第8話 親子
「……吉野?」
それは多分——親?と、共に職員室の近くにある面談室に入っていく。
オバケちゃんこと吉野だった。うん。古市が言っていたオバケちゃんのあだ名というか。うん。確かにあの見た目だとな。と再度思っている俺だった。
まああと一瞬だったが。なんかめっちゃ暗いというか。いや表情は長い前髪で見えなかったが。周りのオーラがね。暗かった。ヤバイくらい暗いオーラがあったかと。普通なら近寄りたくない。うん。間違いない。あれは近寄ってはいけないオーラだった。
けれど、俺はしばらく学校内。職員室近くで待機していた。途中通過していく先生に何してるんだ?みたいな視線があったが……まあ中庭を見たり。スマホをいじったり。として何とかその場に居た。
そして30分くらいしただろうか。
面談室から親子が出てきた。吉野からはまだ暗いオーラが出ている。っかさっきよりも悪化している気がした。そして親の方が頭を下げていた。
吉野は、全く表情はわからない。前髪で見えないからな。そして面談室のドアが閉まった後も面談室前で親から何か言われているみたいだが。ほぼ反応なしの吉野だった。
すると。
——バッシィィン!
「……はいっ!?」
それは俺がふと吉野親子?から目を離した時だった。いきなり廊下に音が響いた。
再び吉野親子を見た俺。
状況的に親に叩かれた吉野。で、間違いないだろう。ちょっとふらついている吉野の姿があった。
吉野の親容赦なしだな、パシン。とかではなく。重たい音。バッシィィン!だったし。ほら流石に先生も音に?気がついて面談室から飛び出してきたよ。って、それと同時に吉野はその場から走り出した。俺が居る方とは反対側に――。
「……親子喧嘩?」
一部始終を見ていた俺は、本当は吉野を捕まえて古市が言っていたことを早く伝えようとしていたのだが。いや俺もいつ会えるとかわからなかったし。まあ後輩のお願いくらいちゃんと早く終わらしたかった。だったのだが。
なんかややこしいことになった気がする。吉野が走っていったのは昇降口の方面。
つまり――帰ったか。
帰ったとなると見つけるのが大変というか。
わざわざ追いかけてまで伝えるようなことでもないので、またと、いうのが普通だと思うが。
この時の俺は何故か吉野が居そうなところ。行きそうなところが頭の中にふと浮かんだ。なので、まだ廊下で吉野の親と、先生がなんかやっているのは気にもせず。
俺はあの場所に導かれるように学校を後にしたのだった。
ちなみに昇降口へは遠回りをして向かった。いやあの前をね。通りたくないし。関わりたくないじゃん?うん。だから遠回りが安全だろと思い遠回りを選んだ俺だった。
俺が学校を出てしばらく――。
俺は自宅マンションに帰ってきていたが。まだ家に入る。帰った。ということではなく。非常階段をまた上がっている。最近ここに来る頻度が増えた気がする。いや変わらないか?
いや、増えたな。なかなかいい運動してる気がするし。ちょっと途中何故か駆け足で帰って来たので少し息が切れている。普段運動しないからな。うん。なんで俺ちょっと走っちゃったんだろうか。なんか。ちょっと急げ。見たいな雰囲気は――無かったが。何故か早く行かないとと俺は思ったのでね。
まあ確証はなかったんだがな。
「ふー」
まあでも多分吉野はここに居るんじゃないかなぁー。とか思いながら俺はやって来た。
ギイィ……。
マンションの非常階段を上がり。屋上へのドアを開けてみると。
「……マジですか」
現在は少し薄暗くなってきている時間帯。1つの影が俺の方に向かって伸びていた。
その影の先を見てみると。居た。予想は当たったのだが――。
……状況がかなり悪いみたいだ。
多分吉野は俺が来たことは気がついているだろう。
ドアが開く音はしたと思うし。ここのドア毎回だが開け閉めでなかなかな音が鳴るからな。しかし現在の吉野はこちらを向かない。
こういう場合は声をかけていいものかと思ったが……。
「吉野?」
「……なんですか。って……よく来ますね。先輩はここに」
良かった。まだ返事をしてくれた。今の状況的にもしかしたら無視されるかなぁー。とか思っていたが。まだ大丈夫らしい。
声は――かなり暗い感じだったがな。
「っかなんで吉野はそんな場所に立って……スリルを味わっているんだ?」
「ちょっと先ほどいろいろな事がありまして」
「……なるほど」
「……その……学校サボっていたことが親にバレました」
とくに聞いた覚えはないが。吉野は話してくれた。
「まあ……学校から連絡が行くだろうな。御宅の娘さん学校来てませんが……どうしてるんですか?みたいなことか?」
「ですかねー。ホント学校も余計なことを……私のことも知らないで……」
「なあ。こんな時だが1つ伝言言っといていいか?」
「伝言?ですか?」
吉野はこちらをみることなく話し続けている。俺はそっと1歩近寄り。
まあ話している時に急に行動することはないだろう。俺が言葉を間違えなければ。間違えたらどうしよう……だが――な。
「ああ、古市から、あー名前は……そうだ楓華だ」
「……古市さん?」
「わかるか?」
「はい。前に少し教室で話したことがあります」
よかったー。と俺は思いつつ。いや古市の説明しないと。とかだと大変だからな。
「なら。学校に吉野が来ないから心配してるってよ。伝えたぞ」
「……なら、古市さんに返事を伝えてください。先輩」
「俺は――伝書鳩みたいなやつにでもなったのか?」
「そういえば先輩は先輩でしたよね?なんで、1年生の古市さんと知り合いなんですか?」
「先輩は先輩って、なんかややこし……って、それはいいか。まあちょっと生徒会の手伝いでな。接点があってな。古市は副会長だし」
「あー、そうか。古市さん生徒会……1年生なのに……すごいなぁー。私とは大違い……」
「で、本題だ。今スリルは必要あるか?風もまあまあ吹いてるが……バランスとか大丈夫か?」
いろいろ風でめくれ上がっているが。まあそれはいいだろう。
「だって……楽しくなくて……ちょっかいばかりある学校は行きたくないですし。最近は家に居ても毎日嫌なことばかりで……非日常的?って言うんですかね。いつもと違うことがしたくなったんです」
「非日常的か」
「先輩。最期だから話しますね」
「えっ?」
ちょっと吉野までの距離はまだ遠い。もうちょっと……話を伸ばさないとか。
「私……クラスでいじめられてるんですよ」
「知ってる」
「……え?」
――なんで知っているの?という雰囲気が表情はわからないが。声から伝わってきた。多分これでちょっと吉野は……こっちが気になってくれている……はずだ。わからんがな。
「ってまあ少し前に聞いた」
「……もしかして古市さんから?」
「まあな。あー、そうそう。最期とか言ってるから。ちゃんとした情報持ってけ。古市はな……まあ自分を守るためになるが……マジで吉野の事気にしてたぞ?でもやっぱり周りに合わせないと。みたいな感じに負けたと」
「……大丈夫です。ちゃんと本人からちらっとですが聞いてます」
「そうだったのか。じゃこれは大丈夫だな。なら……さっき親に叩かれてたのも知ってる。なかなかいい音してたな」
「……」
「あー、別に止めに来たわけではないし。止めようともしてないぞ?」
「……なら、先輩は早くここを離れた方がいいと思いますよ?ご迷惑をおかけすることになるかもしれません」
「……なんでだ?」
「先輩が私を突き落としたことになるかもしれないですから」
吉野に言われて状況確認をする俺—―そうか。そう見えるのか。
「……なるほど、その可能性もあったか。それはかなりヤバイな。捕まるじゃん俺。ってそれかなりの高確率じゃね?」
絶対ヤダ。って、確かにこのままだと怪しまれるのか……うん。だな。立ち入り禁止の場所に2人。うち1人が……とかになったら間違いなく疑われそう……俺—―お巡りさん行きじゃん。
「だから、早く先輩は帰ってください」
「じゃ、あと1つ」
「……なんですか?」
「短パンくらい履いて飛び降りないと下で今履いてる水色?のパンツを不特定多数の人に公開することになるかもしれないぞ?多分だがな。まあ見られても問題ないならいいと思うがな」
俺が言うと同時くらい。かなりの速さで吉野の手が動いた。うん。ホントすぐに風で派手にめくれあがっていたスカートを押さえたのだった。超行動早かったわ。
……残念。見えなくなったか。って、見せていたわけではなかったか。と、俺がそんなことを思いつつ。また1歩。
「……先輩……ずっと見てました?」
吉野はこちらを見ることなく。小さな声で言ってきた。スカートはしっかり押さえている。が、うん。後ろに手をやっているそれ……バランス的には大丈夫だなのだろうか。ちょっと強めの風が吹いたら……とか俺は思いつつ……。
「ああ、結構前からほぼ見えてた。風が吹くとほぼ丸見えだったな」
「……すぐ記憶から忘れて……消してくださいよ」
「あー、ついでにもう一つ。今吉野が居る真下は木があってな。もしかしたら痛いだけで助かる場合あるぞ?下手したらひっかかってさらに恥ずかしい姿をするはめになるかもしれないな」
「へっ?」
吉野がふと下を覗いた時。って俺馬鹿だな。吉野の重心を前にやってどうするんだよ。とか思っていたのだが。それと同時にやっと俺の手が吉野の腕に届いた。
スカートをおさえるために手が後ろにあって良かった。これは偶然なんだがな。先ほどの俺ファインプレーじゃない?とか思いつつ。
「—―ひゃっ!」
……いやー、うまくいってよかった。
吉野の腕は細くてちょっと力を入れたら折れるのではないだろうか。と、いうような腕だったが今俺が掴んでいる。細っ。っか、初めて女子の腕なんか掴んだかも。
上手に吉野に近付きながら。かける声を小さくしていき。近付いていないように騙すというのか。成功するかはわからなかったが。
まあうまくいった。うまくいった。すぐバレるとおもっていたんだが。うまくいってしまった。
っか、なんで止めたんだろうな俺。と思っているが。とりあえず掴んだ吉野の腕を引っ張り。段差に立っていた吉野をこちら側に降ろす。
抵抗するかと思ったが吉野は腕を掴まれた時に声を出しただけであとは従うようにこちら側に降りてきた。
そして今は俺の目の前に立っている。というか。俺が腕を掴んでいるからか。逃げるに逃げれない状態らしい。
「いやなんとなくな。今吉野を見捨てたら俺がもし立ち去っててもめっちゃ怪しまれそうだったからな。それに屋上には俺の指紋やら痕跡めっちゃあるだろうから」
「……」
「だからまあ、今は待て。俺が居なかったように証拠消さないとだからな。短時間じゃ時間が足らなくてだな……」
「……」
「あのさ。吉野さん?怖いんだが……ずっと無言は――」
おまけにほぼ前髪で表情が見えない……ホラーっすよ。オバケちゃん。ホラー。泣くよ俺?または叫ぶよ。ってかこの至近距離でのホラーは……ホント怖い。
「……エッチ。先輩の変態。バカ!!」
とか思っていたら急にオバケちゃんは話し出した。というか叫んだな。うん。
そして耳元で叫ばれた。ちなみに俺が掴んでいない方の腕はまだ制服のスカートを抑えていた。まあ風はまだ吹いているからな。めくれると……だからな。
「う、うるせぇ――」
「……見た。最低」
「いや、スカートを抑えもせずこんなところに立っているからだろ?」
「……見た」
「……はぁ……まあとりあえず。休憩だ。無駄に疲れた。座ろう。ホントなんかいろいろあって立ってるの疲れたわ。変な移動方法させるなよな」
「……?」
「ちなみに俺はここで寝転んで月や星見て、ボーっとよくするんだよ。結構いいぞ?気分転換にな」
「……そうですか」
俺が吉野の腕を離してその場に座ると――。
吉野もすぐに大人しく隣に座った。いや、一瞬座ると……まあ俺の目線がな。吉野のスカートあたりになるから。これミスったか。って思ったが。マジで疲れたし。なんか緊張の糸が解けたというか。
まあでも吉野は気にせずすぐに座ってくれたからセーフ。セーフである。まあ俺が座りたかったのはマジだからな。ホントゆっくり近づくとか。なんか変な筋肉使ったのか、めっちゃ疲れたわ。
いつの間にかあたりは暗くなり少し星が見えるようになっていた。暗くなりだすとあっという間に暗くなるからな。
俺はいつものように寝転ぶ。するとこちらを見ている吉野が視線に入る。この角度だと。ちょっと表情が見える。なんか不思議そうな表情をしていたが。吉野も俺の横に寝転んだ。なかなか素直じゃないか。とか思っていると。すぐにクレームが来た。
「……寝心地はよくないですね。背中が痛いです」
「仕方ない。そのうちマットでも運んだらいいかな」
「先輩が自由に使える場所ではないと思いますが?」
「まあ、バレるまでは大丈夫だろう」
そのまましばらく寝転んでいた2人。休憩だ休憩。
「で、吉野」
「……なんですか?」
「おまえが飛びたいなら。俺は今から俺がここに居た痕跡を必死に消すという作業をしないといけないんだが?ドアノブとかさ。俺が触った可能性のあるところの指紋消したり。あれか。靴の跡とかも消さないとなのか。なんで屋上に砂が溜まっているところがあるかはわからんが……まあとにかく綺麗にする必要があるんだが……」
って、そんなことを言っているが。行動する気は0なんだがな。
「……先輩のせいで決心が揺らいだのでしばらく飛びません」
「そうか。なら、痕跡消しはまだしなくていいな。するときは早めに言えよ?」
「……私が飛ぶのは先輩の頭の中から私の恥ずかしい姿の記憶を消してからです。むしろ今すぐ忘れてください。今すぐ」
そう言いながら吉野は身体を起こした。
「そんなに水色パンツ恥ずかしかったか?」
「……必ず消去させます」
「怖い怖い」
「手段は選びません」
「……マジで怖いからな?」
「覚悟していてください」
「—―マジですか……」
「はい」
吉野の表情は今もあまり見えないが……そのうち俺は頭を殴られるかもしれない。1回ではなく複数回。ヘルメットでも買っておいた方がいいだろうか?いや、もっとひどいことをされるかもしれない。ただの布を見ただけなんだが。吉野の声が怖い。めっちゃ怖かった。この後輩怖いです。
っかこれからどうしようか。と話題を考える俺。
沈黙は嫌だからな。っか、話題を変えないとすぐに吉野が俺の記憶を消すという行動をしてくるかもしれないからな。うん。ボコボコに殴られるかもしれないし。
「吉野」
「……はい」
「腹減らないか?」
「……はい?」
俺は何を聞いているんだ……?と一瞬思ったが。
まあホントに腹減ってきたし。別にいいよな。
「ご飯だよご飯」
「だ、大丈—―」
くぅ――。
――――なんか。吉野の身体は正直らしい。俺と吉野の声意外の音が聞こえた。
「い、今のなしです。なしです!なし!もう!」
「はいはい。腹減ったね」
「だから……私じゃ……ない……ですよ……」
吉野の声が小さくなっていく……まあ身体は正直なんだよ。
「とりあえずなんか食わないか?」
「……でも、私なにも持ってないですし」
「じゃ……えっと――うち来るか?」
「え?っ」
さらに俺はなにを言っているのだろうか?うん。言葉は難しい。
「いや、まあ近いし。っか、この建物だし。簡単に食べれる食べ物も一応あるし」
「……大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。襲ったりしない」
「違います!それは当たり前ですから!って、家族の方ですよ……突然は……」
「そっちか大丈夫だ。今は1人暮らしだからな」
「……なおさら身の危険があるのですが……さっき力強かったですし……」
「なら……勝手にしてくれ。俺は腹減ったわ。うん。真面目に腹減ったからな。じゃ。俺が掃除する前に飛ぶなよ?」
「あっ、えっ……先輩……?」
俺はさっと立ち上がりドアの方へと歩き出して屋上をあとにする。まあまた逃走である。いや、絶対これすぐにネタ切れで沈黙。嫌な雰囲気になりそうだったからな。
まあ階段の途中で振り返ってみたが。吉野は、付いてきていなかったが。ホントは『付いてくるかなぁー』とか、思っていたが。いきなり知り合ったばかりの人にほいほい付いてこないか。
にしても、どうやら厄介そうな。いろいろありそうな後輩と知り合ってしまったらしい。っか、俺自分から関わりにいってしまったような。
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