第二十話 リンドウ

 部屋には、美しい濃紫のリンドウの花が飾られている。久しぶりに来た父の部屋にこんな花があるとは驚いた。


「どうしたの? 花なんて飾るなんて?」


 母が先に他界してから、時折訪れていたがいつも殺風景な部屋だったのに。


「もらったんだ」


「誰から?」


「田沼さん」


 田沼さんは母の通夜にも来てくれた自治会の会長さんだ。


「一昨日の夕方、持ってきてくれたんだよ。自治会から抜けるのに揉めたからまさか花を持ってきてくれるなんてな」


 最近は自治会を抜ける人が多く、長年会長をしていた田沼さんは家に怒鳴り込むようにやってきたらしい。そこで、延々と辞めないように説得されたが昨年度を区切りにうちは退会した。他にも退会した家が多かったと聞く。


「そう……」


 帰り道、田沼さん宅の前を通ると庭にたくさん鉢が置いてあり、濃紫色のリンドウが咲き乱れている。

 なんとなく嫌な予感がして、帰宅してからふとスマホでリンドウについて調べてみた。リンドウは高山植物で、梅雨や夏場に育てるのは大変な花だと書いてある。よくもまぁ、あんなに育てたなと感心していると、最後の一文に私は驚愕した。


『リンドウの花言葉 あなたの不幸が大好き』

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