14.生殺し
「レン、グランだ。
入るぞ」
危惧していた拒絶は杞憂だったらしく、魔の森にはすんなり入れた。
入ってしばらくするとウォンが出てきてその背に乗せてくれたから小屋まで早かった。
ウォンは俺を降ろすとまたどこかへ走り去って行った。
レンの可愛らしい返事はないが、ドアは普通に開いた。
そういえばこのドア鍵がない。
無用心と言いたいが、戸締まりの必要がないからかとも思う。
久々のこの部屋はレンの甘い香りが染み付いていて安心する。
「レン、グランだ。
いないのか?」
中にはいないのだろうか。
耳をすませながら声を張ってみる。
持ち込んだ食材や必要そうな物はテーブルに置いた。
カタンと奥から微かに音がした。
風呂場の方か?
「レン?」
中をのぞいて、血の気が引く。
「レン!
どうした、何でそんな格好で?!」
「ん、ぅ、だれ、、ファル?」
全身ずぶ濡れで全裸に大きなタオルが背中側から腕と胸と背中を覆ってかろうじて大事な所を隠して俺に背を向けた形で座り込んでいる。
駆け寄って肩に触れると冷えきっている。
むき出しの左肩下あたりに白銀の何かが見えた。
古代魔法陣か?
昔、王族専用の図書室で見た物に似ている。
大半はタオルで隠れて見えているのは円陣の端っこだが。
ヤバい、理性に毒だ。
急いで目をそらして上着をかけてやる。
「グランだ。
何があった?
いつからこうしてる?」
「····長湯、で、ふらって····30分、くらい?」
こんな寒い中で何してるんだ?!
「ベッドに運ぶ」
「ん、ごめ、なさ····」
「ありがとうだ。
寒くないか?」
「ありがと。
ちょっと····さむい」
ベッドに降ろして布団を頭から被せる。
テーブルの水差しからコップについで渡すとコクコクと飲み干した。
ほぅっと安心したように息を吐くレンが色っぽく見えた。
「グランさん、久しぶり。
いきなりこんなんで、ごめんね」
「久しぶりだな。
いきなり驚いた。
よくあることなのか?」
少し震える番がいじらしく、可愛らしい。
「時々。
最近は貧血も落ち着いてて油断しちゃっ、え、ちょっ、」
レンに着せた上着の裾に手を入れてレンのタオルを抜き取った。
驚いたのか硬直したレンは無視して胸の前で上着を握る手をどかせてボタンを止めていく。
「風邪ひく。
ほら、髪乾かすぞ」
俺はレンの後ろから抱き込むようにして座る。
奪った大きめのタオルで髪の水気を取ったら風と火と水の魔法を使ってさっさと乾かす。
「ドライヤー····」
「何だ、それ」
レンはクスクス笑うだけで答える気はなさそうだ。
いつの間にかレンの震えは治まったようだ。
小さな暖炉に薪をくべておく。
「1回布団はぐるぞ」
外は雪がちらついている。
さすがに俺も上着がないから寒い。
布団をはぐってレンを横抱きに抱えたら布団を自分ごと引っかけた。
横抱きにした時腕に当たったレンの柔らかい太ももの感覚が忘れられない。
よく考えたらかなりエロいよな、この格好。
それにしても細身なのに何でこんなに柔らかいんだ?
俺だってそれなりにフィルメを抱いてきた。
王位継承権を早くに放棄し、爵位を賜ってからは娼館に通う頻度が増えた事もあった。
その中には人属もいた。
任務を遂行する中では獣の性に抑えがきかなかった時もある。
番だからそう思うのか?
いや、しかし他の奴らと全然違う。
ふと穏やかな寝息が聞こえる。
いつの間にかレンは眠ったらしい。
本当に無防備だ。
ふわふわの髪が顎に当たってくすぐったい。
愛しい番の頭に口付ける。
石鹸の匂いの中に混じる番特有の匂いがたまらない。
このまま襲いたいが、まだ成熟しきれていない子供らしい匂いに何とかぐらつく理性を総動員して衝動を抑える。
1ヶ月ぶりに会ったってのに、いきなり生殺しに合うとは思わなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます