第二十七話

 心臓がドクンドクンと鼓動が増すばかり。


「本当に……桜なんだよな?」


 自分でも何を言っているのかわからない。


 ただ、桜が桜には見えなかった──。


 彼女の目は完全に死んでおり、前みたいな笑顔があった桜の面影はない。


「耕平……私、翔太もうらら先輩も……み〜んな、殺したんだ〜」


 そう奇妙に笑いながら言う桜。


 ああ……ああ……ああ……ああ。


 俺が桜をこうさせたのか?


 すると、両足の力が勢いよく抜け、ガクリと俺は両膝を地面につけた。


 たった、俺一人のせいで彼女をこうさせたのか?


「み〜んな、邪魔者は消えたんだよ──」


 フルーツナイフをその場に落とし、こちらに近づいて来る桜。


「だからさ、もう、耕平はうらら先輩も翔太も誰も見なくていいんだよ……私だけを見てればいいんだよ」


 謝りたい……ごめんって、俺が悪いって言いたい。

 元々、俺が翔太にうらら先輩を寝取られたから、翔太の彼女を寝取りたくて始めたことを──。

 そして、彼女のいや……こいつらの人生をめちゃくちゃにしてしまったことを──。


 でも、喉が押しつぶされて声が出ない。


 ああ……本当に殺されるべき相手は俺じゃないか……たかが、寝取られただけで俺は何をムキになってんだよ。


「ねぇ、子供の名前……どうしよっか? 私的にはまずは〜、翔太と……耕平が大好きなうららは付けたいなぁ〜」


 そして、俺の顔を両手で固定する。


 抵抗する力なんてない。

 彼女を殺せば全てが終わる。

 何もかも、無かったことにはならない。

 でも、全てが終わる。


 ──だからといって、彼女が死ねば、俺は一人っきりになる。


 一人は嫌だ。


「あ、そうだ……やっぱりぃ、あと二人生も!! 耕平と桜を!!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は勢いよく嘔吐する。


「うえっ──」

「あーあ、服が汚れちゃったあ。ねぇ、耕平? そうすれば、私たちは一生一緒にいられるね!! 死んでも、新しい二人がいるんだもん」


 もう、何も考えたくない。

 ここから、いなくなりたい。


「ふふ、久しぶりに耕平とエッチしたいなぁ〜」


 やめてくれ……それ以上はやめてくれ。

 やだ、やだ、やだだ。

 いやだ。

 全て無くして全て消して、俺を楽にしてくれ。


 俺はただ、俺を裏切らない本当の彼女がほしいだけなんだ。


「耕平が私に色々と教えてくれたもんね。初めは嫌だったよ……だって、赤の他人だもん。でもね? ヤっていくうちに……エッチが好きな身体になっちゃったの。うらら先輩のように……全部、耕平が悪いんだよぉ〜」


 俺が悪い……その通りだ。

 全部、俺が悪いんだ──。


 俺はもう一度、嘔吐する。


 もう出るものなんてないのに。

 なんで、吐くんだよ。


「うえっ──」


 すると、桜は俺にキスをして、俺の口から出るゲ○を飲み込んだ──。


「まずっい……ほら、私は耕平のならなんでもいけるよ?」


 はは……嘘だろ……。


 俺は自分のことだけを考えて行動していたのかもしれない。


 これ以上、彼女を壊していたら、もう元には戻れない……そんなシーンはいくつもあったはずだ。


「だからさ〜、耕平。お願い……私を選んでよ」


 くそ、くそ、くそ、くそ……。


 俺は一体、何を望んでいたんだよ。


 こんな結末になるなんて……望んでもない、結末になるなんて……。


 俺は包丁を両手で掴んで──。


「私はうらら先輩とは違う──」


 震える手を頑張って抑え、桜の腹部を刺した──。


「うっ──」と口から血を流し、その場に倒れる桜。


 やってしまった……。


 何故だろうか、涙が出なかった。


 むしろ、楽しい……。


「耕平──」

 

 俺はもう一度、桜を刺した。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……。


 楽しい。


 楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい。


「はぁはぁ………」



 





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