第五十三話 ハナキリン

 新居の御祝いにと、夫の直属の上司の伊達さんが夫婦で家に来てくれた。伊達さんは結婚式でもスピーチをしてくれたし、息子が産まれたときには御祝いを包んで頂いた。

伊達さんは社内ではトップクラスの立場であり、夫の昇給審査にも関わる大切な人だ。


 私達は珈琲とケーキでおもてなしをした。伊達さんの奥様は「まだ、お子さんが小さいのに準備してくれてありがとう」と優しい気遣いをしてくれて、息子にまで絵本とパズルを買ってきてくれて一緒に遊んでくれている。二人はすでに四十代の半ばくらいだがとても若々しく、上司としても寛大でとても好感が持てる。


「うちの子どもたちはもう大学生だから。小さい頃が懐かしいわ」


 他にも新築祝いと、もう一つハナキリンという可愛らしい赤い花を付けた観葉植物を持ってきてくれた。

 意外にも伊達さんの趣味が観葉植物なのだとか。


「この、観葉植物は棘の無いハナキリンを買ってきましたので危なくないですよ。日中は日当たりの良い場所に置いてください。夏の直射日光と冬の寒さは苦手ですが一年中楽しめる観葉植物ですよ」

「ありがとうございます」


 伊達さんの奥様は息子と遊んでいて、夫が観葉植物をベランダに配置していると、キッチンにいる私の元に伊達さんが珈琲カップを持ってふらっと現れた。


「カップを持ってきて下さったんですね。すみません」


「あの観葉植物は風水的には『寄せ付けない』という意味があるので窓際や玄関に置くと悪い気を寄せ付けないですよ。それから……」


 伊達さんは私を後ろから抱きしめるように手を伸ばしてカップを手渡してきたので、私はビクッとしながらカップを受け取った。


「花言葉は早くキスして。って意味ですよ」


 伊達さんが耳元で囁やき、私は声にならない悲鳴を上げてカップを床に落とした。


『ハナキリン 花言葉 早くキスして』

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