第10話 自宅

 結局なんやかんやと言っていたが。

 吉野はリビングから出て行く雰囲気はなく。その後も俺の家に居た。


 今はリビングで普通に俺と一緒にテレビを見ている。こいつ。ソファーに座ったら友達の家にでも来たかのような感じで普通にいらっしゃった。というかくつろいでらっしゃる。

 そりゃ屋上に一晩居るよりかはるかにマシだわな。


「吉野」

「はい?」

「そろそろ風呂入るんだが。お前も風呂入るか?多分ちょっとくらいは気分がすっきりするぞ」

「……まあできれば入りたいです」


 少し考えていたのか。間があってから返事が来た。


「じゃ、先入れ。お湯入れたいなら自由にどうぞ。ボタン押せばお湯たまるからな」

「……ありがとうございます」

「ちなみに覗かないから安心しろ」

「当たり前です!覗いたら叫びますから!ってお巡りさん呼びます!」

「はいはい。ホント元気だな。って近所迷惑になるからもう少しボリューム落とせ」

「……すみません……って……あっ――」


 そう言いながら何かを思い出したのか自分の今の服装。制服を見ている吉野。


「なんだ?—―あー、着替えか」

「私何も持ってないので、やっぱり大丈夫です。前も我慢しましたから」

「タオルと体操着なら貸すが?」

「う……うーん」

「悩んでる悩んでる」


 悩んでいる吉野の姿がちょっと面白いというと怒られそうだが……うん。なんかね。面白いというか。ちょっとそんなことを俺が思っていると……。


「……お風呂は入りたい……でも借りるのは――うーん。いいのかな……?」

「ぶつぶつなんか言ってるが。入るなら早く行け。後ろが詰まる。まあ俺しかいないがな」

「……じゃ、じゃあお借りします。服貸してください」

「はいよ。ちょっと待ってろ持ってくるから。えっと――タオルはこの辺に……あったあった。これ一応新品な」

「ありがとうございます」


 それから吉野に俺の体操服、半袖半ズボンになってしまうので嫌がるかと思い。ズボンだけ長袖の学校指定のジャージを貸した。ちょっとデカイかもしれないが。それくらい我慢してくれるだろう。うん。


「これな」

「すみません」

「石鹸やらは適当に。まあ吉野とかが使うようなシャンプーはないだろうがな」

「大丈夫です。さっと浴びてきます」


 それからしばらく吉野が風呂を使っていた。

 まあ覗くとかはもちろんするわけもなく。俺は普通にテレビを見ていた。覗いたら俺が飛び降りることになるかもしれないしな。屋上に追い詰められたりして。ガチでありそう。


 そして讃大にまた。と、うん。未来を間違わないようにしないとな。そんなことを思っていると風呂場の方から足音が近づいてきた。


「……お風呂ありがとうございます。気持ちよかったです」


 ……風呂上がりのホラー。

 髪は綺麗だが。でもまだ先程よりはホラーじゃないか。顔見えてるし。

 えっと着替えは――大丈夫そうだな。ズボンがぶかぶかな気もだが、紐も付いているしなんとかうまくするだろう。


「ああ。じゃ、俺も入ってくるわ。飲み物。麦茶なら冷蔵庫な。勝手に飲んでいいから」

「あ、はい」

「ちなみに部屋あさってもなんもないぞ?」

「それはあされと言っているんですか?」


 ちょっとこの部屋での生活が慣れてきたらしい。一瞬笑顔?が見えた気がする。


「違うから。まあのんびりしてろ」

「……はい、ありがとうございます」


 俺はそう言い風呂へ移動する。いつものように服を脱ぎ洗濯機へ。


 そして、風呂に入る度。または着替えでも目につくというか。まあ風呂場は鏡があるから尚更か。腕やらにある傷がよく目立つ。もう見慣れたが。


 なかなか綺麗にはならないな。って、隠すとかしてないから別にいいのだが。まあこれ以上は治らないのだろうな。ホントパックリというか。ザックリいろいろなってたからな。あの時から見ればはるかにマシ。血は出てないし。はじめてちゃんと見た時は、吐き気したからな。

 マジか。なんだこれ。俺よく生きてたというか。臓器に被害がなかったのがすごいな。とか思ったっけ?


 学校では讃大はもちろん知っているが――うん?待てよ…。他の人も傷は知って――あれ?もしかしたら知らない人結構多いかも。


 古市も多分——知らないだろうし。生徒会室で着替えとかすることないもんな。


 まあ見られて何か聞かれたところで昔ちょっとやった。としか俺は言わないと思うが。飛び降りた。と、言ってもいいが。言ったら言ったでなんやかんや面倒になるしな。あと学校だと讃大に迷惑がかかるからな。すぐに噂を聞きつけると讃大は俺のところにやってくるし。


 そんなことを考えつつ服を脱ぎ風呂場へと向かった。


 久しぶりに誰かの後の風呂。普段は床やらは乾いた状態だが今日は濡れていて、まだ室内もモワッとしている。って余計なことは考えないようにしよう。そうだオバケちゃんが居ただけだ。オバケちゃん――って、めっちゃ怖いじゃん。ダメじゃん。これ想像したらダメなやつだわ。ささっと出よう。こんなところでオバケちゃんと遭遇したくないわ。


 そしてささっとシャワー浴びて俺は部屋へと戻った。


「あっ、先輩」

「うん?なんだ?」


 部屋に戻ると吉野がすぐに話しかけて来た。ってまだ髪乾かしてたんだな。まあ長いもんな――って、なるほど。


「あー、なるほどなるほど。ドライヤーな。こっちだわ。言い忘れてたわ」

「……私まだ何も言ってないのによくわかりましたね。さっきの着替えの時もですが」

「いや、今はまだタオルで髪拭いてたからな。その前のは雰囲気というか吉野が制服とにらめっこしていたからな」

「……よく見ていますね。さすが変態」

「最後の言葉おかしいよな?」

「正しいと思います」

「……まあとりあえずドライヤーな」


 洗面所に吉野と行きドライヤーの場所を説明。それから俺はまた部屋へと戻る。


 ……考えてみると知り合ったばかりの後輩と家に2人か。と、今更思う俺だった。自分で誘った気がするがな。昔のことはもう忘れた。


 しばらくして髪を乾かしてきた吉野が戻ってきたが。

 またホラーだよ。って、これもし暗闇で見たら、俺大丈夫だろうか。叫びそうな気がするんだが。ホント今日の夜。大丈夫だろうか。情けない姿を吉野に見せることになりそうな気がしてきた。


「……吉野よ」

「はい?」

「顔見えるようにしないか?」

「な、なんでですか?急に……」


 俺の提案にちょっと吉野は距離を取ってきた。


「ホラー」

「な、ちょ、ホラー?」

「髪ダラーだと顔見えないしマジ怖いからな。夜中とかもし見たら叫びそう」

「……」


 少し見えていた顔、目からなんか圧が――いや、怖いもんは怖いだろ。


「ま、まあ、したくないならいいが」

「……場所を使わせてもらっているので……まあ、このくらいなら」


 そう言うと吉野は顔が見えるように髪を結んだ。ほらやっぱり顔見えると見えないじゃ全く印象が違う。絶対こっちの方がいいじゃん。むしろ前髪切ろ?


「うん、うん。ホラーから普通に変わった」

「ホラーって連呼しないでくださいよ」

「ホラーだし」

「また言った」

「じゃ髪切ってやろうか?」

「嫌ですよ。なんでいきなり髪切る話が出てくるんですか!」

「前髪バッサリと」

「な、なんでそんなに積極的なんですか!近寄らないでください。叫びますよ?この変態」

「言い方」


 指でハサミの仕草をしながら言うと吉野に怒られた。って、俺はなんで知り合ったばかりの後輩とこんなやりとりをしているのだろうか。


 まあなんか変なやりとりもあったが。まあ変なやりとりがあったからか。その後もあーだこーだ言いつつ時間は過ぎていった。


「じゃ、この部屋自由に使っていいから」

「ありがとうございます。って、今更ですが本当に使っていいんですか?」

「ああ、誰もいないからな」

「なんか――広くて落ち着かないですね」

「気にするな。じゃ、おやすみ」

「あっ、おやすみなさい。先輩。あと――ありがとうございます」


 寝る場所は吉野に空き部屋を貸した。これならゆっくりリラックスできるだろう。俺はそんなことを思いつつ自室へと向かった。


 ちなみにその晩。吉野がなにか言ってくるとかそういうことはなかった。

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