第四十二話 ノースポール
秋から春にかけて毎年父は丹念に花壇の花のの世話をしている。その花の名前は『ノースポール』見かけはマーガレットを小ぶりにしたような花で、何故わざわざこの花を育てているのか知らない。
ただ、父は昔から時々気味の悪いことを言っていた。大人になった今、私は改めて父に聞いた。
「あの花を手入れしてる時に前世がどうのって話してたよね? ……どういうこと?」
父は洗面所で泥のついた手を洗うと、リビングにパタパタと急ぎ足でやって来た。話したくてたまらないといった顔だ。
「お前ももう大人だし。いよいよ話すかな」
父はケトルでお湯を沸かし珈琲を注いで自分と私の分を持って椅子に座った。
「俺はな、昔はW県のF町に住んでいたんだ」
「実家はR県だよね? いつW県にいたの?」
「W県にいたのは前世の話。産まれたのは江戸時代だったけど当時は学校にも行けずに親の畑を手伝っていた。ある年、大飢饉があって祖父母を山に捨てて、年端も行かない妹達は置屋に売ってしまった。私は町に働きに出たけどなかなか職にも付けなくて。ちょうど江戸から明治時代に移り変わるときで明治維新以降、西洋文化を取り入れて教養も必要な時代になっていたから」
父が珈琲を飲んだので私も珈琲を飲んで、クッキーの箱を開けた。
「なんとか働き口を見つけてね。大きな屋敷での庭仕事を住み込みでしていた。実家に仕送りをしながら働いていたんだけど。ある日私は雇い主の娘さんを殺してしまったんだ。彼女は結婚が間近で幸せそうでね。私は彼女が好きだったから結婚を引き留めたくて押し倒して犯してしまった。それから自分のしたことの重大さに気づいて……衝動的に鎌で彼女の首を掻っ切って遺体は川に捨てたんだけど……その川沿いに咲いていたのがあのノースポール」
父は珈琲を飲んだ。
「当時は鑑識とかないからね。屋敷の近くにいた浮浪者が罪を擦り付けられて刑罰を受けた。私はそのまま屋敷で働きながら家族を持ってそこそこの寿命を全うした。そして前世の記憶を持ちながら今の人生を歩んでいるんだ」
父はコーヒーを飲み干した。
「どうだ。映画みたいだったろ?」
「……うん。在り来りな内容のB級ホラー映画だね。最低評価。でも、それが父親の前世なら……。鬼畜だな……」
『ノースポール 花言葉 輪廻転生』
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