第5話 遠き火をみつめて

あそこを目指していたはずなのだ

臍の下あたりで、眼球のうしろで

わたしのいつ果てるかわからない

火が求めている、高くも低くもない


わたしの先に常にあり

水の中にも夢の中にも泥の中にも

遠い火はたしかにあるのだ


ある時は触れ合う穂先とゆび先に

ある時は喉もとの汗の震えるしたたり

ある時は水平線にふいに消える漁り火


そして父であったり母であったり

兄であったりする、時に憎しみさえ

抱くというのに愛して止まないのだ


病床に伏してみる天井の先の先の空を

飛ぶ鳥の羽根の一枚に宿る火をみつめ

身の内にある火が燃え盛る夜に熱い息を

吐き出す、火が逆巻く、痛みが、泣いて

いる、死に向かっていく細胞の燃焼が

遠い火を求めている、灰になっていく


遠い火をみつめて

のばした手は静かに震えて

まだ灰にならない爪先が

夜明けを指差していた

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