第9話 屋上での夜

 俺は部屋に戻るとすぐに冷蔵庫、冷凍庫を確認していた。


 料理とかはあまりしないので大したものはなかったが。

 とりあえずある物でレンチンを繰り返した。電子レンジ便利!である。まあ吉野があの場所にまだ居るのかはわからないが。2人分のおにぎりと冷食をいろいろ温め。爪楊枝を刺して全てをアルミホイルで包んだ。


 ここまで10分以内。

 俺こういう時短料理?っていうのか?まあそれはわからんがパパっと準備は得意だ。いやだって1人暮らしじゃん。面倒なことはパパっとしたいじゃん。簡単に出来て美味い冷食とか最高だし。間違いない。


 パパっと作ったものを持って完全に夜になった屋上に戻ってみると……吉野はまだ屋上居て体育座りをして空を見ていた。こいつ――本当に帰らないのだろうか?だった。


 ちなみに俺がドアを開けた際に多分また音で気がついたのだろう。

 吉野はこちらを見た。って、暗いからホントホラーだよ。はっきり顔が見えないから先程よりさらに怖い。オバケちゃんマジ怖いっす。

 こういう時は場を和ませる。雰囲気を変える必要があるので……。


「吉野。正面から見たら……またパンチラしてるぞ。あいにく今は暗いから簡単には見えないだろうが」

「なっ……」


 俺がそんなことを言いながら吉野に近づくと。体育座りをすぐやめてわたわたと座り直していた。こいつ普段からガード?とかいうのか。緩そうだが大丈夫だろうか。


「……先輩なんですか。遂に襲いにきましたか?警察呼びますよ?」

「違う。ほら」

「……へっ?」

「外で食いたくなってな。気がついたら作りすぎたから少しやるよ」

「……」


 おにぎりやらが包まれたアルミホイルを吉野に渡す「形は悪いが文句言うなよ?」とか言いながら。


 そして吉野の隣に座った。


「っかさ吉野。前髪ホント邪魔じゃないか?」

「……顔を隠すのにちょうどいいです。こっちからはそこそこ見えてますし」

「そうか」

「はい」


 すると吉野はヘアゴム?だろうか。さっと髪を後ろで結んだ。って、どうやら、ご飯を食べる際はやっぱり邪魔らしい。


 って、うん。こいつ。顔は整ったいい顔してるじゃん。小顔でかわいいし。とか思いながらアルミホイルを開く。

 そしておにぎりを食べはじめる俺。うん。外でのご飯は美味しい。


「吉野。そういえば家に帰らなくて大丈夫か?」

「大丈夫です」

「そうか。まあ派手に喧嘩?してたしな」

「……おにぎり。なんか悔しいですが普通に美味しいです」

「話変えられたよ。まあいいがとりあえずそりゃよかった」

「にしても私はなんでまだ知り合ったばかりの先輩に親切にされているんでしょうか?」

「なんとなくだな」

「実は……毒、睡眠薬とかをまさか忍ばせて――って食べちゃった。お腹空いてたから食べる前に疑わなかった……私ダメじゃん」

「何言ってるんだ?おまえ……」


 なんか1人で勝手に想像してがっくりしているところ悪いがそんなことしてないからな。思いつつ。


「まあそんなことないからな?普通に家にあったのを温めただけだ」

「……ま、まあ、確かに変な味もしませんし……美味しいですし」


 作ったのはホントになんとなくである。たまたまここに居るという勘が当たり。結果的に飛ぶことを止めたみたいな形になったが。まあ今飛ばれたら、とかがいろいろ頭の中でまわり。今に至る。


 そのあとは2人ともボーっと空を見ながら食べていた。ちょっとは会話もあった。こんな感じに。


「先輩、食べ物与えたからって、記憶消すのはしますからね?ってか忘れてください。今すぐ」

「むしろ今思い出した」

「……自滅したー」

「馬鹿だな」

「この変態先輩が……」

「無防備気をつけろよ」

「むーーー」


 食事中の会話としてはおかしかった気がするが。すでに過去の話だ。


「……ごちそうさまでした」

「はいよ。ゴミもらうよ」

「あっ、ありがとうございます」

「で、これからどうするんだ?」

「……今日は、帰るつもりはありません」

「大丈夫か?本当に帰らなくて。もうそこそこな時間だが」

「以前は数日家出しました」

「なかなかなことで、友達の家でも頼ったか?」

「……いえ、公園に」

「それこそ危なくないか?」


 いやマジで?という心の声。


「大丈夫でした」

「……さすがオバケちゃん」

「飛び降ります。さようなら先輩」


 吉野がスッと立ち上がり屋上の端へと歩き出す。


「ちょ、まてまて……ストップ。ストップ」


 吉野をすぐに止める俺。

 っか、ここで飛ばれたら本当に俺の責任になるためしっかり止めた。腕を掴んで完全に止まるまでしっかり掴んだ。そして吉野がまた座ってから俺は続きを話した。


「まあ、ここに居ても風邪はひかないだろうが」

「……ですね。だから今日はここに居るつもりです。先輩以外誰も来ないと思いますし」

「マジで帰らないのね」

「はい。ここなら公園より多分安全です。まあ公園に居る時はずっと起きてたので翌日しんどかったですが……」

「だろうな。っかマジでそれは危ないと思うからもうしないことをおすすめする。ってそういえばさ。なんで吉野はこの場所知ったんだ?」

「えっ?あーぼーっと歩いていたら、ちょうどいい高さの建物があって。たまたま来たらたまたま1階の非常階段のところが入れたので」

「……まあ不法侵入だな」

「……先輩はなんでここに居るんですか?」

「ボーっとしにきたら吉野が居ただけ」

「そうですか」

「まあ、でもそろそろゆっくり寝たいし。俺は帰るかね。生徒会でいろいろ使われたから」

「そ、そうですか……」


 あれ?なんか今。もう少し話したかったのだろうか?吉野の声から残念?みたいな雰囲気があったような。気のせいか?


「……」

「なんですか?」


 観察していたらちょっと鋭い視線がこちらに、いやいや変なことは考えてないから。


「いやさ、同じ学校の一応先輩として、家出少女をこのまま放置していいのかとな」

「大丈夫ですよ。ご心配なく。高校生ですから」

「ほんとにかよ」


 心配と思いつつ俺が答えると。


「……先輩に見つからなければ私はもうこの世には居ない予定だったのですがね――」

「さらっと。言うな。にしてもそんなに楽しいことがこっちではなかったか?」

「ないですよ。最近はとくに何もない日々でしたから。1人で居て……ちょっかいだけはかけられる生活……」

「まあ、わかるが」

「……わかるんですか?」


 上野が俺をチラッと見てきた。


「なんとなくな」

「適当に言ってませんか?」

「さあ?」

「……もう」

「っか、泊まるとこ欲しいならうちきてもいいぞ?俺しかいないし。部屋空いてるし」

「……危険すぎるのでご遠慮します。のこのこついていって襲われても何も言えないですから」


 吉野が少し俺から離れた。うん。ちょっとショック。

 ってまあ、普通は嫌だよな。俺も多分断るわ。いきなり知らないやつのところには、行かないな。別にここに居ても死ぬわけじゃないし。


「だよな」

「……はい」

「ちなみに言っとくが何もしないからな?」

「わからないじゃないですか。親切にして・・・・・かもしれませんから」

「はいはい。じゃ、俺はそろそろ帰るわ。ごゆっくり」

「えっ……あっ、その……ごちそうさまでした」

「ああ」

「……」


 吉野はやっぱりなんか言いたそうな顔していたが。まあ言ってこないしで俺は立ち上がりまたドアの方へと移動していく。


 そして先程と同じように1人で帰ってきた。


 と、言いたかったが。今回は先程と違った。

 っか、わかりやすかった。屋上を出たあたりからすぐ後ろで足音がしていたし。


「—―すぐ後ろ付けてきたよな?屋上で生活じゃないかったのか?」


 俺は自分の家の前で振り返った。

 まあわざとここまでは気が付いていたが無視し続けたんだがな。

 振り向くと予想通り俺の後ろには吉野が2メートルくらい間隔をあけて付いてきていた。


「……その……」

「なんだよ」

「……大変言いにくいのですが。お手洗いを……お手洗いだけ貸してもらえませんか?」

「……」


 恥ずかしそうに吉野がそんなことを言っていた。


「……ご自由に」

「ありがとうございます」

「入ってすぐのところな。その扉」

「……はい」


 吉野は結局俺の家に入場。緊急?ではないみたいだったが。そこそこのスピードでトイレへと消えていった。


 俺はリビングへ移動。ソファーに座ってテレビを見ていると。少しして恐る恐るという感じに吉野が部屋へと入ってきた。まあドアを半開きにしておいたからな。


「……ありがとうございました」

「で、また屋上戻るのか?」

「……」


 吉野は、こちらを見ている。ちょっと室内のチェックをしている感じだった。屋上に戻るか。ここに居座るか。検討中なのだろう。


「見ての通り。1人暮らし。さっきも言ったが親が居ないから部屋は空いてるぞ?」

「……そして夜中に先ほどの飲食代と部屋の利用料として私を襲うと」

「しないからな」

「……しそう」

「もしかして……されたいの?」

「嫌ですよ!バカですか?バカですよね?すぐにでも死刑にしますから何か叩くものかしてください!」

「……元気だなこいつ」


 なんやかんやとしばらく吉野に言われ続けた俺だった。いやいや。マジでこいつ――元気だなだった。

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