番外編 人魔対抗アウフグース対決 ②

「次のアウフギーサーは……人間から、『使い魔術師』のオルメンさん!!」

「フフ……皆様には『使い魔』のすばらしさを体感していただきましょう……」

 次の呼び込みで前に出たのは、キザなふるまいの初老の男性。一礼すると、持っていたかばんから何かを取り出し準備し始めた。

「えー、オルメンさんが準備している間に軽く説明させていただくと、『使い魔術師』は人形『使い魔』に魔術をかけて、いろいろな命令をさせる魔術師ですね」

「そうですね。僕も錬金術の実験などで、単純な作業を任せることがあります。けっこう高いからあまり気軽には使えないですけど……一般的な魔術と違って、技術の体系がかなり昔に魔族から分離したので、適性があるのは魔族より人間のほうが多いんですよね」

 二人がそんな話をしている間に、オルメンの準備がととのったようだ。サウナストーブの周囲には、木でできた複数の人形が動いていた。

「皆様……こう思ったことはないでしょうか。ロウリュは気持ちいいけど、温度が下がるたびに自分で水をかけるのが面倒、と……」

 芝居がかって説明するオルメンに、壇上のユージーンがうなずく。

「む……確かに、それは石のストーブの欠点の一つとしてあがっていたな」

「ですが!この使い魔にロウリュをまかせれば、自動的に適した温度、湿度までロウリュを行ってくれるのです!あなたは、そこに座っているだけでよろしい!」

 オルメンは仰々しくそう言って、ふらふらと動いている人形を指し示した。子供ほどの大きさのそれは、手にロウリュ用の柄杓――ラドルと、風を送る用のタオルが付属している、いささか不格好なものだ。サウナ室内にはざわめきが広がる。

「さあ行け、オートロウリュ初号機!」

 彼の言葉が合図となったように、人形がストーブに向かって動き出す。バケツの中の水をゆっくりとすくい上げるが、どうも動きがぎこちない。ラドルの端から水が溢れていく。

「……どうですか、解説のメッツさん」

「いやあ、その……僕はこの手の魔術には詳しくないんですが……」

 二人が言いよどんでいるうちに、何度かストーブに水をかけた使い魔が、タオルを振り回し始める。しかし、動きがおそすぎるせいで風がおこらない。ゆるやかな空気の動き。

「えーっと……では、次の方……?」

「ま、待て、待つのだ!オートロウリュ初号機のちからはこんなものではない!」

 文字通り冷めてしまったサウナ室に、焦ったオルメンの声が響く。

「ええい、こうなれば出し惜しみは無しだ!オートロウリュ初号機、出力全開ッ!!」

 オルメンが使い魔に命じると、何やらいびつなギシギシという音とともに、使い魔の動きが速くなる。

「おお、これはなかなかの熱波ですねメッツさん!」

「明らかに変な音がしてますけど?!」

 使い魔は先程までの緩慢な動きが嘘のように、激しくタオルをふりまわし、合間に水をくんではストーブにぶちまけていく。サウナ室内の温度は、急激に上昇していった。

「どうです皆さん!!これが使い魔の力です!!」

 誇らしげに薄い胸を張るオルメン。観客たちも感心しているが、しかしそれも長くは続かなかった。

 使い魔が水をかけ、風を送り、水をかけ、風を送り……繰り返していく。室温はどんどん上昇していく。さすがにユージーンが口を開いた。

「……おい、いいところで止まるんじゃなかったのか」

「もちろん、我がオートロウリュ初号機の感知機能は完璧です。この程度で熱いと言うなら、それは文字通り『ぬるい』というもの……」

「……」

「……う、嘘です。もうほんとは止まってるはずで……熱ッ、熱い!!止まれっ!いい加減止まれオートロウリュ初号機!」

 オルメンが何度命令しても、使い魔が止まることはない。さすがに多くの参加者が限界に達してサウナ小屋を飛び出していく。

「うおおっ、俺も限界だっ」

 なんとか耐えていたユージーンまでもがタオルを放り出して水風呂へと向かった。

「ええい、止まれっ!違うんですよ皆さん!本当はちゃんと止まるはずでっ、このおっ!」

 オルメンは最後まで自分の使い魔を止めようとしていたが、その姿を見られた者はいなかった。あとにのこったのは、激しく動きすぎて壊れてしまった人形と、床にのびているオルメンだけだった。

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