番外編 人魔対抗アウフグース対決 ①

「第一回!人間・魔族対抗アウフグース対決ゥーー!!」

「「「イエエーーーッ!!」」」

 『マイク』を持ったアミサが元気よく叫ぶと、『みなの湯』のサウナ小屋に集まった客たちは歓声を上げた。人間と魔族の割合はちょうど半分ずつ、そして老若男女様々なサウナ愛好家たちだ。

「今後『みなの湯』名物にしていく予定の2つの要素……ストーブの石に水をかけて蒸気を楽しむロウリュと、その後タオルなどで扇いで熱風をおこして体感温度の上昇を楽しむアウフグース……果たして、人間と魔族のどっちが上手いのか?!それを競う対決です!!実況は私、徹夜明けのサウナで死にかけた劇作家・アミサがお送りします!解説は錬金術師のメッツくんです。今日はよろしくおねがいします」

「よ、よろしく……というか僕、なんにも聞いてないんですけど。そもそもなんで対決してるんですか?」

 いきなりアミサに呼び出され、珍妙なイベントの解説を任されたメッツは、予想外の盛り上がりを見せていることに驚きつつ、不審そうにアミサに尋ねる。

「えーっと、自由な発想でアウフグースをやってもらって、今後の参考にしたいんだって。あとは新しい従業員も探してるとか?まあこういうのは、楽しければなんでもいいのよ」

「そうですか……ところでユージーンさんは?」

「ほら、あそこあそこ。上段で頭にタオル巻いてる……他の参加者は出入り自由だけど、主催者だから全部のアウフグースを受けるつもりなんですって」

 アミサの指差した先には、なるほど巨体の人間男性がどっかりと腰掛けていた。頭がタオルでほとんど覆われていたので、ひと目でユージーンとはわからなかったが。

「ルールは簡単。人間と魔族から2人ずつ、計4人がひとりずつロウリュとアウフグースを行います。休憩をいれつつ何周かやるので、参加者のみなさんは自分の好きなタイミングで体験してください。ひととおり終わったら最後に集計しまーす。ムリは禁物、水分補給はしっかりと!お約束してくださいね!」

「「「イエエーーッ!!」」」

「それでは、試合開始ーーーっ!!」

「「「イエエエエーーーッ!!!」」」

 アウフグースが始まる前だというのに、異様な熱気を見せるサウナ室内。メッツがとまどっているうちに、最初のアウフグースが始まった。


「まず最初のアウフギーサーは……魔族から、『ク族の大砲』ッッ!!ホロンちゃんですッ!!」

 アミサの呼び込みに答えて、おずおずと前に出てきたのは、最近『みなの湯』で働き始めた巨大な魔族の女性、ホロンだ。大柄で知られるユージーンよりもさらに2周りほど大きな女性だが、常に猫背に身をかがめているので、本来はさらに大きい。『みなの湯』では力仕事をしている場面がよく見られるが、料理・裁縫・お金の管理なども得意らしい(手元の資料より)。

 拍手を受けて観客たちの前に立ったホロンは、サウナストーブに水をかけて蒸気を発生させる。そして小さく一礼すると、手にしたタオルをふりかぶり、無造作に振り下ろした。


 ドゴッ!!!!


 おおよそタオルが振られただけとは思えない爆音とともに、熱風の壁が観客に叩きつけられる!

「おごっ!」「ぐうっ!」「オ”ア”ッ!!」

 軽くのけぞるほどの衝撃を与えられた観客たちは、一回の熱波を受けただけで、あるいは耳を抑え、あすいは背を丸めて、質量を伴う熱気に身悶えした。

「おほおーっ!これはすさまじい熱波ですね!ホロンちゃんの桁外れの筋力から繰り出される熱風!どうですか、解説のメッツさん」

「え、本当に解説するんですか……そうですね……彼女の持っているあのタオル、傍目に見れば普通のバスタオルに見えますが、実際には普通の2倍ぐらいの大きさのはずです。それが一発のアウフグースで大量の風を送り込んで、広い範囲の客に熱波を当てているんでしょう」

「なんと!いきなりソツのない解説ありがとうございます!けっこうなんでもできますね君!そうこうしている間にバコンバコンと熱波の砲撃が客に直撃していきますね!」

 耳を真っ赤にした客たちが次々にサウナ小屋を出ていき、水風呂に飛び込んでいく。ひとしきり熱波を叩き込んで客を追い出すと、ホロンはまた頭を下げた。

「いやあ、最初を飾るのにふさわしい、豪快なアウフグースでした!さすがに単純な力でこれを超えるのは難しいでしょう……次は人間側のアウフギーサーですが、いったいどう出るのか、期待ですね!」

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