第31話 職場はみんな理不尽(笑)
医者が言った。
「那由他ちゃん。英語ペラペラなんでしょ。今度ドイツ語しか喋れないドイツ人来るから担当してよ」
何を言われたかわからなかった。
隣で同じように聞いていた同僚に尋ねた。
「あの先生、今何言ったか分かる?」
「分からないわ。でも那由他さんがこれからドイツ語習えばいいんじゃないかしら」
明後日来るのに無茶苦茶である。
私は英語は読めるが聞き取れない。
そもそも海外には観光に行くのであっておしゃべりしに行くわけではない。
決まりきった言葉だけ覚えていればいいし、英語圏外では英語で尋ねると逃げていく人もいる。
尋ねる意味もない。
とりあえず『ドイツ語会話集』を買って必要最低限の挨拶と、看護師として毎回のルーティンで聞きたいことの対応表を作った。
結局他の病棟にドイツ人は入院したらしいが、私の作成した対応表は便利だったらしい。
それだけは良かった。
「那由他さん。さつきさんが心配だから、今どうしているかルワンダに行って見てきてくれない?」
同僚のナースが言った。
知ってる人もいると思うが、ルワンダには血で血を争う内戦があった。
さつきさんは、その当時に青年海外協力隊としてルワンダにいた。
危険と日本政府に保護され急遽帰国し、その後戦争の実態を知った。
それからずっとお世話になったルワンダの人たちを心配している。
「いつか恩返ししたい」と何度もそう言ってるのを私は聞いていた。
ルワンダ旅行を同僚に促されたその時は肯定したが…その後で断った。
ルアンダはフランス語圏じゃないかとかエボラ出血熱が怖いとか理由はいろいろある。
「わかった、ごめんね」
人に求めるよりも、自分ができることならば自分でやればいいと思う。
「那由他ぁ。命取られる覚悟しとけよ」
私がストーカーに着けまわされた時に婦長が言った。
「はい、わかりました」
婦長は厳つい人だった。
だが病院というものはヤクザの組事務所ぐらいの覚悟がいるのかな?
「いっけなーい」
とある旅先で思い出して病棟直通電話をした。
「もしもし。那由他です」
「那由他さん、今どこにいるの?」
「バーリにいます」
「バリ島にいるの?」
「違います。イタリアの南のバーリという町です。健康診断を忘れちゃって婦長さんにすいませんと伝えてくれますか?」
「ええ、わかったわ」
その後同僚から聞いた。
「婦長さん言ってたわよ。那由他は馬鹿だなって!」
理不尽な話を色々書きましたが、結局私が一番間抜けでしたというオチで終わります(笑)
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