7.レンの秘密
「ということでレンは留守番だ。
どうせまだ血が回復してなくてまともに寝れてないだろう。
体も冷えている。
せっかくだ、この獣人に世話してもらえ。
キョロはレンにつけ。
ウォンはこいつと一緒にいろ。
森の魔獣共は心配しなくて良い」
「え、でもうちの事だし····」
「かまわない。
さっき頬に触れてわかったが、本当に体が冷えきってる。
レンは寝ていろ。
助けてもらった恩を少しは返しておきたいんだ。
必要な物を揃えたら俺は1度戻らないといけないから、少しでも体を回復して俺の心配をなくして欲しい」
抱き上げたい衝動にかられて両手を差し出してみる。
「何かごめんなさい。
ありがとう、グランさん」
レンもそっと手を伸ばしてきたので、そのまま脇に手を入れて黒竜から奪う。
舌打ちが聞こえた気がするが、うん、気のせいだ。
黒竜の言う通り、レンの体は冷んやりしている。
「寒いか?」
そう言いながらどさくさに紛れて抱き締めてしまう。
微弱な殺気にまた舌打ちが聞こえた気がするが、うん、気のせいだ。
「だ、大丈夫、です」
「小さいのに意識して照れたか?
可愛いな」
と言いつつ自分も頬が赤くなるのを感じ、レンを子供扱いして誤魔化しながら更にギュッと力を入れて頬を隠す。
首筋から甘い香りがして理性が揺らぎそうだ。
軽い殺気にまたまた舌打ちが聞こえた気がするが、うん、気のせいだ。
そのままベッドへ移動してレンを腰かけさせる。
「いい子にして待っていろ」
そっと頭を撫でると俺の好きなくすぐったそうな顔で頷いてくれた。
キョロが飛んできて枕の横に座る。
「行ってくる」
外に出るとウォンと黒竜も続いた。
振り返って改めてレンの家を見ると1人で過ごせる程度の簡素な小屋だ。
「お前、レンの番か?」
先程の殺気を纏わせた黒竜が金の目を細める。
「そうだ。
お前こそ何なんだ?
竜が人の形を取るのは聞いたことがあるが、竜にも他種族の番があるのか?」
「人の形を取れる竜にはある。
俺の母と義父がそうだった。
番の認識力は獣人より劣るがな。
力の程度は天地の差だが、竜人と大して変わらん。
お前も獣体になれるのだろう?
竜人も竜になれる者はいる」
「レンはお前の番だと?」
「そういうことだ。
レンはフィルメなんだろう」
メルである俺と黒竜の番は1人しかいないが、フィルメであるレンは複数の番がいる可能性は高い。
「よりによって魔の森の主の番が俺の番とはな。
だが手足を元に戻してくれた事は感謝する」
「レンがお前を助けると望んだから森で生かすのを許しただけだ。
お前を助けたのはレンだし、俺は何もしていない」
「····は?
俺の手足をくっつけたのは····」
「レン以外にいるわけないだろう。
血をわける術を施したのもレンだ。
レンはただの人間ではないし、治癒魔術は俺の母親仕込みだからお前達の常識など凌駕している」
思わず言葉を失う。
ただの人間じゃないとはどういう事だ?
まさか人属なのに異能持ちか?
だが獣人以外で人属が魔法とは違う異能の力を持つとか聞いた事がない。
黒竜の母親という事は白竜が魔術を教えた?
そこで不意に深夜に感じた視線を感じて思わず後ろを振り向くが、白い何かを捕らえた気がしたのにあの時同様何もいなかった。
視線を元に戻す。
「レンの事は誰にも洩らすなよ。
レンの番であろうが、レンが望まなかろうが、レンの害になると判断した瞬間に殺す。
まぁすぐにこの森を出るのだろう?
何を聞くにしても今はレンの体調もかなり悪いし、この森に再び戻る時に改めて聞け。
番である以上森に入る事は許可してやる。
連れ出す事は許さんがな」
「わかった」
挙動不審とも取れる俺の行動など気にも留めない黒竜の言葉に俺は頷いてからウォンに案内されるように森の奥へ進んだ。
そういえばレンは黒竜に薪を頼まなかったのかとふと思ったが、人手があっても嫌がられると言っていたのを思い出す。
俺はすぐに薪になりそうな木を風魔法で裁断し、薪を作って魔法で乾燥と防水処理をして纏めてはウォンに運んでもらい、当面の量を貯蔵した。
その間も何度か視線を感じたが、魔獣だったのだろうか。
それにしてもウォンが一声鳴いて2倍の大きさになった時は驚いた。
伸び縮みできたのか。
その後森の端までウォンの背に乗って送ってもらい、そこから獣体になって近くの町に移動する。
布団と防寒用の服を購入して小屋に戻った時には日が傾いていた。
ウォンの背に乗ったからか、日が落ちきる前に戻れた。
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