第十六話 染井吉野

 三月の末の暖かい春の日、小学校を卒業して暇を持て余していた私は小学校の隣の公園に一人でお花見に行った。私はソメイヨシノの桜の樹の下に座り青空を見上げた。

あの日のことを思い出すと懐かしく感じる。


 一本だけ、他の樹よりも濃く紅い花をつけたその樹は幼い頃から私のお気に入りです。

 何故その樹だけが紅いのか私は知っています。


 あれは、幼稚園生の頃の春休み。私はお母さんと友達と一緒に花見がてら遠足に行きました。

 その中に、私の大嫌いな子がいました。その子はいつも、私のことを「バカ」とか罵ったり、叩いたり虐められていたのに母親はママ友の繋がりがあるからか先生にすらも相談してくれませんでした。

 私は滑り台に登り、最後尾に並ぶその子のパーカーの紐をこっそりと引っ張ると手すりに括り付けました。その子が滑る時には私は別の遊具に移動していて、誰もその子の異変には気付きませんでした。


 私がこっそり滑り台に戻るとその子は変わり果てた姿になっていたので、パーカ  ーの紐を解いてあげました。その子は下まで滑り落ちていきました。

 母親達は話に夢中で、誰もこちらには気付きません。

 私は滑り台を降りた先にある桜の樹の下に深い穴が掘ってあるのを見つけてそこに女の子を入れました。きっと子どもが掘って遊んだのでしょう。横にあった土を被せたら、何も見えなくなりました。

 お昼の時間になりました。その子の母親は我が子がいないことに気付き焦り始めました。友達の一人が「公園から出ていったよ」って言い出したので、母親達は慌てて探しに行きました。


 今でもスーパーとか交番の前にその子の写真の張り紙が貼られています。


「桜の樹の下には屍体が埋まつてゐる!」


 有名な日本文学作品の冒頭のシーンを私は後から知りました。本当に桜は血を吸って紅くなるんですね。ソメイヨシノの花言葉『優れた美人』とは、この樹の為にある言葉だと思います。

 一人埋めたくらいではここまで《・・・・》紅くはならないと思いますがね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る