神ガ形ノ意志ニ背イテ 弐話

登場人物名

榊原 義弘さかきばらよしひろ

32歳

大雑把な性格だが、部下を率いる防衛隊の一部隊の隊長。

説明下手でよく橘花たちばなに訂正される

勝田かつたを気に入り、傍に置いて色々指導している。

任務中ではかなり頭が回り、戦場をかけている。

筑波つくばとはかなり長い付き合いらしい

※ガラの悪い男性兼任




勝田 信二かつたしんじ

24歳

熱い正義感と無鉄砲な若さを持つ新人隊員

士官学校卒の元警官であったが、魔怪まかいの襲撃の際に同僚たちの不甲斐なさに失望し、単身挑むも死にかけそこを榊原さかきばらに助けられる

任務より目先の命を優先することが多く、危険な目に合うことが多い

※黒いローブの男兼任




中井 亮なかいりょう

29歳

渋谷のバーでバーテンダーをしている男性

視力がほとんど無いらしく、人の顔や字が確認できない

※長髪のバーテンダー(同一人物です)

古里 亮二こざとりょうじ兼任




古里 亮二こざとりょうじ

28歳

VHAぶいえいちえーに所属しており、そこで班長を務めている。

武器はククリを使用しており、かなりの腕前。

中井 亮なかいりょう役が兼任です




橘花 真由美たちばなまゆみ

27歳

榊原さかきばらの説明を理解し、作戦伝達を務める事の多い女性隊員

榊原さかきばらとは長く同じ隊で行動しており、一番彼の考えや特性を理解している

戦闘では弾幕を張ったり、他隊員の立て直しの時間稼ぎや牽制けんせいを行う




筑波 柊つくばひいらぎ

年齢不詳

マッドサイエンティスト気質な女性

魔怪まかいの研究に人生を捧げており、クローンとなり長年研究を続けている

未だ研究結果を世界に公表することなく、自身のみで使っている

現在はなにか新たな兵器を製造することにご執心の様子

東郷とうごう役が兼任です




東郷 椎菜とうごうしいな

19歳

学園を卒業し、何かの目的を以て部隊に所属した。

自分の実力を疑わず、隊員と特に須加すが勝田かつたとは反りが合わない事が多く、独断で行動することが多い。

かなりの実力者で、榊原さかきばら管轄の部隊で個人戦力は群を抜いて高い。






Nは→後のキャラ演者が読む

※所々交代があるので注意してください。かなり大変です。






VHAぶいえいちえー

突如世界に現れた「魔怪まかい」と呼ばれる怪物を駆除するために設立された軍

Variant Hunt Army通称VHAぶいえいちえーと呼ばれる軍は

自衛隊や警察組織と違い、独立した権力を持つ

一般人や学園卒業者の中で実力保有者が入隊することができる

VHAぶいえいちえー兵を総称して兵員と呼ばれている



魔怪まかいについて

2000年に突如現れた異形の生命体。

理由や目的は不明だが人類を脅かす存在。

現れた当初は世界でも数十体しか確認されなかったが、年々数を増やしている。

出現方法も繁殖方法などは不明となっている。

魔怪まかいの姿形は現存した生物に類似している為

生物が魔怪まかいに変異した説や妖怪や幽霊といった類である説だったり

一部では神の使い等と吹聴ふいちょうしている宗教まで現れている。



CARDIEDカディドとは

その素性、人員、目的一切が不明のテロ集団

突如姿を現れては殺戮を行う事から市民から恐れられている






役表

榊原 義弘さかきばらよしひろ♂:

勝田 信二かつたしんじ&黒いローブの男♂:

中井 亮なかいりょう古里 亮二こざとりょうじ♂:

橘花 真由美たちばなまゆみ ♀:

筑波 柊つくばひいらぎ東郷 椎菜とうごうしいな♀:











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血桜ハ還リ咲ク 別章 弐話

神ガ形ノ意志ニ背イテ






勝田 信二かつたしんじ(モノローグ)

強い者は弱い者を守る

それは力を得た者の責任だ

そんな風に語るヒーロー作品は多い

自らが背負えるものがどれだけのものかわからないが

それでも俺は目の前の灯を守り続ける為に戦う

どれだけの苦しみを味わおうが抱えてみせる

たとえ‥‥この身が朽ちようとも



N→筑波 柊つくばひいらぎ

昨日、B地区にさい魔怪まかいが出現した事件における被害は甚大じんだいであった。

一般人の数十名が死亡し、そのニュースが日本中に放送され

世間からは防衛隊に非難の声があがっており

ネットなどで書かれた心無い言葉が命を張って戦った隊員たちにも届いてきていた。

そんな世間からの評価に橘花たちばなは憤りを感じていた。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「あんまりじゃないですか?

私たちは命をかけて最善を尽くしました!

非難だけでなく一カ月間の出勤停止だなんて

上層部もどうかしてます…」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「どういったって仕方ないだろ

世間が俺らに求めているのは犠牲のない完璧な対応だ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そんなの…私たちだってそれを望んで戦っています!」



勝田 信二かつたしんじ

「俺のせいです‥‥俺が先走らなければ…!

あの人たちを救う事だって出来たはずです」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

勝田かつたはギュッと手で持っていたグラスを握る。

それに気づいた橘花たちばなはハッと、勝田かつたの顔を覗き込んだ。



橘花 真由美たちばなまゆみ

勝田かつたくん、そんな事はないわ

あの状況じゃ私たちでも何も出来なかった」



勝田 信二かつたしんじ

「それでも俺は目の前にいて…守れなかったんです!!」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そうかもしれないけど‥‥でも…」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「お前ら熱くなり過ぎた。静かにしろ

他の客に迷惑だ」



勝田 信二かつたしんじ

「っ!!……すみません」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

翌日の朝、任務に関わった隊員は出勤停止命令を受けた。

榊原さかきばら一同は集合し、居酒屋にて酒を飲んでいた。

東郷とうごうは参加を拒んだため他の4人が参加し

数時間飲みながら話をした後、須加すがは家族が居るため帰宅し

他三人は榊原さかきばらの提案で静かめなバーへと入る事にした。

その店の客席は自由席と個室の二つがあり、一同は個室へと入る。

個室ごとに防音が完備されており、会話を楽しみながらワインを飲むことのできる雰囲気の良いバーで、店員を呼ぶことで注文ができる制度のようだ。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

勝田かつた。前も言ったがお前は間違っていない

気に病むなとは言わないがあまり引きずりすぎるな

それはお前の引き金を重くするぞ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そうよ勝田かつたくん。貴方はよくやったわ」



勝田 信二かつたしんじ

「っ……はい」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

バーテンダーがノックをしてから部屋へと入ってくる。

榊原さかきばらの注文でワインを注ぎに来たようでグラスにゆっくりと注いでいった。



長髪のバーテンダー (中井 亮なかいりょう兼任)

「失礼します。こちらをお下げ致します」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「あっ、ありがとうございます」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

金色の長髪の店員は頭を下げるとテーブルの端に置かれた皿を手に取った。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「俺らはそれでも市民を守るために戦うしかない

例えどれだけ非難され白い目で見られようが、それが俺らの仕事だ」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

勝田かつたは俯き、拳を握りしめる。

無力さや不甲斐なさが織り交ざった後悔の目を榊原さかきばらはかつての自分に重ねて感じていた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「…今のお前を見てると昔の俺を思い出すよ」



勝田 信二かつたしんじ

「どういうことですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「……また機会がある時に教えてやる」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長‥‥あのはえ型の魔怪まかい、やはり奇妙だと思いませんか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「今は任務中じゃないんだ、名前で呼んでくれ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そうですね。榊原さかきばらさん

今回の発見が遅れたはえ型の二体…

須加すがさんや索敵が逃したとも思えません

意図的なものという可能性はないですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「前にも話してたな‥‥

その説は根拠も無ければ、到底仮説の域を出るものではない

例えそうだとしてもそれをする目的がなんだというんだ

そもそもあんな化け物を操れるとでもいうのか?」



勝田 信二かつたしんじ

「どういう事ですか?

その話、詳しく聞かせてください」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「前に榊原さかきばらさんにだけ話したんだけど

今までの任務で何度かあったの

完全に索敵の目を逃れて現れた魔怪まかいがね

その出現には奇妙な事があって毎回一切の目撃情報がないの

普通だったら誰かしらの目や確認が取れてもおかしくないのに

見逃すことがあるなんて」



勝田 信二かつたしんじ

「まさか…そんなことが!?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「根拠のない話しだ

下水道や川を渡って来た可能性だってある

それにあんな化け物を使役できるなんてあってたまるか」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そうでしょうか‥‥まだ魔怪まかいの生態は立証できていません

私達の知らない事があってもなんの不思議もありません」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「だがあいつらは目の前の生物を人だろうが、家畜だろうが皆殺しにする

奴らにとって抵抗する人類は害敵そのもの

そんなのが目前に居て無事なやつが果たして居るだろうか?

猛獣のように調教が可能かの実験は数年前に行われた

結果はお前らの知っている通り失敗に終わった」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「‥‥そうでしょうか

私にはその可能性が頭から離れません

あの時も魔怪まかいが現れた報告がありませんでした

もしかして関連が…」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「たとえそうだとしても俺らがすることは変わらない

人類を守り、奴らを狩る。それだけだ」



勝田 信二かつたしんじ

「‥‥」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

勝田かつた橘花たちばな

今日はそろそろ帰るとしよう

俺も酔いが回ってきた。これ以上は身体に悪い」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「はい…わかりました」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

榊原さかきばらが会計をしている間、勝田かつたはこの店の会員カード付きのチラシを手に取った。

三人が店を後にする時に先ほどのバーテンダーが頭を下げる。



長髪のバーテンダー (中井 亮なかいりょう兼任)

「またのご来店お待ちしております」




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N→中井 亮なかいりょう

それから二週間後

任務中に受けた腕の怪我も治り、腕のギプスを外した勝田かつたは新宿の人通りの少ない路地にある銃火器を製造、販売している店へと入っていく。

そこでは軍人や銃の使用が認可されたVHAぶいえいちえー兵員用に射撃訓練施設が無料貸し出しされている場所であった。

店員にライセンスを見せ、射撃訓練施設へと入場する。

自分の列番号を確認しながら、台に近づくと、その隣には知った顔の人物がマガジンに弾を込めていた。

その人物 東郷とうごうはこちらに気がついたようで腕を止め、顔を上げる。



東郷 椎菜とうごうしいな

「あら?偶然ね」



勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごうさん?どうしてここに?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「私がここに居て駄目な理由でもあるの?

ひどいわね、女軍人には休日の過ごし方にも制限があるっていうのね」



勝田 信二かつたしんじ

「いえ、そういうわけでは…」



東郷 椎菜とうごうしいな

「からかっただけよ。

貴方、随分と真っすぐなのね

こんな軽い冗談なんて真に受けないでもらえる?」



勝田 信二かつたしんじ

「す、すみません…」



東郷 椎菜とうごうしいな

「さっさと撃ってみたら?

そういえば銃の腕前をこの前初めて見たけど

あの時の銃さばき、そんなに悪くなかったわね」



勝田 信二かつたしんじ

「ただ、訓練で習った事が身に沁みついているだけです」



N→中井 亮なかいりょう

勝田かつたは貸し出し用の重めな拳銃に使うマガジンに実弾を込めていく。

普段使用しているマグナムは軽くて長い銃身で拳銃とは質感が違っていた。

6発の弾丸を的に向けて放つがどれも的に命中することなく、明後日の方へと飛んでしまう。



勝田 信二かつたしんじ

「くそ…当たらない!

なぜだ!?…いつもならあんな距離ぐらい当たるのに!」



東郷 椎菜とうごうしいな

「‥‥貴方、あの時はそんなに下手な腕前だったかしら

重心もブレてるし、大して狙ってないような目線

生まれたての小鹿の真似でもしているの?

それとも、あの民間人達の事で心が折れた?」



勝田 信二かつたしんじ

「そんなことは!!

‥‥いえ、そうかもしれません

まだ…あの人達の顔が頭から離れない

救えなかった命が俺を睨みつけているようで‥‥」



東郷 椎菜とうごうしいな

「これ以上戦うのが怖い?」



N→中井 亮なかいりょう

勝田かつたは自身の手を見る。

その手は震えており、何かに怯えているようだった。



勝田 信二かつたしんじ

「怖くないと言ったら嘘になります‥‥

また、俺のせいで犠牲が出るんじゃないか

もしかしたら俺のミスで榊原さかきばらさんや他の皆が危なくなるかもしれない!

そう考えたら‥‥恐ろしいです」



東郷 椎菜とうごうしいな

「なるほどね‥‥

なんとなくわかったわ

とりあえず私に言えることはさっさと忘れなさいって事だけよ」



勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごうさんはなんとも思わないんですか!

あんな風に人が死んでいいわけがない!」



東郷 椎菜とうごうしいな

「悪い意味に捉えないで欲しいのだけれど

私はなにも思わなかったわ

あの時はできる事なんて何もなかったし

救えない命だってある事は百も承知よ

誰彼構わず助けたいって理想を並べるのはいいけど

現実は救いようがないものばかりよ

そんな綺麗事を吐いたところで意味なんてないわ」



勝田 信二かつたしんじ

「‥‥‥‥っ!」



東郷 椎菜とうごうしいな

「弱い人にとって希望や理想は一筋の光明なのかもしれないけど

そんな小さな明かりじゃ闇を祓うなんて出来ない

所詮、ちっぽけな光は大きな闇の前では無力なのよ

あの時、私はそれに気づいたの

両親が死んだあの日‥‥絶望と現実を知ったから」



勝田 信二かつたしんじ

「…なにがあったんですか?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「‥‥私にだって目的があるのよ

それだけを考えて生きてきた

どれだけの人が死のうが心に響かない

私にはあの日からそれしか頭にないの

あいつを殺すことだけが―――」



N→中井 亮なかいりょう

東郷とうごうはハッと気がついたように口を閉じた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「つい感情的になってしまったわ‥‥ごめんなさいね

私はもう行くから、また本部で会いましょう」



N→中井 亮なかいりょう

東郷とうごうは荷物を持って立ち去ろうとする。



勝田 信二かつたしんじ

東郷とうごうさん!!俺は‥‥どうしたらいいのでしょうか」



東郷 椎菜とうごうしいな

「‥‥好きにしたら…と言いたいけど

強いて言うならその手に持つ銃の引き金を引く理由を作っておくことね

それは貴方を守るためにあるんだから大事な時に引けないんじゃアクセサリーにしかならないわ

それとそのへっぴり腰を直すくらいの覚悟と信念くらいは持っておきなさい

見てて滑稽だけれど目の前で死なれちゃ気分が悪いから

それじゃあね」



N→中井 亮なかいりょう

東郷とうごうはそのまま去っていく。

礼を言うように深く頭を下げて見送ったあと

勝田かつたは銃を手に持ち、的へと向けて照準を合わせた。

引き金に指をかけ、まとを見据える。



勝田 信二かつたしんじ

「戦う‥‥理由‥‥!」



N→中井 亮なかいりょう

しかし指に力が入らず、ゆっくりと銃を下ろして

手の震えを抑えながらしゃがみ込んだ。



勝田 信二かつたしんじ

「俺は‥‥どうしたら!」






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N→橘花 真由美たちばなまゆみ

少し時は戻り榊原さかきばらがバーから帰宅した翌日。

榊原さかきばらは黒いスーツケースを手に持ちながら

新宿の小さな無人マンションへと向かい、入り口の奥にあるエレベーターへと乗る。

一階から四階まであるエレベーターのボタンを一度に4つ同時に押すと本来ないはずの地下へと降り始めた。

扉が開くと目のまえに薬液やくえきの混じった臭いが漂う廊下が広がっていた。

榊原さかきばらが降りると、自動でエレベーターの扉が閉まり地上へ上がっていく。

奥に進んでいくと目の前にある廊下の突き当りには右と左に進めるT字の廊下になっており、エレベーターから降りて真っすぐの場所に小さな扉がある。

ドアノブに手をかけ開くとそこには壁が広がっていた。

正確には大きな棚が反対向きで置いてあるため塞がっており、中に入る事ができないようだ。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「入れねぇじゃねぇか……チッ

これはどうしたらいいんだ」



筑波 柊つくばひいらぎ

「やぁ、榊原さかきばらくん。

申し訳ないけどちょっと前に片づけた時に入れなくなってしまってね

遠回りになるけど他の道から行こうか」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

右の通路からあめを舐めながら白衣を着たボサボサ髪の不健康そうな女性が現れた。

筑波つくばがくるりと振り返り先へ歩いていき、そのまま榊原さかきばらが後に続いていく。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あれは片付いているのか?

入口を塞いだら不便だろ」



筑波 柊つくばひいらぎ

「あぁ、別に外に出ないなら変わらないだろ?

むしろ防犯性が上がってちょうどいいかもしれないね」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「お前……最後はいつ外にでた?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「いつだったかね

確か前に出た時は‥‥君が須加すがって部下が入ったってくだらない話を聞いた日だったかな」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「って事はもう三年も出てないのか

お前も人間なら日を浴びろ」



筑波 柊つくばひいらぎ

「出る理由がないじゃないか

最近は寒いらしいしね

防寒対策でもしなきゃ出れない外なんて不便極まりないね」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

筑波つくばに着いていくまま長い廊下や階段を通り、一つの扉の前に着いた。

扉を開けると中には数台のパソコンが置いてある大きな机と数本の棚があり

部屋中にはまき散らすように書類が無造作に散らばっている。

筑波つくばは机の引き出しから棒つきあめを取り出し口に咥えると椅子に座った。



筑波 柊つくばひいらぎ

「そうだ、昨日現れたっていう子のサンプルは持ってきたのか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ、この中だ」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

スーツケースを差し出すと筑波つくばはそれを嬉々として受け取り、愛おしそうに抱きしめた。



筑波 柊つくばひいらぎ

「早く感動の対面をしたいね

中身は言った通りのものかい?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

さい型の魔怪まかいの体皮とはえ魔怪まかい甲殻こうかくの一部だ

これでいいんだろ」



筑波 柊つくばひいらぎ

「あぁ。頼んだ通り持ってきてくれて満足だよ

それよりいつ帰るんだい?私は早くこれを開けたくて仕方ないよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「この前の検診の結果を取りに来いって言ったのはお前だろ

貰うもん貰ったらもう後は帰れってのか?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「しょうがないなぁ、待ってなよ」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

スーツケースを自席の近くに置き

机の上にあるファイルに入れていた紙を取り榊原さかきばらへと手渡した。



筑波 柊つくばひいらぎ

「そうだね、特に見当たる異常はなし

しっかり健康に気を使ってるのが目に見えてわかるよ

でも、たまには酒もいいが飲みすぎるとすぐ反応が出るからね

気を付けてくれよ?これでも心配してるんだからね

優秀な君が居なくなると困るんだ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「心にもない言葉がよく出てくるものだ」



筑波 柊つくばひいらぎ

「お世辞が上手くなっただろ?それでこれが今回の薬だよ

寝る前にでも飲んでくれたらいい

そうだね…二週間後くらいにまた来てくれよ

私が作業に入ったら検診ができなくなるからね

早めにやっておきたいのさ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「気が向いた時に来るとする

それと、もしかしたら近いうちに新しい奴を連れてくるかもしれないがいいか?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「あぁ構わないよ。ほら、薬だ」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

筑波つくばから薬の入った袋を受け取り、出ていこうとすると足元にある書類の一枚が目に入った。

驚きながら書類を手に取り読むと筑波つくばの机に手をバンと叩きつける。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

筑波つくば!!これはっ!!?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「あぁ。前見せたアレがかなり進んだんだよ

とはいえまだまだ未完成で

色々なテストを兼ねないといけない

また詳しい事がわかったら言うからさ

余計に詮索せずにもうちょっと待ってなよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「もうここまで‥‥

だが流石だな筑波つくば博士

何十年も研究をし続けている科学者だ

お前が人類の為に尽くす正義の心を持っているのならよかったんだが…惜しいな」



筑波 柊つくばひいらぎ

「どんな人でも欠点があるんだよ

そっちの方がちょっとお茶目で可愛げがあるだろう?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「お前の魔怪まかいに対する興味が人類の行末と道を違える事がないように願っているよ」



筑波 柊つくばひいらぎ

「さぁー?それはどうだろうね」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「その時は俺がお前を殺す

あそこの人形も全部だ」



筑波 柊つくばひいらぎ

「それは怖いね

そうならないように気に留めておくよ」




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N→橘花 真由美たちばなまゆみ

そして時は戻り現在、勝田かつたは射撃訓練を終わり裏路地から大通りに出る。

目的もなく歩いているとはずれの路地内から怒号が聞こえてきた。

ゆっくりと勝田かつたは路地を覗き込むとスーツ姿の男性がガラの悪い男性六名に囲まれている。

絡まれていたスーツ姿の男性は先日入った店で働いていた長髪のバーテンダーであった。



ガラの悪い男性 (榊原 義弘さかきばらよしひろ兼任)

「てめぇぶつかっておいてびの一つもねぇのか!アァ!?」



長髪のバーテンダー (中井 亮なかいりょう兼任)

「申し訳ありません。何しろ人が多かったものですから」



ガラの悪い男性 (榊原 義弘さかきばらよしひろ兼任)

「だからぶつかっていいってか?怪我したらどうすんだゴルァ!!」



長髪のバーテンダー (中井 亮なかいりょう兼任)

「こちらの不注意で大変失礼―――」



ガラの悪い男性 (榊原 義弘さかきばらよしひろ兼任)

「謝って許されると思ってんのかオイッ!

誠意を見せろよなおっさんよォ!!」



長髪のバーテンダー (中井 亮なかいりょう兼任)

「誠意を金銭を払うことで見せろと仰っているのでしょうか?

申し訳ありませんがあまり手持ちがなく…」



ガラの悪い男性 (榊原 義弘さかきばらよしひろ兼任)

「うるせぇやつだな!!とっとと財布出せばいいんだよ!

ぶち殺されてぇか!!?」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

ガラの悪い男性がバーテンダーの胸倉をつかんだ瞬間、片手でその手を振り払う。

強く掴んでいたはずが、すっと手を離されてしまったのか驚いた様子でバーテンダーを睨んだ。



勝田 信二かつたしんじ

「あの動きは…!?」



ガラの悪い男性 (榊原 義弘さかきばらよしひろ兼任)

「てめぇ!!ふざけんじゃねぇぞオイ!

そっちが抵抗するってなら仕方ねぇよなぁ!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

ガラの悪い男はナイフをポケットから取り出す。

そしてバーテンダーの顔に向けてナイフで切りつけた。

だが握っていたその手をバーテンダーは掴んで受け止めると、腕を捻りながら強く地面に叩きつける。



長髪のバーテンダー (中井 亮なかいりょう兼任)

「刃物は危険ですよ」



ガラの悪い男性 (榊原 義弘さかきばらよしひろ兼任)

「な、は!!?あれ?いつの間に…!?」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

バーテンダーの手には先ほどまでガラの悪い男が持っていたナイフが握られていた。



ガラの悪い男性 (榊原 義弘さかきばらよしひろ兼任)

「返しやがれ!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

バーテンダーに再び殴りかかるが、ひょいと避けられ空振りしてしまう。

そしてその勢いのまま地面に倒れてしまった。

対してバーテンダーの男は焦る様子もなく刃を畳んだ後、足もとに落とす。



勝田 信二かつたしんじ

「すごい…なんて華麗な身のこなしなんだ!」



ガラの悪い男性 (榊原 義弘さかきばらよしひろ兼任)

「痛ってぇぇな~!!ちくしょおお!!

何見てんだよ!お前らもやれ!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

周りの仲間が一斉にバーテンダーの男に襲い掛かろうとしていた。



長髪のバーテンダー (中井 亮なかいりょう兼任)

「あまり大ごとにはしたくなかったのですが…仕方がありませんね」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

その時、勝田かつたが急いで駆け寄った。



長髪のバーテンダー (中井 亮なかいりょう兼任)

「貴方は…?」



勝田 信二かつたしんじ

「お前ら!防衛隊だ!!

これ以上やり合うってならここで逮捕するぞ!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

勝田かつたが防衛隊ライセンスを見せながらバーテンダーの男の前に立ち塞がると周りの仲間たちがざわめき始めた。



ガラの悪い男性 (榊原 義弘さかきばらよしひろ兼任)

「チッ!!お前ぇらいくぞ!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

倒れていたガラの悪い男性が立ちあがると急ぎ足でその場を去っていき、仲間たちも後に続いていった。

勝田かつたは振り返り、バーテンダーの男に向き直る。

その時、何か違和感を勝田かつたは感じ取った。



勝田 信二かつたしんじ

「あの‥‥失礼かもしれませんが、もしかして‥‥視力が?」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

バーテンダーの男の視線の先が虚ろで、勝田かつたを真っすぐ見ていなかった。



長髪のバーテンダー (中井 亮なかいりょう兼任)

「はい。ほとんど視えていません

それより貴方は確か‥‥この前、初めてお店に来た方ですね」



勝田 信二かつたしんじ

「なっ……どうしてわかったんですか?!」



長髪のバーテンダー (中井 亮なかいりょう兼任)

「視力を失ってバーテンダーをしていると自然とわかるようになりました

先ほどは助けていただきましてありがとうございます」



勝田 信二かつたしんじ

「あ、いえ‥‥ご無事でなにより

私も咄嗟の事ですぐに駆け付けることができませんでした…すいません」



長髪のバーテンダー (中井 亮なかいりょう兼任)

「お気になさらず」



勝田 信二かつたしんじ

「そうだ…さっきの攻撃の往なし方

明らかに素人のものじゃないですが…何か武術を?」



長髪のバーテンダー (中井 亮なかいりょう兼任)

「昔、習う機会がありましたので」



勝田 信二かつたしんじ

「あ、あの‥‥もしよろしければお名前を聞いてもよろしいですか?」



長髪のバーテンダー (中井 亮なかいりょう兼任)

「私の名前を…?」



勝田 信二かつたしんじ

「あぁ…突然すみません!

自分は勝田 信二かつたしんじといいます

この前行った時あのお店の雰囲気が気に入りまして

また今度伺おうと思っていたので

是非お名前を知りたくて…その……」



長髪のバーテンダー (中井 亮なかいりょう兼任)

「私は中井 亮なかいりょうと申します」



勝田 信二かつたしんじ

「ありがとうございます!すみません!突然名前を聞いてしまって」



中井 亮なかいりょう

「構いませんよ

どうやら悪い人ではないみたいですし問題ありません」



勝田 信二かつたしんじ

「そ、そうですか?」



中井 亮なかいりょう

「何となくですがそう感じましたので

それでは私はバーに戻らねばなりませんのでこの辺りで…

改めて、ありがとうございました」



勝田 信二かつたしんじ

「あ…はい。お気をつけて」



中井 亮なかいりょう

「失礼します」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

中井なかいがゆっくり歩いていくのを見送っていると携帯に着信が入る。

画面を見ると着信先は榊原さかきばらからであった。



勝田 信二かつたしんじ

榊原さかきばらさん?どうしました?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「お前、今どこにいる?」



勝田 信二かつたしんじ

「今ですか?えっと新宿に居ます」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「新宿‥‥そうか

ちょうどいいかもしれないな

勝田かつた。今、送った場所に遠回りをして来てくれないか?」



勝田 信二かつたしんじ

「遠回りですか?それはどうして?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「尾行に気をつけろよ。それじゃあまた後でな」



勝田 信二かつたしんじ

榊原さかきばらさん尾行って‥‥あ」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

言い切る前にブツっと通話が切れてしまう。

勝田かつたいぶかし気な表情をするも歩いて目的地へと向かった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

勝田かつたは少しして地図にあった小さなマンションへと着いた。

誰かが住んでいる様子はなく、窓にヒビが入っていたり、ゴミや不法投棄の自転車がそのまま置き去りにされている。



勝田 信二かつたしんじ

「ここ…か?」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

中を覗き込むと奥のエレベーターの前に榊原さかきばらが待っていた。

こちらに気がつくと中に入るよう手で招いた。

扉をゆっくり開けて榊原さかきばらの前に立つと、エレベーターのボタンを押して中に入っていく。

勝田かつたもそれに続くと勢いよく扉が閉まった。



勝田 信二かつたしんじ

「こんなところに呼び出してどうしたんですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

勝田かつた。よく見て覚えておけ」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

榊原さかきばらが一階から四階のボタンを同時に押すとエレベーターは地下へと降り始める。



勝田 信二かつたしんじ

「な、これは…どこに向かっているんですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ここは‥‥とあるマッドサイエンティストの個人研究所だ

今から見るものは刺激的なものが多い

身構えておけ」



勝田 信二かつたしんじ

「ど、どういうことですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

筑波つくばって科学者ぐらいは聞いたことがあるだろ?」



勝田 信二かつたしんじ

「その名前って確か、クローン技術の研究者で

今もなお市民の生活に欠かせない複製肉や、複製魚などの普及を進めた科学者で

小学生の頃の教科書にも載ってるような偉人ですよね」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ、そいつの私設研究所だ」



勝田 信二かつたしんじ

「そうなんですか!?すごいですね!

でも、俺らがここに来た理由ってなにかあるんですか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「まぁいくつか用があるんだが、詳しいことは行きゃわかる」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

扉が開くと目のまえに薬液の混じったような異臭が漂う廊下が広がっていた。



勝田 信二かつたしんじ

「これは、ここまで本格的な地下施設が…あるなんて」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

二人が降りるとエレベーターは自動で扉が閉まり地上へと上がっていった。

廊下の突き当りのT字廊下の先へと向かっていると横からヒョイと女性が顔を出す。



筑波 柊つくばひいらぎ

「マッドサイエンティストなんて酷いじゃないか

私は正義と平和を愛する科学者だというのにね」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「またそんなつまらんギャグを言ったら次こそお前の足を折るからな」



筑波 柊つくばひいらぎ

「酷いな。ただのジョークじゃないか

そもそも正義や平和なんて微塵も興味がないからね

自分でも言ってて反吐が出るかと思ったよ」



勝田 信二かつたしんじ

「この方がその…?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「私は筑波 柊つくばひいらぎだ。

ここの研究所の所長だよ

まぁ、今は私しか居ないんだけどね

それより、いい男じゃないか?榊原さかきばらくん

前に拾った死体と違ってこっちは熱血そうかつ馬鹿っぽそうでまた収集心をくすぐるよ」



勝田 信二かつたしんじ

「この人が筑波つくば博士……?

確か…年齢は既に70を超えてるはず…

…どう見てもそのような歳には見えないのですが?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「おやおや、私について知りたいのかい?

そうだね。後で榊原さかきばらくんが検診をしている間に色々と教えてあげるよ

・・・・あー名前はなんと言ったっけ?」



勝田 信二かつたしんじ

勝田 信二かつたしんじです」



筑波 柊つくばひいらぎ

「ふーん、勝田かつた君ね

これからも色々と協力よろしく頼むよ」



勝田 信二かつたしんじ

「協力…?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そんな事より早く案内しろ

ここは入り組んでるから道を覚えてないんだ」



筑波 柊つくばひいらぎ

「あぁ、あの時から部屋を少し片付けてね

こっちの扉から入れるようにしたんだ」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

目の前の扉を開けると中に筑波つくばは先に入っていく。

榊原さかきばらも入っていくと勝田かつたはそれに続き中に入っていった。

中は大きな机と数台のパソコン、数本の大きな棚があり

棚には乱雑に書類が詰め込まれており、適当さ加減が伺える。



筑波 柊つくばひいらぎ

「頑張って片づけただろ?ほんと最近助手を雇おうか考えていてね

勝田かつたくんといったか?どうだ、雇われてみないか?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「俺の部下を勝手にスカウトするな

とりあえず俺はまたあそこで寝てればいいのか?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「あぁ、大体一時間くらい寝ててくれたら終わるからさ

ゆっくり休みたまえよ」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

榊原さかきばらは上着を脱ぎ、軽装になると筑波つくばと共に部屋から出ていった。

部屋に残された勝田かつたは書類を一枚手に取って読み始める。

なにかのスーツのようなものの採寸データが測られているようだが

書いてある文字の内容が理解できず、そっと元の位置に戻す。

他にも数枚見てみるが、内容が理解できず

棚の中で特に分厚い写真集のようなものが気になり、手に取ってみる。

適当に真ん中辺りを開くとそこには衝撃の写真が並んでいた。



勝田 信二かつたしんじ

「なっ!!?これは…!魔怪まかいッ!!!?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「気になるのかい?」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

勝田かつたが勢いよく振り返るとドア枠に寄りかかるように筑波つくばが棒つき飴を舐めながら見つめていた。



勝田 信二かつたしんじ

「この写真は……ここはなんの施設なんですか!?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「着いてきなよ

色々見ていくといい

楽しい楽しい研究所見学になるよ」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

筑波つくばに着いていき、長い廊下を進んだあと

階段を下り頑丈そうな扉の前に二人は立った。



筑波 柊つくばひいらぎ

「ここが研究材料のサンプル置き場だ

コレクションルームとも呼んでいるよ」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

筑波つくばが扉についている電子パネルに触れると自動で開いていった。



勝田 信二かつたしんじ

「こ、これはッ!!?」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

中は沢山のガラスケースに多種多様な魔怪まかいの部位が何種類も飾られていた。



勝田 信二かつたしんじ

「まさか‥‥魔怪まかいを研究して!!?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「そうだ。奇麗だろう?

頑張って榊原さかきばらくんに集めてもらった私の宝物たちだ」



勝田 信二かつたしんじ

榊原さかきばらさんが‥‥集めた?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「あぁ。任務で倒した魔怪まかいの一部を毎回こっそり持ってきてくれるんだ

今までは自分で行っていたんだが持ってきてくれると助かるよ

まぁ彼はバレたら軍法会議ものだろうね」



勝田 信二かつたしんじ

「なぜ‥‥そんなことを榊原さかきばらさんが?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「さぁ…?知らないけどさ

榊原さかきばらくんは君になんて教えてるかわからないけど

彼は隊長として人類を守るために戦っているはずだよね

確かにそれは間違いじゃないんだが、正確には違う

彼は魔怪まかいを滅ぼす為に戦っているんだよ

その為なら私みたいな力ですら使おうとする

私にとっては研究材料が安定して手に入るし

いい利害関係ってやつだよ」



勝田 信二かつたしんじ

魔怪まかいを滅ぼす‥‥榊原さかきばらさんがどうして?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「復讐じゃないかな?失った仲間たちへの贖罪も含めてね」



勝田 信二かつたしんじ

「復讐と…贖罪?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「そういえばさっき年増扱いしてたね?

結構傷ついたよ、ショックで泣きそうになったぐらいだ」



勝田 信二かつたしんじ

「す、すみません!そんなつもりでは」



筑波 柊つくばひいらぎ

「悪かったね冗談だよ、ほんとはノリツッコミぐらいしてほしいんだけどね

君ジョーク通じないタイプだろ?」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

筑波つくばはそのまま先を進んでいくと奥にもう一つの扉があり

同じように電子パネルに触れてロックを解除すると

自動で扉が開いていった。

扉の奥は先ほどとは違い何か透明なポッドのようなものに人間が入っており

その全てが目の前に居る筑波つくばと同じ見た目をしていた。



勝田 信二かつたしんじ

「これは…!?まさかこれ全部筑波つくばさんですか?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「あぁ、私のクローンたちだ

私の身体に限界が来たらこっちが私の研究を受け継いでくれる

どうだい?私は美人だろ?

遺伝子操作して体形を細く、尚且つ体力もそこそこあるように作ってあるんだ

だから身体年齢は君よりも全然若いんだよ

この身体でも3歳とかじゃなかったかな」



勝田 信二かつたしんじ

「そ、そうなんです…ね

あ、あの…筑波つくばさん

榊原さかきばらさんは今なんの検診をしているんですか?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「知りたい?

まだ待つから教えてあげてもいいよ

ついでにさっき言った過去の事件も教えてあげようか

その二つには関連があるからね」



勝田 信二かつたしんじ

「はい……お願いします」



筑波 柊つくばひいらぎ

「ただ私が教えたってのは内緒で頼むよ

まーた怒られるのは勘弁だからね」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



N→筑波 柊つくばひいらぎ

これは榊原さかきばら勝田かつたが会う事になった半年前の事件から2カ月後。

榊原さかきばらは国の偉い地位にある人物から秘密裏に依頼を受け、橘花たちばなと共に任務への参加をする事となった。

当日まで情報は伏せられ、依頼を受けたメンバーが護送車での移動時に車内で初の対面を果たす。

本来、あまり合同で任務を行う事のないVHAぶいえいちえーと呼ばれる民間私設軍と対面することになり、普段とは違う緊張感が二人に走っていた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「珍しいケースだな」



橘花 真由美たちばなまゆみ

VHAぶいえいちえーと合同なんて初めてです…」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「普段と違って隊列行動を行わず、数人の組ごとに分かれての活動が主になる

最初は戸惑うだろうが、慣れたら楽だぞ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「それは隊長が適当だから楽と感じるんですよ…」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「俺はいつでも真剣なんだが」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

榊原さかきばらはこのように依頼を受ける事が度々あるが

初めてで慣れない橘花たちばなは他の人員を挙動不審の様子で見ていた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

橘花たちばな。ちょっと落ち着け」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「仕方ないと思うよ。こういう特別任務は初めてなんだろ?」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

榊原さかきばら橘花たちばなの正面に座っていた男が微笑む。

その男は服から市販のチョコレートを取り出し、橘花たちばなに手渡した。



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「これでも食べて一回深呼吸したらいいよ

少しでも気が楽になればいいんだが…難しいよな」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

その男は榊原さかきばらへと視線を向ける。



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「貴方はその女性の隊長か?

風格っていうのかな

そういうのを凄く感じるからわかるよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そういうお前も部下への気遣いが慣れてるな

そっちで頭でも張ってるのか?」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「お、わかるんだ

正解、俺は古里 亮二こざとりょうじ

こんなだけどこっちでは班長をやってる

今日かぎりの合同だけどよろしく」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「こちらこそだな、俺は榊原さかきばらだ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

橘花たちばなです。よろしくお願いします…」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「そっちは防衛隊だろ?今回は二人で来てるの?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「いや他の車にあと三人乗っている」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「そうなんだ…

聞いてもいいのかわからないけど、防衛隊ってどうなの?

隊長ってのは大変?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「いや、俺はそうでもないな

他は知らんが、俺は小難しいのは苦手だから適当にやってるぞ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「あまり適当にやらないで欲しいんですが…?」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「ははは!なんか大体わかってきたよ

橘花たちばなさんも大変なんだな」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「本当そうなんです!いつも大変なんですよ」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「もう大丈夫そうだね。よかった」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「あ、はい。ありがとうございます」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

橘花たちばなの顔から緊張の色が薄れるのを見て古里こざとは微笑んだ。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そっちも部下から慕われてそうだな」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「いや、そうでもないよ

こっちにも緊張しいな部下が居るから

気遣いを覚えさせられただけだよ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長も気遣いをできるようになってください」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ぜ、善処はする……つもりだ。すまん」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「そっちの部下はどんな人たち?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そうだな…説明するのは難しいが、頼もしい奴らだ」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「信頼関係あってこその部隊だ

いい隊長じゃないか」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「別に…そこは否定しませんが……」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「それに…また一人部下が増えるかもしれないんだが

そいつがまた面白そうなやつでな

来るのを楽しみにしているんだ」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「へぇ。その言い方は気になるね

どんな人か聞いてもー」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

その瞬間、護送車が停車した。どうやら目的地に着いたようだ。

一同の携帯端末に一件のメッセ―ジが送られてくる

メッセージを開くと今回の任務内容が記載されており、車内で内容確認が行われた。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「今回の依頼が…えっと壁外の無人街にあるとされる

テロ組織CARDIEDカディドのアジトらしきものを発見

CARDIEDカディドの一員を発見次第、無力化を行ってください

殺害許可が出てる…?

もし対象の反撃の際やむなくの殺害は許可だそうです

幹部やリーダー格と思われる人物を発見した場合

可能な限り捕縛をお願いするとの事です

このCARDIEDカディドって?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「近頃ニュースでやってるテロ組織の正式名称だろうな

一般の報道では名前までは公開されてないから知らなくても無理はない」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

半年前から急速に活動を始めたテロリスト集団CARDIEDカディド

目的や正体の一切が不明なその組織はVHAぶいえいちえーや防衛隊の上層部の人間に対して襲撃を行っており

魔怪まかいと同時に人類の害敵として注視されている。



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「あいつらが現れるってのか…

見た事はないが、そこまで大勢の組織とは聞かないな」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「どうだろな。まだ姿を見せてないだけって可能性もある

油断はできない」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

護送車から降りると周りには他に三台の護送車が次々と並んでいく。

他の人員も車から続々と降りてくると仲間たち毎に集合していた。

榊原さかきばら橘花たちばなは部下三名と合流すると、今回の任務のリーダーにより、作戦の開始が宣言され、一同は持ち場へと向かい始める。

現場は八階層ほどの高さのビルが隣接しており、その中の一つがアジトになっているとメッセージには記載されていた。



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「こんな何もなさそうな場所なのか…

人も全然立ち入らなさそうだし

アジトにするにはもってこいだな」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「今回の依頼主はよくここを突き止めたな…

見た限りはただの廃ビル群にしか見えないぞ」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そうですね…依頼主は岩城いわき官房副長官と言ってましたが

ニュースでその名前を見た事があります

テロリストの弾圧を大々的に掲げて、CARDIEDカディドに対して宣戦布告をしている事で有名です

まさかその当人が依頼をするなんて…」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「危ない事をするな…いつ命を狙われてもおかしくない立ち位置だが

それを自ら率先して行うとはな

お偉いさんの中でも根性があるようだ」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「そっちの手筈はどうなってるんだ?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「私たちは今回屋上から潜入して、上の階層から制圧し

一階層の突撃班と途中合流。それ以降は現場の判断に委ねるそうです」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「なるほどな。ここから行くわけか

それにしても大雑把な指示だな」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「相手の人数や潜伏階層も不明なままですので仕方がないかと思います」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「その間に接敵したときは各々で倒せって事だな」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「それじゃ俺たちの突入ルートは一階からだ

くれぐれも気を付けてくれよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そっちもな」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「この任務が終わったら俺らの班員も呼んで飯でもどうだ?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「賛成だ。上手い飯と酒を出す店を知ってるぞ」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「そりゃいいね~毎日飲むぐらいには酒類は大好きでね

任務後の楽しみが増えた」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

古里こざとや他の人員たちが各々の持ち場へと向かっていく。

残った榊原さかきばらは両手持ちのサブマシンガンを背負い、橘花たちばなと他班員3人は片手持ちのサブマシンガンと小型銃をホルスターに入れた。

榊原さかきばら班は隣の建物を上り、屋上へと出る。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ここにアンカーを設置し、あっちに飛び移る

お前ら準備はいいか?」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

班員一同が頷くと、榊原さかきばらが先端が

槍のように突き出たランチャーを構え

今立っているビルの屋上の塔屋とうやに一発放つ。

そこから射出されたアンカーが塔屋とうやの壁に突き刺さる。

そしてそのアンカーが刺さったまま目標のビルへ向けてトリガーを弾く。

するとアンカーが飛び出し、ランチャーから離れたアンカーが

目標のビルの塔屋とうやの壁に突き刺さると

左右のアンカーが二つの塔屋とうやを繋ぐ綱になった。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ここをつたっていくぞ」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

アンカーの綱に持ち手をかけて、滑るように一気に屋上へと飛び移った。

一同はゆっくりと着地に成功すると、入り口に向けて侵入を開始する。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「…用心しておけ

こっちの接近に気づいているかもしれないからな」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「了解しました…!」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

一同がゆっくりと階段を下っていく。

物音がせず、下の八階層には人の気配はしなかった。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「居ない…か」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

八階層を確認し終えると、再び階段を下っていった。

七階層に辿り着き、長い廊下をゆっくりと歩いていく。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長…本当にここに居るのでしょうか?

まるで気配がありません…」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「待て…前を見ろ」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

榊原さかきばらが班員を制止する。

正面にある両側扉は何故か片方が半開きになっており、中から光が漏れていた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ここの電気は止まっていない…のか

怪しいな…お前らは少し離れてろ」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

榊原さかきばらは単身で扉へと近づいた。

銃を構え、ゆっくりと中を覗く。

物音はしないが、その光の正体を確認しようと扉に手をかける。

建付けが悪く、不快な音を立てながら扉が開き、中を見ると

そこに一台のモニターが不自然に置いてあり、なぜか電源が付いていた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「これは…!?」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

モニターは未だ砂嵐を表示していたが、急に画面が切り替わり

画面にXの文字が浮かび上がる。

そしてノイズ混じりの笑い声が聞こえ始めた。



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「ハハハハ。よくここがわかったな?

流石というのか?勤勉なもんだ

まるで働きアリのようで滑稽だな」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「…CARDIEDカディドだな!どこにいる!!姿を現せ」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「どこに居るか知りたいのか?ハハハハ

教えてやろうか?ほらよ」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

画面が切り替わると監視カメラのような映像に切り替わる。

そこは先ほど通ってきた廊下が映っており、深くフードを被り顔を隠している黒いローブを着た男が歩いてくる様子が見えていた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「お前ら!後ろだ!!!」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

榊原さかきばらが振り返ると同時に叫び声が聞こえた。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「た、隊長っ!!!」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

橘花たちばなの後ろには黒いローブの男が立っており

羽交い絞めにされるように刀を首元に向けられながら動けなくなっていた。

その足元にはホルスターが落とされ、サブマシンガンが床に転がる。



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「ここだよ。馬鹿な隊長さんよ?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「なっ!!お前…!そいつを離せ!」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「やーなこった

どうしてオレが敵のいう事を聞かないといけないんだ?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「お前に選択権はない…!」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

榊原さかきばらと三人の部下が黒いローブに向けて銃を構える。

しかしこのまま発砲すれば橘花たちばなを巻き込むのがわかっており手が出せずにいた。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長っ!!撃ってください!」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「この状態じゃ君を巻きこんじゃうから撃てないってさ?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「私の事は気にせず!!撃ってください!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「くっ!橘花たちばなっ!!」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「お~?撃てんの?ほら、やってみな?」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

黒いローブの男は刃先をどんどんと首元に近づけていき

首に触れた箇所が切れて、ゆっくりと血が滴っていた。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「最後の警告だ…!部下を離せ!!」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「だ~か~ら!撃てるなら撃ってみろって!」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

榊原さかきばらは引き金を弾けないままであった。



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「ハハハ。そりゃ撃てねぇよな?

可愛い部下だもんな?」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

黒いローブの男は橘花たちばなの首から刀身を離し、床へ刃先を向ける。



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「後悔するぜ?オレをここで殺せなかったことをよ!!」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

黒いローブの男は榊原さかきばら達が反応できない程のスピードで床に斬撃を放つ。

すると黒いローブの男と橘花たちばなの真下の床が斬れて、穴が空き床下へ落ちていった。

下の階層へと逃げた黒いローブの男は気を失った様子の橘花たちばなを抱えたまま走り去っていく。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

橘花たちばな!!!くそっ追うぞ!!」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

部下3人を連れて急いで階段に向かい、下っていく。

足音がどんどんと下の階層へと降りていくのがわかり、一同も急ぎながら階段を下っていった。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「下は他の班がいる!あいつは袋のねずみだ!!」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

そして二階層まで降りてきた時、榊原さかきばらは違和感を感じた。

本来下の階層から上へと登ってくるはずの他班が見当たらないのだ。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「他の班はどこだ…?」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

その時、二階で銃声が鳴るのが聞こえ班員は二階層へと入っていく。

廊下を走りながら奥の部屋の扉の前にいる橘花たちばながハンドガンを

少し離れた位置の黒いローブの男に向けて構えていた。



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「やるね。ホルスターを外す際にポケットに忍ばせてたんだ?

流石は防衛隊、抜け目がないね」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

橘花たちばな!!大丈夫か!!?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長!!あいつは…かなり強いです!!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ…!わかってる」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

榊原さかきばらはサブマシンガンを黒いローブの男へと向ける。

対して黒いローブの男は余裕そうに刀を構えていた。



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「結構な数が居るみたいだな。ここをアジトだって突き止めてきたみたいだが

残念だったな、もう廃棄するつもりだったんだ。

この場所はお前らの墓場になるから最後まで有効に活用できるな」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

黒いローブの男はすさまじい速度で榊原さかきばらへと向かい走り出した。

榊原さかきばらはサブマシンガンを連射する。

しかし、その射撃に合わせ、廊下の横にある固い木製の扉を開き、盾のようにして銃弾を弾く。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「なっ!!?はやい!!」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「バーカ!当たんねぇよ!!」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

黒いローブの男は榊原さかきばらに向け斬撃を放った。

咄嗟に刀身に銃をぶつけて受け止めるが

一気に銃ごと弾き飛ばされてしまい大きく体勢を崩す。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ぐっ!!」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「ほ~ら!顔上げなっ!!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ぐああっ!!」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

体勢を崩した榊原さかきばらの顎に向けて膝蹴りを放った。

その衝撃を受けて、脳震盪のうしんとうを起こしたようで榊原さかきばらの視界がボヤけ始める。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「うぐっ!!」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「ほ~ら!立ち上がれよ!部下たちがやられちゃうぞ!!」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

部下三人が一斉に銃を連射するが、体勢を大きく反らして回避した黒いローブの男に一気に二人が斬り落とされた。

橘花たちばなはハンドガンを構え、黒いローブの男に向けて放つ。

しかしもう一人の部下の首を掴むと引っ張り、その銃弾の盾にした。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そ、そんなっ!!」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

黒いローブの男は橘花たちばなへと攻撃対象を変えて

再びすさまじい速度で離れた位置の橘花たちばなへと迫る。

ハンドガンを放つが、装填された弾が尽きてしまい発射できなくなってしまった。



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「弾切れか?」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

目の前で飛び上がりながら放たれた蹴りをまともに受けてしまい、橘花たちばなは地面に倒れてしまう。

榊原さかきばらは未だ衝撃を受けて、フラフラとしながら立ち上がった。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「お、お前!!俺の部下を!!

許さん…!!お前だけはぁぁぁっ!!!」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「た、隊長…!!逃げて…!!」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

フラフラとした足取りで黒いローブの男へと近づいていく。

その様子を憐れむ様に眺めていた。



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「そんな状態で勝てると思ってんのか?

まぁ万全だとしてもオレには勝てないけどな!」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

残酷にも振られた一撃は榊原さかきばらの胴体を斜めに薙いだ。

鮮血を飛び散らせて、地に膝をついた榊原さかきばらに黒いローブの男は近づくと、刀身を肩に置いた。



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「いくら雑魚が足掻いてもオレらには勝てない

運命は変わらないんだ、わかるか?

お前ら人類の未来は破滅だ?逃れることはできねぇんだよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「………」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「遺言なら聞いてやるぜ?まぁ誰に伝えるわけでもないけどな?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「……油断…大敵だ!!」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「は?」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

榊原さかきばらは刀を片手で握りながら立ち上がると拳を黒いローブの男へと向けて放った。

その一撃は確実に相手の顔に当たる。

しかし、その拳を受けても相手は怯む様子がなかった。



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「ハハ。いい作戦だったが…力が足りねぇな!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「くそっ!!力が入らん!!」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「残念だったな!!」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

黒いローブの男の膝蹴りをみぞおちに受け、榊原さかきばらは怯む。

そして無残に振られた三度の斬撃を受けた。

血を吹き出しながら、力なく地に倒れる。

榊原さかきばらは薄れゆく意識の中、黒いローブの男の顔を捉えた。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そ、そんなぁ…!!…隊長ッ!!!」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「…あーあ。まさかオレが一撃貰うなんてな

お前の雄姿を称えて殺さないでおいてやるよ

精々頑張りな

どうせここで生き延びたところで終わりは近い

絶望の未来、破滅の……最終日ラストワンまであと少しだからな」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

黒いローブの男の高笑いが意識が途切れるまで、頭に響き続けていた。

榊原さかきばらが意識を失った後、その場を去ろうとした黒いローブの男の向かう先に古里こざとが立ちはだかる。



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「これは…どういう状況だ!?」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「……さっきの…古里こざとさん!

気を付けてください!

あいつの強さは……普通じゃないです!!」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「そうか、こいつにやられたのか…

君は下がってて、ここは俺がやる」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「増援か?…揃いも揃って死にに来るとはな!

協力的で助かるよほんと!!」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「お前が……部下たちを殺したのか?」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「あ?部下…?そりゃどいつの事だろうなぁ~?

下に居た雑魚のことか?

邪魔だったから殺したが…それがなんだ?」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「…部下たちをよくも…タダでは済まさない!」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「部下だったんだなぁそりゃお気の毒になぁ~?

泣いて許してくれと頼んだら気が済むか?」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「お前のような悪党がそんなみみっちい事をするのか?」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「正解だ!

許しなんか乞うつもりはねぇよ

てめぇらみんなまとめて皆殺しコースだからな!!」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「元より許すつもりはない…!ここで叩き潰す!!」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

古里こざとが両手に持つククリを構える。

刀を構え返した黒いローブの男に向けて攻撃を繰り出した。



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「はぁっ!」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「へぇ!案外骨のあるやつが居たんだな?

楽しめそうだ!!」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「くそ…!なぜ当たらない!」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

連続で繰り出す斬撃を回避しながら黒いローブの男は笑っていた。



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「ただ者じゃないな…

普通の鍛錬ではここまで強くなれない

お前…いったい何者なんだ!?」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「知りたいか?特別に教えてやるよ」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

フードを外し、その素顔が明らかになる。

その顔を見て古里こざとは驚愕の表情を浮かべた。

ニヤリと笑うその男は刀を構え直す。



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「お前はッ!?……月のーーーー!!」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

秋水しゅうすい



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「なにっ!!?」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

放たれた数発の強力な斬撃をもろに顔に受けてしまう。

両目を斬られてしまい、手で押さえながら古里こざとは苦しみの声を上げる。



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「がああああああっつ!!!!」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「ハハハ

馬鹿な奴だな、こんな事で気を取られやがってよ」



古里 亮二こざとりょうじ (中井 亮なかいりょう兼任)

「ああぁぁぁ!目がぁぁぁ!!」



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「俺に挑もうなんて馬鹿だったんだよ

止めを刺しておくか‥‥あ?」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

黒いローブの男が辺りを確認し始める。



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「なんの音だ?」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

その瞬間、突如建物の床にヒビが入る。

そして建物全体が揺れると一気に崩壊し始めた。

榊原さかきばら橘花たちばな古里こざとは崩壊に巻き込まれて瓦礫の中に飲まれていく。

黒いローブの男はスッと着地に成功し

煙の中、目を凝らすと目の前にいつの間にか巨大なミミズのような見た目の魔怪まかいが姿を現す。



黒いローブの男 (勝田 信二かつたしんじ兼任)

「はぁ?なんでこんなところに居んだ!?

ちっ!ここは退くしかねぇか

幸いにも囮は沢山あるしな」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

黒いローブの男は建物の外へと走り去っていった。

目を覚ました橘花たちばなは立ち込める狼煙の中、瓦礫に埋もれる榊原さかきばらを見つける。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長!!大丈夫ですか!!

魔怪まかいが現れたんです!!はやく逃げないと!!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ぐっ‥‥くそ…!俺は‥‥部下を‥‥」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長っ!!大丈夫ですか!!?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「………ち、ちく…しょ……う…」



橘花 真由美たちばなまゆみ

「隊長っ!!隊長ーーーッ!!!」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

橘花たちばな榊原さかきばらを引っ張るようにその場から離そうとした。

しかし最悪な事に魔怪まかいはこちらの物音に気が付いたのか、ゆっくりと迫ってくる。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「た、隊長!このままじゃ、私達は!!」



N→筑波 柊つくばひいらぎ

その時、魔怪まかいの真後ろから銃声が連続で鳴り響いた。

橘花たちばなは後ろからボロボロの様子で銃を乱射する三人の隊員たちが見えていたが

魔怪まかいが強く暴れると同時に銃声が鳴り止んだ。



橘花 真由美たちばなまゆみ

「そんなっ…!!みんなぁああ!!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「っ!!おま…え…ら

俺の‥‥せい…で……す…すまな……い」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

途切れ途切れの意識の中、声が聞こえていた。

榊原さかきばらを呼ぶ声。その声が徐々に聞こえなくなってくる。

エンジン音のようなけたたましい音を最後に意識がさらに落ちていく。

暗く沈んでいく意識の中、電子音が聞こえた。

秒間的に高い音が鳴り続けており

突然、視界に眩しい光が広がっていく。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「ここは…?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「やぁ榊原さかきばらくん、地獄の景色はどうだったかな?

私は見たことがなくてね

感想をくれると助かるんだが」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「貴女は…確か、筑波つくば…先生……?」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

榊原さかきばらが軍に所属してからすぐに上司に紹介された研究者

面識はあるがあまり詳しくは知らない人物であった。



筑波 柊つくばひいらぎ

「あぁそうさ。他の誰だと思うんだ?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「なぜ…ここに?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「君は瀕死の状態で病院に運ばれてたのさ

私に貸しのある医療班の人から人間のサンプルを渡すと聞いてね

ゴミでも貰えるものは貰っておこうかと受け取ってみたら

なんと見覚えのある男だなって

それで治療してみたら榊原さかきばらくん、君だった

偶然って怖いものだね」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「俺は…助かったのか」



筑波 柊つくばひいらぎ

「そういうことになるね

完治…というわけではないが下手な病院より治療は上手いからね

成功はしているんだよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「俺の……部下は?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「そういえば一緒に運ばれたのも何人か居たね

記憶が欠落しているだろうから掻い摘んで話してあげよう

君が倒れた後、魔怪まかいがどこからともなく出現した

それを倒す為に防衛隊が出動し、魔怪まかいは撃破に成功し

同時に君達の救出が行えたんだ

ただ生存者は君ともう一人橘花たちばなって人間だけだったよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「…!!

く、くそっ!あいつら…

………何っ!?ぐっ!!があぁぁあ!!

この痛みは………な、なんだ!!?」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

榊原さかきばらの身体に激痛が走る。

藻掻く榊原さかきばらに向けて筑波つくばは注射器を刺した。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「な、なにを…!?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「鎮痛剤だ。痛みは引いたろ?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「がっ‥‥‥‥な、なんだこの痛みは?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「かなり深い傷跡だったんだ

右肺や心臓の大部分に斬撃による裂傷れっしょう

過剰流血に多数の血管の断線

数カ所の骨折に各所の部位欠損

正直、治療しても治せるかは賭けだったんだ

私だから成功したけど、死んでておかしくなかったほどだよ

今は傷口は塞がっているが、いつ広がってもおかしくない

次に開いた時は…今の数百倍の痛覚が襲い掛かり確実に君は死ぬ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「もう…俺は戦えないのか」



筑波 柊つくばひいらぎ

「それはどうだろうね?

私の研究所に定期的に来てくれたらその後遺症を多少薄める事はできる

そうしたら戦えはするかもよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「…それは本当か?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「だがそれも手間がかかるからね、タダではできない

ここは取引と行こうか?

善意で君の治療をし続けるのは得がないんだ

なんなら時間も薬も捨てるようなもの

私からすれば損あって利は無しなんだよね

だから頼み事を受けてくれたら交換条件として治療してあげるよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「頼み事とはなんだ?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「定期的に魔怪まかいの部位を持ってきてほしいんだ

甲殻でも皮膚でも臓器でもなんでもいい

最前線にいる君ならできなくはないはずだよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そんなもの…何に使うつもりだ?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「何って研究のサンプルが欲しいだけだよ

魔怪まかいという謎の生命体に迫るには魔怪まかいに触れ合いたい

毎度倒した死体を焼却処分してるみたいだが、とても勿体ない

とはいえ、生きてるのを捕獲してもいいんだけど

流石に生きてるのが目の前に居たら危ないからさ

死体の一部で良いから持ってきてよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「……」



筑波 柊つくばひいらぎ

「まぁゆっくり悩んでくれて構わないよ

タイムリミットが迫っていることだけは忘れないでいてくれればーー」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「……俺はあいつらを倒さないといけない

ここで倒れるわけにはいかないんだ」



筑波 柊つくばひいらぎ

「そうかい、それはロマンある心意気だね

死にかけでミイラみたいな姿じゃなきゃ惚れちゃうんじゃないかってぐらいかっこよかったんだけどさ

それで?だからなんだっていうんだい?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「取引に応じる」



筑波 柊つくばひいらぎ

「へー、ふーん、そっか

それじゃあ取引成功だ

詳しい話は後々言うから今は休みなよ」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ…」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

そして筑波つくばはゆっくりと部屋から立ち去っていく。

静寂に包まれた部屋に電子音だけが響き続けている。

榊原さかきばらは静かにそして激しい怒りを胸に拳を強く握り締める。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

(俺は‥‥必ず奴らにツケを支払わせてやる

部下を殺したお前らを…魔怪まかいを…

必ず‥‥殲滅する!!)



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

榊原さかきばらは誓った。

復讐を、そして仲間を必ず守りぬくと。

その誓いは彼を奮い立たせ、引き金を弾かせる。

それが彼の身勝手な理由なのだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



筑波 柊つくばひいらぎ

「そんな感じで私と彼は協力関係になり

こうやって定期的に検診をして傷口を見てるんだよ」



勝田 信二かつたしんじ

「そんな事が…

榊原さかきばらさんは俺たちを守るためにいつも戦ってた……」



筑波 柊つくばひいらぎ

「そんな覚悟と贖罪が彼の行動理念なんだろうね」



勝田 信二かつたしんじ

「…榊原さかきばらさんにそんな事があったなんて

全く知らなかった」



筑波 柊つくばひいらぎ

「まぁ検診を受けているのは他にも理由があるんだけどね」



勝田 信二かつたしんじ

「他に…ですか?それはいったい?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「あぁ。彼は私の研究の手伝いをしてくれてね

今度私の作ったとある兵そ―――」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「人の事を勝手にペラペラ話すな

今度はその顔面をぶん殴るぞ」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

奥から榊原さかきばらが怒りの形相を浮かべながら歩いてきた。

筑波つくばは焦った表情を浮かべて、後ずさりする。



筑波 柊つくばひいらぎ

「そ、そんなに怒らないでよ?

女性に手をあげるなんてクズ男だよ??

そ、そ…そうだ!コーヒーでも飲むかな?淹れてきてあげるね」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「早くしろ

俺の理性はそんなに長く持たんぞ」



筑波 柊つくばひいらぎ

「待っててよ!急いでお湯を沸かしてくるからさ!

まったく…品性の欠片もない男だね君は!!」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

筑波つくばは急ぎ足で部屋から出ていった。

残された榊原さかきばらはため息をつくと勝田かつたへと目をかける。



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あいつのいう事は全て本当だ

もしかしたら心のどこかでお前と失った部下を重ねているのかもしれない

俺を逃がすために命を散らせたあいつらを‥‥俺は―――」



勝田 信二かつたしんじ

「で、でも…間違ってないと思います

例えそれでも榊原さかきばらさんが戦うのは正義の為なんですよね

それは誰も非難できませんし、させません」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「だがな…勝田かつた

俺はお前だけは特別に思っているんだ」



勝田 信二かつたしんじ

「どういう―――」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「俺は…お前を次期の隊長に据えようと思っている」



勝田 信二かつたしんじ

「な…!!なにを言ってるんですか!!

俺じゃなくても…須加すがさんや橘花たちばなさんが居ます!

お二人の方が俺よりも優秀です!!」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「たしかにあいつらは優秀だ…だが隊長の器ではない

隊長として必要な事は自らで選択をし部下を導く事だ

だからこそお前にここを紹介したかったんだ」



勝田 信二かつたしんじ

「そ、それは…」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

勝田かつたの肩に手を置いた榊原さかきばら

その目は今までに見た事のないほどに強い瞳をしていた。

その瞳は勝田かつたを真っすぐに見つめている。



勝田 信二かつたしんじ

榊原さかきばらさん‥‥」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「お前は……俺が最も信頼する部下だ

須加すが橘花たちばな

そして東郷とうごうを率いる隊長になってくれ……頼む」



勝田 信二かつたしんじ

「そんなことを言われても‥‥

今は‥‥まだ答えが出せません‥‥‥‥」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「そうか…すまないな

突然こんなことを言って」



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

榊原さかきばら勝田かつたの肩から手を離した。

そのままゆっくりと歩いて部屋を後にした。

勝田かつた魔怪まかいのサンプルに目をやる。

先の言葉が彼の頭を照り付けていた。

その瞳は未だに戸惑いの色で染まっている。



N→橘花 真由美たちばなまゆみ

そして筑波つくばの研究室にて

コーヒーを手に取った榊原さかきばらと自席に座る筑波つくばは話をしていた。



筑波 柊つくばひいらぎ

「それにしても君の部隊は曲者揃いだね

前に聞いた…東郷とうごうといったかな

その子も面白そうじゃないか」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

東郷とうごう…あいつがどうした?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「彼女の在学していた月ノ都つきのみやこ学園…

知っているかい?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ、知っている。それがどうした?」



筑波 柊つくばひいらぎ

「あそこは一つ前の生徒会長が無差別に生徒を殺傷したって事件は知っているかい?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「あぁ。あの日は大ニュースだったからな

その犯人の移送中にCARDIEDカディドの襲撃に合い、警察共々死亡したんだったか

連日で報道が取り上げるもんだから嫌でも覚えてるよ」



筑波 柊つくばひいらぎ

「そう。その事件の翌日に彼女は学園を辞めて防衛隊に配属希望を出したそうだ。

そして東郷とうごうという苗字に覚えがあってさ。珍しいしね

11年前にテロ加担疑惑にかけられた一家があってさ

警察が確保に踏み込んだ際に魔怪まかいの襲撃に合い、警察とその一家

が惨殺された

その事件で当時7歳だった一人娘が奇跡的に生存していたらしい

そこの一家の苗字は確か‥‥東郷とうごうだったね」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「まさか‥‥いや東郷とうごうの年齢は18…

11年前は7歳‥‥か」



筑波 柊つくばひいらぎ

「そう。なんの関連性があるかは知らないけど

偶然にしちゃピースが噛み合わないか?

まるで東郷とうごうって子が何かを知っていて行動しているみたいじゃない?」



榊原 義弘さかきばらよしひろ

「‥‥そうかもしれないが、俺にはどうすることもできない

俺の使命は人類を守り、奴らを狩る

それだけだ…」



筑波 柊つくばひいらぎ

「でも、隊の中で目的が違う人間が居たらいずれ綻びが出るかもしれないよ

まぁ、私には関係のない事だしいいんだけどさ

それは遅かれ早かれ分かる時が来そうだね

…歯車が‥‥そろそろ動き始める頃合だしね」



勝田 信二かつたしんじ(モノローグ)

運命の歯車はいつだって予想も付かない回転をする

俺の知らない所で世界は動いている

想像を絶する何かが始まろうとしている

だが俺がやるべきことは一つ

目の前にある命を守る事だけだ

どれだけのものが待ち構えていようが進み続ける

この身が朽ち果てるその日まで戦い続ける

ただひたすらに






神ガ形ノ意志ニ背イテ 弐話   完

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



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・アドリブ演技に関して

この台本はアドリブを入れる事を前提として書いています

なので演者様方の判断で挟んで頂いて構いません

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作者はあまり好ましくは思っていませんがある程度ならば可とします

そのある程度の境界線は他の演者様たちとの話し合いに委ねます


・特殊なものについて

台本を演じる際に読み込まないで演じる行為や

言語を変える、明らかに台本無視と取れる

特殊な行為をするものは認めていません

流石に読み込んで普通に演技してください

多分そうじゃないとこの台本は演じれないです


二次創作等、商権利用問題のある場合、質問や不明点ございましたら

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