第十八話 葡萄

 家の近くの角に立つ電柱には、毎年五月の下旬にブドウの花が薄紫の包装紙に入れて置かれている。

 家でブドウの栽培をしているからブドウの花を知っていたが、知らなかったらゴミが包まれているとでも思っていたかもしれない。

 というのもブドウの花は、小さな緑色のブドウの房のようなものにわずかに白い花弁はなびらのようなものが付いているだけだからだ。パッと見は食べ終わったブドウの緑の房にしか見えない。


 ある日の学校からの帰り道、ブドウの花を置きに来た女性を見かけた。サッと花を置くとすぐにその場を去っていった。

 帰宅してから母に女性のことを話すと、母は苦笑しながら話してくれた。


「あぁ……貴方が赤ちゃんのころの事故よ」


「どんな、事故だったの?」


「飲酒運転よ。普通自動車が自転車をはねたの。自転車に乗っていた小学生は二人乗りをしていて前に乗っていたお子さんは亡くなって、後ろに乗っていたお子さんは軽症だったって。その軽症だったお子さんのお母さんが毎年ブドウの花を電柱の下に花を置きに来るの」


「なんでブドウなの?」 


「実はね……事故を起こしたのはそのお家のお父さんだったの。昔は飲酒運転の刑は軽くてすぐに戻ってきたみたいだけど、離婚したみたい。ブドウの花言葉は、『酔いと狂気』それから『慈善』という意味があるの。奥さんはお父さんを責めながらも許してるのかしらね?」



「それって、離婚したうちのお父さんのこと?」


 電柱に花を置きに来たのが母だったことを私は見ていた。


『ブドウ 花言葉 酔いと狂気 慈善』 


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