桜ルート
第二十四話(桜視点)
その日、私はひどい夢を見た──。
その夢は何度も何度もうらら先輩に果物用の包丁を突きつける夢だ。
場所はどこだか覚えてはいない。
とにかく気持ちよかった。
全てがどうでもいい。
そのくらいだ。
刺すたびに血が服に飛ぶ──。
とても気持ちがいい。
あ〜現実世界でやりたいな。
○
目を覚ますとそこは病室だった──。
「はぁはぁ……」
なんなんだ……今の夢は。
はっきりとは覚えていないけど、とても気持ちがいい夢だった。
ベッドは汗でびしゃびしゃだ。
服装は……患者服?
私は辺りを見渡すと──。
「桜……」と何か信じられないのかポカンとした顔をしている耕平くん。
え……。
話が理解できない。
私はたしか……。
その瞬間、頭の中に何かが駆け巡る──。
そう、それは私がうらら先輩に包丁を刺して、刺された出来事だ。
そっか……ということはまだ、うらら先輩は生きてるんだ……。
「耕平くん、うらら先輩は?」
「まだ寝てる……」
どうやら、私の方が早く目覚めたらしい。
耕平くんは真面目な顔をして。
「なぁ、桜? ……お前たちを刺した犯人を知っているか?」
「……」
自分なんて言えない……というか、私たちが共に刺しあったことはバレていないの?
「ねぇ、耕平くん、犯人は……」
「雨が降って指紋が取れなかったらしい……」
その言葉を聞いた瞬間、私はニヤリと笑う。
な〜んだ、バレてないんだ……。
そう考えると気づけば──。
「ねぇ、耕平くん? 私とうらら先輩、目覚めた時にどっちの方が嬉しいと感じる?」
やめて……。
「え……」
突然の言葉に戸惑う耕平くん。
大体わかっている。
私が目を覚ました瞬間、耕平くんはそこまで嬉しそうな顔をしていなかった。
そして、しばらくすると……。
「そんなの桜だよ」
嘘だ……私を見ていない。
目を逸らしている。
ねぇ……本当なら、私を見て言ってよ……。
私は笑顔で。
「そっか……ありがとう……」
「おう、起きてよかったよ。それじゃぁ、俺はうららの病室へ──」
待ってよ……なんで、うらら先輩のところへすぐ行くの?
もう少し、私のところへ行ってよ……。
もっともっともっと、私といようよ。
私は耕平くんが大好きなんだよ。
そんな思いを押しつぶして。
「うん、じゃぁね!!」
殺したい……殺したい、殺したい。
彼女を殺せば耕平くんは自然と私の方を向く。
なら、彼女を殺せばいいんだ。
うらら先輩はまた、耕平くんを不幸にする。
なら、私が耕平くんを救う。
救って、私が耕平くんと付き合う。
そうすれば、私も耕平くんも幸せになれる。
殺したい、殺したい。
うらら先輩の全てを潰したい。
私の耕平くんにしたい。
全部、私のものにしたい。
だから、殺したい──。
その後は検査を受けて少し事情聴取を受けた。
検査は後遺症がないという結果だった。
事情聴取ではあまりの出来事で何も知らないと答えておいた。
こんな事になるなんて……全てあいつが悪いんだ。
全部全部全部……。
「──桜……桜〜おい、桜?」
「あ、ごめん……」
今は耕平くんにりんごを切ってもらっているところだ。
「なんか……こういうのよくあるよね」
「たしかにな、よくあるよな、フルーツを切るのよ。なぁ……桜?」
「? 何?」
「まだ、うららが起きないんだ……」
そう深刻そうな顔で言う耕平くん。
また、うらら先輩の話か……。
「そうなんだ」
「きっと……起きるよな?」
うらら先輩が起きたら全てがリセットされる……それどころか、心配している分、耕平くんはさらにうらら先輩を好きになることがある。
だったら、殺せばいい。
今すぐに──。
そうすれば、邪魔者が一人いなくなる。
耕平くんは二番手の私だけを見てくれる。
ううん、もう起きないよ……私が殺すから──。
「多分ね❤️」
私が早く起きたのが運の尽きだ。
これはうらら先輩を殺すために違いない。
○
だから、私はその日の夜……こっそりうらら先輩の病室にフルーツナイフを片手に忍び込んだ──。
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