第十九話 エリカ

 部屋に入る前から明らかに異臭が漂い、ルカは部屋に入ることを戸惑った。

彼女から一週間連絡が来ないなんて初めてだった。休みの日に合鍵を持って家まで来たが、この異臭は明らかにおかしい。

なぜ近隣住民は通報しなかったのだろうか。


 ルカが恐る恐る鍵を開けて中に入ると、かなり濃い異臭。それは、鶏肉が腐ったような鼻を突く臭いだった。それから、ブンブンとハエの飛び交う音。

鼻と口を手で抑えて、吐き気を堪えた。


 瞬間ーーーーー


 彼女が真ん前にいた。


 ルカよりも身長が三十センチも低い彼女が同じ目線の高さで立っていて、目玉が飛び出している。


「……っ!」


 彼女は首を吊っていた。上を見ると玄関の電機から紐が垂れ下がり、彼女の後ろにいつも使っている椅子が倒れている。


 ルカは部屋を飛び出してすぐに警察に通報した。外に出て待っているとき、玄関先のポットに花が植えられているのに気付いた。

 ピンクの花弁はなびらに中から黒い雄しべが見える不気味な色合いの花だ。まるで蛇の目のようだとルカは思った。


 思わずポットに近付いて見ると、土から顔を出しているカードに『花言葉屋』と書かれている。よくよく見ると花言葉まで書かれてあり、ルカは目を細めた。


『エリカ 花言葉 孤独 寂しさ』


 長年セフレで満足そうだったのに、どうして彼女はこんな姿になってしまったのだろう?





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