第十話(翔太視点)

 そして、俺と桜はヤり終えた。 

 

 鼻水と涙で顔がぐちゃぐちゃになりながら、はぁはぁと息が荒い桜。


 俺はそんな桜を見て、胸がはち切れそうな気持ちに追い込まれた。


 俺は一体何をしてるんだよ……あれ? 俺はなんで桜としてたんだよ。

 別にうらら先輩には直接見られているわけでもない。

 そんなこと少し考えればわかるはずだ。

 なら、なんで俺は……。


「ああ……」


 初めは抵抗していた。でも、途中から気持ちよくなってしまい止まらなかった俺が憎い。


「ああ……」


 焦っていてなんも考えられなかった俺が憎い。

 こんなことすぐに気づけたはずだ……。


 そんな俺の心の声を封じるために。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ」


 俺は叫びまくった──。


 とにかく、とにかく、とにかく。

 ただ、自分が苦しまないように。

 喉がはち切れたってどうだっていい。

 俺が俺を保てるなら……。


 すると、桜が俺を抱きしめた。


 え……。


 俺は叫ぶのをやめて、桜を見つめた次の瞬間──。


 桜は俺に舌を入れて熱くキスをした。


 え……なんで、なんで、なんで……なんで、俺にキスなんてするんだよ。

 俺はお前を無理矢理犯した張本人なんだぞ?

 そんな俺になんでキスなんて……。


「私ね……翔太とできて嬉しい……でもね? 私……」


 俺は絶望した目で桜を見た。


 俺にはもう桜と普通の恋愛なんてできない。

 そうわかったからだ。

 でも、全部俺が悪い。

 だから、何も言えなかった──。


「急だったから、怖かった…………それでも」


 桜は下を向き、次の瞬間──。


「うっ──」


 俺の首を絞める桜。


 苦しい……なんだよ………。


 抵抗しようと思えばできる。

 でも、俺に抵抗する資格はない。


「もっと、もっと、もっと苦しんでよ──ッ!!」


 更に力を入れる桜。


 その目はメス落ちというのだろうか? 完全に発情した目をしていた。


 はぁはぁ……死ぬ……。


 そして、桜は手を離す。それと同時に俺は「うぇ……」と勢いよく嘔吐する。


 なんだよ……桜?


 桜なんだ、でも、そこにいるのは桜でない……まるで別人のようだった。


「ふふ、気持ちいい……」


 どうなってんだよ……。


「ねぇ、翔太ぁ? もう一回しよ? 私、翔太の子供欲しいなぁ……うーんとね? 三人ぐらい? あとさ? 私の翔太なんだからさぁ? うらら先輩と連むのやめてもらいたいなぁー。私、翔太にセフレがたくさんいること知ってるんだよ? だからね? ……翔太ぁ? 私だけの翔太にするためにそいつら殺そうかなぁ?」


 その目は本気だった。本気で殺そうとしているのが見てとれた。


 俺が怯えると、桜はニコッと笑い。


「うそうそ、こ〜ら、本気にしないのぉ〜。でも……うらら先輩だけはなぁ〜……ねぇ〜もう一回しよ〜」


 やめてくれ……。


「…………」

「無視〜? さっきはあんなにヤってたのに、笑えるんですけど……もしかして、もう出ない? ふふ、大丈夫だよ。私が気持ちよくなればそれでいいからさ……」


 こんなの、桜じゃないんだよ──ッ!!

 俺が知ってる桜はこんなんじゃ……。


「無視ですかぁ〜。ほんとはしたいくせに。もっともっともっとしたいくせに。無視ですかぁ……」


 はぁはぁはぁはぁはぁ………。


「うぇ……」


 俺はもう一度、嘔吐した。


「ねぇ〜そんなに吐くとキスする時にゲロの味するじゃ〜ん」


 そして、桜は俺の両肩を掴んだ。


「やめろ!!」


 俺はその手を払った──。

 そのまま、俺は服を着て走って玄関へ向かい外へ出た。


 外は雨が降っていた。


 そんな中、俺はふらふらと走った。


 とにかく、桜には近づきたくない。

 

 でも、走るのなんて一瞬のことだった。

 すぐに俺は足を止めてその場に両膝をつけた。

 そして、空を見て──。


「ははは、俺は何してんだよ……神様だって俺を見て笑ってんだろ?」


 目から涙なのか雨なのかわからないが何かが垂れた。

 多分、涙だ。


「この無様な俺をよ!!」


 桜を壊したのは俺だ……俺のせいで、桜は……桜は、桜は──ッ!!


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」


 俺はとにかく叫んだ。


 叫べばきっと何かが変わると思ったからだ。


 ただそこには俺の叫び声だけが響き渡った。

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