第2話 魔女は時代遅れ
この世界は魔導が支配している。
そして、人の価値は魔導がどれだけ扱えるか、つまり魔力で決まる。
……なんて言われたのは、もう100年も前の話。
機械が発達したおかげで、文明は一気に進歩。
扱える者が限られる魔導より、誰でも使える機械が圧倒的に普及した。
わざわざ精神力とか、魔道具(消耗品)の準備が必要な通信魔導を使うくらいなら、今のご時世スマホで連絡した方が速いし。
魔力と体力と、ついでに並外れたバランス感覚が必要な飛行魔法も、バイクや車、小型の簡易飛行装置にとってかわられて久しい。
数世紀にわたる神秘の蓄積で大成させた”都市殲滅魔導”。そしてそのおかげ栄華を極めまくった大英帝国が、核ミサイルで都市に刻まれた魔導刻印もろとも首都が吹っ飛んだことを契機に、長かった魔導の時代は急速に終わりを告げた。
ちなみに大昔は、魔導刻印が少ないってだけで奴隷にされたり、差別階級になったりしたらしい。まあ、私たちの時代は魔力なんてなくても、いくらでも生きていけるから、そういう意味ではいい時代になったのだろう。まあ、かんなのような魔力が高い子が評価されにくい時代には、なってしまったけれど。
こうして魔導は必須技術じゃなくなって、エンターテイメントやスポーツとして扱うものになっていた。
あっても困らないけど、なくても別に困らない。スポーツでちょっと活躍できる、そんな程度の才能。
そんなご時世に流行っているのが『魔導戦』。
あらかじめ規格化された魔導を使って、広いスタジアムの中で攻防を繰り広げる。
ダウンを取るか、どちらかの魔力切れで勝敗が着く。
魔導戦のメインコンテンツはもっぱら四対四の集団戦だけど、タイマン勝負の個人戦もそこそこ人気がある。
そして、公式戦の試合は動画が残るから、そこから広告収入だったり、サブスクの入会なんてお金の稼ぎ方もある。有名どころともなれば、結構な額がもらえたりするらしい、そういう人をまあ、プロと呼ぶ。果たして魔導戦プレイヤーの上位何パーセントがそこに入るのかは知らないが。
そんなこんなで、私は個人魔導戦用の体育館にて動画撮影の真っ最中だ。
大きな体育館の中に魔力壁で八個程度の区切りを設けて、それぞれの区画内で一対一で対戦が行われている。
魔力壁は透明な膜のようなものでできていて、外から観戦・撮影が可能。
というわけで、友人のかんなの頑張る姿をスマホで撮って、後々動画投稿するわけだけど。
あちゃ……。
スマホに声が入らないよう、口には出さないけど思わず、ため息を漏らす。
かんなの手から放たれた溢れんばかりの閃光が、収束して、当たれば必殺の”
ちなみに、”光撃”は当たれば、確かに大ダメージなのだけど、発動後に反動があって上手く動けないので……。
「どぅわぁっちゃあっっ!!」
返し手で撃たれた相手の”
収束した魔力がかんなの目の前一メートルくらいで爆発して、勢いのままかんなは吹っ飛ばされる。
そのまま、かんなの華奢な身体が試合場端の魔力壁に思いっきり激突した。べちゃっていうなんとも情けない音の後、ずるずるとかんなの身体が崩れ落ちる。
対戦相手の少年はもし起き上がってきた場合に備えて”光撃”を構えてはいるけれど……あれはもう無理でしょ。
案の定、一秒と経たないうちに、かんなの周囲に魔導陣が展開して、試合場の外に強制転移させられた。まあ、だよねえ、やっぱ。
『
そんな音声が会場に響いて、試合終了のブザーが鳴る。
周りで見ていた10人ほどの観戦者がおおとざわめいたり、対戦相手に声をかけていた。多分、向こうさんの知り合いかな。
私はスマホの録画を終えて、かんなの傍に駆け寄った。
「大丈夫? かんな」
「……ッ」
「……どっか打った?」
「うがーーっっ!! 悔しいーーーーっ!! なんでじゃーーー!!」
そこそこ大きな体育館にかんなの雄たけびが響いていた。そんなわけで、私の友達の戦績は総じて芳しくないのであった。
「なんで負けるのかなぁ?」
「自覚なしかあ……」
首を傾げる友達の隣で私は思わず苦笑い。
こりゃあ、後で反省会だねえ。
※
Tips:柊 まり:かんなと同い年、今年から晴れて大学生の一人暮らし。かんなとは高校生の頃からの付き合い。魔導の才能がないため、魔導戦をちゃんとやったことはないが、かんなにアドバイスするためだけに、そこそこに知識をつけている。独り暮らしを初めて痛感したのは業務スーパーのありがたさ。最近おいしかったパンは焼き芋パン。
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