5.非常識
「何でそんな場所で無事に住めてるんだ?!」
予想外過ぎて思わず喉をごくりとならす。
魔の森のど真ん中で生活って、魔獣の餌になるようなものだろう。
「うーん····お婆ちゃんがこの森の黒竜のお母さんで、お爺ちゃんは後夫さんだったから?
あ、お婆ちゃんは白竜で、お爺ちゃんは兎の獣人さんだったよ」
····もう、何も言えねぇ。
何、それ。
白竜って獣人じゃないよな?
レンの常識が俺の非常識すぎる。
「えっと、ごめんね?
怒るよね?」
黙り込む俺に怯えたのか、レンがおずおずと謝る。
「どうしてレンが謝る?」
「だって····その、グランさん達襲ったのは竜でしょ?」
「····この森の竜だったのか?」
「違うけど、2匹とも警告無視して無理矢理この森に入ったから黒竜が追い出したの。
最初この家の近くに降りたから、黒竜が怒り狂って容赦なく攻撃した後ぶっ飛ばして····それでグランさん達の所に2匹とも手負いの状態で····だから、その、ごめんなさい」
レンが表情も見えないくらいに深く頭を下げる。
馬鹿だなぁ。
「それはレンのせいじゃない。
そもそも青竜達がこの森に降りたのは俺達が追ってた商人達が竜笛で誘導したからだ。
魔獣だらけのこの森にしか生えない毒草を採ろうとして、小飼の青竜を2匹も連れて来たんだろう。
結局その商人達も手負いになったと知らずに竜笛吹いて真っ先に青竜達に食い殺されたけどな」
俯いたままの頭をガシッと掴んで顔を上げさせると、申し訳なさげな黒目と目が合う。
「そんな顔しなくて良い。
元々悪いのは商人達だし、黒竜が縄張りを守るのは生物として当然だ。
魔の森の外れには元々魔獣だって出るのに、たった3人の騎士で追いかけた俺達にも責任はある。
なぁ、もしかしてレンが森の外れまであんな時間に出てきたのは、ぶっ飛ばされた青竜達が気になったからか?」
「ウォンちゃんが森の外で人が争ってるって言ったから、気になって。
行ったらグランさんが最後の1匹の首をはねたとこだった。
他の人達も確認したけど、息があるのはグランさんだけだったの。
それで、これ····」
テーブルの隅に寄せていた俺の甲冑の下から折り畳んだ白い布を取り出す。
そっと布を開くと、隅に穴を開けて紐を通しただけの銀の小さな長方形のプレートが2つ出てきた。
「血は綺麗に洗い流したの。
遺体や甲冑は重くて運べなかったし、下手に運ぶと血の臭いで夜の魔獣が寄ってきそうだったから」
プレートを受け取る手が震えてしまう。
「約束を守ってくれたんだな。
ありがとう、レン。」
俺は2つ全てを首にかけてから服の下にしまい、彼らの安らかな死を願い、悼む為に服越しに握る。
プレートは騎士証になっていて、万が一の時には生き残った誰かが必ず家族の元に返すのがしきたりであり、義務だ。
だから仮に最後に1人生き残ったとしても、最後まで騎士は死を選んではならない。
「レンのお陰でまだ騎士を続けられそうだ」
うまく笑えたかわからないが、できるだけ微笑んで小さな頭をワシャワシャと撫でる。
もし仲間のプレートを持ち帰れなければ、確実に騎士に戻る事はなかっただろう。
今回の行動は騎士団長の指示だったが、部下を守れなかったのは隊長の俺の責任だ。
「そっか、良かった」
レンがホッとしたように微笑む。
不意にギィ、と扉が開く。
「レン!
こっちに!」
中に入ったそれを確認した瞬間、全身が粟立ち、臨戦体制になる。
真っ黒な魔狼だ。
立った俺と同じくらいの背丈の向こうから飛んでくるのは黒い魔鳥か。
黒は魔力の強さの象徴だ。
やばい!
レンがいる上に部屋に入られた!
武器はテーブルの甲冑くらいしかない。
そう思った時だ。
「ウォンちゃん!
キョロちゃん!
おはよう!」
歓喜の声をあげてレンが駆け寄る。
ウォンと挨拶するように吠える魔狼の胸元に飛び込んだ。
「····嘘だろ····」
俺はただ呆然とするしかなかった。
あ、魔鳥がキョロ~と鳴きながら魔狼の肩に止まってレンの頭をデカイ嘴で毛繕いを始めた。
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