第十七話 ごぼう

 最近私は仕事を辞めた。これまで保育士として働いていたが、横暴な園長に対して一斉退職というデモを行うことになり、園児のことは心配だったが辞めざるを得なかった。

 ニュースでも取り上げられ、全国的に大きく報道された。

『給与の支払い遅れ! パワハラを行う園長!』などの文字がテレビに踊っていた。


 程なくその園は閉園となり、遅れていた給与も支払われ、私は新しい仕事先もすぐに見つかった。


 新しい職場に慣れたある日のこと、私の家に何かが贈られてきた。宅配ボックスに入れられている物を確認すると『花言葉屋』と書かれている。

私は青ざめた。送り主は、あの元園長だったからだ。

 部屋に戻ってから箱を開けて出てきたのはアザミに似た形の紫と黒の花だった。毒々しい色合いの棘棘とげとげした花が花束になっている。


 あのデモの時、園長は私達に涙ながらに懇願していた。

『辞めないでください!』

 私達は返した。

『給与を支払い待遇を改善して下さい!』

 園長はそれからアワアワと訳のわからない言い訳を口にしていた。そのまま挨拶もせずに退職した。


 私は同僚に連絡をすると同僚にも同じ花が贈られてきたそうだ。

『園長、ネットで叩かれて自殺したみたいだよ』

「えっ……!」

『このゴボウの花束の下に入ってたカード見た? 花言葉、私を虐めないで下さいって書いてあったよ』


 後味の悪さに私は身震いした。

 私達が園長を追いやったのか、ネットの誹謗中傷が園長を追いやったのか……


 彼女が悪いのに、今度追い詰められるのは私達だ。


『ゴボウ 花言葉 私を虐めないで』


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