第33話 渋谷のベリーダンス教室

その昔は渋谷パルコに様々な教室があった。


「メイクレッスン」→あまりに基礎的すぎて最後は誰も見向きもしなかった。


「リンパマッサージ」→何か修羅場を見た。


「のび太くんの朗読教室」→小原乃梨子さん講師。ファンクラブのようなものだった。


私は、わからないならば飛び込んでみるべきだと思う人間なので、わからなければすぐに受講するのだ。


一番長かったのがベリーダンス。


ベリーダンスは、体のパーツを頭.胸.腰.足と四つに分けて、それぞれを個別に動かすことで他のダンスでは見られない独特な動きを表現する。


だから一種異様に見える。


ビートたけしさんが首だけをヒョヒョッと動かず芸を見た事があるだろうか?


あれもベリーダンスの技の一つとして授業では教わる。


先生のダンスは素敵だし、何年も習ってきた人はさすがに色っぽい。


ふと最近入った初心者さんを見て仰天した。


……それは阿波おどり?!


踊りなれから上手いのか、運動神経の問題なのかはちょっとわからない。


ある日先生が言った。


「皆さん!今度渋谷パルコの発表会があって皆さんもステージに立てます!」


…ガ~ン!!!


私は振り付けを覚えられない。


教室では先生を見ながら一拍遅れて踊るのであって、発表会の舞台でそれは駄目だろう。


舞台の為にアクセサリーを買いに行きヴェールやブラを手作りした。


どうすれば振り付けを覚えられるのか?


人がどうやって振付通りにも踊れるのか分からない。


頭で考えるとどうしても一泊遅れるから、それなら体に覚えさせればいいんだ。


それから自分の部屋で洗濯場で、体に覚えさせようと50回も100回も練習した。


たが、駄目だった。


舞台の最初で真っ白になって止まり、その後は落ち込みながらなんとか踊った。


「アンニュイだなあ」


先生が私のダンスを見て言った。


ラストだけ決まったから許して欲しい。


振り付けを覚えるのは才能なのかもしれない。


それが音楽の一端であるならば、絶対音痴である私には辿り着けないのかもしれない。


ただベリーダンスの良いところは振り付けがないところである。


自分の感性で思うようにステップを踏める。


だからそれからも続けられたのかもしれない。


3ヶ所で習った。


だが総合病院で働いた後、30分自転車をこいで教室に通い、1時間かけて家に帰るのはとても厳しく、途中で挫折してしまった。



今度は DVD を買ってステップを練習したりしているのだが、明らかに教室と難易度が違う。


ダンス教室は入れ替わりが激しく次々に新人が入ってくるので誰もが踊れる簡単なステップをずっと練習してるということなのかもしれない。




 忘れられない思い出 no.3


男性と女性ではベリーダンスに対する見方が違うと思う。


ナースだけの飲み会でベリーダンスを踊ると、みんな腹を抱えて笑う。


つまりは宴会芸である。




 忘れられない思い出 no.2


トルコフェスティバルが原宿であった。


歌やサンバやベリーダンスの舞台があった。


私が踊れると聞いたダンサーが上がっておいでと呼んだので、荷物を舞台の下に放り込んで駆け上った。


すみっこでチマチマを踊るのは性に合わないので、とりあえず派手ならがいいやという感覚である。


もう最後は何のダンスだか分からなくなってしまったが、とりあえずサンバダンサーと数珠繋ぎになって会場中を笑いながら走った。


死ぬかと思うくらい苦しかった。


多分心拍数200以上いったと思う。




 忘れられない思い出no1


教室の飲み会で道玄坂の居酒屋にみんなで行った。


「仰向けに寝てお腹に並べたコインを一枚ずつ裏返す技があるって聞いたんですけど、それはどうやるんですか?」

「それはベリーダンスで一番難しい技です。お腹の筋肉をウじムシのように動かすのよ!」


おもむろに先生が T シャツを捲り上げブラジャーにたくし込んだ。


「見てごらんなさい。こうよ」

先生のお腹が違う生き物のようにぐにゃぐにゃぐにゃぐにゃ自由自在に動き出した。


「ベリーダンスとは気持ち悪いものなんです!」


「えー!私もできるかもしれない」

女子校生がお腹を出した。


「こうかしら?」

生徒さんたちもみんな腹を出してキャーキャー騒ぎだした。


周りの若い男性たちが一乙付き合いながらニヤニヤとみんなの腹を見ていた(汗)



ベリーダンス教室でそれが一番心に残る光景である。


なおベリーダンスで次に難しい技は胸だけを振り回すこと。


その次が片足貧乏ゆすりだと思う(笑)

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