第21話 永遠のドロシー👧

友達に誘われて芝居をやった事がある。


大学のサークルから始まった劇団で平日は会社員として働き、週末に公共施設で練習して一年に一回でも舞台にかける。


いわゆる社会人劇団だ。


最初の舞台は「クリスマス・キャロル」


私はスクルージの家の前で騒ぐ子供の役だった。


開幕と共に舞台に飛び出して、あたり一面の雪景色が見えた。


夢中で野次を飛ばしながらスクルージの家を蹴った…?!


後で言われた。


「なゆがいきなり蹴り出すからビックリしたよ」

「たくさん積もった雪が見えてね。気づいたらやってた」

「舞台の魔力だ」


そうとしか言いようがない。


スクルージは素晴らしかった。


だが印象に残ったのは魔女だ。


「なゆ、ちゃんと魔女に見える?」

「うーん。羅生門だな」

「そっちの方がひどいじゃない(笑)!!」


妙齢の美女が死体から髪を抜く老婆に思えた。



次にかけた舞台は「オズの魔法使い」


300人が入る舞台を無料開放した。


だが問題は…


「誰がドロシーをやる?」


皆で顔を見合わせた。


キャラもあるし、仕事も忙しい。


それだけの時間が取れない。


「なゆできない?」


  無理無理無理っ!!

  声は出ないし頭悪いし音痴だしっ!!


「私がやります」


決然とした眼差しで手をあげたのは魔女の役をやった美女だった。


エプロンドレスにお下げの三編み。

バスケットを持てば可憐な少女ドロシー👧に変わる。


私の役はマンチキン。


「なゆさん、マンチキンって何?」

職場できかれて両手を広げた。


「わ~い! ドロシーが悪い魔女をやっつけてくれたんだ!!」

満面の笑みを浮かべて。


賢くはないけれど、子供のように無邪気な森の住人達だ。


しかし職場でやる事ではなかったかも…。


私はいつでもマンチキンにはなれるが、永遠にドロシーにはなれないと思う。



「オーバーザレインボー」を歌いあげるドロシー。


屈託なく笑うドロシー。


怯みながらも前に進む勇気のあるドロシー。


エムおばさんの家に帰り着くドロシー。


「夢を見たのよ、ドロシー。熱があったから悪い夢を見たのよ」

「そうよね、エムおばさん」


私が見たどの舞台よりも彼女のドロシーは鮮やかだった。

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