第42話 スター 前編 面食いとナルシスト

【面食い】

「顔なんて付いてればいいじゃないの」

一時期そう思っていた。


「顔が付いてなけりゃ死んじゃうじゃないか?!」

それはそ~だぁ。




だが、面食いとはよくいるものだ。



【デートの実例①】

デートの最中に彼が立ち止まった。

「何見てんの?」

「んー。女の子」

「www」



【デートの実例➁】

デートの最中に彼が突然立ち止まった。

どう見ても一目惚れをしている最中だ。

視線の先には20歳くらいの可愛らしい女の子がいた。

犯罪臭のする年齢差だし、どう見ても彼女はデートの待ち合わせ中。

つまり失恋直行だな。

しばらくしてからその人と電車の中で一緒になった。

誠実そうな顔に輝くような瞳をして。

もしかしたら私に一目惚れしてくれたのかもしれないが、私は要りません(笑)




いやぁ~。面食いってたくさん恋ができてお徳なのかもしれない。




次はちょっと悲しい話である。


顔にコンプレックスがある看護師は非常に美形好きだった。


美少年BLに美形歌手。


とても顔が好みの人に出会って好きで好きで結婚した。


夫が今でも好きなのは昔の恋人で、家を建てる為のお金として結婚したと後でわかった。


当時の詐欺まがい商法だかで借金は2倍になり、彼女は逃げようとした。


逃すまいと首を締められたりもしたが何とか離婚できた。


その後の消息は知らない。




一目惚れとはよくあることで、表情を観察していると誰にでもモロバレである。


その人の姿だけが目に飛び込んでくる。


世界が輝く。


眩しそうに目を見開いて輝くその人を見つめる。


そして最高のプレゼントをもらったかのように嬉しそうに、とても幸せそうに笑うのだ。



【ナルシスト】

私の姉がよく言っていた。

「美しい人は周り中から可愛がられ褒められて、とても素直で伸びやかな性格になる」


本当かどうかは知らない。


あなたの周りではどうだろうか?


さて、ある日私は日本刀博物館を目指して新宿の甲州街道の側道を歩いていた。


見事に人がいない。


そしてアイドルの撮影会を見つけた。


カメラマンはパチパチ写真を撮り助手は一生懸命ライトバンを動かして、マネージャーは一生懸命笑え笑えと言っていた。


1回目にチラ見して知らない芸能人だった。


2回目にチラ見して服と小物をチェックした。


3回目に振り返って周りの男どもを白い目で見た。


(笑え笑えって3人がかりで言い募ってモラハラじゃね!

アイドルちゃんの顔が引きつってるじゃないか!)


その途端、アイドルちゃんが腹を抱えて大笑いした。そして男どもがサッと私を振り返って凝視した。


「お邪魔してすみません〜」


にっこり笑ってお辞儀してさっさと逃げ去った。


私は日本刀を見に新宿に来たのであってアイドルちゃんに興味はない。




芸能人の広告写真は顔で笑顔を作りながらもとても苦しそうな目をしている時がある。


あれでは仕方ないな。


だが、そんなものからは目をそらさずにはいられない。




褒めれば伸びる人もいるのも確かだが。




元彼はとても美形で、1時間でも2時間でも黙って顔に見とれていられた。


(何て綺麗な目。何て綺麗な鼻筋。何て綺麗な唇の形。何て綺麗な……)


それが延々続くのである。


「「「カッコいいです!!」」」


周り中から褒められて彼の目がキラッと光った。


(これがナルシストの目なんだ)


俺ってかっこいいから、人からそう言われて当然だと思っているんだろうな。


観察はとても面白かった。


しかし人は年をとる。


中指一本の長さで額が禿げ上がった。


その姿を鏡で見て、やはり俺ってかっこいいという自意識を持てるだろうか?


多分プライドはボロボロだったろう。


その人はモラハラが酷すぎるわストーカーだわで、何としても離れたかった人だった。


顔で負けたから付き合っていたが禿げて勝ったので別れた。


私はだいぶ酷い。




ある友達は長い髪が綺麗で、とてもスリムでいつもおしゃれで朗らかだった。


理想のお金持ちと結婚したが彼女は壊れていった。


潔癖症の完璧主義者からすべてダメ出しをされて掃除も洗濯も禁止。


作る食事もまずそうに食べられて美味しいとは一度も言われたことがない。


喋らなくなった。笑わなくなった。


仮面用顔貌で、明らかなうつ状態である。


手足は細いのだがお腹だけはポンポコリン。


それでもいい女だと言われた自分自身をまだ信じている。


派手な服を着て、ぎゅうぎゅうのウエストのボタンをしめ長い髪を翻す。


過去の栄光を失うのはとても苦いだろう。


だが現実を見ないことは、ある意味幸せなのかもしれない。


ある日、年収1億だったというとても美形のクラブオーナーさんと話していた。

「前から聞きたかったんだけど彼女に興奮できるの?」

「俺もそれが聞きたかった」

「もうビンビンです」

「「さすがケダモノ!!」」


みんなも酷い。




クラブオーナーさんは女嫌いだった。


貧乏を馬鹿にされないと高校生からホストを始めて、そんな若さで化粧臭いおばさん達を相手にしていたら嫌になってしまったのだそう。


それはどうでもいい話なのだが、オーナーさんはナルシストではなかった。


自分がかっこいいのはわかっている。


その自信がある。そういった人だった。




私が一番美しいと思うのは、たぶん茅田砂胡さんのデルフィニア戦記に出てくる一文だろう。


『備忘など何になる?それが俺に何の関係がある?』


人の美醜などを超越した何か。


多分私が探しているのはその目かもしれない。

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