第五十五話 夕顔

『花言葉は十七世紀ー当時のオスマン帝国ー現在のトルコを起源に生まれました。

 当時のオスマン帝国では、愛の表現の為に花を贈る習慣があり、そこから花言葉が生まれました。


 その後、ヨーロッパに花言葉が広まり特にフランスの貴婦人の間で大流行して花言葉の本はベストセラーとなりました。


 日本に花言葉が流入したのは明治時代初期です。花言葉は、各国、文化、風習によって全く異なる意味を持っており、一輪の花でも複数の意味を持っています。


 日本も独自に花言葉が生まれるようになりました。』


 紗弥加さやかは大学の卒業論文の為に花言葉について調べていた。卒業後は大手の花屋に勤めることが決まっていたのでこの題材は最高のアイディアだ。


「どう、進んでる?」


 教授の林先生がパソコンを覗き込んだ。


「びっくりしたぁ。はい。進んでいます」


 先生がパソコンに『夕顔』と打ち込んだ。


 私は思わずドキンと心臓が跳ねた。

これは、先生からの逢い引きの合図なのだ。


 先生と逢い引きする日が朝なら『朝顔』昼なら『昼顔』夜なら『夕顔』と花言葉でやり取りしている。

 嬉しくて顔がニヤけるを我慢しながら先生を見上げた。先生は全く表情を変えずにパソコンを凝視している。


 夕顔は、源氏物語を起源とした花言葉を持っている。光源氏の恋人であった夕顔が、その美しさに嫉妬されて幽霊に呪い殺されたことから夕顔は『罪』や『はかない恋』という意味があるそうだ。


 でも、そんなことは気にしない。今から教授の部屋にコッソリ移動する興奮だけが紗弥加の心を占領していた。


 デスクの上には、先生の奥さんと子どもの写真が飾ってあるが、私が行くときにはいつも伏せておいてくれる。でも、そんなことは気にしない。この一瞬の快楽を楽しむだけだ。


『夕顔 花言葉 罪・はかない恋』

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