第十一話 夏水仙

 六年二組の担任の立花は中林の夏休みの感想文を読んだあとに、ゴールデンウィークに帰省したときのある出来事を思い出した。


 実家に帰省した日の晩、両親と酒盛りして翌朝は立花はゆっくり寝ていたが、両親は昼食にニラ玉を食べて食中毒を起こした。

 ニラだと思っていたものが有毒の水仙の葉だったのだ。しかも、夏水仙というは少し変わったヒガンバナ科の花で、春はニラにそっくりの葉が生える。夏に花が咲く頃には葉は枯れてしまい花しか残らない植物だった。

 両親は軽症で済んだものの、せっかくの帰省は病院の往復で終わってしまった。

 立花は病院に立ち寄ったときに、どうして間違えて食したのか聞くと、母が小声で言った。


「あのね……あの夏水仙は裏の倉田くらたさんがくれたのよ」


 裏の倉田さんは昔から一軒家で一人暮らしをしている近所のおばあちゃんで趣味でガーデニングをしており、小さな庭に野菜や畑、そして花をたくさん植えていた。


「ほら、夏水仙は春は花を付けない品種だからニラと間違えちゃったんだと思うの」


 結局うちの両親は倉田さんのことは申告はしなかった。が、他にも近所に配ったらしく、他の人から病院に申告があり倉田さんは警察から厳重注意を受けたそうだ。


 しかし、倉田さん本人は食中毒になっていない。理由はわからないが有毒植物だと知ってて近隣の人に配ったのだろうとの結論に至り、今後は何をもらっても廃棄することにした。


 お盆に帰省すると、倉田さんは施設に入居したそうで、空き家になり庭は荒れ果てていた。畑にピンク色の夏水仙が咲いているのを見つけた立花は薄ら寒くなったのを思い出し思わず身震いした。


 ふと夏水仙について調べると花言葉は良い意味がある中で「悲しい思い出」という負の意味も含まれていた。倉田さんにしかわからない何か負の感情が彼女を動かして有毒植物を配ったのだろうか。


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