第6話 半径5メートルでしか生きられない

遠雷が鳴る あとかさき

かなかなひぐらし かなしんで


あの遠雷に帽子をかぶせたい


夏のしらせがたくさん奪っていった

なつのせみはるのせみ黙っていった

とおくとおくこえはとおくまたたき


遠い野に落ちる 遠雷 それは運命のようだ

遠い野にみちる蝉の声 ただ遠いだけなのだ

遠い野はただ遠い ただそれだけなのに遠い


かなかなひぐらし かなしんで

丘をひたりのぼり 鉄塔 のぼって

ひえたてつの温かさ こえもなく


手をのばせども手をのばせども

手に絡むのは蜘蛛の糸きれぎれに

雲間に消えていく こえの群れ


もういいのだ と

遠雷に帽子をかぶせて

なかなくていいのだと

遠い野からひきよせて

放ってやりたい


あの遠雷に帽子を被せたいのだ

かなかなひぐらし かなしんで


遠雷にゆれる鉄塔 とどかない

ひえたてつの温かさだけをつかみ

僕はそいつに 帽子をかぶせよう


そうしてこえもなく だれかのみ

みに おちてしまえ そこは遠い野だ

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