人間と魔族と英雄とサウナ ①

◆◆◆


 前回、いい感じのモノローグを解説パートで入れたので、それをラストにできればよかったのだが、ここでもうちょっとだけ口を挟ませてほしい!

 『サウナ外交』というのは、実際に行われていることなのだ!

 サウナの起源でもあるフィンランドでは、あらゆる施設にサウナがある。それは各国のフィンランド大使館も同じで、もちろん日本のフィンランド大使館にもサウナがあり、多くの関係者が招待されているのだ。ここに、サウナ外交の片鱗をみることができるだろう。

 また歴史的にも、冷戦時代にソ連の閣僚をサウナに連れ込み続けて交渉を行い、フィンランドの軍事的な中立を維持しつづけた大統領がいたという話もある。それぐらい、サウナと外交・交渉は、フィンランドでは一般的に結びついているものなのだ!

『サウナに入ると友好の気持ちが生まれ、心のよろいが溶けるのでしょう。サウナの中では超大国も小国も上司も使用人もなく、人はすべて同等なので、問題が解決しやすいのです。そして裸でいるときに何かに同意したなら、人はその後もその約束を守り続けます。 契約や調印よりも裸のつながりほど強いものはありません』(引用元:https://www.sauna.or.jp/literature/pdf/Lecture%20in%20SaunaConference2010.pdf)とは、ときのフィンランド外務省事務次官の言葉だ。読者の中に交渉ごとの多いビジネスマンがいたら、取引先との交渉をサウナの中で行ってみるのも、有効な手段と言えるだろう!最近では、『スカイスパ横浜』や『かるまる』などコワーキングスペースを兼ね備えたサウナもあるので、ぜひやってみてほしいところだ。

 ちなみに僕(作者)は下北沢で行われていた野外サウナのイベントで、偶然出くわしたフィンランド大使館の職員に、ウィスキング(ヴィヒタで思い切りベシベシすること)をしてもらったことがあるが、かなり容赦のない叩きつけっぷりだった。いつかサウナーとして有名になったりなんだりして、フィンランド大使館のサウナ室に招待してもらいたいものだ。

 長くなってしまったが、本作の解説パートもこれが最後になる。ここまでつきあってくれた読者諸君に大きな感謝を送るとともに、君たちに良いサウナ体験があらんことを、心の底から願っている!

 それでは、『異世界サウナ』の物語のひとまずの顛末を、ぜひ最後まで見守ってほしい!


◆◆◆


「お父様、体は洗いまして?では、あちらのサウナ小屋に参りましょう!世にも珍しい、『遠赤外線ストーブ』なる機械で温まれるそうですよ!」

 セレーネは、国王である父と久々に出かけることができて、うきうきしていた。しかも、自分の好きなサウナに招待することができるというのだから、これが嬉しくないわけがない。

「ああ……まあ、手早く済ませよう。王城にだって、最高級の風呂があるのだからな。わざわざ、汚らわ……魔族といっしょに入ることもあるまい」

 国王は、熱心な教会の信者であり、王族こそ国民の模範であるべきだと日々子供たちに説いていた。だからセレーネが、禁欲の教義に反するような露出度の高い服を着るようになった時も、あまりいい顔はしなかった。今も、肌を晒すことのないように、館内着を水着代わりにしている。(セレーネの生み出した流行は国内外の芸術家から高く評価されたので、苦言を公にすることはなかったが)

 加えて、教会の教義でもあり、自身の信念でもある『反魔族』については常に主張しており、それを理由に『英雄』と慕われたユージーンを騎士団から追放してしまうのだから、筋金入りと言えた。セレーネは内心、そんな国王に魔族との対談の場を設けさせたユージーンはなかなかの傑物である、と感心していた。

 二人がサウナ小屋に入ると、すでに中にはショチトがいたので、国王は露骨に嫌そうな顔をした。

「なんじゃ、遅かったのう。老人は体を洗うのに時間がかかるのか?」

「ふん、貴様こそ魔族の匂いがとれていないぞ。もう一度洗ってきたらどうだ」

 対面してそうそう言い合いを始める二人の言葉を、ドジュウ、と蒸気の音が遮った。水をかけたのは、同じく先にサウナ室で準備をしていたユージーンだ。

「マ族の首長ショチト、フィン国王陛下……お二方とも地位のある方だが、今はここのルールに従ってほしい」

 ユージーンは逞しい上半身をあらわに、サウナ室の壁に掲げられたルールを指差す。


ルール0:サウナの中では種族・性別・身分を問わず、みな平等である。


 水着を着て男女いっしょに入ることができる風呂ができたり、魔族や人間それぞれ限定の日が設けられたりと、改装などを経てルールも多少変わってきたが、このルールだけは全く変わらずにいた。


「そうですわよ、お父様。お父様が魔族をお嫌いなのは承知していますが……何も、ここで喧嘩をする必要もありませんでしょう?」

「け、喧嘩……まあ、うむ……」

 国王はセレーネの言葉に、毒気を抜かれたようにうなずき、従った。それを、ショチトもからかったりはしなかった。


「それでは、サウナの入り方を説明させていただきます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る