第十三話 キンセンカ

 ある日の夕方、真田晴さなだはるは、引越し後にまだ開けていない段ボール箱の整理をしていた。

 少し古いアパートだったが、部屋はリノベーションされていて室内は真っ白な壁、ワックスの輝く床、キッチンもタイル貼りとお洒落で1Kでも一人暮らしには十分だった。築年数が古いからと家賃も相場より少し安かったのが決め手だった。


 晴がクローゼットの中に衣類をしまっているときだった。


 ピンポーン


インターホンが鳴り、モニターを確認すると女性の配達員がいた。


「はい?」

『花言葉屋です。花の配達に伺いました』


 晴は玄関のドアを開けた。


「こんにちは。こちらがお届けの商品です」

「はぁ……」


 宛名と送り先を確認すると、住所は合っているものの宛名は書かれておらず送り先も記名されていなかった。


「えぇ?」

「住所は合っていますか?」

「合ってますが……宛名とか一切書かれていないんですが。……まさか送りつけ詐欺?」

「とんでもないです。私のお店で注文を受けて配達に伺いました。請求書等は入っておりませんので安心してお受け取りください」


 晴は、戸惑いながらも箱を受け取った。

 玄関のドアを閉めてから戸惑いつつも箱を開けると中から可愛らしいオレンジの花が出てきた。花束になっており、オレンジ色のリボンで束ねられていた。花束の下にメッセージカードが入っている。


『どんなに時間が経とうとこの日が来るたびに貴方あなたを思い出します』


 晴はなんの事だろうと不思議に思った。メッセージカードはもう一枚入っている。


『キンセンカ 花言葉 失った悲しみ・絶望 』


 晴は、ふと考えた。リノベーションされた部屋、安い家賃。不動産屋では何も言われなかったが……この部屋もしや……。

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