第二十六話 見つけた

 うららと翔太が殺害されたのは警察から知らされた。


 脳が真っ白になった──。


 もう何も考えられない……。

 え……。


「嘘だろ……嘘だろ、嘘だろ……」


 大粒の涙が目から流れる。

 

 あんなに復讐したかったやつが……俺の手ではなく、誰かの手で殺されたのだ。

 そう、自分の手ではなくて誰かの手で……。


 そして、俺のうららも殺された。


「ああ……ああ……ああああああああああ──ッ!!」


 俺の前から全てが消えた。


 友も恋人も、何もかもが消えていった──。


「うっ──」


 突如、吐き気がした。


 気持ち悪い……。


「うぇ……」


 俺はその場で嘔吐する。


 それは、全てを失った悲しみによるものだ。

 

 何ひとつ、俺は自分の手で復讐することが出来なかった。

 いいや、そんなことはない──。

 

 そうだ、俺は桜を壊して、十分に復讐できたじゃないか?

 そうだよ。

 俺は全てを失ったわけじゃない……まだ、俺には桜がいるじゃないか……。


 もう、うららと翔太が死んでしまったことなんてどうでもいい。

 今はただ、桜に会って抱きたい。

 全てを忘れてしまいたい。


 誰が殺したかなんて考えなくともわかる。

 桜だ。

 桜がうららと翔太を殺したんだ……。

 それ以外に考えられない。


「ふふふ、はははははは──ッ!! 全てを壊した……誰の力でもない。俺の力で!!」


 全て、俺が壊したんだ。

 そもそも、俺がうららと付き合ったりしなければ二人は死ななかったのだ。

 全て俺が悪い。

 

 なら──。


 俺が桜を殺そう──。


 そうすれば、全てが終わる。

 

 そうと決まれば、俺はすぐに包丁をポッケに入れて家を出た──。

 

 外は雨が降っていた。

 星が見えないことから、多分雲で空が覆われている。

 

 そんな中、俺は走って桜のいるであろう、病院へ向かった──。



 もう、雨に濡れ、今目から流れているのが涙なのか雨なのか全くわからない。

 

 でも、どっちでもいい。

 

 そんなのを考えることなんてしなかった。

 だって、今の俺の頭の中には桜を殺すことだけでいっぱいだったからだ。


 病院に着くと、そこには無数のパトカーと救急車が止まっていた。


 これ以上先は禁止というテープを潜り──。


「おい、君──」


 病院の敷地に入る。


 はぁはぁ、と息が荒い。

 でも、俺は止まらない。

 彼女を殺すまでは──。


 警察官が敷地内の山に集まっていることから、多分桜はそっちにいる。


 だから、俺は人気のないところから山を登ることに決めた。


 今すぐ会いたい。

 会って、殺して楽になりたい。


 山は真っ暗だった──。


 当然だ、街灯ひとつもないのだから。


 そんなところを俺は走る──。


 地面が水で濡れてぐちゃぐちゃだ。

 でも、俺にはそんなの関係ない。


 もう、身体は雨で汚れている。

 今更そんなの気にしたって意味がない。


「それに……」


 どうせ、今からもっと血で汚れるし。


 何度か、警察官に見つかり追われた。


 でも、その度に俺は全力で逃げる──。


 地面が悪いのが運良く、警察官は途中で転んでくれる。


 たまに息を吸うのを忘れる時があった。

 そのくらい、殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて、楽しみだ。


 途中、俺は地面に滑り、転んだ──。


「あっ──」


 ゴロゴロと横になり転がる。


 身体中が泥だらけになる。


 後ろからくる警察官がついに、追いついた。


「はぁはぁ……小僧、ここがどういうとこか……」


 まるで、桜が悪者のように言う警察官。


 だから、俺は──。


「ぐっ──」と口から血を流しながら、腹部を抑え、倒れる警察官。


 警察官を刺○た。


 初めて人を殺○た。

 なのに、気持ちがいい。

 罪悪感より、気持ちがいいが先にくる。

  

 あ〜、殺すのはこんなに気持ちがいいのか……。


 明らかに行為よりも何十倍も気持ちがいい。


 そして、俺はまた走り出そうとしたその時だった──。


 俺の前には真っ白な患者服が血で真っ赤にそまっている……一人の──。


「桜……見つけた」















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