第43話 スター 後編 光り輝く者たち

テレビ局で働いているという入院患者が言った。


「芸能人だからスターって呼ばれるわけじゃないんだ。本当に光ってるからスターって言うんだよ。でもね。その光が見える人はほとんどいないらしい。…僕も見えない」


その患者の家族が入院してきた時に頼んだ。


「私には見えると彼に伝えてくれますか」

「それだけでいいの?」

「そう言えばわかります」


私はとても鈍いから、自分が最初から見えていたことにずっと後で気がついた。





一番初めに勤めた病院で、ビートたけしさんが近くで撮影していると聞いて見に行った。


品川駅前の信号の向こうにスポットライトのような、超新星のように輝く何かがいた。


顔は光の奔流で目鼻立ちすら見えはしない。


でも、確かに目が合った。


ひたすら恐ろしかった。


恐怖のあまり回れ右をして全力疾走で逃げた。





女性タレントか病院にきた。


「とても綺麗でいらっしゃいますわ」

「まあ。うふふ。ありがとう」


…嘘をついた。


やはり顔が春の日差しのような光の奔流で。


私には目鼻立ち一つ見えはしない。


ある日テレビに出た彼女を見て私は言った。


「あの人こんな顔をしていたの。わからなかったわ」

「まあ!那由他さんたら(笑)」


つまりテレビ画面を通せば私にも見えるのだ!





藤井フミヤさんのコンサートに行った。


フミヤさんは夏の日の太陽のように光り輝く。


これがスターだ。




だが、光り輝く芸能人はたった3人だけだった。





渋谷のセンター街を歩くピーコさんを見た。

キメににキメまくった服装だった。





日光東照宮で撮影2の氷川きよしさんとガッツ石松さんを見た。





今日は早く帰っていいと言われクリニックを早退したら一階で稲垣吾郎さんが撮影していた。

医者の役だったらしい。

テレビで見るままだった。





私は100回以上飛行機に乗ってるし、長く東京に住んでいたから、1億以上の人間とすれ違っているはずだ。


でもスターはたった3人だけ。





そのスター達と全く違う光を見たことがある。


確か新宿だった。


街を歩いていて、どこからか光がさしてきた。


街の色が変わっていく。


どこにいるのか周りを見回して見つけた。


10人以上の多分ホストだろう集団の中心で屈託なく笑う人だった。


多分彼はナンバー1なんだろうな。


淡くだが、ちゃんと顔が見える。


そこに彼がいるだけで街が色を変えて行く。


街が光り輝いていく。


多分、私はその光に一目惚れをしたのだろう。


でも私とは相容れない世界に住む人だ。


何も言わず通り過ぎた。





そういえば私も光っているらしい。


時々見える人にそう言われる。


芸能人になる話は何回かあったが、私には看護師という立派な仕事がある。


無理して笑う仕事はできないだろう





今でも新宿で見た光りを思い出す。


あの傍らにいる事が、私にとっての『ガンダーラ』ではないかと思う


彼が笑い、そして輝き続けていてくれることを私は心から願う。





 …もし叶うなら、もう一度会いたい。


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