたエアガンを手に持ち、書いてある内容を真似ようとしてみる。

しかし複雑なその動きが急にできるはずもなくエアガンは明後日の方向へ飛んで行ってしまう。



勝田 信二かつたしんじ

「思ってたより難しいぞ!?

これは…!!うおっ!!また間違えた!」



N→街田 茂まちだしげる

夢中になって練習をしていたが、一度も再現ができずにいた。

拳を振り上げながら銃を拳の突き出しに合わせて正面に構える動作。

それを繰り出した瞬間、目の前にいた男性に腕を掴まれ、気がつくと地面に倒れて天井を見上げていた。



勝田 信二かつたしんじ

「え…あ!中井なかいさん!!

すみません!全然気がつきませんでした」



中井 亮なかいりょう

「気配を消していたわけではないのに気がつかないのは油断しすぎですね」



勝田 信二かつたしんじ

「あの…ここは一体?」



中井 亮なかいりょう

「ここは私が借りている倉庫です

こうして身体を動かすにはちょうどいい空間なのですよ」



勝田 信二かつたしんじ

「あの、このエアガンや他の道具は一体?」



中井 亮なかいりょう

「今からこれを使った修行を勝田かつたさんに付けましょう」



勝田 信二かつたしんじ

「え!?中井なかいさんが相手で…ですか!!?」



中井 亮なかいりょう

「目が視えないからとはいえ油断しないことをお勧めします」



N→街田 茂まちだしげる

中井なかいがかつて不良を倒していたことを思い出す。

目が視えていないというデメリットを意に介さず

正確無比に不良をノックアウトしていた。

あの動きはたとえ本気の自分が挑んでも勝つことができないものだと

流石の勝田かつたでも痛感している。



勝田 信二かつたしんじ

「はい…わかりました

でも、何をすれば…?」



中井 亮なかいりょう

「まずは模擬戦を行いましょう

ルールはこのエアガンとナイフを一つずつ持ち

どちらをどのように使っても構いません

腹部に一撃を入れた方の勝ちとしましょう」



勝田 信二かつたしんじ

「え…!?中井なかいさんは武器を持たないんですか?」



中井 亮なかいりょう

「私はこのままでいきます。それではお互いの距離はこのぐらいでいきましょう」



N→街田 茂まちだしげる

中井なかいは少し距離をとる。

二人の距離は5メートルほどで互いに向かいあうように立った。



勝田 信二かつたしんじ

「この距離で始めるんですか?」



中井 亮なかいりょう

「まずはホルダーにしまっていてください

勝田かつたさんが銃を抜いたタイミングでスタートとします

それでは、いつでも初めてください」



勝田 信二かつたしんじ

「……わかりました」



N→街田 茂まちだしげる

実力者であるのは理解しているが目の視えない者が相手となり気が引ける勝田かつた

しかし戦う流れになってしまったため、覚悟を決めて銃に手をかける。



勝田 信二かつたしんじ

「行きます!!」



N→街田 茂まちだしげる

銃を抜き中井なかいを中心に構える。

しかし、銃を向けた瞬間にステップで位置を変え続ける中井なかいに照準を定められずにいた。



勝田 信二かつたしんじ

「狙えない!?」



中井 亮なかいりょう

「こちらからも攻めますよ」



N→街田 茂まちだしげる

中井なかいのステップがより激しくなった。

気がつくと正面へと思い切り飛び出してくる。



勝田 信二かつたしんじ

「はやいっ!!!」



中井 亮なかいりょう

「ふっ!!!」



N→街田 茂まちだしげる

銃を発砲するも、引き金を引いた瞬間には既に射線上に姿はなかった。



勝田 信二かつたしんじ

「なにっ!?」



N→街田 茂まちだしげる

銃を片手で弾き飛ばされる。

驚きつつ防御態勢をとったが激しい格闘を受けて後方へと大きく怯む。



勝田 信二かつたしんじ

「うぐっ!!なんてパワーだ…!!」



中井 亮なかいりょう

「もう終わりですか?」



勝田 信二かつたしんじ

「ぐっ…まだです!!」



N→街田 茂まちだしげる

勝田かつたは立ち上がりナイフを構えると突き刺すために振りかぶる。



中井 亮なかいりょう

「大振りな動きですね」



勝田 信二かつたしんじ

「うおぉぉ!!ぐっ!?」



N→街田 茂まちだしげる

突如腹に一撃、掌底を喰らわされる。

腹部に強烈な一撃を受け、ナイフを手放す。

それと同時に左胸にエアガンの弾が当たった。

倒れた際に自分の敗北にようやく気がつく。



勝田 信二かつたしんじ

「え…エアガン…?」



中井 亮なかいりょう

「勝負ありですね」



N→街田 茂まちだしげる

いつの間にか中井なかいの右手にはエアガンが握られている。

それは先ほど吹き飛ばされた勝田かつたのものであり

どのタイミングで拾っていたのか全くが気がつかなかった。



勝田 信二かつたしんじ

「い、いつの間に?」



中井 亮なかいりょう

「先ほど銃を持っていた手を攻撃した際に奪いました

このように武器を奪い攻撃する手段もあります」



N→街田 茂まちだしげる

中井なかいは手を差し伸べる。

その手を掴み、立ち上がると先ほど吹っ飛ばされたナイフを探す。

しかし付近にナイフは落ちていなかった。



勝田 信二かつたしんじ

「あれ…?ナイフは?」



中井 亮なかいりょう

「この二つをお返ししますね」



N→街田 茂まちだしげる

手渡されたものは先ほどのエアガンとナイフであった。



勝田 信二かつたしんじ

「ナイフも…あの一瞬で!?」



中井 亮なかいりょう

「何かご質問は?」



勝田 信二かつたしんじ

「今の…攻撃

俺には何がなんだか……」



中井 亮なかいりょう

「貴方の攻撃スタイル

おそらく警察学校のものでしょうか

その技術ですが、テロリストや実力者を相手にした際は使い物になりません

まず私に銃を構えた際、銃先は私の足元に向かうようになっていました

それではもしも当たったとしても相手を一撃では倒せません

対して相手はこちらを殺しにかかってきます

相手は迷うことなく息の根を止めにかかるでしょう

そんな相手に躊躇することは命取りになります」



勝田 信二かつたしんじ

「…確かに、俺は直接撃とうとは考えてなかったかもしれません」



中井 亮なかいりょう

「それと正面から銃口を構えてると先ほどのように

銃口の向きや引き金をひく動作を見て避けられます

私以上の実力者になると確実に覚えている動作でしょう」



勝田 信二かつたしんじ

「銃口を見る…そんなこと考えたこともなかった」



中井 亮なかいりょう

「先ほど見せたのは相手へと攻撃をしつつ

武装解除させる技です

私はこれを破装拳はそうけんと呼んでいます

拳は蹴りや武器での攻撃ほどの威力は見込めませんが

こうした攻撃を盛り込むことで敵に対する有効打が増えます」



勝田 信二かつたしんじ

破装拳はそうけん……俺はそれで武器を外されたのか……

すごい技だ……!」



中井 亮なかいりょう

「そして先ほどの二度目の攻撃

ナイフを奪った際にまず片手の掌底により武器を奪いました

これは先ほどの破装拳はそうけんを掌底に変えた応用です

そして、その後の銃で攻撃した方法ですが…」



N→街田 茂まちだしげる

中井なかいは横を向き拳の突き出し方を見せる。

その手には銃を持っているが、銃口を正面に向けていなかった。



勝田 信二かつたしんじ

「その持ち方は?」



中井 亮なかいりょう

「よく見ていてください」



N→街田 茂まちだしげる

正拳突きを繰り出す。

そのモーションの後時間差もなく銃を手元でくるりと回し

銃口を正面にする。

そして瞬時に引き金をひき射撃した。

その間は僅か1秒にも満たない時間であり

目視していたが細かな動作を見逃してしまうほどのものであった。



勝田 信二かつたしんじ

「拳とほぼ同時に射撃を!?」



中井 亮なかいりょう

「正確には拳のあとに撃ちます

先ほどの攻撃を例とするならば

掌底を喰らった勝田かつたさんは正面からの衝撃を受けて

後方へと飛ばされています

なので、この射撃を避けることができなかったのです」



勝田 信二かつたしんじ

「…そんなことを瞬時にしていたんですか!?」



中井 亮なかいりょう

「こんな曲芸のような技ですが

攻撃の手数が増えることで勝率を劇的に上げることができるでしょう」



勝田 信二かつたしんじ

「ですが…俺にそんな高等な技ができるとはとても…思えないんです」



中井 亮なかいりょう

「そうでしょう

一朝一夕で習得できるものではないです

そして、ハッキリ言いますが

貴方は一度に複数をこなせる才能はありません

残酷かもしれませんが、その溝は努力でしか埋めることはできないです

自分を見失わずひたすらに努力をする

それができれば今迷い悩むその答えもいずれ出るでしょう」



勝田 信二かつたしんじ

「…わかりました、やってみます」



中井 亮なかいりょう

「それでは私の稽古を受けたいときは店を訪ねてください

私の勤務が終わってからでよろしければいつでもお受けしましょう」



勝田 信二かつたしんじ

「ありがとうございます!」



中井 亮なかいりょう

「では、休憩にしましょう」



N→街田 茂まちだしげる

一息つくため二人は一度倉庫を出た。




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N→橘花 真由美たちばなまゆみ

筑波つくばの研究所にて

定期検診を受けるため診察台に寝転がっていた榊原さかきばらは終了の合図とともに立ち上がる。

筑波つくばはリモコン操作で動く椅子に乗りながら飴を舐めつつ診断書を読んでいた。



筑波 柊つくばひいらぎ (東郷 椎菜とうごうしいな役兼任)

「今日の検査の結果知りたいかな?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「早く診断書を見せろ

ぶっ飛ばすぞ」



筑波 柊つくばひいらぎ (東郷 椎菜とうごうしいな役兼任)

「お~お~毎度の如くご機嫌ななめだね~

今日はどうしたのかな?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「お前が気にすることじゃない

それよりもさっさと結果を教えろ」



筑波 柊つくばひいらぎ (東郷 椎菜とうごうしいな役兼任)

「良い感じだよ~退院もそろそろかな~?

先生は少し寂しくなってきたよ~~~」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「くだらない冗談はいいから真面目に答えろ」



筑波 柊つくばひいらぎ (東郷 椎菜とうごうしいな役兼任)

「あーーーーーーうん

全然ダメだね、治る気配ナシ

こうして薬で怪我を無理やり治してるけどさ

本当なら戦うなんてもってのほかなんだよ

そんな君がアレに進んで協力をするなんてどういう風の吹き回しだい?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ただの気まぐれだ」



筑波 柊つくばひいらぎ (東郷 椎菜とうごうしいな役兼任)

「そうかな~私の研究を手伝ってくれるのは嬉しいんだけどね

素直に手伝うなんて言われたら疑っちゃうじゃないか」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「それならなしでもいいんだぞ」



筑波 柊つくばひいらぎ (東郷 椎菜とうごうしいな役兼任)

「いやいや、それは勘弁だね

私の推測だと勝田かつたくんに感化されたんじゃないかな?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「俺は…あいつと似てるんだ」



筑波 柊つくばひいらぎ (東郷 椎菜とうごうしいな役兼任)

「へ?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「入隊した当時は本気で正義が必ず勝つと思っていた

だけど実際は違った

人類を護るはずの政府の中で陰謀が渦巻いてやがるわ

そんな俺たちの仲間が化け物に潰されていくわ

世の中はそんなもんだって心底がっかりした

誰の犠牲も出したくなかったから

俺は真っ先に自分の命を懸けてきた

だがそうやって突っ走った俺のせいで部下を失うことになった

俺にもっと力があれば…」



筑波 柊つくばひいらぎ (東郷 椎菜とうごうしいな役兼任)

「救えたかもってかい?

なんとも非合理な希望的観測だね」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

榊原さかきばらは重々しい表情を浮かべ黙りこくる。



筑波 柊つくばひいらぎ (東郷 椎菜とうごうしいな役兼任)

「そうかいそうかい

くだらない話はもういいかな

そろそろ帰ってくれたまえよ

私は多忙なんだ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ、そうするよ」



筑波 柊つくばひいらぎ (東郷 椎菜とうごうしいな役兼任)

「そうそう、喫煙や飲酒はさっさと辞めることだね」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「心配してるつもりか?」



筑波 柊つくばひいらぎ (東郷 椎菜とうごうしいな役兼任)

「いや、臭いから辞めてほしいだけさ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「さっさと地獄に落ちろクソ眼鏡」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

榊原さかきばらが去った後、パソコンの前に座った筑波つくばはキーボードを高速で打ち込み始めた。



筑波 柊つくばひいらぎ (東郷 椎菜とうごうしいな役兼任)

「さっきの結果とシュミレーションしてみるか

……今の怪我の状況だと

アレとの照合率は…へぇ60%か

やっぱりすごいね

連続使用のリスクは…どうだろね~」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

少しして結果が表示される。

それを嬉々として見ながら再び何かを打ち込み始める。



筑波 柊つくばひいらぎ (東郷 椎菜とうごうしいな役兼任)

「使用時間は6分が限界

連続使用は不可能かぁ…残念

それと運用した際は身体へのダメージは重大か

ふむふむ…8回以上の装着は命の危険性が大と…試しづらいなぁ

せめて10回は耐えてくれるといいんだけどね~」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

飴をガリッと嚙み砕くとニヤリと笑う。



筑波 柊つくばひいらぎ (東郷 椎菜とうごうしいな役兼任)

「そろそろスペアも欲しくなるね」




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N→街田 茂まちだしげる

本来一か月の出勤停止命令であったが、二週間ほどで突然出勤せよとの連絡が届いたのだ。

榊原さかきばら隊のメンバーは榊原さかきばらを除き全員が事務室へと集まっていた。



勝田 信二かつたしんじ

「今榊原さかきばらさんが呼ばれてるみたいですけど急にどうしたんでしょうか?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「それが私たちもわからないの

普通は謹慎命令が出たらその期間は解除されることはなかったんだけど

今回のはかなり稀なケースよ」



須加 正樹すがまさき

「せっかく貰えた長期休暇だったからな

いい家族サービスになったぜ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「娘さんと沢山遊んであげました?」



須加 正樹すがまさき

「まぁそりゃもう毎日のようにな

…だが起きてりゃ遊んでやらねぇといけねぇからクタクタだよ

下手すりゃ魔怪まかいとやり合うより疲れるぜ」



N→街田 茂まちだしげる

東郷とうごう以外の三人が談笑をしていると扉が開く。

そこには武装を済ませた榊原さかきばらが立っていた。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長、急にそんな装備でどうしたんですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「集まって早々で悪いが出動命令だ

詳しい話は車でする」



勝田 信二かつたしんじ

「いきなり出動ですか!?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「…きな臭いわね」



N→街田 茂まちだしげる

5人が装備を整え、装甲車に乗ると榊原さかきばらは端末を見ながら説明を始める。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「これはなんだ

どっから説明すりゃいいんだ

まぁ、あれだ

仲間と合流しなけりゃならないみてぇだ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「ちょっと掻い摘みすぎじゃないですか!?

私が説明するんで見せてください!」



N→街田 茂まちだしげる

橘花たちばなが端末を強引に奪うとさっと目を通す。

その表情が突然曇ったかと思うと顔をしかめる。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「え、これって…」



須加 正樹すがまさき

「どうしたんだ?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

魔怪まかい出現の報せを受けて出動した3部隊が山林にて包囲網を形成

そのまま縮めていったが目標を見失った…との報告

それから付近を散策していた2部隊が

山頂からの偵察班と捜索班に分かれて捜索を行った

しかし、捜索を行っていた隊からの事前に決めていた合流地点に待機していましたが

現時刻まで一切の連絡や消息は不明

目標の姿やクラスは…不明?

十分な注意を払いつつ目標の情報を洗い出せとのことです」



須加 正樹すがまさき

「はぁっ??どういうこった?

目標を姿かたちも捉えてないってのか?

偵察班は何してんだ?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「定時連絡はしていたとの事ですが突如消失…

高所から確認していたそうですが気配すらなかったようです」



須加 正樹すがまさき

「そんな不自然な状況だったから謹慎を解いてまで俺らを呼んだのか

…ほんとにふざけてやがんな」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「使いっぱしられるのは慣れてるが

いくらなんでも露骨すぎるな」



勝田 信二かつたしんじ

「なぜそこまで情報が得れないんでしょうか…?

敵は小型の生物だから…とか」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そんなわけがねぇ

小型の魔怪まかいだとしたら所詮クラスはDかそれ以下だ

いくらなんでも2部隊もいたら負けはしないはずだ…」



須加 正樹すがまさき

「でかいなら流石に偵察が視えねぇわけがない

まさかだが…」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「かもしれねぇな」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「何か心当たりがあるんですか?」



N→街田 茂まちだしげる

榊原さかきばらはいつにも増して緊張した面持ちを見せる。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「特異体が出たかもしれない」



勝田 信二かつたしんじ

「特異体…?それはなんですか?」



須加 正樹すがまさき

「ホントに稀にしか見ない個体があってな

同じ種類の魔怪まかいでもそいつだけは特異な性質を持ち合わせている場合があるんだ

以前現れた例で言うと常に身体中が発火していてな

簡単な銃弾だとその熱気で威力を相殺されちまったらしい

そいつは蛍火ほたるびと呼ばれていてな

こんな感じで特異体は異名を付けられて呼ばれることもある」



勝田 信二かつたしんじ

「そうなんですね…」



東郷 椎菜とうごうしいな

「その蛍火ほたるびとやらはどうやって倒したの?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そいつ自身の強さはB-Classといったところだった

だがその火がすごい厄介でな

熱気をある程度自在に操ることができたんだ

それが原因で近くにある爆弾や自動車が爆発した」



須加 正樹すがまさき

「消防隊の協力を得て水でまずは鎮火させることにしたんだ

そして火がなくなったら一斉射撃

だが奴もかなりしぶとくてな

暴れるように突撃で周りの仲間たちを押しつぶしていきやがった

俺と前に所属してたとこの隊長もいたんだがそこで殉職した

なんとか俺らの弾も尽きる頃には死んでやがったが、ほとんど持ってかれちまった

俺らが生きてたのは運がよかっただけだ」



勝田 信二かつたしんじ

「そんな強い魔怪まかいがいたんですね…」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そん時は街田まちださんも引退してたからな

その場にいたらまた状況は変わってただろうな」



橘花 真由美たちばなまゆみ

街田まちださんってそんなに強かったんですね」



須加 正樹すがまさき

「あれ?橘花たちばなが入った時って既にあの人いたっけか?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「いえ、実は謹慎中に一度だけお話できる機会があったんですよ」



須加 正樹すがまさき

「へー、あのおっさん今なにしてんだ?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「俺も詳しくは知らないんだ

どうせどこに行ても好き勝手やってるよ」



須加 正樹すがまさき

「かなり適当だったからな、あの人」



勝田 信二かつたしんじ

「その…街田まちださんってどんな人なんですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ~……結構語ることが多い人だからな

また聞かせてやるよ

とりあえずそろそろ目的地だ」



N→街田 茂まちだしげる

目的地に到着したようで装甲車から一同は降りる。

他にも新たに1部隊が到着していたようで

2部隊での合同任務となるようだ。

現場はかなり山奥になっており、連絡を取ろうにも電波は通らない。

その為、いつ交戦してもいいように装備を整えたうえで作戦が開始された。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「さて、俺たちはいなくなった部隊の捜索からだ

最後の位置情報はわかってるからその付近を探してみよう

もしかしたらどこかに逃げ延びている可能性もあるからな」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「無事だといいんですが…」



須加 正樹すがまさき

「あまり期待をしすぎない方がいい

もし特異体が相手になったとなれば生き残れる確率は限りなく低い」



N→街田 茂まちだしげる

他の部隊からその後の合流方法を言い渡される。

そのまま他の部隊はそれぞれの方向へと散開した。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「さて、気を付けて進め

幸い森の中で風もない

葉や枝が音を鳴らしてくれるだろう

注意しておけ」



勝田 信二かつたしんじ

「はい!」



須加 正樹すがまさき

「もし敵対したらどうすんだ?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「いくらなんでも1部隊で戦うのは無理だろう

煙幕や閃光で時間を稼ぎつつ他部隊との合流を優先するぞ」



N→街田 茂まちだしげる

5人は隊列を組みつつ、ゆっくりと森の中を進んでいく。

動物の鳴き声は一切せず、そよ風が葉を揺らす音のみが辺りに響いている。

目的地に近づいてきているが魔怪まかいの気配はない。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「もうそろそろ目的地だ…

魔怪まかいは多分いないはずだが警戒はしておけ」



N→街田 茂まちだしげる

一同は目的地に到着した。

辺りには武器が散らばっている。

しかしそこには隊員の姿はなく、辺りに戦った痕跡はなかった。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「どうなっているんだ?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「これはまちがいなく防衛隊の装備です

弾も入ってない…全て撃ち切っているみたいです

でもどうして誰もいないんでしょうか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「まずは位置情報を遡ってみよう

他にも痕跡があるかもしれない」



N→街田 茂まちだしげる

辿っていたルートを戻るように歩いていくとその途中で戦闘の跡を発見した。

そこは近くの枝や木が折れており、熊よりもでかい何かの力で押し潰されたことが想像できる。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「ここで戦っていた……?」



須加 正樹すがまさき

「待ってくれ、さっきのところまで5分は離れてる

ここでやられたんだったらなんであんなところに銃が落ちてんだ?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「俺にもわからん……だが不可解だな」



勝田 信二かつたしんじ

「やはり生存者はいないんでしょうか…?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「いや、なんとも言えないな

もしかしたら何とか逃げ延びて一度武器を捨てていった可能性もある

血痕や遺体がないのは誰も死んでいないからかもしれない」



N→街田 茂まちだしげる

捜索を3時間続けたが行方を突き止めることは出来なかった。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そろそろ暗くなるな

この後どうするかだが、さっき行く前に聞いておいた」



須加 正樹すがまさき

「どうしろって言ってたんだ?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「一度、装甲車に戻るぞ

そこでまた説明する」



N→街田 茂まちだしげる

装甲車へと戻るころには日が暮れそうになっていた。

車内に入った5人に榊原さかきばらは指示されたことを話す。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「ここに待機ですか!?

このままだと夜になります

いくらなんでも夜に戦闘になったら危険ですよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「だが、待機命令は取り下げられない

二日も動員して何もできなかったじゃ上は納得しないそうだ」



須加 正樹すがまさき

「命令されたなら仕方ない

それでここに待機って言ったってどうすんだ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「今日はここで野営しよう

ある程度はこの車に積んであるはずだ」



N→街田 茂まちだしげる

車の積み荷を確認する。

そこには5人で2日分は持つであろう備蓄食料や

5人が入れそうなテント類

他には懐中電灯やセンサーライトなどが揃っていた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「おいおい…これ食うのか」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「これは筑波つくば製の人工干し肉ですね

何か問題なんですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ…それは長期保管できる用のものだから

味がすこぶる悪い

正直腐った肉を食うものだと思っておけ」



須加 正樹すがまさき

「こんな事だったら弁当でも買ってくるんだったな」



勝田 信二かつたしんじ

筑波つくばさんってあの人ですよね」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ、そうだ…あのクソ野郎め

仕方ない、食わないわけにもいかないだろ

腹くくるしかねぇな」



N→街田 茂まちだしげる

一同はライターを使用して集めた枝木で仮のキャンプを作る。

火を中心に囲うように座った全員は備蓄食料の封を開けた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「もう一度言うぞ

腐った肉を食うようなもんだからな」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「わかりました」



須加 正樹すがまさき

「せめて酒でもありゃなぁ…」



勝田 信二かつたしんじ

「いただきます」



N→街田 茂まちだしげる

4人は一斉にかぶりついた。



勝田 信二かつたしんじ

「うっ!!!?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「ちょ…ゲホっ!!なにこれ不味い」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「雑草よりマシだと思え」



須加 正樹すがまさき

「ぐっ!!……うえぇっ…」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「おえっ…ほんと不味すぎじゃねぇかこれ」



勝田 信二かつたしんじ

「なんでこんな味なんですか…!?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「安価かつ量産可能だかららしいが

せめてもう少し味は気にしろよなあいつ…」



N→街田 茂まちだしげる

4人が吐きそうになって食べる中

東郷とうごうだけは静かにそれを食べていた。

不味いものを食べていると感じないほどに無表情で口に入れている。



勝田 信二かつたしんじ

「これ…よく食べれますね」



東郷 椎菜とうごうしいな

「別に…普通よ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あ~~不味ぃ!!口直しかなんかねぇのか!」



須加 正樹すがまさき

「タバコならあるぞ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「お、ほんとか!助かる」



N→街田 茂まちだしげる

食べ終わり、ゴミを片付けながらこの後の予定を話し合った。

翌日、日が昇る頃に再度合流予定との事らしい。

それまでの間は交代で見張りをしながら待機することになる。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「それじゃ俺は少し近くを見回ってみるか

そうだな…東郷とうごう着いてきてくれるか?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「いいわよ、どうせすることもないしね」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「よし、それじゃここは任せたぞ

お前らも一応警戒はしておけよ

……さて、行くぞ東郷とうごう



N→街田 茂まちだしげる

二人はライトを持ちながら森の中へと入っていった。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「じゃあ私は少し休憩するね

あとは勝田かつた君、お願いね」



勝田 信二かつたしんじ

「はい!」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

須加すがは焚火を眺めながらため息をつく。



須加 正樹すがまさき

「休暇明けでいきなり徹夜とは身体がおかしくなっちまうな」



勝田 信二かつたしんじ

「そうですね…

須加すがさんは休暇中は何を?」



須加 正樹すがまさき

「俺はずっと家族との時間にしてたよ

こんな仕事をしてたら突然出動ってこともあるし

もしかしたらがあり得るからな

空いてる時間ぐらいは家族と過ごしてぇんだよ」



勝田 信二かつたしんじ

「そうなんですね

家族思いでかっこいいです」



須加 正樹すがまさき

「おいおい!照れるだろうが~

…そうだな、家族ってのはいいもんだぞ

お前も気になってるやつとかいねぇのか?」



勝田 信二かつたしんじ

「いえ…俺はずっと訓練ばかりだったので考えてる暇もありませんでした」



須加 正樹すがまさき

「そうかそうか、今いくつだっけか?」



勝田 信二かつたしんじ

「24です」



須加 正樹すがまさき

「まだまだいくらでもそういう機会が来んだろ

守るものがあるってのは心強いぜ」



勝田 信二かつたしんじ

「守るもの…」



須加 正樹すがまさき

義弘よしひろだってそうだ

本気で俺らを守ろうとしてんだぜ」



勝田 信二かつたしんじ

「はい、それはわかってるんです

でも俺は不器用なので…色々な事に悩んでしまうんです

一つずつ向き合う

そうした方がいいと東郷とうごうさんに言われたんです」



須加 正樹すがまさき

「俺はそうは思わねぇけどな

沢山の壁に突き当たった時に

一つずつこなしていくのは要領の良い奴じゃねぇとそう出来るもんじゃないぜ

色んな壁にぶち当たって、迷ってもいいんじゃねぇか?

自分らしくあれ

それが何よりも大事だと思うぜ」



勝田 信二かつたしんじ

「自分らしく……」



須加 正樹すがまさき

「偉そうに言ったが、これは恩師の受け売りだ」



勝田 信二かつたしんじ

「そんなことありませんよ!

勉強になります…

そういえば須加すがさんはいつから榊原さかきばらさんの隊に入ったんですか?」



須加 正樹すがまさき

「…そいや教えてなかったっけか?

榊原さかきばらが任務中に魔怪まかいの襲撃を受けて部下が三人も殉職しちまったらしくてな

その後の隊の人数編成で割り当てられたって感じだ

元々顔見知りだったのもあって俺が異動を志願したってとこだ」



勝田 信二かつたしんじ

「そうだったんですね」



須加 正樹すがまさき

「あいつは俺らを守ろうとしてる

それが伝わるから俺も信じる

なんかんだすげぇ奴だからな」



勝田 信二かつたしんじ

「はい、それはわかっています」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「たまに馬鹿ですけどね」



須加 正樹すがまさき

「ははは!ちげぇねぇな!」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

テントから顔を出した橘花たちばな須加すがは大笑いする。



勝田 信二かつたしんじ

「ふっ…はは」



N→東郷 椎菜とうごうしいな

それに釣られて緊張の糸が切れたのか勝田かつたも笑う。



須加 正樹すがまさき

「ははは…さて、二人とも少し休憩しておけ

どうせ定期的に起きないといけないんだ

休めるうちに休んでおけよ」



勝田 信二かつたしんじ

「はい!それじゃ俺も少し休憩に入ります」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

そして付近を歩いていた榊原さかきばら東郷とうごうは雑談をしつつ歩いていた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「さっきの飯くそ不味かったろ?

もっと豪華な弁当でも用意しておけって思うよな」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そうね」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「空気は美味いし、景色もいい

魔怪まかいさえいなけりゃキャンプするには良いとこなんだがな」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そうね」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「つれないな、話すのは苦手か?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「別に、話がつまらないだけよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「お、おう…結構言うな」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

足を少し止めると榊原さかきばらは真剣な面持ちになる。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「聞いてもいいか?

お前どうして防衛隊に入ったんだ?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「…」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

少しの間黙っていた東郷とうごうだが鼻で笑うと口を開く。



東郷 椎菜とうごうしいな

「民間人を守りたいって理由じゃ納得できないかしら?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「嘘が下手だな

お前にそんな大層な考えがあるとは思えない

話したくないならいいが、よけりゃ教えてくれないか?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そうよ。民間人を守るためでも、世界平和なんてのにも興味がないわ

一言で言えば私怨ってところ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「私怨か……それはお前の家族に関係があるのか?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「……」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「俺も細かくは聞かねぇ

誰にだって言いたくねぇ事の1つや2つあるだろうからな

だがこれだけは覚えておいてくれ」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

真っすぐ東郷とうごうを見据えるとふっと微笑む。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「なんかあった時は俺らを頼れよ

俺らはお前の仲間だ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「……えぇ、覚えておくわ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「それならいいんだ!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

榊原さかきばら東郷とうごうの頭を掴み髪をくしゃくしゃとする。

嫌そうな目をする東郷とうごうだが構わず続けた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「ねぇ…そろそろ辞めてくれない?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「悪い悪い、部下ってのは可愛く思えちまうんだよ

勝田かつたやお前はまだ若いからな」



東郷 椎菜とうごうしいな

「部下…ね

そういえば前に他の部下がいたって聞いたのだけども

その人達にもお節介を焼いてたわけ?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「お前らよりも年上だったからな

今の須加すがと同じような感じだったよ」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

榊原さかきばらは突然手帳を取り出し、中に挟んでる写真を見せた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

須加すがが入る前の3人の写真だ

こうしてずっと写真を残しててな

あいつらを守れなかった事、絶対に忘れちゃならねぇと思ってな」



東郷 椎菜とうごうしいな

「へぇ…これはいつの写真なの?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「確か一度記者かなんかの独占取材のときに何部隊かで取った集合写真だ

俺や須加すがもいるだろ?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「……え」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

その中の一人に見覚えがあった。

突然東郷とうごうの形相が険しくなる。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「どうした…?なにかあったか?」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

しかし急に普段と同じ無表情に戻った東郷とうごうは顔を反らす。



東郷 椎菜とうごうしいな

「別になんでもないわ

気にしないで」



N→勝田 信二かつたしんじ

刻々と時間は進み続ける

その中で俺は新たな光を掴みつつあった

この力は俺を強くしてくれるだろうか

強くなれば今度こそ守れるのだろうか

覚悟を握りしめ、銃弾に気持ちを乗せる

俺は長い闘いへと身を投じていく

どれだけ傷つこうとも逃げることはしない

ただひたすらに




神ガ形ノ意志ニ背イテ 参話   完

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多分そうじゃないとこの台本は演じれないです



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