第25話 絶対音痴

「那由他さん。私ね。保育士の資格試験受けてみるんだけど一緒に受けない?」

職場の友達に誘われた。


「いーよ」

私はたいてい何でも断らない性格だ。


試験まで一ヶ月。


まず一次試験の座学の参考書八冊揃えてピアノを買った。


勉強はどこにいてもできる。


だが、仕事以外に友禅染めと生け花に毎週通っていた私がピアノの時間まで作り出すのは地獄のようだった。


まずドレミがわからない。


楽譜にドレミを書いたら先生が絶句した。


ドロドロに疲れて起きられなかった時にピアノレッスンはストップしてしまった。


試験日にもやっぱりドロドロだったが半分受かった。


試験は数年かけて全て受かれば良いシステムらしい。



「二次試験は実技で今年はバイエル89番だったらしいの。そんな超絶技巧無理だわ~」


 早く言ってくれー!

 それより最初から調べてくれー!!


付き合ったのは私一人だけだったわw


保育士学校卒業生は必ず取れるが、一般受験生には非常に高いハードルがあるのが保育士資格だと学んだ。


それからも時々初級バイエルを弾いていたら父が喜んでいた。


父が望んだのは英語を話しピアノを弾く娘だったから。


手狭になった時にピアノは片隅に置かれ、やがて捨ててしまった。


最近また小さなキーボードを買いナウシカの「遠い日々」を練習している。


だが、やはり楽譜が読めない。


「♯は半音上がるか下がるかで黒い鍵盤弾くらしいよ」

「1番上が右手なら、2番目と3番目は何?」

「わからないよ」


レベルの低い会話である。



ちなみにピアノを弾きながら歌うという実技も他県にはあるようだ。


無理無理ー!


私は絶対音痴なのだ。


歌手の声を暗記してモノマネとしてなら歌える。


歌手の声を忘れた時に、その歌は歌えなくなる。


それでも人は音痴だと気づかない。


「私音痴なんだぁ」

「嘘だぁ〜(笑)」

「♫ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド♫」


友達の目が点になった。


ボイストレーニングをやってハイツェーを簡単にだせても絶対音痴は直らない。



ただし、ド・レ・ミを言わなければバレない音痴なのである(笑)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る