第十二話 紫陽花

 六年二組の担任の立花はいよいよ、夏休みの感想文の宿題に目を通すのも最後の一枚になった。最後は難関私立中学に受験する渡辺海斗わたなべかいとだった。


題名 『紫陽花あじさい


 僕に夏休みの思い出はありません。毎日塾、夏期講習、家では塾の課題、そして学校の宿題をしていました。自由研究や読書感想文を書くのは気分転換になりました。

 僕は自由研究に紫陽花を育てる研究をしました。地植えは両親から反対されたのでポットに一本だけ育て六月に見事に紫の紫陽花が咲きました。すごく嬉しかったです。僕も受験に合格したらこんな風に花開く喜びがあるんだろうと思いました。

ですが、紫陽花は夏休みの始めに枯れました。

 紫陽花には『忍耐強い』という意味があります。僕はその意味の通り、忍耐強くいなければなりません。

 ですが、紫陽花は枯れました。僕は紫陽花をドライフラワーにしました。色褪せて何の香りもしません。

 これは、今の僕です。


 立花はため息をついた。このクラスには少なくとも三人、カウンセリングが必要かもしれない。

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