第三十九話 ブルーポピー

 居酒屋で、根室ねむろはかなり酔っ払っていた。昔は営業成績が良く人一倍稼いでいた根室だが最近は上手く行っていないようでこうして一緒に飲みに来ては愚痴り合っている。俺は店員に上がりのお茶を頼んだ。


「なぁ、この前俺さ。北海道に出張に行っただろ?」

「あぁ、そうだな」

「そこでさ。営業所の人の奥さんとヤッちゃったんだよ」

「えっ! 誰と?」

「所長の奥さん」

「えー! まじで?」

「俺より十歳は歳上なのに異様に魅力的に見えるんだよなぁ」

「俺も会ったことあるけど綺麗でスタイルいい人だからな」

「そうだろ? 出張最終日前日に所員と飲んで、酔った所長を送ったときにさ……」 

「そんな、マンガみたいなこと本当にあるんかよ」

「あるんだよ。所長をベッドに運んで。それから俺は水をもらって帰ろうとしたらさ所長の奥さんがしなだれて来て。そのまま電気消してソファで」

「うわー。その展開ドラマかよ。って、お前も奥さんにバレたらヤバいだろ」

「大丈夫だって。出張先での偶然の出来事だから。それでさ、事を終えて着替えてるときに気づいたんだけどに部屋の隅の鉢植えに青い花の付いたケシがあって、俺驚いてさ」

「ケシって何?」

「知らないのかよ! 違法植物だよ」

「違法植物?」

「ケシはアヘンの原料だよ。花が枯れると身が出来て、そこから出る乳白色の液からアヘンが出来るんだ。ニュースとかで山中で違法栽培していた……みたいなニュース見たことないか? で、後から気付いたんだけど青い花が付いたケシはブルーポピーって言って栽培を許可されている種類だったんだ。ケシを見て驚いている顔を所長の奥さんはニタニタして見てたよ」

「へぇ……根室って物知りなんだなぁ」

「ブルーポビーの花言葉は底知れぬ魅力……だぜ。奥さんのあの身体つきと腰の動き……また北海道出張行きたいなぁ」


 根室はニタニタと下衆な笑いを見せた。


(根室は何でケシとかブルーポピーとかに詳しいんだ?)


 下衆な顔を見ながら俺は根室と距離を置こうと思った。


『ブルーポピー 花言葉 底知れぬ魅力』



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る