第10話 帰路

北の地を放浪しても

得るものは老いた馬の

澄んだ瞳だけだった


若駒とともに嘶いたが

そのように走れなかった


鞄をひらきぶち撒けて

夢も希望も熱狂も棄て

敗残兵なりに鞄は軽く


行けるところまで歩いた

やがて大地が切れて海岸線の

帰れ、という声を聴いた、海は


開かれていた、等しく、足取りは軽く

空の鞄に感謝するべきだ、と土産物屋の

爺さんが笑った、澄んだ瞳と空を

鞄に詰めて、海鳥の射角を見定め


俯く、南から来た男の

三線の足取りで

翔べないままに戯けて

海を渡る風を踏みつけた


海はひらかれている、頬や肩を

たくさんの海が流れていくなかで

俺も海にひらかれていった

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